2006年2月1日水曜日

極私的感涙”映画音楽”評

いつもと違う内容・進行なので、何から書き始めて良いのか悩みますね。

まずは、ちょっとしたデーターから行きましょうか。

私は、ここ十数年程、映画館で鑑賞した映画に関してサウンドトラック盤(以下サントラ)が発売されている場合は必ず購入しています。その結果、現在の所有枚数は、TVやオムニバス形式も含めると160枚を超えています。全所有CDの約半分に迫る勢いです。

その中には、何度も何度も繰り返し聞いているお気に入りのものもかなりの数があります。

ただ、今回のコラムの趣旨とはずれてしまいそうなので、お気に入りのサントラ解説は省かせていただきます。またいつかの機会にでも、書ければと思います。


一口に映画のサントラと言っても音楽のジャンルのように多種多様です。

壮大な交響曲のように仕上げられた芸術的なものから、効果音のように静かで淡々としたものまで、数限りなく分ける事が出来ます。

その中でも私が特に気になるのは、「既存曲」と「オリジナル曲」です。

「オリジナル曲」とは言葉の通りで、その映画の為に造られた作品です。一般的にはこの形が圧倒的です。

映画が製作され、ある程度の編集がなされた時点でそれぞれのシーンに合うように造られた曲とでも言いましょうか。

難しくなってしまうのであまり詳しくは触れませんが、一般的に映画、特に大作映画というのは製作が決まった段階で殆どの場合は上映時期も決まっているようです。活気に満ちた映画界で、上映してくれる映画館の確保はかなり重要と言えましょう。ですからスケジュールはかなりタイトになる場合があります。

そんな中で、撮影・編集し、音楽を付けるとなれば、当然最後に近い行程はせっぱ詰まって造る事も多々あるようです。

それでも映画をしっかりと盛り上げてくれる見事な曲が造られるというのは、やはり素晴らしい作曲者と言う事なのでしょうね。(まず始めに脚本を元にイメージを膨らませて、曲はある程度出来ている場合も多いようです)

それでは、「既存曲」はどうでしょう。

「既存曲」の場合は大まかに分けると二通りの手法が存在します。オリジナル曲と同じ手法と、始めに曲ありきで脚本や映像を造っていく場合です。

後者は、その曲があったからこそ、インスパイアされて造られた、とでも言いましょうか。

最近はあまりありませんが、有名な曲をテーマにして造られたもの、と言えば分かりやすいでしょう。テーマになる曲が有名で有ればある程、感情移入がしやすい反面、その曲に対するイメージが邪魔をして、面白いはずの作品をつまらなくさせるという弊害もあります。ですから、造る側は慎重にならざるを得ないのでしょうね。最近、この手の映画が減っているのは、そんなところに理由があるかも知れません。

ちょっと外れてしまいますが、既存曲でも、こんな面白い使われ方もあります。

クラシックになりますが、バッハの「G線上のアリア」をご存じでしょうか?

この曲は静かで、優雅で、心の落ち着く印象を与えます。

映画でもその効果を狙って使われるのですが、ここで二つの作品をご紹介しましょう。

ひとつは、ブラッド・ピット主演「セブン」。言わずと知れた名作です。ショッキングでありながらも、地味に恐いサスペンスで、衝撃のラストが観る者に怒りと戦慄を覚えさせます。

しかしただ恐いだけではないのです。

既にご覧になった方は、「あのシーンの事?」と思い出されるでしょう。

そう、老刑事扮するモーガン・フリーマンが警察の図書館で調べものをするシーンです。

薄暗い図書館で、賭け事に興じる非番の警察官、その見慣れた仲間達と軽い談笑をしながら調べものをするシーンです。

暗く、恐い映画の中で、唯一美しいと言えるシーンではないでしょうか?そしてその後に起こる衝撃的な事件の数々を、より印象深く見せる為に一役買っています。映画館で見た私にとっては、衝撃のラストよりもこちらの方が気になったくらいです。たった数分の曲で、こんなにも心洗われるなんて、と。

さて、同じ曲を使って同じ効果を狙っているであろうはずなのに、コミカルになってしまう例もあります。

もう一つの作品は、シリーズ中で、クラシックを多用している、日本で最も有名なシリーズもの、そう、寅さんです。

「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」第11作目。

北海道の草原で無邪気に戯れる寅さんのバックでこの曲が使われます。

確かに心和むのですが、こちらはむしろ、可笑しさが込み上げてくるのはなぜでしょう?

それは日本人の殆ど誰もが知っている「下町人情の固まり」である寅さんにはおよそ似合わないであろうクラシックが、しかも無邪気にはしゃいでいる寅さんのバックに使われているという、対照的な描き方がそうさせるのでしょう。

いかがでしょうか?

同じ曲でも、描かれ方ひとつでここまで違うという見本ですね。

つまり同じ曲でも、既存曲は使い方次第で、無限大の可能性を秘めているのです。

私は密かに期待しています。

あなたの中には、ジャンルは問わず名曲がありますか?これが私の一番のお気に入り、と言う曲です。

その曲は有名ですか?

仮に有名でなくとも、映画が切っ掛けでヒット曲になる事も可能なのです。

いつか、あなたの名曲が、映画の主題曲として使われ、見向きもしなかった人の心に訴えかける時が来るかも知れませんよ。


次は、1980年代以降の映画には欠かせない歌についてです。

音楽業界と、映画業界が一緒になって、音楽と一体となった映画の為のサントラを売り込み始めたのは、1970年代後半から80年代の初頭です。

「フラッシュダンス」や「フットルース」等は、誰もが知っている程に有名になりました。

そしてその映画の中では、意味のある歌詞で映画のワンシーンを盛り上げています。

故に時が過ぎても、その時代に感じた出来事が、歌を聴く事によって甦ってくるのです。

映画が人間の身体であれば、歌はちょっとした栄養剤のようなものですね。このような使われ方は素晴らしいものです。

その他にも、映画音楽の旋律に歌詞を付けるというものも多々存在します。

これも、その映画の為に造られただけでなく、映画を観終えた後に先程と同様の効果をもたらします。

映画の主旋律にそのまま歌をのせてしまうので、こちらの方が忘れがたい存在ですね。

しかし一方、困ったものも存在します。

例えば有名な外国映画の、有名な旋律に乗せて、日本語の歌詞を付けるというもの。

全てが悪いというわけではありませんが、ちょっと興ざめしてしまう場合が多々あります。

批判になってしまうのであえて曲名は上げませんが、そこそこヒットしてしまうのは悔しい限りです。

1980年代以降、そんな業界同士の関係が少し変わってきます。

映画のサントラでなく、映画の為の歌でなく、映画に影響されて造った歌を、しかも多数集めてアルバムにするというものです。

そもそもいきなりこの形で始まったわけではありません。

私の覚えている限りでは、徐々に変化してそのような形になった、と言った方が正しいでしょう。

歌のみのサントラ盤に、なぜか映画に収録されていない歌がある。

そこからだったと記憶しています。

変に勘ぐってしまうようで自分でも嫌なのですが、歌を売り出す為の道具として映画を利用している、そうとしか思えない使われ方です。

実際、発売前のCDを購入するべくサントラを予約して、届いてみると全く関係ないものだった事もありました。

これにはガッカリです。

その時代、私は歌だけのサントラは極力避けていました。上記の弊害ですね。

しかし嬉しい事に、今現在そのようなアルバムは減っていて、純粋にサントラとして成立したものが発売されるようになっています。

そして、以前にも増して、サントラをひとつの音楽として楽しむ方が増えているのです。

ここへ来て、やっとサントラというジャンルが認められてきたのだなぁ、と私は痛感しています。


音楽業界と映画業界の関係が見え隠れしているもう一つの例をここで挙げましょう。

台詞や効果音入りのサントラです。

最近ではすっかり影を潜めてしまいました。

なぜでしょう?

私はこう分析します。

台詞入りのサントラが少なくなり始めたのはやはり1970年代後半以降です。

この時期に、一般庶民の生活を一変させるものが普及し始めたのを、皆様は覚えていますか?

今ではどの家にも当たり前にある、そう、ビデオデッキです。

ビデオデッキを普及させた原因のひとつに、レンタルビデオがあります。

そしてレンタルビデオは、それまで映画館でしか観られなかった(正確に言うと家庭用8mmフィルムで販売されていたものもあるのですが)映画をいつでも観られる、映画好きには夢のような環境を気付いてくれた功労者と言っても過言ではないでしょう。

このビデオデッキの普及が、台詞入りサントラの衰退を早めた原因と私は思うのです。

普及以前のサントラの楽しみは、映画のシーンを思い出す(出される)ひとつの道具としてでした。

その中であって、台詞というのは回想の手助けで重要な位置を占めていたのです。

ところがビデオの普及で、好きな作品がいつでも観られる環境になるとサントラは、一部の映画ファン以外にはあまり見向きもされない状況へと追いやられました。それはそうですよね。映像と音が一体となったものが、画面の大きさこそ違えど、映画館と同じように観られるのですから。

これが私の推理です。

そして大したことがない内容に思えるこの一件は、先程の項目で上げた、サントラの変化や歌、関係ない作品を関連づけて売る、など、音楽業界がサントラをいかにして売るか?と言う努力の切っ掛けになっているのです。

歴史は繰り返すと言いますが、今、映画業界は活況です。となると、台詞付きのサントラが復興の兆しを見せてもおかしくはないのですが、実際はどうでしょう?きっとあと数年で結果が出ますね。

そしてその後の変化が衰退へ向かわないよう、私たちは、気になったり、気に入った作品は映画館で観るべきでしょう。

もしこのコラムをお読みになったあなたが、映画を愛しているのなら、是非お近くの映画館へ足をお運び下さい。

そうする事が製作者達の次への励みになるのですから。


今回はちょっと長くなってしまいましたね。

それでも書き足りない事がまだまだあります。

いずれ、この続きは、このコラムでまた取り上げたいと思います。

それまでお待ち下さいませ。


さて次回は・・・何にしようか悩んでいます。

そこで今回は新たな試みに挑戦してみようかと思います。

その為には皆様の協力が欠かせません。


次回はリクエストです!!

但し私が観た事のある作品で、オススメ出来るものを採用したいと思います。

是非是非、MUSIC ROOM掲示板(http://www.neiro.net/ 内)に書き込んで下さいませ。

万が一、もし、書き込みがない場合は、2月下旬に本広克行監督の最新作「サマータイムマシンブルース」を次回のコラムに採用致します。

普段は読んでいるだけで一度も書き込んだ事がいない方も、是非是非掲示板に書き込んで下さいませ!


それでは、また!!