2007年3月31日土曜日

甦える大地

「何を文頭に持ってこようか?」

非常に悩んだ作品でした。特に後半の展開には考えさせられるものがあり、ストーリーまで含めたネタバレにして、思ったことを全て書き記そうかとも考えたのですが、やはり何時の日か皆様の目にこの作品が触れる機会があることを望んでいるので、やはりネタバレは避けようかと思います。

とは言うものの、全くストーリーに触れないと何も説明出来ないので、ある程度のネタバレは、どうかお許しくださいませ。


まずはこの映画のあらすじを。

「工業団地と農業団地の共存する大規模開発」「利権なき開発」

開発担当の職員植松(石原裕次郎)は、若い茨城県知事岩下の掲げた理念に共感し、不毛の大地と言われた茨城県鹿島地区に世界最大の掘り込み港建設へ向けて奔走の毎日。

建設省の野田(三國廉太郎)を巻き込み、国からの予算獲得へとこぎ着ける。

しかし一見簡単に思われた住民説得も、「開発反対」と「利権」を巡る駆け引きに振り回され思うように運ばない。

港建設成功に欠かせない試験堤防は無事完成したが、そこへ台風が迫りくる。

この堤防が壊れてしまえば、計画は白紙同然。

吹きすさぶ嵐の中、県知事岩下と、職員植松の脳裏には、ある人物の逸話が霞んでいた。

それは、この地を洪水から救おうとして失敗し、歴史の中に消えて行ったある武士。

果たして岩下と植松の熱意は天に届くのか?


この作品を語る上で避けられない要素は3つあります。

ひとつは、鹿嶋と言う土地のこと。

もうひとつは、開発後に移って来た私たちの目から見た、映画のその後はどうなのか。

そして3つめは、日本を代表する名俳優、今は亡き石原裕次郎さんのこと。

それぞれに触れた上で、地域を再生する為に今の私たちがどう考えるべきなのか?をまとめたいと思います。

少し長くなるかもしれませんが、どうかお付合いくださいませ。


まずは鹿嶋と言う土地についてです。

劇中でも触れているのですが、鹿嶋と言う土地は、遥か昔には文化の発信地でありました。

鹿嶋神宮と言う、日本でも最古と呼べる程の歴史ある神宮の存在があった為です。

奈良の鹿は有名ですが、その鹿が元々は鹿嶋の鹿であると言うのは、意外と知られていない事実(今は巡り巡って奈良地方由来の鹿が神宮内に居ます)。

武道の神様としても有名で、道場等の掛け軸にもその名が記されていることからも、どれほど影響力があったのかを推察出来るでしょう。

今も残り、盛大に行われる鹿嶋の祭りも、その歴史を語る証人です。

春に行われる祭頭祭は、海を越え日本へ攻め入ろうとする国に立ち向かう為の防人を九州等へ送り出したことが起源と言う説もあります。

神宮の本殿や拝殿も、徳川家が建立させる等、幕府の中央との関係も深かった訳です。

それほどまでに長い歴史を持つ土地でありながら、神宮の森を越えるとその南には果てしない砂丘が広がり、長らく不毛の土地とされてきました。

鹿嶋市の地名で「国末」と言う名がありますが、まさにその名の通り「人の住める国はここまで」と言うようなものでした。

与えられた自然と神の恵みを生かし日々を暮らしていく、日本古来の生き方を鹿島開発前まで続けていた場所だった訳です。

東京から100キロも離れていない場所でありながら、雄大な自然が残っていたのです。

そして、その自然の脅威は恐ろしいものでした。

最近、再び鹿嶋の脅威が取り上げられているのを、皆さんはご存知でしょうか?

そう、タンカーの相次ぐ座礁です。

鹿嶋の海は、古くから交通の難所であり、その名を鹿島と言う程だったのです。

劇中に登場する話のように、嵐がくれば何もかも無くなってしまう程、海の力は計り知れなかったのです。

しかしこの地域では、水の脅威は海だけではありません。川の氾濫も住民を悩ませていました。北浦や霞ヶ浦の様な大きな湖がその源であれば、防ぐことは難しいのは簡単に理解出来ます。しかし、住民たちはその自然を受け入れ、壊れたらまた造り直す、その繰り返しを重ねることによって、この地に済み続けて来たのです。

自然の脅威を受け入れ、共存していたと言えるでしょう。

先ほどのタンカーの座礁が示すように、それは今も変わりません。

しかし人間は、その自然を技術である程度カバー出来るようになりました。

そして、鹿嶋地域の真価が発揮されることとなったのです。

当時世界最大の掘り込み港を囲む工業地帯は幅約10キロ、長さは約20キロにもなります。今では空き地もない程に埋め尽くされていることからも、鹿嶋と言う土地がいかに地理的に優れた場所だったかが証明されていると言えるでしょう。

鹿嶋市に隣接する神栖町(現在は波崎町と合併して神栖市)役場の給与は、全国でも最高レベルでした。

東京にほど近いと言う土地が企業を引き寄せ、企業が工場と住民を連れ、工場が税を生み納める、そんな図式が、日本でも最も成功した例と言えるのではないでしょうか。

工業地帯が完成し、やがて鉄道が開通し、高速道路がすぐ近くまで繋がったことによって、鹿嶋地域の進化は加速していきます。

今では、都心に近い工業地帯として欠かせない存在にまでなったのです。


その成功に反しているかのような、この映画の後半。

ラスト10分は悲しい結末です。

港は完成し、鹿嶋開発は成功しました。が、主人公である植松(石原裕次郎)が当初掲げた目標とはかけ離れた現実が、植松の胸を痛めます。

開発から40年近く立った現在はどうでしょうか?農家を営む方々は開発前と比べて明らかに減りました。それは事実です。

しかし劇中後半に登場した農業の改革も成功しているのです。土地を改良し堤防を築き、今は立派な水田等が川縁に広がっています。

工業用水の確保の為に造られた水門が、結果として川の氾濫を抑える役割も果たし、私が覚えている限り川からの氾濫や洪水はありません。

農業と工業、双方が共存する街は、バランスこそ違えど、成功しているのです。

劇中の印象的な台詞のひとつに、

「ひとつの地域開発の正当な評価って言うのは、20年、いや30年先でなければ下されるもんじゃないんだ。」

と言う言葉があります。建設省の野田(三國廉太郎)が、後悔の念に駆られている植松に発した言葉です。

鹿嶋地域では、多くの人が金を生む為に農業を捨て商売に走りました。その中で成功を収め、町でも有数の企業になったところも数多く存在します。

その反面、消えていった商売も数多く、私が高校に進学するまでに友達の中でも商売を諦めて工業地帯に勤めることとなった人を沢山見ています。

しかし、そういう運命を辿った人々も、決して開発を否定しないのです。

長い時間をかけて、開発の評価が下される。まさに、その通り。

住民の多くがそう考えると言うことから、この開発は成功だったと言えるのではないでしょうか。

そして私もその恩恵を受けている1人と言えるのかもしれません。

鹿嶋開発の成功が無ければ、きっと先祖たちが辿った土地の束縛から離れられず農業の道へと進んでいたかもしれません。

貧しいながらも本当に自分のしたいことが出来る環境、その土台が鹿嶋開発だったからです。


この映画の主役、植松を演じたのは日本を代表する名優「石原裕次郎」。

主演する映画を観たことがなくても、名前を知らない人はいないでしょう。

日本映画界が繁栄を極めた時代から衰退していく過程を肌で感じながら、映画に身を捧げた「英雄」です。

しかしながらその生涯には数多くの壁が立ちはだかっていました。その壁を乗り越える姿が、日本人に希望を与えたとも言えるのです。だから「英雄」なのです。

この映画は「ソフト化されない」と言う悲劇が目を引いていますが、実は悲劇はその前に起こっていました。

「黒部の太陽」は同じくソフト化されていない作品でありますが、こちらは名作として知られています。映画の内容は劇場公開時にまだ幼かった私には分かりませんが、世界最大の難工事と言われるひとつの大きな計画に立ち向かう男たちの姿が感動と共感を生んだ、とされています。

この映画は、映画配給会社間の協定の為に、製作が危ぶまれた時期がありました。

当時は監督や俳優の引き抜き等を禁じる為にそのような協定が結ばれていて、それが「壁」を越えようとしていた大物スターたちの行く手を阻んだのです。結局、それを乗り越えた石原裕次郎さんや三船敏郎さんが「映画の成功」と言う栄光を手にすることとなるのですが・・・

その後の邦画界の衰退は、皆様ご存知の通り。

「造りたい映画を、造りたい仲間たちと共に、完成させる」そんな理想が成り立たない時代となっていったのです。

そう「甦える大地」の悲劇の根本は、映画界の斜陽にもあるのです。

この映画が公開された年、石原裕次郎さんは結核を患い長期療養を強いられます。そしてその後、活躍の場をTVへと移して行きます。

映画からTVへと移りつつあった時代が決定的になってしまった、そんな時代に生まれてしまった訳です。

しかし、それは本当に悲劇だったのでしょうか?

もう少し遅ければ、映画界の衰退により映画にはならなかったでしょう。もう少し早かったら、協定に阻まれやはり映画にはならなかったでしょう。

印象に残らない時代に生まれたことが悲劇としても、この世に生まれ出た事は、幸福ではないのでしょうか?

劇場公開から35年を経た今でも、私の心にこれだけ響いてくる映画なのです。

今、この映画に残る悲劇は、「ソフト化されない」と言う事につきる、と私は訴えたいです。


さて知人を通じて観せていただいたこの「甦える大地」は、残念ながら映画のフィルムをそのまま取り込んだ形のようで、お世辞ながらも「良い画質」「良い音質」ではありませんでした。

その上、フィルムが切り替わる部分も、数秒間途切れていると言う代物です。

なんとかこの映画を、せめて私の住む地区の方へ観ていただける方法はないのでしょうか?

「黒部の太陽」の様に脚光を浴びていれば上映会も夢ではありません。残念ながらこの映画には、時代の流れもあり華がありません。悲しいとも言える結末もその一員かもしれません。

しかし本当に方法はないのでしょうか?


実はあるのです。


石原裕次郎さんの十七回忌に上映された事が有名ですが、実はもうひとつ例外があったのです。それはつい最近の事です。

「黒部の太陽」製作の際に映画関係者の多くが滞在した長野県大町市で、市民の呼びかけに応じる形での上映会が2000年に実施されていたのです。

そうなんです。

呼びかけ、その願いが本物なら、石原裕次郎さんの意志を継ぐ人々が、熱い情熱と共にきっと答えてくれるはずなのです。

今、私の友人は、その方向に向かって動き出そうとしています。

微力ではありますが、私もその手伝いを出来ないか?とこのコラムを書いた次第です。

以前にも書きましたが、私はかつてレンタルビデオと言う商売に携わっていました。

その時に、何度もこの作品の名を耳にしているくらい、地元では観たがっている人が多いのです。

その事実を、私は真摯に受け止め、友人に協力して行きたいと思います。


最後になりますが、ひとつだけ付け加えます。

「よみがえるだいち」を漢字変換すると「甦る大地」となりますが、この映画の表記は「甦える大地」が正解です。

もし検索エンジンで探される場合、「甦る大地」では引っかからないので、ここで記す事によって探し物への手伝いをさせていただきたいと思います。


さて、地域再生への鍵は、今回ここに記す事をやめておきたいと思います。

次週「フラガール」を書き終えた後、両作品から得たものとして、私の考えをコラムに残そうかと思います。

ひょっとすると、「フラガール」のコラムは前回紹介とあわせた2週では終わらないかもしれませんが、どうか気長にお付合いくださいませ。


それでは、また!



映画データ


1971年日本映画 約100分


製作  石原裕次郎 大工原隆親 小林正彦

監督  中村登

原作  「砂の十字架」木本正次

脚本  猪又憲吾

音楽  武満徹

協力  鶴谷商事株式会社 鶴谷産業株式会社

出演  石原裕次郎 岡田英次 三國廉太郎 司葉子 志村喬 北林谷栄 寺尾聡 他

2007年3月25日日曜日

フラガール(紹介編)

みなさん。こんにちは。

今年の花粉症は早かったですが、飛散量が少ないと言う予測通りのようで、ここしばらくは私の身の回りに居る花粉症の方も、症状が軽いようです。と言っても私の住む街は海沿いであり、杉が植林された大きな森等が近くにない為かもしれません。皆さんの花粉症は、いかがですか?

そろそろ桜が咲き始めましたね。と言っても、日本は長いので、北の方はまだまだ。

短いけど、満ち潮の波のように長い春の始まりです。


さて今回紹介する「フラガール」は、長年頼って来たひとつの大きな産業が衰退したら?と言う世界のどの街でも起こりうる問題に正面から立ち向かう人々の物語です。そして泣ける映画の定番である実話がベースになっています。

3月16日の発売以降、これまでの評価等に支えられて、大変好評をはくしています。

出来ることなら販売用を、予算に余裕があるのなら是非メモリアルボックスを買っていただきたいのですが、そこは皆さんのフトコロ次第。最近のDVD購入事情では、レンタルで見てから考えると言う方も多いようなのですが、何せ日本アカデミー賞での快挙が普段はあまりDVDを見ない方にも影響を与えていて、非常に借りづらいと聞いています。

そこで、今回の「フラガール」は2回に分けてお贈りしたいと思います。

今回は、まだご覧になっていない方の為に、映画とロケ地の紹介、それからDVDメモリアルボックスの内容紹介を、そして2回目には内容に踏み込んだネタバレ全開のコラムをお贈りします。

さらに、なかなか借りられないと言う方の為に、間に1週違う作品を挟みます。ですので2回目のコラムは4月の2週目にお贈り致しますので、ご安心ください。


「フラガール」は昨年9月23日、全国一斉に劇場公開が開始されました。

炭坑の再生物語と言う、一見地味に思われがちな内容の映画ですが、それまでの試写会や宣伝効果が非常に大きく、東宝、東映、松竹等の大手配給会社ではない作品にしては異例の10億円を超え、14億円を記録しました。しかも実質3ヶ月での記録です。

日本アカデミー賞受賞後のアンコール上映もあった為、実際はもう少し増えているかもしれません。

ちなみに2006年度邦画(アニメ含む)の興行収入では19位だそうです。

物語の舞台は昭和40年代初頭。福島県のいわき市。

江戸時代末期にこの地区で石炭が発見されて以降、最盛期には130近くの炭坑が存在した常磐炭坑。

しかし国のエネルギー政策が転換されたせいで、日本各地で閉山が相次いでいた。

常磐炭坑もその例に漏れず、徐々に炭坑の数が減っていったのである。

このまま消えていくのを待つだけなのか?

しかしこの炭坑には、他にはない大きな武器があったのです。温泉です。しかもそれを捨てていたと言うのだから、もったいない話です。

その温泉を武器に東北にハワイをつくろうと言う、とんでもない計画が持ち上がりますが、住民は「そんなの無理だろ?」とどこか他人顔。その予算を、雇用対策に回せばいいだろう?と言う声が起こるのも当然で、計画が持ち上がった当初は全く相手にされない始末。

でも、先の無い炭坑よりも、地域の雇用を考えた社長を始め経営陣の判断が正しかったのは、現在を生きる私たちが知っての通りで、常磐ハワイアンセンターはスパリゾートハワイアンズへと名を代え、バブル崩壊後の日本でも生き残った、日本でも随一の一大リゾート施設です。

この「フラガール」は、その計画が持ち上がり周囲の反対を押し切りながらも、徐々に受け入れられていく街の姿を、時に笑いを交え、時に涙を交え、描いています。


演じる役者陣は個性的な面々。舞踏学院の先生を演じる松雪泰子さんをはじめ、今や日本を代表する俳優である豊川悦司さんや、劇中の笑いには欠かせない強力な脇役である岸部一徳さん、それから1人で子供を育てた力強い母親役が印象的な富司純子さん、等等。

そして、フラガールズの彼女たちを忘れてはいけません。

フラガールズの中心である蒼井優さんをはじめ、ほぼ全員がオーディションで選ばれています。

演技にそれだけの実力を持ち合わせているからこそ選ばれたのですが、中にはダンスの経験が無いに等しい人も居た為、そのレッスンは過酷を極めたそうです。3ヶ月に及ぶ特訓の成果は、映画を見ての通りです。その特訓がどうだったのか・・・それはメモリアルボックスに収録されているメイキングをご覧いただくこととしましょう。きっと、あなたは、メイキングで涙します。

それから忘れてはならないのは、ガールズ一の大女(笑)を演じる、南海キャンディーズのしずちゃんこと山崎静代さん。

映画成功の陰には、彼女の演技があると言っても過言ではないと、私は断言します。

特に映画中盤のあるシーンでは、彼女の演技に涙が止まらないでしょう。

この映画で、忘れてはならない存在がもうひとつあります。

それは音楽を担当されたジェイク・シマブクロさんです。

世界的にも有名なウクレレ奏者、そしてハワイ在住の日系人である彼は、意外にもこの作品が初の映画音楽です。いくつかの興味深いエピソードがあるのですが、それはここで語らずに是非メモリアルボックスをご覧いただくこととしましょう。


メモリアルボックスについて散々引っ張ってしまいましたが、それだけ「フラガール」のメモリアルボックスには購入する価値があるのです。

その内容は、シナリオの決定稿と特典ディスクが2枚。ディスクはそれぞれ2時間を超える豊富な映像量と内容で、この映画の裏側がしっかりと伝わってきます。中でも私がお勧めしたいのは、ガールズたちに密着した映像です。その苦労が手に取るように伝わって、見終える頃にはあなたもその一員になってしまったかのような錯覚を覚えることでしょう。

レンタルされてからでも決して遅くはないので、気に入られたら是非ご購入をお勧めします。

もちろんメモリアルボックスで、ですよ(笑)


さて最後になりましたが、この映画の主なロケ地は何処だと思いますか?

福島?確かに福島は多いのですが、実はちょっと違います。

元々常磐炭坑と言うのは、太平洋沿岸で茨城県の北部から福島県の南部にかけての一帯を指しています。

エンドクレジットを良く見ていただければ分かるのですが、撮影の中心は茨城県北部なのです。

炭坑住宅や、居酒屋、何度も登場する木の橋、そしてあの駅舎までもがそうなのです。

住所等の詳細こそ載っていませんが、メモリアルボックスにはロケ地についての情報もありますので、是非ご覧ください。

それから、詳しい場所を知りたい!と言う方も多いと思いますので、ちょっとだけ触れさせて下さい。

10年前と違って、今は映画の支援に自治体が乗り出して、積極的な活動を行っています。この「フラガール」も地域再生と言うテーマと観光が見事に結びついて、相乗効果を生み出しています。

なので、ネット上を探せばロケ地の詳細についての情報が山ほど見つかりますので、是非時間をかけて探してみてはいかがでしょうか?

私は、上記以外にもいくつかのロケ地の情報が分かったので、近いうちに1日かけて訪れたいと思っています。もちろん、こちらのコラムでロケ地の旅として公開する予定なので、ご期待くださいませ。


他にも日本アカデミー賞受賞等についても書きたいのですが、それはネタバレ編に譲りたいと思います。

2週間後になりますが、是非ご期待ください。そしてそれまでに、なんとかご覧いただいて、感動を分かち合いながら読んでいただければ幸いです。


さて来週ですが、「フラガール」の地域再生に似ていながらも、あまり注目されていない幻の映画をお贈りしたいと思います。


その作品の名前は「甦える大地」。


恐らく作品内容を知っている人はかなり少ないと思われます。

原作は「黒部の太陽」で有名な木本正次さん。入念な取材に基づいて書かれた小説「砂の十字架」です。

残念ながら「黒部の太陽」以外の著書はほとんど入手不可能のようで、加えてこの映画自体のビデオも存在していないのです。いや、正確に言うと、ネット上を探しても過去にビデオ化された記録が見つからないのです。

実際はどうなのか、これ以上私に確かめるすべがないのでどうしようもないのですが、運良く私の大切な知人がある知り合いを通じてこの映画のビデオを入手した為、なんとか観ることが出来そうなのです。

「黒部の太陽」は長い間、石原裕次郎ファンには存在が知られていましたが、ビデオ化はされておらず、真の幻の映画なのです。

この「甦える大地」も同様に、誰も観ることの出来ない幻の映画になりつつあります。

その内容について触れたネット上のサイトもほとんど見かけません。ましてや感想等皆無に等しいのです。

ならば、舞台となったその地域で育った私が、映画の感想を記録として残す必要があるのではないか?そう思ってのコラムなのです。


まだ観ていない段階なのではっきりとは言えませんが、地域再生の為に必要な「何か」を見つけたいと思います。


それでは、また!

2007年3月4日日曜日

日本沈没(2006年版)

約3週間ぶりのご無沙汰です。毎度のことながら、不定期な更新にお付合いいただきまして、大変ありがとうございます。

これから3~4月にかけては、毎週更新をお約束致します。

例年なら3月~4月はバイクによる「桜の旅」に休日を捧げる為無理なのですが、今年はそのバイクも手元に無く、12年目の愛車カプチーノも長距離走行には不安がある為、桜の旅はごく近所だけになりそうな予定です。

その余った力を全てこちらのサイトに注ぎたいと思います。


前置きはここまでにして、そろそろ前回お約束の日本沈没(2006年版)の内容紹介にうつりたい思います。

前回のコラムで軽く触れましたが、今回の日本沈没はいきなり災害シーンから始まります。

大陸が動いていることを無音で表現した前作とは大いに違うところです。

最初の大地震が起こった場所は、静岡。

そこに偶然居合わせた主人公小野寺俊夫は、横倒しになった自動車の中で気を失っていた。目覚め、傷ついた体を引きずりながら車外に出た小野寺は、瓦礫の中一人彷徨う少女を見つける。そのすぐ近くには今にも激しく溢れ出しそうに漏れ出したガソリン。危機を察知した小野寺は、渾身の力を込め少女を助けようとするがそのとき再び余震が!

倒れた電柱から発せられた火花はガソリンに飛び火し、大きな爆発と共に壊れた沢山の自動車に残されたガソリンに引火、連鎖の大爆発が二人を包む。

その時、空気を切り裂く爆音と共に現れた一機のヘリコプター。そこから吊るされたロープの先にはレスキュー隊員阿部玲子の姿。あっという間に二人に近づき、迫りくる爆炎から、二人を救い出したのだった。


1973年版は見たけれど、2006年版はまだと言う方は、すでにここで驚かれたことでしょう。

資産家の令嬢であり、情熱は持ち合わせていながらもしとやかな前作とは全く違う阿部玲子の設定。そして前作では途中からの登場が、今回はいきなりの登場です。しかもショッキングな出会い。

二人の恋愛が軸になる上で、必要な設定と出会いであることは言うまでもありません。

リメイク版はそれ以外にも、細かな点で沢山の違いがあります。

前回のコラムでいくつか述べたので、ここではあまり触れませんが、あえて取り上げるとしたら・・・・

前作での主要登場人物は私たちの実生活ではあまりお目にかかれない官僚と科学者であり、加えて人間味もどこか嘘くさく見える面もあったのですが、今回は官僚も科学者も私生活と感情をのぞかせる人間味のある設定なのです。

さらにそこへ、阿部玲子の身近で精一杯生きる一般市民の姿と、あらゆる面へ進出した女性たちの力強い姿が前作とは全く異なるところだと言えるでしょう。

特に、女性の社会進出は現在の日本を反映させる為だけでなく、この映画の主題である男女の恋愛にも大きく作用しているのです。映画の終盤で小野寺のするある決断も、阿部玲子の必死に戦う姿に影響を受けたと言っても過言ではありません。

さて、これ以上はネタバレになってしまうので、2006年版をまだご覧になっていない方は、ここで一度読むのをやめることをお勧めします。そして、しっかりとご覧になった上で、また読みにいらして下さい。


この映画の監督は樋口真嗣さん。

邦画界では非常に巧みな特撮を撮られることで有名な監督です。

様々な媒体で語られていますが、樋口監督が映画を志した切っ掛けが1973年版の日本沈没なのです。

その愛情は並々ならぬものがあり、映画の要所要所で前作へのオマージュが見られます。

あまりネタバレすると楽しみが半減してしまうので、ここではちょっとだけ触れることとしましょう。

簡単に見つけられるもののひとつに、字幕があります。

映画館の設備や最近の家庭AV事情では小さな文字でもくっきり描いてくれるので必要はないはずなのですが、明朝体の極太字幕は前作に敬意を表して使ったものと言えるでしょう。なぜそう言えるかと言うと、解説に使われる字幕は、今回の映画ではもう一種類あるのです。その字幕は、今回の映画で必要になった科学的注釈等であり、画面中央に小さな文字で表示されています。

字幕と言えばもうひとつ。地域は違うのですが、今回の映画では小野寺の実家である福島を写す際に「この地方に まだ被害はない」と言う字幕が出ますが、前作にも全く同じ字幕が登場しています。

それから字幕ではありませんが、日本を発つ寸前に首相が話す「何もしない方が良い」と言う考え方。これは、前作では非常に心に残るシーンで使われたものです。前作でのそのシーンに首相として登場していた丹波哲郎さんの演技には涙を流す方も多かったはずです。

余談ですが、丹波哲郎さんは今回の映画にも登場されています。これも前作に対する監督の愛情の現れでしょうね。


さてこの映画では非常に良く出来たCG等の特撮に目を奪われます。

前作ではミニチュアであることが分かってしまう出来であった特撮も、30年の進化がほぼ本物として見せてくれます。

その特撮が大活躍する災害シーンは前作と比べると時間的にはさほど多くはないのですが、短い時間ながらインパクトの強い映像がそこここに散りばめられ、パニック映画の本領を発揮しています。

ハリウッド映画にも負けないレベルに達しているのは確かです。

しかし残念なことに、特撮シーンに目を奪われ肝心な内容が霞んで見えてしまう方が多かったのも事実です。

ネット上の映画評を読むと、それがはっきりすると思います。

今作の評価は両極端なのです。「素晴らしい」と「駄目」の境界線がはっきりしています。

おおむね良い評価の前作とは、はっきり違っているのです。

より沢山の映画を見られる環境にある現代で、映画を造る課題がここにあると私は思います。

特撮はあくまで脇役でなければならないのです。もちろん現実で描けない場面を描く為には必要不可欠なので、今回の特撮の使い方はこれで正解なのですが、その加減が非常に難しいと言うことなのです。

ドラマの描き方が弱ければ、当然特撮に映画の印象を奪われ、それだけの映画になってしまいます。

見せる技術が発達した今、より主題が大事ななっていると言えます。

しっかりとしたドラマを描いてこそ、映画の真価を発揮し、映画の発展を促すのです。

今、邦画は空前の大ヒットを連続しています。

シネコンやDVDの普及が理由にあるでしょう。しかしそれだけではありません。映画を観たいと言う人の欲望を満たす完成度の高い作品が求められているのです。


これから邦画がどうなるか、それがまさにこの映画で表されていると、私は思います。


他にも触れたい内容が多々あるのですがリメイクと言う特性上、皆さんに見比べて探していただくこととします。

そうして、映画の新たな楽しさを見つけて欲しいと思います。


最後に今回のリメイクで私の印象に残るシーンを2つ。

ひとつ目は、病院や避難先でそこここに貼られている沢山の小さな張り紙。

拡大して見ることは出来ないのですが、それが行方知れずの「大切な人」へ向けたメッセージであることは容易に想像出来ます。

様々な色や大きさ、文字の大小がありますが、そこに人々の思いが綴られていると思うと、胸が痛くなります。

そしてもうひとつは、「日本が沈む」ことがTVで発表され、それに見入る人々のシーン。

居酒屋「ひょっとこ」で、いつもは陽気な大人たちが静まり返っている場面があります。その中で唯一、一生懸命に包丁を握り料理をしている美咲ちゃんの姿。ここに、しがらみに縛られている大人と、今を精一杯生きようとしている子供たちとの違いが見られます。そしてその子供たちが、「その後の日本」を支えていくのは言うまでもありません。

日本の大部分は沈んでしまうエンディングですが、その未来はきっと明るいものと感じさせてくれます。


さて次回は「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本 2005年本屋大賞」に輝いた書籍が原作である、「夜のピクニック」をお贈りしたいと思います。


それでは、また!



映画データ


2006年日本映画 134分


製作   「日本沈没」製作委員会   

監督   樋口真嗣

原作   小松左京

脚本   成島出 加藤正人

特撮監督 神谷誠

編集   奥田浩史

音楽   岩代太郎

出演   草なぎ剛 柴咲コウ 豊川悦司 大地真央 福田麻由子 及川光博 他