2006年3月31日金曜日

サマータイムマシンブルース (ネタバレ編)

毎度毎度の事ながら、今回もあと5分で危うく4月に突入してしまうところでした(笑)

まさに「ギリギリセーフ」って感じでしょうか?

映画を観ていない方には、この台詞の意味は分からないかと思いますが、実はこの台詞のシーンにはある秘密が隠されています。

それに関しては、後程。


さて、今回のコラムは激しくネタバレしています。

笑いのポイントや、ディープに隠された秘密、撮影の事など。

ご覧になっていない方が読んでしまうと、楽しみが半減どころか、激減してしまいますので、どうか今回のコラムは、必ずご覧になってからお読み下さい。


最初の10分、まったりと時間が進んでいて、何が始まるのか全く読めずヤキモキされたのではないでしょうか?

実はここは、物語を何度も楽しむ上で絶対にはずせない大切な前置きなのです。

勘の良い方は、最後までご覧にならずとも途中で分かるかと思いますが、物語後半で繰り返されるタイムスリップの直接的な伏線だらけなのです。

そしてその伏線のシーンには、ある効果音が必ず付けられ、画面上の処理もブラックアウトという区切りがつけられているのです。

と言うわけで、初見ではつまらないシーンも、2回目3回目と観るにつれて、新たな発見や楽しみが増してくるのです。

これを私は勝手ながら、「本広マジック」と呼ばせて頂きます。

「踊る大捜査線」シリーズや、「サトラレ」でも同様のマジックが隠されていますので、今一度ご覧になってみて下さい。そこでもし、新たな発見が有れば、あなたも「本広マジック」の体験者です。


この作品の中には、小道具が大活躍しています。

それは「タイムマシーン」と言う主役と呼べるほど存在感のあるものから、事件をより大きくさせる「ヴィダルサスーン」、さらにはファミコンなのに投げつける道具としか使われない「ハリキリスタジアム」、SF研部室内の古びたポスター等々。

この4点に関して、ちょっとだけ触れたいと思います。

まずはタイムマシーン。

この映画の原作は舞台であり、その舞台ではドラえもんのタイムマシーンそのものが登場していました。

しかし映画では、全く違いレトロチックなデザインです。

実は、DVDのコメンタリー内で監督自身が語られているのですが、このデザインはHGウェルズ原作のタイムマシーンをイメージされているようです。それに加えて美術デザインの相馬さん(元アントラーズの選手と同姓同名、しかも同じ漢字!)という方のカメ好きが高じて、あのような甲羅がついたとか。

この甲羅も映画の大事な伏線ですね(笑)

次はヴィダルサスーン。

なぜ新美がヴィダルサスーンを愛用しているのかは不明ですが、そのギャップが笑いのひとつの要素であるには違いないでしょう。

しかも今回この映画では、初日に「ある」リンクネタを披露してくれたのです。

何と、とある劇場で先着順ですが、最新の「ヴィダルサスーン」シャンプーとコンディショナーをセットでプレゼント!

貰った私が、思わず苦笑したのは言うまでもありません。もちろん今でも大事に取って置いてありますよ。

ただ残念な事に、パッケージデザインが変わってしまったのです。メーカーが合わせたのかどうかは不明ですが、なんと劇場公開初日が、新パッケージの発売日(笑)

次はハリキリスタジアム。

これもコメンタリーの中で語られている事なのですが、なかなか美しい当たり方をしてくれなくて、役者さん達の頭に何十回となくぶつけられたとか。このゲームを使用するシーンがひとつもない代わりに、この様な使われ方も有るわけですね。

最後は部室内のポスター等。30〜40代の方々には、懐かしいものばかりです。「E.T.」や「ガンダム」の劇場公開当時のポスターは、特に興味をそそられたのではないでしょうか?ちなみに私が一番惹かれたのは「ハヤカワSFフェア」のポスター。中高生当時読んでいた小説を思い出しました。

そのポスター類は有る程度SFに関係しているから分かるのですが、部活動とは全く関係ない「オロナミンC」や由美かおるさんの「アース製薬」の鉄看板、「工事中」や「チカン注意」の看板などは、恐らく収拾癖のある石松の仕業でしょうね。

ちなみに「ガンダム」のポスターはこの映画の大切なリンクです。

劇中で、ズッコケ3人組(石松・新美・小泉)が過去へ初タイムスリップしたシーンを思い出して下さい。

どこかで聞いた事がある音楽が聞こえませんでしたか?

そうTV版ガンダム(ファースト)で、使用されていた音楽が当時のアレンジのまま(正確に言うと途中切れたりして笑いの要素の一つになってしまっていますが)2曲程使われているのです。元作品での躍動感そのままに、この映画を盛り上げてくれています。

これはかなり画期的な事なのだそうです。未だかつて、ガンダムのサントラは他の映画で使われた事がないのです。

それもこれも無類のガンダム好きである本広監督だからこそ実現した、夢のコラボレーションですね。


前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ本題のタイムスリップに触れる事としましょう。

既に気付かれた方も多いとは思いますが、過去へ行くのと、未来へ行くのでは、移動方法が違うんですね。

過去は下へ、未来は上へ、それぞれグニュッと(笑)

そして物語中盤から、過去のシーンと未来のシーンを忙しく交互に描いていますが、ここにも上記の法則が隠れています。

「スロットマシーン」の様な効果音と共に、画面が上下しているのです。シーンが未来から過去へ変わる時はワイプ(シーンの切り替え)が下がり、逆は上がる、と言うように。

この辺りは、同じ場所で過去と未来を描き、しかも殆ど時間差のない場所の混同を避ける為に施された、細かなこだわりと言えると思います。

余談になりますが、このタイムマシーンは、映画館で実機が展示されました。

残念ながら写真には収めなかったのですが、パタパタと動きながら愛嬌を振りまいて、映画を観終えたお客の心を和ませていました。


さて次は撮影に関する秘密を。

この映画は、本広監督が初めてプロデュースを努めた作品です。

映画館にタイムマシーンが展示されたり、ヴィダルサスーンが配られるなど、有る程度自由度が利くのも、そのおかげと言えるでしょう。

それまでの本広監督作品と言えば、国内最大級の配給会社やTV局がバックアップとして名を連ね、宣伝活動も大々的に行われていました。邦画界で大作と言える作品は、殆どがこのような形態で上映に向かって進んでいくのです。

しかしながら、入念なマーケティングと引き替えに、監督の要望とは違った意図を埋め込まれてしまう事も、当然ながら有ることでしょう。

細かなところまでこだわり、自分の造りたい映画を造る。そんな熱意の表れが、今回の作品にはひしひしと感じられます。その証拠に、この映画のエンドロールには次への伏線が隠されています。

この映画は、本広監督プロデュース作品の第1弾なのです。

エンドロール終了直前、画面の左上をよくご覧になって下さい。

#01と書いてあるでしょう。

実際に監督のインタビュー等では、定期的に面白い舞台などを原作に自由度の利く映画を10本程造ると答えています。

今後に期待したいところですね。

余談ですが、私は「スペーストラベラーズ」の続編を観てみたいと、かねてから思っています。きっと実現されると信じながら、今は待つ事としましょう。

この映画は香川県が舞台となっています。本広監督の故郷です。そこで長期間のロケが行われたのですが、実は編集者である田口さんは、同じ時間に東京で仕事をしていました。しかしなぜか、撮影の翌日には繋がった画が監督や出演者達の元で見られていたのです。

これが、以前「交渉人真下正義」のコラムで軽く触れた、もう一つの新しい試みです。

まず断っておかなければならないのは、この映画の撮影は全てデジタルです。

パソコンでネットを使用する方なら、その原理はある程度分かるかと思いますが、ここで簡単に説明しましょう。

アナログというのは、そのものをそのままに焼き付けたり記録したりするものですが、デジタルというのは数字に置き換えています。膨大な情報量を0と1の数字に置き換え記録するのです。

つまりこの映画の秘密は、こういう事です。

香川で撮影されたデーターが、デジタル回線を使って東京に転送。そのデーターを東京で編集し、翌日には香川に最転送。翌日には、不満のあるシーンを取り直す事も出来る画期的な流れが確立したのです。

今はまだ、フィルムによる撮影が多いと聞きますが、いずれ映画はこのシステムに置き換わるものと、私は確信しています。

取り直しが利くだけでなく、制作時間の短縮が、上映まで短時間にこぎ着けるという、観る者にとっても嬉しい流れを生み出してくれるからです。

と、最新の技術にこだわっている事ばかり全面に押し出した作品のようですが、実はアナログな手法を用いたシーンもあります。

これは有るトークショーで編集者である田口さんの口から語られた事なのですが、非常に興味深い事なので、ここで簡単に触れたいと思います。

銭湯のシーンを思い出して下さい。ここで過去と未来の同じ登場人物が、銭湯の浴槽と、脱衣所に二人登場します。最近の映画に見慣れた人は、これを別々に撮影し合成したと思う事でしょう。

ところが実は、合成をしていないのです。

もちろん双生児(劇中ではソーセージと引っかけって笑わせていましたね)でもないです。フランクフルトでもないですよ(笑)

別々に撮影したのは確かなのですが、実はただ編集しただけなのです。脱衣所から浴槽へカメラが動いた際、柱などが写るボケ具合を上手く利用し、編集で誤魔化しているのです。

この手法は過去には良く行われていたようで、それをあえてCG全盛期の時代に使い、古き良き時代の映画と最新の技術を試すというこのバランス感覚。

映画と最新技術を愛する人だからこそ出来る、愛情のひとつと言えるでしょう。

どうです?段々と本広監督作品が好きになってきませんか?


え?まだ?


そんなあなたの為に、ここから先は極上の秘密をお話ししましょう。

この映画では、無秩序にタイムスリップが行われていたように見えますが、実は違います。

時間監視人とも言える、神の存在が隠れているのです。

あまりのさりげなさに、思い出せないでしょう。

それではヒントを差し上げます。

石松がギンギンを盗んできましたね。そのギンギンが置いてあったのは、「くすりの松井」。

そのギンギンがアップで写ったシーンをよーく観て下さい。

店の入口に幾つかポスターが貼ってあります。その内のひとつ、真っ黒な防犯ポスターは見つかりましたか?

そこに写っているのは升穀さん。本広監督の映画では「7月7日、晴れ」での好演が光っていましたが、今回はかなり地味に、しかもしつこいぐらいに登場しています。

この防犯ポスターも、登場するシーンによってデザインが変わります(ここが時間を監視しているという重要な意味を示しているのです)。

それ以外にも、お寺を歩くお遍路さん、薬局前の通りを歩くサラリーマン、田村君がいつの時代かを聞いた軽トラの運転手等々、主要登場人物達の行動を見守っています。特に大事なのは、沼へ落ちた曽我が溺れそうになったシーン。なんと、河童伝説の当事者の内の一人だったのです(加わる事で時間をコントロールしているとも言えますが・・・)。

お寺の前で新美が甲本へ自慢げにヴィダルサスーンを見せたシーンを覚えていますか?

「これはセーフでいいのかな?」と弱気な台詞を口にしましたね。この後、再び新美が写るのですが、実はその後ろを歩くお遍路さんが升穀さんで、しかも見切れるくらいにさり気なく「セーフ」のポーズを取っているのです。

まだここには上げていないシーンにも登場されているので、是非是非探してみて下さい。

もし、発見したら、掲示板にでも書き込んで下さい。

その時は、映画のネタバレトークで暑く(笑)盛り上がりましょうか?


今回のコラムはここでおしまいです。

登場人物のそれぞれの味や台詞の面白さ、ボケの法則など、まだまだ語りたい事は山程有るのですが、それはまたいつかと言う事でお許し下さいませ。


次回のコラムは、同じ香川繋がりで「世界の中心で、愛を叫ぶ」を取り上げたいと思います。

この作品に関しては、紹介は必要ないですよね。

では、再来週にお会いしましょう。


それでは、また!

2006年3月20日月曜日

サマータイムマシンブルース (紹介編)

2月下旬の更新と言っておきながら、またしても遅くなってしまいました。

毎度の事ながら、申し訳ありません。

その理由にはなりませんが、今回のコラムで取り上げる作品「サマータイムマシンブルース」のDVDを2月24日に購入して、既に3回も観てしまいました(笑)

劇場で観た際に大爆笑したのは言うまでもないのですが、はっきり言ってハマッてます。

このノリが、癖になってます。

と言っても、ご覧になっていない方には、何の事やらさっぱりですよね。

では、前置きはここまでにして・・・


タイムスリップ、タイムトラベル、タイムトリップ、等々、時間を超越する小説や映画のどれにも共通しているのが、スケールの大きさや、ロマン溢れる物語、そしてハラハラドキドキするスリル。

しかし今回ご紹介するこの映画は、ちょっと違います。特に最初の2点は当てはまらないに等しいかと思います。と聞くと、つまらない作品に思えてしまうのですが、これがとんでもなく面白い!!

大規模上映ではなかった為に、劇場で上映されている事自体知らない方が多いのが事実です。

よって、邦画好きや舞台好きな人以外に、残念ながらこの映画の知名度はあまりありません。

それでも、タイムトラベルものの好きな方には是非観て頂きたく、そしてハマって何度も見返して欲しく思う作品の為、今回のコラムは紹介にを中心に、次回のコラムをネタバレに展開していこうかと思います。


さて、あなたの前に突然タイムマシンが現れたとします。

もちろん、現代人の私たちにも分かりやすい機械としてですよ。

バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアンで、時間操作のパネルがありましたよね?あれくらい簡単な操作とイメージして下さい。

あなたはどうしますか?

殆どの人は、まず使ってみたい衝動に駆られるでしょう。

さて、次はどうします?どの時代に行ってみます?

恐らく最初に思いつくのは、歴史で習った事柄を確かめに行ったりする事でしょう。そうでなければ身近な人々の生い立ちや、未来を見に行こうと思うかも知れません。

でも、ちょっと待って下さい。

現実は果たしてそうでしょうか?

どれも自分にとってはあまり利益がありませんよね?まずは目先の事を考えて、自分のためになることをするのではないでしょうか?

この映画は、そんな切り口で描いています。

それもごく最近体験した後悔を払拭する為に。


戻るのは昨日です(笑)


ここだけ聞くと、スケールの小さな作品に思えるでしょうが、ここは騙されたと思って一度観て下さい。

限られたスペースの中で演じなければならない舞台が原作の為、非常に良く練り上げられたストーリー展開である上に、最初の10分を除いて(その10分も後々大きな意味を持ってくるのですが・・・)息をもつかせぬ、それでいておバカなスリルがあなたを「なるほど!」と「爆笑」の渦に巻き込んでくれる事間違いありません。


それでもまだ、観る気になれませんか?

では、以下のサイトに行ってみて下さい。


http://www.eigaseikatu.com/title/13305/


HPを閲覧した方の投票で、映画の満足度を集計しています。

どうです?投票数の多さと得点の高さから判断しても、かなりレベルの高い作品と言う事が分かるかと思います。


この映画には、他にも特筆すべき事があります。

それはサントラの使われ方。

メインは、この映画の為に書き下ろされたオリジナルですが、それも一風変わっています。

テクノ調というか、一世代前のゲーム音楽っぽさを醸し出すメロディー。頭の中にこだまします(笑)

本広映画のサントラは、かなり頻繁にTV番組のBGMで流れています。特に多いのは、「踊る大捜査線」「スペーストラベラーズ」「サトラレ」ですが、最近は本作もかなり頻繁に使われています。映画本編をご覧になれば、きっと気付く事でしょう。

オリジナルの他にも、1stガンダム世代にはたまらない曲や、往年の洋楽ファンにも聞き覚えのあるあの曲等々、遊び心に満ちあふれたサントラと言えます。(但し、オリジナル以外はサントラ盤未収録)

そして、これは前回のコラムにも通じるのですが、笑いながら映画本編を思い出させてくれる、そんな一風変わった曲がサントラに収録されているのです。いわゆる台詞付きの進化系と言えるでしょう。

その曲は、メロディーと劇中の台詞を旨く重ね合わせ、ちょっと昔のリミックス盤のような乗りなのですが、海外のサントラにも負けない秀逸な出来映えです。

映画を観終え帰りの高速バスの中で、iPodに入れてあったサントラを聞きながら、吹き出しそうになったくらいですから(笑)

興味のある方は、是非ご購入ください。サントラ盤に関しては、きっとレンタルで在庫を置いている店はないでしょうから。


それでも、観る気になりませんか?

後はもう知りません。

その代わり、後悔しますよ。後に誰かから薦められる事になったりしたら(笑)

まずは、レンタルで構いませんから、是非是非観て下さいませ。


ちょっと短いですが、今回のコラムはこれまで。

次回は3月末にネタバレ編です。

どうかそれまでに、是非是非ご覧下さいませ!


それでは、また。


2005年日本映画  107分

プロデュース・監督 本広克行

原作・脚本     上田誠(ヨーロッパ企画)

音楽    HALFBY&STRAUSS

エンディングテーマ 「LCDD」Tommy heavenly6 

撮影    川越一成

録音    芦原邦雄

照明    加瀬弘行

VE    吉川博文

編集    田口拓也

装飾    龍田哲児

出演    瑛太 上野樹里 与座嘉秋 川岡大次郎 ムロツヨシ 永野宗典 本多力 真木よう子 升穀 三上市朗 楠見薫 川下大洋 佐々木蔵之介

2006年3月18日土曜日

夜のピクニック

前回、毎週更新をお約束しておきながら、いきなり破ってしまったことをお詫び致します。

これには理由があるのですが、今はまだお話し出来ません。

年末に、ある映画と絡めてお話し出来ると思いますので、どうかそれまでお待ちください。そしてどうかお許しください。


昨年は映画館での邦画の売り上げが21年ぶりに洋画を上回ったそうです。

そこには様々な理由があるのですが、大きな柱として言えるのは、それだけ邦画が元気になって来たと言うことでしょう。ただ、それを維持させる為には、観客を飽きさせず映画館へ運ばせると言う努力が、今後も必要なわけで、よりいっそう邦画のレベルを上げて行かなければならない、と言うことだと思います。

映画であるべき企画だけが映画としてスクリーンに登場しなければならないのです。

TVでも済んでしまう企画なら、私たち観客は映画館へは足を運びません。

それだけは、映画を作る側の方に徹底して欲しいと、一観客である私は切に願います。

それに関連していることなのですが、最近邦画が元気な理由のひとつに「フィルムコミッション」の存在が上げられます。

映画を好きな人なら既にご存知かと思いますが、「フィルムコミッション」とは映画やTV等の撮影に付随する様々な支援を行う組織のことです。

企画段階で映画の撮影場所を探す手伝いをしたり、撮影時のエキストラ手配やボランティアスタッフ等、その活動は多岐にわたります。

しかしこの組織の目的は、それだけにとどまりません。

あなたはロケ地へ行ったことはありますか?

それはきっと、映画等でその場所に特別な思い入れがあるからでしょう。

映画やTV等が「行きたくなる場所」の宣伝を間接的にしてくれる訳です。

「フィルムコミッション」の多くが、自治体が直接関与、または運営している理由は、そこにあります。

営利的な組織ではないけれども、間接的に地元の宣伝活動を行っている訳です。

2001年の8月に全国の協議会が作られて以降、現在では100を越える勢いで増え続けています。

邦画の元気は、これだけ多くの撮影支援組織があるおかげとも言える訳です。

私の住む鹿嶋市には、残念ながらフィルムコミッションは存在しません。

昭和40年代の鹿嶋開発以降、様々な映画やTVの撮影が行われているのに、です。

鹿嶋の立地は、ご存知の方も多いかと思いますが、東京から高速道路で約1時間30分。

東京近郊に本拠地を置く多くの制作会社にとっては、比較的予算もかからず身近にロケを行える場所であるのです。

もちろんTV番組等にも、取り上げてもらいやすい題材が数多く存在しています。

例えばサッカー。最近は優勝から遠ざかっていますが、それでも中継等で多数の製作者たちが訪れています。

他にも自然の産物が、豊富であるとも言えるでしょう。

海や、川、北浦等の釣りも有名です。数多くの芸能人がお忍びで釣りに訪れることもあります。

特に冬場は、ひらめ等の魚を釣る為に、沢山の釣り人が訪れています。

TVの釣り番組等でも良く放送されています。

それだけ鹿嶋と言うのは、映画やTVと近い存在なのです。

なのに、鹿嶋には組織が存在しません。しかし全くその動きがない訳ではありません。

私の友人である市議会議員は、「フィルムコミッション」の重要性を6年前から、議会等で説いています。

すでに一般質問では3度も取り上げているのですが、造ろうと言う動きは残念ながら起こっていません。

でも変わろうとしている兆しはあります。

2~3月にかけては鹿嶋市の協力で2時間もののTVドラマ撮影が行われていました。ある芸能人のご家族が鹿嶋市の出身である為に実現した企画であり、オール鹿嶋ロケと言うのは今回が初めてです。

TV放映は4~5月頃を予定しているそうですが、正式な日程が分かり次第、こちらでもご報告したいと思います。


さて前置きが長くなりましたが、今回お贈りする「夜のピクニック」には、実はフィルムコミッションの存在が欠かせないのです。

既にご覧になった方はお気づきかと思いますが、茨城県各所、特に水戸近辺は数多くの様々な団体が協力してます。

それだけ多くの地元民に支えられた映画なのです。

映画の中心である「歩行祭」を支えるスタッフのごとく、映画を支える為に茨城県民がひとつになった記念すべき作品と言えるのではないでしょうか?


主演をつとめる多部未華子さんは映画「HINOKIO」で本格デビュー後、映画を中心に活躍されている、これからが期待される女優の一人です。

凛としながらも何処か陰があり、それでいて一途なところが印象的でありますが、DVDのコメンタリーを聞くとまた違う一面が垣間みれるので、映画を気に入られた方は、是非コメンタリーを聞くことをお勧めします。

もう一人の主演を務めるのは、石田拓也さん。JUNON SUPERBOYコンテスト出身で、ここ2~3年程TVに映画に活躍の場を広げていることからも、その才能が伺えるかと思います。

その二人のそれぞれの親友役には、西原亜希さんと郭智博さん。西原さんはペンギンと戯れる『suica』で有名ですね。郭さんは岩井俊二監督作品に数多く携わっています。

この映画の魅力的なところのひとつに、個性的な役者がそろっているということがあります。

上記の4人を食ってしまう程のキャラクターが沢山登場します。その役者陣が、学校での雰囲気をよりリアルなものにしてくれているのは間違いないでしょう。

中でも私が気になるのは2人。

1人は、昼に弱くよるに強いロック少年を演じた柄本佑さん。名字からもお分かりかと思いますが、お父さんはあの柄本明氏。個性的な父親にも負けない存在感を、この映画では発揮しています。

もう1人は、すぐに弱音を吐く妄想好きな女性、梨香を演じた貫地谷しほりさん。「スィングガールズ」が有名ですが、最近では大河ドラマに出演、この秋からは連続テレビ小説の主役をつとめる等、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのある女優です。

脇を固める大人たちにも注目しましょう。一見強面ながら、生徒への繊細な優しさを持ち合わせる先生を演じるのは島田久作さん。主人公貴子の母親役には、南果歩さん。一見バラバラに思える個性的な若手陣を、演技で見事に中和する、素晴らしい仕事をしています。

音楽を担当するのはREMEDIOS。ピンと来ないかもしれませんが、「LOVE LETTER」など岩井俊二監督映画には欠かせない存在です。以前は麗美と言う名前で活躍されていた、と付け加えれば30代以降の方には分かるかもしれませんね。本作でも、生徒たちの揺れ動く心情をうまく表現しています。

最後になりましたが、監督は長澤雅彦さん。

「ココニイルコト」で監督デビューを果たして以降、「ソウル」「13階段」などの監督を経て本作に至りますが、映画との関わりはそれ以前からであり、初期の岩井俊二監督作品ではプロデューサーを務め、監督になってからも「はつ恋」の脚本を手がける等、活躍は多岐にわたっています。

「ココニイルコト」は私の好きな映画でもあるので、いつかまた紹介出来たら、と思います。


この映画「夜のピクニック」は観る人によって評価がはっきり別れる作品です。

私の友人には「面白くなかった」と言う感想もあります。

私は「映画の評価とは難しいもの」だと常日頃思ってます。以前レンタル店で店長を務めていた時にいくつも経験してやっと分かったのですが、万人に面白いと言われる作品はありません。

しかしほとんどの観客がつまらないと言う作品でも、その映画が一生を左右する場合もあり、その人に取っては名作でもあるのです。

だから常に、その映画を好きになってもらうには何が必要か?を考えて伝えているつもりなのですが、まだまだ力不足です。

この映画の良さは何?と聞かれると、答えは非常に難しいです。映画を面白くないと言った人が、なぜ面白くないのか、その理由も分かる気もするのです。

ではその答えは?


「体感する」


そんな良さのある映画だと思うのです。似たような経験があればそこに感情移入し、見覚えのある風景があればそれを懐かしむことも「あり」です。

そしてこの映画で何を感じて欲しいかと言うと、学生時代の淡い思い出を、昨日のことのように思い出して欲しいのです。

純粋な気持ちや心をもう一度思い出す切っ掛け、あなたにとってそんな映画であって欲しいのです。

なので今回はストーリーの細かな紹介は一切省きました。ネタバレ基本のこのコラムですが、あえてそれを破ってみたのです。

いかがですか?興味は湧いていただけましたか?


もし観ていただければ幸いです。

そして、良さを感じていただければ、私も幸せです。


さて、短い映画紹介でしたが今回はここで終わりたいと思います。

しかし、いつか別の形で、この映画のロケ地を紹介したいと思います。

今はまだその場に立っていませんが、次回紹介する作品と共に「ロケ地の旅」として紹介するつもりで居ますので、お楽しみに!


そんな訳で次回作は、去年の映画賞を総なめし、独立系映画では無理と言われていた日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞をした、


「フラガール」


をお贈り致します。

私自身の中では、この映画は非常に上位に位置している作品です。

ひょっとすると1回のコラムでは書き切れないかもしれないことを、まずお断りしておきます。


そろそろ桜の季節になってきましたが、皆さんの街ではいつ観られるのでしょうね?

そんな期待をしながらも、また来週、お会い致しましょう!


それでは、また!



映画データ


2006年日本映画 117分


監督   長澤雅彦

原作   恩田陸「夜のピクニック」

脚本   長澤雅彦・三澤慶子

編集   掛須秀一

音楽   REMEDIOS

出演   多部未華子 石田拓也 西原亜希 郭智博 貫地谷しほり 柄本佑 加藤ローサ 島田久作 南果歩 田山涼成 他