2004年9月13日月曜日

ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還

その時代でなければ出来ない映画があります。

核の恐ろしさをこの肌を持って感じたからこそ造られた「ゴジラ」、宇宙が身近な存在になったからこそその世界に入り込めた「E.T.」や「スター・ウォーズ」シリーズ、等々。数限りない傑作はその時代が生み出したと言っても過言はないでしょう。

この「ロード・オブ・ザ・リング」三部作は、まさにその代表。

特撮技術や撮影技術のテクノロジー、作品の言おうとしているメッセージとこの混沌とした時代のマッチ、そして長編映画を疲れることなく見せ、あたかもそこにいるかのような臨場感を生み出す映画館の進歩。どれひとつが欠けても存在し得なかった作品といえるでしょう。

まさに21世紀が生んだ映画といえます。

しかしその主題は人間にとっては恐ろしい程に古く、永遠に苦しめ続けられる事柄です。


「自己犠牲」


この世紀の中ですっかり消えかかっている、人間が人間である理由のひとつ。

人間は幾つもの人々の生活に支えられ、幾重にも折り重なった人生が時には犠牲を払いながら誰かを支えている、と言うことです。

己を犠牲にしてまでも、ひとつの目的に向かって突き進んでいくという、考えて生きるからこそ出来る人間の特権でもあります。

しかしながら、悲しい程現代は自己中心的で、人間は刺激と欲望にまみれて見失いつつあります。


この物語には、いくつもの種族が登場します。現代の人間が人種の違いで争っているのと同じに、「知恵と言葉」を持ったそれぞれの生き物たちが争い生きています。

そんな世の中を収めるべく、作り出されたひとつの指輪を巡って起きる壮大な物語は、現代の世の中と驚く程酷似しています。

「指輪」を「資源」と置き換えれば、分かりやすいでしょう。

力で世界を抑えつつもまだ足りず、石油と言う資源を思うままに操り世界を制覇しようとする国と、己の信じるもの「神」に従い命を犠牲にする国の人々。

この事を考えると、「ロード・オブ・ザ・リング」三部作は、他人事ではなくなります。


第一作目は、旅立ちの切っ掛けと仲間たちの友情のはぐくみ。

第二作目は、苦しみながらも、バラバラになった仲間たちが目的を見失うことなく突き進んでいく一途さ。

そして締めくくりの第三作目。

破滅しか見えない結末に向かって進んでいく運命を、それでも目的を達するために諦めずに生きる登場人物の生き様。

簡単にこの物語を解説すると、こんな感じでしょうか?


ここで私の正直な感想を述べさせてください。

アメリカ映画のたいがいはハッピーエンドです。

原作を読んだことはありませんが、この作品にはハッピーエンド以外有り得ないと思っていたので、第一作目を見たときほどの感動はありませんでした。

その理由は簡単なことです。人間は刺激になれていきます。

映画の世界が刺激を強くすればする程、人間は慣れていき、より強く大きな刺激を求めていきます。

この繰り返しが、特にこの20年加速しながら進んでいます。

果てのある追いかけっこに見えますが、未だに終わりは見えません。

どんな傑作でも、時が経ってから観ると見劣りしている場合が多いと思います。

しかしこの作品の主題の大きさは、いつまでも褪せることなく生きることでしょう。

映画史に残る傑作、それには疑いがありません。

ただひとつ私が不満だったのは、ラストへの畳み掛け。そこに描かれた登場人物の模様。

もっと感動を呼ぶ作り方があったはず、そう思えてなりません。


皆さんはどうご覧になりましたか?

不満を述べましたが、私にとってこの作品は忘れられない作品であることには違いがありません。

それだけにちょっと悔しい、そう思っただけのことなのですから。


次回はあまり知られていない作品を紹介しようと考えています。

「ミリイ 〜少年は空を飛んだ」と言う映画です。

世の中にはあまり露出しなかったけど、私の中では良い作品のひとつです。

レンタル店で探すのは至難の業かと思いますが、幸いなことにスーパーハリウッドプライスというシリーズで税込\1575というお手ごろ価格で発売されているので、もし興味を持って頂けたら是非ご購入下さい。


それでは、また。


2003年アメリカ映画 201分

監督 ピーター・ジャクソン

主演 イライジャ・ウッド イアン・マッカラン リヴ・タイラー ヴィゴ・モーテンセン ショーン・アスティン

音楽 ハワード・ショア