2007年7月29日日曜日

UDON(あらためて紹介編)

みなさま、だいぶご無沙汰してしまいましたが、ようやく復活致します。

楽しみにしている方には、ここ3ヶ月程大変ご迷惑をおかけ致しました。これからの頻繁な更新に変えて、どうかお許しくださいませ。


リニューアル後の初コラムと言う事なので、あらためてこの「極私的感涙映画評」の特徴をご紹介させていただきます。


基本的に「ネタバレ」です。

過去にビデオやDVD、スクリーンで観て好きになったり泣けたりした作品を、自分なりのチョイスで

紹介して行きます。

特に気に入っていたり多くを語りたい作品は、「紹介編」「ネタバレ編」とに分けています。

中には基本から外れたりする場合も多々ありますが・・・


先ほど、これまでどれだけの作品を紹介して来たのか気になって、ふと数えてみました。

一回のコラムで、別タイトル複数作品を紹介しているものを除くと、現在までに59作品を取上げていました。

と言う事で、今回は晴れて60作品のご紹介!!

と、言いたいところですが、今回紹介する「UDON」は昨年夏の終わりに「紹介&初日舞台挨拶編」と言う形で、主に初日舞台挨拶を紹介させていただいたので、初めてではないのです。

つまり60作品目は次回、です。

その記念に何を紹介するかは・・・次回のコラム、最後のお楽しみと言う事で。


人間は、決して目立たない人でも、その人間性に魅かれて多くの仲間が集まります。

私は、本広克行監督はその最たる例ではないか、と思うのです。

ヒット作を沢山生み出す映画監督が同じ仲間と共に作品を造り上げる事が多いのは、監督の人間性も少なからず影響していますが、本広監督はまさにその代表例だと私は思うのです。

作品をひとつ生み出すごとにその仲間は膨れ上がり、次の作品ではそれまで不可能だった事を可能にしてしまうのです。

分かり合った仲間が、監督の意思を感じながら己の技術のすべてをつぎ込む、そう例えれば分かりやすいでしょうか?

この「UDON」でも、監督の意思を感じた仲間たちが、素晴らしい仕事を見せています。

主人公の父親が営む「松井製麺所」は、貯水池の横に何十年も前から建っているように見えますが、実はそこに建てられたオープンセットです。

しかしながらそのセットは普通に家として機能するばかりか、建築上も耐えうる設計がされているそうです。

まだ映画をご覧になっていない方には分からないかもしれませんが、家の形から、そのたたずまいまで、まるで違和感が無いのです。

言われなければ、セットとは全く分からない程に完成度が高いのです。

見えるところさえきちんと造られていれば完成度は問題じゃない、と言う方もいるかもしれませんが、私は違うと思います。

役者にとっても、演技の空気を造る為に必要不可欠な要素では無いでしょうか?

この家にこだわりをつぎ込んだのは、美術の相馬直樹さんです。

以前紹介した「交渉人真下正義」のクモや「サマータイムマシーンブルース」のタイムマシンを設計製作された方です。

あのクモやタイムマシンを観れば、まだ「UDON」をご覧になっていない方にもその完成度が想像出来るのではないでしょうか。

本広監督の大切な仲間の仕事は、形として目に見えるものだけではありません。裏方でも最も裏方でありあまり紹介される事が無いのに、映画命を生み出し、輝かせる仕事「編集」もそうです。今までに何度か紹介している田口拓也さんの存在は、これまでの作品以上にかなり大きいと言えるでしょう。

UDON」の中ではマルチ画面が時折使われます。それが物語の進行上必要不可欠なのは、観ていただければ分かるのですが、映画ではあまり使われないテレビ的な手法です。詰め込む情報量の多さにそのような選択になったのでしょうが、これには相当苦労されていると思われます。

何せ、一画面に4~5個と言うレベルでは終わらないのですから・・・

加えて本広映画では良く行われる「ダイナミック」な時間の操作も、今回は多用されています。

「サトラレ」でクライマックスに使われたスローモーションと普通の動きのリニアな変化は今回も健在なばかりか、印象的に何度も使用されています。

そしてシナリオ通りに造ると3時間を越すと言う内容量は、その下準備から含めるとかなりの労力を要したに違いありません。

それも、これまでほとんどの本広映画で編集をされていた田口さんだからこそ出来た技、と言えます。

他にも触れたい本広監督の仲間が沢山いるのですが、今回はネタバレ厳禁なので次回や次の本広監督作品に譲りたいと思います。


さてこの映画を紹介する上で、もっとも触れなければならないのはその舞台となる場所です。

香川県。

どこ?と言う方も少なからずいるはずです。関西以西ならいざ知らず、関東以北には馴染みの無い場所です。

四国でまず思い浮かぶのは?と知り合いに聞いたところ、多くの知り合いは高知を挙げています。香川を挙げた人はごく僅かでした。

歴史上に名を残す人物、坂本龍馬がいるから高知を挙げるのは仕方が無いにしても、愛媛のみかん、徳島の阿波踊りに比べれば、香川には目立つものが無いと思われがちなのです。

それもそのはずです。実は、さりげなく生活に忍び寄っているのですから。

通信販売で有名なセシールは、香川に本拠地を置きます。それから冷凍食品で全国的に有名な加ト吉もそうです。

目立つ事よりも役立ちたい、そんな精神が垣間見える気がするのは私だけでしょうか?

香川県は47都道府県でもっとも小さな自治体です。それゆえに人口も少なく、埼玉県の県庁所在地であるさいたま市をも下回るのです。

しかしながらそこに存在するうどん店は・・・


おっとこれは映画のオープニングで、シンプルかつ分かりやすく紹介しているので、触れないでおきましょう。

以前の「紹介&初日舞台挨拶編」でも紹介済みですが、香川県は本広監督の故郷です。

故郷を舞台にするからには、その気合いは半端ではありません。

東京から香川に何度も訪れ、まずはプロデューサーを説得し、その後もシナリオハンティングや、ロケーションハンティング、そしてうどん巡礼もかねて(笑)、最終的には映画に登場するシーンのほとんどを香川でロケしています。(一部CGシーンやセット内もありますがロケ比率はかなり高いと言えます)

実際に存在する店が登場するだけではなく、本物の店主が役者と演技をし、リアルと嘘の境目を消す事にも成功しています。

故郷に貢献した映画、それが「UDON」なのです。

実際、香川県では観客動員の記録等を塗り替えた、香川県の記念的作品になりました。

それも、本広監督の、故郷への溢れんばかりの愛情が生み出した結果と言えるでしょう。


さて、これ以上書くとネタバレになる事が必至なので、今回のコラムはここまでとし次回の「ネタバレ編」に譲りたいと思います。


次回の更新は8月5日を予定しています。


それでは、また!