2005年12月31日土曜日

交渉人 真下正義

いよいよ2005年も今日で終わりですね?

でも年明け1時間前にアップしたこのコラムを皆さんが読むのはきっとお正月でしょうから、取りあえず、

「明けましておめでとうございます!」そして順序が逆になってしまいますが、「2005年はお世話になりました!」

本当は、今回のコラムは12月24日に更新したかったのです。

映画またはDVDでご覧の方は既にご存じだとは思いますが、この「交渉人 真下正義」の物語は冒頭の1分を覗き、2004年の12月24日午後4時から午後10時頃までの6時間を描いています。

リアルタイム、とまではいきませんが、その感覚を少しでも味わって頂きたかったのです。しかし出来なかったから意味がないですね。

さて、本題に戻りましょう。

最近、「邦画がハリウッドに近づいた」とか「ハリウッド的な」と言う表現が多々聞かれます。

私もその内の一人でした。しかしこの作品を見てから考え方が少し変わりました。

映画だけに限らず、音楽・芸術その他、人間が作り出す全てのものは、影響されあいその出来が高まっていくものです。

そう考えると、予算と人員を沢山使い造り上げるアメリカの作品を言うのは、面白く出来て当然なのです。出来ない方がおかしいのです。

しかし最近の邦画はどうでしょう?予算が少なく製作期間が短いものでも、面白いものが沢山造られています。新しい才能がどんどんと排出されています。その証拠に日本の映画がハリウッド映画に使われる程です。ただしこれには「ハリウッド映画の新鮮な題材がネタ切れ」と言う事にも起因しているのですが、このことは後のコラムでいつか語る事としましょう。

この映画「交渉人 真下正義」は製作費こそ公表されていませんが、撮影と製作期間は2004年の11月から公開前月の2005年4月までの、たった半年なのです。

どうです?凄いと思いませんか?あれだけ沢山のキャスト、エキストラ、フリーゲージトレインである「クモE4-600」の迫力ある疾走シーンや、パニックシーン、ラストに登場する緊迫のクラシックコンサート会場、全てがその半年の間に撮影・編集されているのです。

この短期間にはある秘密が隠されていて、これが先程の「高めあっている」にも通じるのです。

今回のコラムでは一部だけ取り上げますが、この作品で画期的だったのは、撮影システムにあります。

実は言われなければ誰も気づかない些細な事なのですが、この作品の登場する地下鉄シーンは全て東京ではないのです。

時間や撮影に関する制約、その他様々な要因があって、都内での撮影は許可されなかったのです。

となると、わざわざトンネルを掘ったりセットを組んだりというのは無理な事ですから、当然日本国内の他の場所での撮影が行われる事となるのです。

実際にエンドロールを観て頂ければ分かりますが、神戸・横浜・札幌・大阪と4箇所の地下鉄を使用しています。

しかし問題はそれだけではありません。撮影の為に看板等は全て東京の設定に変更してありますから、当然の事ながら、実際の営業運転中には撮影が出来ないのです。

これはどういう事を意味するのでしょう?

映画公開前にスカパー!で放映されていた「真下正義チャンネル」の中で明かされていますが、実は出来ても一日に数時間の撮影のみと言う、危機的状況。

ここでハリウッドで使われるシステムが生きてくるのです。

幾つかの班に分かれ、撮影の同時進行が行われたのです。それぞれの班にはそれぞれ責任者がいて監督の役割を果たし、その全てを統括するのが監督の役目、とでも言いましょうか。総監督と呼んでも良いのではないでしょうか?

この撮影システムもそうなのですが、本広克行監督は常に新しいものを取り入れ、挑戦しています。過去にも幾つか面白いものがあるので、ここでちょっとだけ触れておきます。

それはフィルム撮影の弱点を克服するものとでも言いましょうか。

最近あるトークイベントで明かされた事ですが、「踊る大捜査線2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」では、編集を現場で秘密裏に行っていました。それは、殆どの役者とスタッフに知られていない存在でした。見た目はごく普通ですが、編集機材を搭載した改造車をスタジオ脇に停車させ、その中で撮影直後の映像に編集をかけるというものです。

これが何を意味する事か、一般の方には分かりづらいと思います。

簡単に例えると、フィルムカメラとデジタルカメラの違いです。

このコラムをご覧の方々は、当然パソコンをお持ちですよね?となると、デジカメもお持ちのはず。

良く考えてみて下さい。

デジカメの利点は何でしょう?

そう、その場で確認できることです!つまり納得のいく内容でなければ、すぐに確認して取り直しが出来るのです。それを映画に取り入れたわけです。

映画というのは、特にスタジオの場合、多額の費用と手間をかけてセットを造っています。

なのに、撮影が終われば無用の長物。しかもその後の撮影の為に取り壊すのが常です。

フィルム撮影では、現像が上がる頃にはセットがない!と言うのが当たり前だったのです。

昔の巨匠と呼ばれる監督なら、劇場公開日を延ばしてでも、多額の費用をかけてセットを組み直していたかも知れません。

しかし殆どの場合、アラやミスが発見出来てもそのまま編集せざるを得ないのが現状だったのです。

本広監督は、その弱点を、デジタル撮影と同時編集で克服したわけです。

だからあれほどまでにこだわった画が観られるわけです。

ところがこれだけでは終わりません。

監督の最新作、「サマータイムマシンブルース」ではさらに上を行く試みがなされています。

実はこの「サマータイムマシンブルース」は劇場公開こそ「交渉人 真下正義」の4ヶ月後でしたが、撮影自体は先に行われていました。

そこで何が画期的だったのかと言いますと・・・

これは「サマータイムマシンブルース」のコラムまでのお楽しみとしましょう。

2006年2月24日に発売されるので、その時までお待ち下さい。必ずコラムに書きますので。


今回はもっともっと書きたい事があったのですが、泣く泣く削った挙げ句、どうしてもこれだけは書かなければいけないと思い、最後にひとつだけ触れます。お許し下さい。

それは「リンクネタ」です。

「交渉人 真下正義」はTVシリーズ「踊る大捜査線」から派生した物語です。当然の事ながら、その世界観を知っていればもっと楽しめます。

しかしこの作品は、それを知らずとも充分に楽しめる内容に仕上がっている事は言うまでもありません。

でもやはり、知っていると面白いはずです。

そんな人の為に、あるひとつの新しい試みがなされています。

それは、もう一つの物語、です。

ひょっとすると既にご覧になった方がいらっしゃるかと思いますが、この映画のさらに番外編である作品が2005年の12月7日にテレビ放映されているのです。

その作品の名は「逃亡者 木島丈一郎」

監督こそ違いますが、踊るシリーズのテイストを引き継いで、なおかつ「交渉人 真下正義」の世界感も引き継いでいる作品です。

既に「交渉人 真下正義」プレミアムエディションDVDのスペシャル特典として発売済みですが、作品の出来もかなり良い為、恐らく単体での発売と、レンタルもされる事と思います。

是非ご覧になって下さい。踊るの世界を知らなくとも、「交渉人 真下正義」を観ていれば、「あっ!」と言うリンクネタの発見が幾つもありますから。

そこでもしハマったなら、そこから「踊る大捜査線」のふか〜い世界にハマってみるのも面白いかも知れませんよ?

余談ですが、この「逃亡者 木島丈一郎」、TVシリーズ化なんて有り得るかも知れません。

もしそうなれば、冠に付いている「逃亡者」は取れてしまうかも知れませんが、かなり面白い作品になる気がするのです。もちろん、古くからの「踊る大捜査線」ファンにも満足のいくような・・・


さてさて、2005年最後のコラムいかがでしたでしょうか?

楽しんで頂けましたか?

内容には殆ど触れていないので、もし未見でここまでお読みになった方は、安心して「交渉人 真下正義」をご覧いただけるでしょう。

何度観ても楽しめる作品ですから、是非是非ご覧下さいね!


2006年の第一弾は、今までとちょっと趣向を変えてみようかと考えています。

それは、以前から頭の隅にはあったのですが、なかなか行動に移せなかった事です。

次回は、「極私的感涙”映画音楽”評」と題して、私が今までに出会った映画音楽・・・通称サントラの良さをお話ししようかと思います。

これを読んだら、映画音楽に対する考え方が少し変わるかも知れませんよ?

ちょっと書くのに時間がかかるかも知れませんが、しばしお待ち下さいませ。

遅くとも1月末までにはアップしたいと思います。


それでは、良いお年を&素晴らしい新年をお迎え下さいませ!!


それでは、また!!


2005年日本映画  127分

監督 本広克行

脚本 十川誠志

音楽 松本晃彦

撮影 佐光朗

編集 田口拓也

VFX&SUD   山本雅之

録音 芦原邦雄

照明 加瀬弘行

出演 ユースケ・サンタマリア 國村隼 石井正則 水野美紀 寺島進 他

2005年12月19日月曜日

レジェンド・オブ・フォール

今回は前回と違ってネタバレでなければ語れない部分が多々あるので、どうかお許し下さい。


約10年ぶりにこの映画を見ました。

そしてある事に気づきました。

私はこの10年、何一つ変わっていない、何一つ進化していない、そう思って生きてきました。

しかしそれは間違いだったのです。

はじめてこの映画を見た時に感じたのは、雄大な自然の美しさ、兄弟愛、そして主人公トリスタンの生き様に感動しました。

でも涙はなかったのです。一切無かったのです。

ところが今回はどうでしょう?


登場人物それぞれの悲しみが、自分の事のように胸を貫き、かき乱し、涙を溢れさせ、優しくさせるのです。

これほどまでに深い映画だったのかと。

私は、どうやらこの10年で色々な事を経験したようです。

祖父母の死、父と弟の病気、愛する人を引き留められなかった悲しみ、その全てが私の大きな糧になっていたのです。


それでは、ここからは物語のあらすじに、ちょっとした感想を交えながら進みたいと思います。

最初の涙はここでした。

物語が大きな変化を見せる序盤の終わり頃、弟サミュエルの死。

毒ガスで視力がなくなったサミュエルに聞こえた主人公トリスタンの声。途端に溢れる安堵の表情。直後に迎える悲しい死、そしてその表情全てを間近に見ながら、何も出来ずにサミュエルを殺されたトリスタンの深い悲しみ。

この全てが、一気に、津波のように私の心に押し寄せて、涙を搾り取っていきました。

正直な話をすると、前回この映画を見た時も、このシーンは辛かったのです。

でもここまでの悲しみはありませんでした。

しかし今回、これほどまでに深い悲しみがあったのかというくらいに、辛い涙でした。

次に涙が溢れたシーンは、サミュエルの墓参り。しばらく連絡を絶ち、行方の分からなかったトリスタンが突然帰郷し、河っぷちの草原に寂しくたたずむ墓の前で、涙を堪えているシーンです。

サミュエルの死の時に感じた悲しみが、そのまま甦ってきました。

そしてそれに続く、ほのかな愛を抱いていたサミュエルの婚約者スザンナの優しさを拒絶するシーン。

トリスタンの悲しみと罪の念が、私の心に深く深く心に刻まれました。

この物語の序盤で、3人の兄弟は誰もがうらやむ程の仲の良さを見せつけていましたが、サミュエルの死を切っ掛けに一気に崩れ、とうとう墓参りの直後に決定的な事態に発展してしまうのです。

家を出る兄、アルフレッド。その悲しみも深いものでした。

サミュエルの死のやり場は、愛が絡むトリスタンに向けられるのも当然です。

でもこの兄弟が、どれだけ深い絆で結ばれているのかが、ほんの些細なシーンで証明されます。

それは、劇中、要所要所に使われる、手紙の朗読です。

遠くに住む母へ宛てた手紙の一文に、兄の弟に対する気持ちが表れています。

この一文は、後に兄弟がやり直せると信じて疑わない程に説得がある文章なのですが、運命はそれを許しません。

牧場の鉄条網に絡まり泣き叫ぶ牛・・・サミュエルの死と同じ状態です。目の前で生きているのに、助けられず死を待つのみ。トリスタンの苦悩は、スザンナによって癒されていた傷を、さらに深くしてしまうのです。

このシーンのトリスタンの瞳が忘れられません。

結局去っていってしまうトリスタン。戻ってこないかも知れないのに、待ち続けるスザンナ。

どうして一所に安らげないのか、安らげさせてくれないのか、運命を恨むばかり。

全ては、サミュエルの死で神を呪った事から始まったのでしょうか?

その答は、物語の最後で描かれます。

そしてどのようにして、この父子と、兄弟と、一人の女性を巡る愛が決着していくのか?

淡々と進む物語ではありますが、劇中殆ど流れ続けているジェームズ・ホーナーの美しい旋律が、観ている者の心に、波乱や安らぎを与え、観終えた時に、優しい気持ちにさせてくれる事でしょう。

モンタナの美しい自然も特筆すべき事でしょう。この美しい風景があったからこそ、観る者は素直な心で感じられるのだと思います。


ここまでで触れる事が出来なかったのですが、3兄弟役のアイダン・クイン、ブラッド・ピット、トーマス・ハウエル、そして父のアンソニー・ホプキンスの演技は素晴らしいです。

それだけでも見る価値がある作品ではないでしょうか?

これは余談になってしまいますが、サミュエルを演じた役者の名前に見覚えはありませんか?

あの笑顔に見覚えはありませんか?

そうそう。「E.T.」のエリオット少年です。

すっかり大人になって、ビックリしませんでしたか?

しばらくショービズの世界から離れていたのですが、最近の活躍は目覚ましいものです。

どうかこのまま、素晴らしい役者の道を歩んで頂きたい、そう願います。


さて、次回は恐らく今年最後のコラムになるかと思います。

前回の予告通り、「交渉人 真下正義」をお贈り致します。

本広映画の最高傑作であり、あの「踊る大捜査線」から派生した新たな伝説の始まりです!

どうか今年最後の映画は、これをご覧になってハラハラドキドキしながら新年を迎えて下さいね!


それでは、また!


1994年アメリカ映画  132分

監督 エドワード・ズウィック

原作 ジム・ハリスン

音楽 ジェームズ・ホーナー

撮影 ジョン・トール

出演 ブラッド・ピット アンソニー・ホプキンス アイダン・クイン ジュリア・オーモンド ヘンリー・トーマス

2005年12月4日日曜日

ストリートオブファイヤー

今回はあえてネタバレにならないコラムで勝負しましょう。


この映画は、今までに沢山あったようで、あまり見かけないタイプの映画です。

映画とミュージックビジネスが密接に結びついた80年代だからこそ実現出来た珍しいタイプとでも言えるでしょうか。

まず、この映画に登場するエレン・エイムやその他のグループは実在しませんが、その歌は、実際のアーティスト名でサントラ化され、しかも幾つもの曲がシングルカットしチャートの上位に上り詰めました。さほど有名でもないアーティストを、映画と結びつけてヒット・成功させた良い例の始まりではないでしょうか?

有名なアーティストを多用した、同時期に公開の「フットルース」と対極をなしているとも言えます。

しかもこの映画では、映画の為の限定ユニット「Fire Inc.」が結成、映画のオープニングで観客をグッとつかみ、エンディングでは主人公トムとエレンの揺れ動く心情を見事に演出しています。

ちなみに前回のコラムで述べた「日本語の歌詞を付けてTVドラマの主題歌になった」のがこの曲であり、カバーされた日本でも大ヒットしたのです。

その曲名は「今夜はエンジェル」歌 椎名恵。きっと30代より上の方には記憶に残っているでしょう。

「ヤヌスの鏡」というドラマの主題歌です。

話が逸れてしまいますが、この頃のTVドラマはカバー曲が多かったですね。

例えば「スチュワーデス物語」の「ホワット・ア・フィーリング」は映画「フラッシュダンス」、「不良少女と呼ばれて」の「ネバー」・「スクールウォーズ」の「ヒーロー」は共に映画「フットルース」等々。知られていないところでは、あの渡辺美里のデビュー曲もフットルースのサントラからのカバーでした。

個人的に「今夜はエンジェル」と言う曲名に不満はありますが、国内で発売されたサントラでの本歌の曲名が「今夜は青春」だった事を考えると、仕方のない事かも知れません。

ちなみに本当の曲名は「Tonight is What it Means to be Young」です。「今夜は青春」と言う訳は、成る程ですね。

この映画が公開された1984年前後は、日本のカバー主題歌同様、音楽映画の当たり年でした。先程触れた「フラッシュダンス」「フットルース」、翌年には「セントエルモスファイヤー」(後にフジテレビでドラマ化された「愛という名のもとに」に多大な影響を与えたとされる)、そして「ストリートオブファイヤー」どれもがそれぞれの曲の個性を引き立て、似か寄らない作品に仕上がっていました。

その中でなぜこの作品を取り上げたのか?

一つ目は、歌ばかりが注目されている映画の中で、恐らく唯一、バックに流れるサントラを重要視しているからです。歌に負けない量のサントラが、観る者の心を血湧き肉躍らせるのです。

その音楽の作曲・演奏者は、ライ・クーダー。天才的ギタリスト。

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」と言えば、普段映画を見ない音楽好きの方にも有名な作品ではないでしょうか?

彼の音楽がなければ、この映画は成立しなかった、と言っても過言ではないでしょう。

残念ながら、サントラには収録されていませんが、その曲の一部が、彼のベスト盤に収録されているので、映画を気に入ったら、是非聞いてみて下さい。映像がなくとも、素晴らしい音楽です。

さて、もう一つの理由。それは、この映画の持つ普遍性です。時代が変わっても色褪せない魅力と題材、なのかも知れません。

ストーリーは至って単純。

例えれば、ヒロインを奪われそれを助ける西部劇。邦画にするならば、一匹狼の高倉健。

不器用だけれども、どこか憎めない、そんな男の憧れを描いています。そこに恋愛映画の要素をミックス、でも基本は壊さない程度の色づけに終わっているのは、さすがと感じさせます。

主人公を演じるマイケル・パレのどこか田舎臭さを感じさせるところも、ひとつの魅力と思えます。

監督のウォルター・ヒルも素晴らしい映像を演出しています。

タイトルにもなった、ネオン灯る闇の中で炎に包まれた大通りは、興奮の中に、美しささえも感じさせます。

分かりやすい物語と相まって、20年以上経った今見ても決して色褪せない魅力を作り出しているのです。


難しい事ばかり考えさせる最近の映画に疲れたあなた、是非、単純明快で後味の良いこの映画を、年が明ける前にご覧下さいませ。

LD時代にもDVD時代にも、いち早く発売されたタイトルですので、中古等も豊富に出回っているはずです。


さて、今月のコラムはあと2回更新致します。

12月中旬は、ブラット・ピット主演「レジェンド・オブ・フォール」、下旬には本広克行監督の大ヒット作「交渉人 真下正義」をお贈り致します。

どちらもオススメの映画ですので、是非是非ご覧になってから、このコラムに挑んで下さいませ。

ちなみに「交渉人 真下正義」は12月17日の発売です。


急激に寒くなりましたが、くれぐれも体調にはお気を付け下さいませ。


それでは、また!


1984年アメリカ映画  94分

製作 ローレンス・ゴードン

ジョエル・シルバー

監督   ウォルター・ヒル

脚本   ラリー・グロス

音楽   ライ・クーダー

出演   マイケル・パレ ダイアン・レイン リック・モラニス エイミー・マディガン

2005年11月12日土曜日

TATARI〜タタリ〜

すっかりご無沙汰しています、kiyohikoです。

まず、9月末の予定の更新が、大幅に遅れた事をお詫び致します。

この夏から秋にかけては、個人的に色々な出来事があって忙しかったのですが、それもやっと一段落。

これからは、月2回の更新に専念出来そうです。

この場を借りて、改めて皆様に、お詫び申し上げます。そして、これからもよろしくお願い致します。


それでは本編に入りましょう。

この映画は、ここ数年の定番とも言えるリメイク映画です。

元ネタの映画は「地獄へとつづく部屋」。1959年、まだモノクロ映画が主流の時代です。

オリジナルの監督はウィリアム・キャッスル。「TATARI」をご覧になった皆さん、何か気づかれませんでしたか?

そう、この映画の製作、「ダークキャッスル」の名前の由来でもあるのです。

DVDに収録されている特典映像から、この監督が斬新な仕掛けで人々を驚かせていた事が分かります。詳しい事は、DVDをご覧頂くとしましょう。

リメイクといえども様々なパターンが存在するのは、既に皆様もご存じでしょう。

最近の流行は、日本のホラーをハリウッドでリメイク、しかも同じ監督が努めるというパターン。

アニメの日本から、ホラーの日本へと進化しているようです。

なぜ日本のホラーがこれだけ受け入れられるかは、大きな理由があります。

映画館の音響の進化と共に、映画は体験する娯楽へと進化していきました。

そして音響の更なる進化に合わせるように、より強い刺激を求めるようになっていくのです。

その結果はどうでしょう?

全てが、とは言いませんが、単純に楽しむだけの娯楽としては良いものでも映画としての質は?その様な作品が増えてしまったのです。

そして刺激に頼りすぎたが為に、物語が置き去りになってしまったのも事実です。

いつしか、ちょっとやそっとのことでは驚かなくなってしまったわけです。

その点日本のホラー映画はどうでしょう?いや、この場合はホラーと言わない方が良いかも知れませんね。

日本にも、ただ刺激を求めただけの映画もあるわけですから。

日本の恐怖映画には、陰と陽がはっきりと存在しています。

そしてスクリーンに映らなくても、常に感じる「気配」、物語の奥底に秘められた悲しい運命や、性。

その全てが、観客の想像力を掻き立てて、ただその場でだけ驚く映画ではなく、引きずる恐怖を心に残してくれるのです。

静かでも驚かされたり、背筋がゾクッとするのには、そんな理由があるからだ、と私は思います。

きっと欧米でも、そのような恐怖感はあったはずです。

語り継がれた伝説や、幽霊話などがそうでしょう。

でも、いつしか文明の波に押されて、どこかに忘れてしまったのでしょうね。

恐らくアメリカの映画製作サイドは、日本の恐怖映画のそんな魅力を見つけ、もう恐怖の原点に返ろうとしているのかも知れません。

そう、「歴史」は繰り返すのですから・・・


さて、簡単に物語を説明しましょう。

恐怖をプロデュースするプロであるブライスは、妻の誕生日を祝う為に、あるサプライズを仕掛けます。

断崖絶壁の丘の上にある、いわくつきの「恐怖の館」を借りて、一晩限りのパーティーです。

もちろん妻は、そのパーティーの事は知っていますし、口も挟んでいます。

しかし二人には不穏な空気。

そう、不仲で殺し合ってもおかしくない、離婚寸前の夫婦なのです。

騙し、騙され、どこが本心なのか分からないくらいにドロドロの夫婦が、普通のサプライズで終わるはずがありません。夫は妻を恐怖に陥れようとしますし、妻は夫を騙して立場を逆転させようと企んでいます。

そんな二人が選んだ場所には、ある悲しい過去がありました。

かつて人体実験が秘密裏に行われ、氾濫を起こした精神異常を来した患者達により、虐殺と火災で闇に葬られた病院だったのです。

この館に集められたのは、初対面の4人と、館の持ち主と、ブライズ夫妻。

窓という窓、全てが、逃走防止用の鉄扉でふさがれた瞬間、6人の運命は、狂い始めます。

それは、全てを操って驚かせるはずのブライズ夫妻にまでも襲いかかる事になるのです・・・

どこまでが本当で、どこまでが嘘か?そして次は何が起こるのか?


オリジナルに近く、単純な物語ながらも、最新の特撮技術を上手く取り入れた飽きの来させない映画に仕上がっています。


いかがでしたか?どぎつすぎる映像も多少はありますが、喧しいだけのホラー映画を見飽きた方には、ちょっとした刺激になりませんでしたか?

たまには、こんな映画も良いでしょ?


さて、次回は11月末の更新予定です。

取り上げる作品は、「ストリート・オブ・ファイヤー」。

ご存じの方もいるかも知れませんね?

「フットルース」と同時期に公開されて、共に音楽映画として比較されていましたし、この映画の主題歌は、日本語の歌詞を付けてTVドラマの主題歌になった事もあるのです。

その作品は何かって?

それは、次回のコラムまでお楽しみに!!

でも映画を観たら、きっと思い出すはずですよ。


それでは、また!


1999年アメリカ映画  93分

製作 ロバート・ゼメキス

ジョエル・シルバー

監督   ウィリアム・マーロン

脚本   ディック・ビーブ

音楽   ドン・デイビス

出演   ジェフリー・ラッシュ ファムケ・ヤンセン テイ・ディグス アリ・ラーター ブリジット・ウィルソン ピーター・ギャラガー クリス・カッテン

2005年8月28日日曜日

グース

皆様、お久しぶりです。

1ヶ月の予定が、2ヶ月もかかってしまい、申し訳ありませんでした。

肝心の休んだ理由ですが、今もって終わっていません。

しかし、今私がこのコラムを書かなければならないと感じ、再開した次第です。


私事ですが、長年会っていない古い友人が、ある罪を犯して捕まりました。

夢を一直線に追いかけるその友人は、私にとっての目標のような存在でした。

「でした」ではないですね、「今も」です。

なぜ友人が罪を犯したのか、なぜ友人が誘惑に勝てなかったのか、話す手だてがない今は全く分かりません。きっとそれを知るのは何年か先になることでしょう。

ただ私は、その友人のかつての行動に勇気を貰いました。時々テレビに映る姿を見ては、自分のことのように嬉しく思っていたのです。

そんな彼が罪を犯しました。

なぜでしょう?

いや、「なぜ」は大事ではないのです。

理由を追及したとて、「今」は変えられません。

「これから」が大事なのです。

きっと彼は罪を償ったあとも、世間の冷たい目に曝されるでしょう。

回りが全て敵に見えてしまうでしょう。

でもそれは違うのです。

あなたには両親がいて、かつて夢を語り合った友が居るのです。

その存在を忘れないで下さい。頼れる人は必ず身近にいます。

そして私は、いつでもあなたの力になりたい、そう思っています。

夢を追い続ける一人の友人として、待っています。

罪を償ったあとも、きっと彼は「夢」を捨てては生きられないでしょう。

しかし罪を償ったからと言っても、もう戻れません。

彼の侵した行動が、ひとつの夢を永遠に叶わないものとしてしまったのですから。

でも思い出して下さい。

映画の話をする度に瞳を輝かせていた、あの少年時代を。


今回のコラムは、その友人に捧げます。


この映画は一人の少女が「母の死」から立ち直り、ひとつの大きな目標をやり遂げる話です。

映画としては良くある題材です。実際はこんなに美しい物語だけでは終わらないはずですが、それでも観る者は己の体験のように気持ちを高揚させ、時には涙して、映画と一体になっていきます。

なぜかは大事ではないのです。

あえて言うなら、それが映画の魔法なのです。


物語を説明すると・・・

オープニング、夜、雨降るニュージーランドを走る一台の自動車。

運転席の母親と、助手席の娘「エイミー」が楽しそうに会話をしています。

しかし突然目の前に現れた暴走トレーラー。

二人の乗る自動車は横転、救出され救急車に乗せられたところでエイミーは気を失ってしまいます。

目覚めたのは病院のベットの上。10年も会っていない父が寄り添っていることに困惑します。

そして母の死を知るのです・・・

父の暮らすのはカナダ。エイミーはここで生まれ、離婚の結果母に引き取られ、この地を離れていったのです。

そんなエイミーが再びカナダで暮らすことに。

世界狭しとあちこちを回っていた生活は一変、エイミーは母の死のショックも重なり、息の詰まる日々。

しかしそんなエイミーの前にあるひとつの出来事が起きるのです。

伐採された森林から拾ってきたグースの卵が孵り、雛になったのです!

エイミーと16羽のグース達の楽しい日々は、こうして始まりを迎えます。

詳しい解説はここまでにしておきましょう。


エイミーは、鳥たちの母になることで大きな悲しみを乗り越えます。

そこには大きな責任も生まれるわけで、彼女にとってはひとつの冒険でもあります。

不器用な父と行動を共にすることによって、失われた絆も徐々に深まります。

でもここで思い出して下さい。

何が重要でしょうか?

父とグースを連れて旅立つこと?いいえ違います。鳥たちの母になること?それも違います。

そうなんです、何事にも切っ掛けがあるのです。

この映画の場合、エイミーがグースの卵を助けたことから全てが始まります。

そう、重要なのは行動を起こすことなんです。

どんなに辛いことや、どんなに悲しいことがあっても、行動を起こさなければ乗り越えることは出来ないのです。


だから思い出して下さい。

どんな時にも、動き出す勇気を忘れない下さい。


私がこの作品を初めて観たのはビデオでした。

今回はDVDを購入したのですが、ある発見をしました。

それは、カナダの自然の美しさ、です。

綺麗な夕焼けや、美しい湿地、そして風のそよぐ草原。

DVDでなければ味わえない臨場感と感動を、味わうことが出来ました。

そしてそのおかげで、以前にも増して感動の涙を流すことが出来たのです。


一生懸命に生きる人の姿は美しいものです。

どうか、この映画を観たあなたも、そのことを忘れないで下さい。

そして、この映画が、あなたの忘れかけていた夢を思い出させてくれることを願います。


さて、感動作の余韻にひたっている皆様、大変申し訳ございません。

次回は思いっきり趣向を変えて、ホラー映画をお贈りします。

でもただのホラーでは終わりませんよ。

きっとあなたを引き込んでくれることでしょう。


次回は、最近マンネリ気味と言われているホラーの中では異色な作品、「TATARI タタリ」です。

レンタル店にも在庫はあるはずですし、DVDは現在2000円の低価格で再発売中です。

大いにネタバレしながらコラムを書きたいと思っていますので、是非是非ご覧になってから、このコラムに挑んで下さい!

9月末にまたお会いしましょう!


それでは、また!


1996年アメリカ映画 106分

監督     キャロル・バラード

脚本     ロバート・ロダット

       ビンス・マックイン

原案     ビル・リッシュマン

音楽     マーク・アイシャム

出演     アンナ・パキン ジェフ・ダニエルズ ダナ・デラニー テリー・キニー

2005年6月11日土曜日

がんばっていきまっしょい

今では死語になりつつありますが、日本映画にはスポコンものと言われるジャンルが存在します。この映画の舞台である1976年は、まさにそのジャンルがブームの真っ最中。

主人公である悦子も、それにもれず熱血漢か・・・と思いきや、至って普通の少女。ちょっと違うのは、一生懸命になると見境が付かなくなる所か。恋に、ボートに一途で。

物語は、悦子が美しい海辺で、海を流れるボートを見つめる所からはじまります。

実は進学校に合格したものの、何をするべきか見失って傷心中。

凪を切って進むボートは、そんな悦子に勇気をくれます。

高校では厳しい担任教師に目をつけられ、せっかく入ろうと思ったボート部は女子部が存在せず。

でも負けません。なけりゃ、作ればいいのです。まさに「がんばっていきまっしょい」。

競技するのに必要な最低限の5人を、何とか確保。しかし何も知らないのは恐いことで、ボートを数メートル運ぶことも出来ず、せっかく海に入っても当然真っ直ぐ進めません。

でも彼女たちは負けません。

最初はバラバラだった動きも徐々に合うようになり、何とか真っ直ぐ進むようになります。

やがて合宿を経て、彼女たちの心もひとつにまとまり、念願の新人戦出場!

しかし結果は・・・


これが前半戦のあらすじです。残りは観ていない人のために触れないでおきましょう。


監督は磯村一路さん。スポコンもの真っ最中の1970年代の終わりに、ロマンポルノ系の映画で監督デビュー。その後約10年はその世界で活躍されます。

1990年代に入ると、折からのビデオブームでポルノ映画は衰退。

ここでひとつの転機が訪れます。

代わりに訪れたレンタルビデオの波に乗り、オリジナルビデオ映画の監督を務めるようになるのです。

そしてもう一つの転機が訪れます。

1994年のJリーグ開幕です。その波に乗り作られたのが「Jリーグを100倍楽しく見る方法!!」

磯村一路さんは、その作品の監督を努めることにより、映画を知らない一般人の間でも一躍有名になります。

「がんばっていきまっしょい」はその3年後に作られた作品であります。

現在の活躍は目覚ましいもので、2003年にはさだまさしさん原作の「解夏」の監督を務め、監督としての地位を不動のものとしました。


この作品の主人公である5人は、撮影当時まだ、役柄と同じ高校生。

主役を務めるのは当時まだ17歳の田中麗奈さん。

初々しさの中にも芯のある演技は、映画観客だけでなく、業界人の間でも話題になり、その後はTV「GTO」や映画「はつ恋」など、多数の作品に出演・主演するに至っています。

脇役の真野きりなさんの演技は秀逸です。

誰かって?きっとあなたも知っているはずですよ。しばらく前に放映されていたTVCM「TOYOTA デュエット」で、あの市原悦子さんと競演し、個性を爆発させています。もちろん映画での活躍も目覚ましく、海外の作品で主役も務めました。

二人とも、今後の活躍に期待せずにはいられない女優と言えるでしょう。


さて私とこの作品の出会いは、ビデオ発売直前の1999年7月。しかし本編を観たのはつい先月のことでした。

そう、手元にサンプルビデオはあったのですが、全く手つかずだったのです。

今思えば、この映画の製作に携わった全ての方に失礼なことをしてしまいました。

これほどまでに、やさしく、勇気を与えられ、泣ける映画だとは思いもしませんでした。

劇場公開当時に出会えなかったことを悔やんで止みません。

しかし悔やむことはもう一つ。

2003年末に、私はバイクで旅に出ました。

目的は、西日本にある3カ所の最南端を巡り、長年の夢であった尾道を散策することでした。いずれ夢の切っ掛けになった映画「さびしんぼう」は取り上げる予定ですが、まだしばらくは他の作品を紹介して行きたいと思います。

話が逸れてしまいましたが、この映画の撮影は愛媛県で行われました。

その中でも特に素晴らしい景色が胸を打つ、ボート小屋のある海岸。

きっと皆さんの脳裏に焼き付いていることでしょう。

実は、その撮影された海岸から僅か数百メートルしか離れていない道路を走っていたのです!

もちろん旅の当時、この映画の内容は全く知りませんでした。

これほどまでに美しい景色を知っていたら、例え100キロ離れていたって訪れたに違いありません。

映画を観なかったことを悔やんで悔やんで仕方ありません。

いつかきっと、必ずその海岸を訪れたいです。

いいえ、きっとその海岸に行きます!


さて映画の内容に話を戻します。

どんなに心が荒んでいても、一生懸命な姿には何よりも心を打たれます。

この映画のほぼラスト。

主題歌に合わせて映し出される5人の必死な姿と、最後に魅せる涙は、きっと一生忘れることの出来ない名シーンでしょう。

このラストのために、1時間45分の前振りがあったと言っても過言はない程です。

勇気をくれるこの映画、観るときっと何かが変わりますよ。


さて前回も触れましたが、7月から鈴木杏さん主演でTVドラマとしてスタートします。

映画は時間の制約上、ボート部の話がメインでしたが、ドラマは原作に書かれているその後の5人の姿も描かれるようです。

今から楽しみで仕方ありません。

それから前回、DVDに付いて触れましたが、現在期間限定で値下げして販売中と言うことが分かりました。この映画を気に入った方、6月末までですので1000円近く安い今の内に是非ご購入下さい。


いつもならここで、次回の予告となるのですが、今回は違います。

個人的なことなのですが、しばらくの間このコラムを休載とします。

長くても7月末までには再開する予定ですので、それまでの間、どうか私のわがままをお許し下さい。

何をするのか?って?

ごめんなさい、今は言えません。再開後も言えないかも知れませんが、いつか必ずこのコラムでお話ししたいと思います。

キーワードは「夢」です。


では、しばらくの間、さようなら。

そして、それでは、また!


1998年日本映画 120分

製作     周防正行

監督・脚本  磯村一路

原作     敷村良子(第4回坊ちゃん文学賞受賞)

音楽     リーチェwithペンギンズ

出演     田中麗奈 清水真実 葵若菜 真野きりな 久積絵夢 松尾政寿 中嶋朋子 白竜 森山良子

2005年5月30日月曜日

サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS その3

「サトラレ」の第3回です。

今回は、音楽、編集、ある特徴、監督について語ろうかと思います。

まずは音楽から。

この映画の音楽は渡辺俊幸さんが作曲されています。渡辺俊幸さんと言えば、最近は誰の目(耳?)にも止まるような活躍をされています。

一番近い所で言えば「愛・地球博」開会式での音楽監督、ちょっと前だとさだまさしさんの映画「解夏」の映画音楽を作曲、大河ドラマ「利家とまつ」やNHKドラマ「大地の子」等々、書き始めたらキリがない程です。

そうそう、このコラムで以前取り上げたさだまさしさんの「長江」も服部克久さんと共に担当されていました。

渡辺俊幸さんの音楽は、オーケストラで演奏されるスケールの大きなもの、と言う印象がありますが、「サトラレ」もその部類に入ります。

日本映画では、余程のベストセラーを原作に持ったりとか、海外でも名の知られた監督作品でもない限り、なかなかオーケストラを使った映画音楽にはお目にかかれません。私の印象から言えば、日本の映画音楽はまだまだ色づけ程度の地位しか与えられていない気がします。

この「サトラレ」では、スケールの大きな音楽が、まさにピッタリとはまっています。恐らく、打ち込んだだけの音楽や小編成の楽器だけでは、この包み込むような感動を造り上げる事は出来なかったでしょう。それくらいに渡辺俊幸さんの音楽は重要な位置を占めています。

しかしこの映画の凄い所は、音楽だけが前面に押し出されているようにも見える(聞こえる)のですが、決してそうではないのです。物語の展開にしっかりとシンクロしているだけではなく、前回のコラムで取り上げた役者の演技、そして切れの良い編集、その他全てが絶妙なバランスを保つように協調しているのです。この辺りのバランスは、現在公開中の「交渉人 真下正義」にも、しっかりと生かされています。(こちらはオーケストラ編成の曲は少ないですが・・・)

これは人を上手く使える監督だけが成せる技である、と言えるでしょう。

この映画を見ていて、あなたは音楽に何かを感じませんでしたか?

有名な映画音楽には良くある事なのですが、「サトラレ」のサントラは今でもTV番組などでひっそりと使われているのです。単体の音楽としても成り立つ、立派な音楽作品である証です。

映画音楽に凝っている人は少ないとは思いますが、凝っていると色々面白いですよ。

TVを見ていて「あっ、これ××だ!」なんて、私にはしょっちゅうです(笑)


ちょっと話が脱線してしまいましたね。

次は編集について語りたいと思います。

編集を担当されているのは、田口拓也さん。私は最近知ったのですが、本広監督とは古い仲だそうです。

再放送はないかも知れませんが、スカパー!!で放送されていた「真下正義チャンネル」のあるコーナーでその辺りの昔話を多々聞けます。「古い仲なのになぜ、監督デビュー作を担当していないのか?」等々。

ここで書けないのが残念です。

さて、音楽でさえあまり目立たない存在の日本映画界にとって、編集者の名前を気にして映画を見る人はごく僅かだと思います。なので私はあえて、田口拓也さんを取り上げたいと思うのです。

日本アカデミー賞で2度、優秀編集賞を受賞されています。最初は山崎貴監督「リターナー」、次は本広監督の「踊る〜2」。どちらも切れのある、無駄のない編集です。

今までの日本映画と言えば、「間」を大切に残した編集が主流を占めていました。アクション作品にもです。これが日本映画臭い理由のひとつだと私は思うのですが、田口拓也さんの編集は、日本映画にはなかったテンポの良さが生きています。無駄は一切無く、妥協のない編集。恐らく現在公開中の「交渉人 真下正義」では、日本アカデミー賞の最優秀編集賞を受賞するでしょう。それくらいに無駄なく、スピード感があり、なのに疲れない、立派な編集を見る事が出来ます。すでに「交渉人〜」をご覧になった方はどう感じましたか?作品が面白かったかどうかは人それぞれだと思いますが、恐らく殆どの人が、2時間強の映画を1時間ちょっとにしか感じなかったでしょう。

それが「編集の成せる技」なのです。いくら素晴らしい撮影や演技があっても、編集に無駄や隙があると、それだけで駄作になってしまいます。それ程に、編集とは大切なものなのです。

以下に田口拓也さんが編集を担当された映画を幾つか記しておきますので、思い出してみて下さい。もちろん内容、ではないですよ。時間がどのように感じられたか?ですよ。

「nin×nin 忍者ハットリくん THE MOVIE」

「恋人はスナイパー 劇場版」

「スペーストラベラーズ」

「サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS」

「メッセンジャー」

ちなみに私は、どの編集が好きかと聞かれたら、「メッセンジャー」と「サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS」です。「恋人はスナイパー 劇場版」は未見です。


次は本広監督の最近の作品に見られるひとつの特徴について。

それは「働く男の美しさ」です。

「(1)踊る大捜査線 THE MOVIE」「(2)サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS」「(3)同2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」「(4)交渉人 真下正義」で、憎らしい程に格好良く描かれています。

映画ではありませんが、2001年にフジテレビで放映されていた「アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜」のパティシエなどもそうですね。

(1)(3)では警察と呼ばれる組織内の様々な部署、(4)では線引き屋等の地下鉄職員やオーケストラの指揮者、そして(2)では警護局の局員達や、医者。

もちろん美しさを描くためには、より本物らしくなければなりません。こだわって造っているからこそ、リアルな情熱が伝わってくるのです。

「サトラレ」では病院内の殆どはセットだったのですが、実際の医療機器が使われたそうです。

まさに「こだわり」が生んだ「らしさ」ですね。


最後に本広監督について、ほんの少しだけ語りたいと思います。

(今までにだいぶ語ってしまったので・・・)

TVドラマ等で活躍後、「7月7日、晴れ」で映画監督デビュー。2005年5月現在7本の映画が劇場公開され、どれもがヒット。現在8本目の上映が8月に控えています。

監督の描く映画には共通している事があります。

「観ている者を楽しませる」工夫と苦労を惜しまない事です。もしかしたら全く苦しまずに楽しんで造っているのでは(そんな事は絶対に有り得ないと思うのですが・・・)と思える程に、エンターテイメントなのです。そしてその形は、どんどん素晴らしく研ぎ澄まされ、現在公開中の「交渉人 真下正義」ではひとつの完成系に達したとも言えるでしょう。

新しく本広映画に出会った人にとっては立派なパニック映画であるのに、古くからのファンにも決して飽きさせない細かなこだわりを随所に散りばめ、最後には満足させてしまう。

とにかく、素晴らしい映画を生み出す日本映画界の貴重な存在です。

次の作品が楽しみです。そしてそのさらに次は、一体何をしてくれるのでしょう?

期待が決して消える事はありません。

私はそれ程に、映画監督 本広克行 に魅せられてしまいました。


あなたには、そこまで好きになってしまった映画監督はいますか?


さて本広監督作品の中でも「踊る〜」の1・2はコラムでは取り上げません。

理由は幾つか有るのですが、この2作品に関しては私よりも遙かに愛している人が沢山いるからです。私が語らずとも、様々な評価を見る事が出来るでしょう。

ですから、取り上げない事をどうかご了承下さい。

その代わり「交渉人 真下正義」のDVDが発売された時には、熱く熱く語らせて頂きます。

もちろん「踊るシリーズ」としてではなく、パニック映画として、ですよ。


書くのが遅くなってしまいましたが、本広監督は四国、香川県の出身です。

最近、四国は映画の舞台として脚光を浴びています。

「世界の中心で愛をさけぶ」などもいずれコラムで取り上げたいのですが、これも四国です。

次回のコラムは、そんな四国でも愛媛県が舞台になった青春映画(古くさい表現ですが、これがピッタリとはまるのです!)、

磯村一路監督作品「がんばっていきまっしょい」を取り上げます。

作品自体、あまり有名ではありませんが根強いファンに愛され、監督としてのキャリアも長いだけあって、独特の空気を感じさせる立派な映画です。そうそう、さだまさしさんの「解夏」の監督もされています。

レンタルを探すのはかなり厳しいかも知れませんが、実はのこの映画7月よりTVの連続ドラマとしてスタートするのです。

おそらく近日中に劇場版もTV放映される事でしょう。

ちなみにDVDも発売されていますが、期間限定品だったようです。現在入手可能かどうかは分かりません。

でもTVの人気次第では、きっとまた発売されるはずですので、いつか観る機会もある事でしょう。


それでは、また!


2001年日本映画 130分

監督   本広克行

脚本   戸田山雅司

音楽   渡辺俊幸

主題歌 「LOST CHILD」 藤原ヒロシ+大沢伸一 feat.クリスタル・ケイ

出演   安藤政信 鈴木京香 寺尾あきら 八千草薫 松茂豊 内山理名

2005年5月16日月曜日

サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS その2

「サトラレ」の第2回です。

この映画は2001年3月、桜の季節に劇場公開となりました。

映画のエンドロールに名前の載っているスタッフの方から聞いた(正確に言うとメールで)話しなのですが、この季節に公開する事は当初から決まっていたそうで、そのスケジュールに合わせて様々な作業が進んでいったそうです。

はじめてこの映画をスクリーンで観たときに、その年の興行成績ベスト上位に食い込める作品と感じました。もっと宣伝して、口コミで素晴らしさを伝えれば、それも可能だったかもしれません。

例えば医療関係者、それも看護士や介護士だけを集めた試写会とか、身内の介護を経験、または現在進行中の方だけを集めた試写会とか。訴えたい人に絞った試写会などを経て劇場公開されれば、今とは違った評価が得られたかも知れません。

実際そのスタッフの方は、公開までもっと時間があったら・・・と言っておられました。

残念ながら映画はそこそこのヒット止まり。でも上映館を変えての約3ヶ月近くの興行は立派だと思います。

その後、ビデオレンタルを通じ面白さが口コミで拡がりロングランヒット、ついには別の役者と監督ではありますがTVドラマ化されるまでに至りました。

今になって考えると、桜の季節に公開できたことは、映画の中の時間を実際の時間と合わせて体感するためには、最適だったのかも知れません。

あのラストシーンは、忘れられない名シーンですから。

ここで知って頂きたいのは、劇場公開にも有る程度の運不運があるという事です。どれだけ素晴らしい作品でも、その次にかかる映画が超大作で有れば終わってしまうのです。慌ただしく劇場公開まで辿り着いてしまいましたが、その点ではこの「サトラレ」は運の良かった作品なのかも知れません。


ここからは、前回の予告に沿って話を進めたいと思います。


「サトラレ」の脚本は、戸田山雅司さんと言う方です。

劇場公開作品は、全部で5作品。その内の2作品は、本広監督と手を組んでいます。コラムを毎回読んでいる方は、もう気づかれましたよね。

本広監督デビュー作「7月7日、晴れ」に参加されているのです。

他にもTVドラマで多数の脚本を書かれています。

当初はフジテレビのドラマが多かったようですが、大河ドラマなど、今現在は他局でも面白い作品を書かれています。

観た中で言うと「ロッカーの花子さん」などは、突拍子もない設定を上手くまとめて、面白おかしく、時にシリアスに、きっちりと仕上げた作品です。

NHKで何度か再放送がされた事からも、面白かったと感じる視聴者が多かったと言えるでしょう。

映画の中では、いずれこのコラムで取り上げたいのですが「メッセンジャー」も非常に面白い作品です。

どうです?

たまには脚本家にこだわって映画を観てみるというのは?

私のコラムを読まれる方は、当然ネットで簡単に調べが付く環境ですので、探しやすいと言うわけです。

気に入った作品を見つけたら、是非一度スタッフを調べてみて下さい。

新たな出会いがあるかも知れませんよ。


次は役者です。

この映画には魅力的な役者が多数出演しています。出演シーンが少なくとも、存在感があることから「魅力的」そう言えるでしょう。

その中で、私は二人の役者に焦点を当てたいと思います。

まず一人目は、八千草薫さんです。

1931年1月生まれなので、現在74歳。とても淑やかで、歳を感じさせないしっかりとした姿勢。

おばあさん、と言うよりも、おばあさま、という言葉がピッタリと当てはまる、日本映画界の貴重な存在です。

1950年代はかなりの数の映画に出演されていました。しかし70〜90年代の出演作品は少なく、とくに90年代は引退されてしまったのでは?と勘違いしてしまうほどに少なかったのですが、2000年以降は、TV・映画共に積極的に出演されています。

余談ですが本広監督の最新作「交渉人 真下正義」にも、ほんの数シーンだけ出演されています。もちろん充分なくらいの存在感を魅せてくれます。

しかしそれだけ多数の作品に出演され、経験が豊富であるはずの役者にも、苦労はあるのです。

「サトラレ」のDVDに収録されているメイキングを観て頂くと、八千草さんがいかにこの映画で苦労をされたかが分かります。

そう、「突拍子もない設定」です。今まで経験をした事のない演技を要求されたのではないでしょうか?

監督のフォローと、自身の苦労の甲斐もあり、後半30分は特に素晴らしい演技をされています。

私のお気に入りのシーンをひとつだけ書かせて下さい。

それは・・・

術後の報告です。「大丈夫だよ」と孫に言われて納得する間もなく、聞こえてくる心の声に思わずしてしまう複雑な表情。その潤んだ瞳に、何十回と観た今でも涙が溢れます。


次は寺尾あきらさん。

年配の方には宇野重吉の息子として知られ、私たちの世代としては大ヒットを飛ばした歌手として有名です。

かつて石原軍団の一員でもありアクション色が強く感じられていましたが、今は宇野重吉さんを越えるほどの存在感を魅せつける、やはり日本映画界の貴重な存在です。

映画の主役である里見健一の上司役で、口数が少ない設定ですが、ひとつひとつの台詞に大きな意味が隠れていて、その意味を演技でさらに深いものとして表現している所などは、他の役者には決して真似出来ないでしょう。

先程書いた八千草さんの演技に似たものがあるのですが、やはり表情と瞳に涙が溢れます。

詳しいシーンはあえて書きませんが、推理してみて下さい。

ヒントは、スローモーションです。

この映画で、スローモーションになる場所は必ず主人公の心の声が強い時です。

それを頭の隅に置いて、是非探してみて下さい。


本広監督の映画には、幾つかの特徴があります。

全ての作品ではありませんが、例えば「舞台」が関わっている所などは、監督の映画を楽しむ上で重要なポイントかも知れません。

泣きと笑いの両立などは、舞台に似ているとも言えるでしょう。

「スペーストラベラーズ」や次回作「サマー・タイムマシン・ブルース」等は原作が舞台です。

「七月七日、晴れ」や「サトラレ」の脚本家戸田山雅司さんは、舞台出身です。

他にも幾つかの特徴があるのですが、私が一番気になっているのはカメラワークです。

非常に良く動き回るのです。

「サトラレ」の中でも、他の作品なら一カ所からじっと撮影して訴えるシーンでも、これでもかと言う程に動くのです。

忙しいシーンなら分かるのですが、感動を与えるシーンでも「ぐるぐる回る」のです。

しかし不思議な事に、違和感がない。むしろ、感動に輪を掛けるのです。

なぜでしょう?残念ながら私には分かりません。

偉そうに色々と書いている私ですが、もっともっと勉強しなければいけませんね。


次に・・・と続きを書きたいのですが、今回はちょっと書きすぎてしまいました。

続きはまた今度、と言う事で。

なるべく早く書きたいのですが、また1週間後ぐらいになってしまうかも知れませんね。

何せ、忙しいもので・・・


それでは、また!

2005年5月7日土曜日

サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS その1

あなたは祖父母の温もりを知っていますか?

そして祖父母は、今も健在ですか?


私は、上記がyes、下記はnoです。

なぜこんな質問をしたかというと、この映画「サトラレ」を語る上で、恐らく一番重要な意味を持っているからです。

その理由は後ほど語るとして・・・


今回のコラムはいつにも増して力を入れています。

そしてなるべく多くの事柄を伝えたいと思うので、いくつかの区切りをつけて進めたいと思います。

役者や、製作に携わる裏方の仕事、映画を盛り上げる上での重要な位置を占める音楽、そしてこの人がいなければ何もまとまらない監督、と「映画」を構成する幾つもの要素を、それぞれに焦点を当てて進めていきます。

1本のコラムでまとめ上げる事は素人の私にとっては無理に近いので、初めての事ですが、3回ほどに分けての連載となります事をご了承下さい。

まずは、どこに焦点を当てるかという事を知って頂きたいので、主立った区切りをここに記します。


突拍子もない設定


脚本 戸田山雅司

役者 八千草薫

   寺尾あきら


編集 田口拓也

撮影など

音楽 渡辺俊幸


働く男達の美しさ

監督 本広克行


もしかすると書いている内に伝えたい事が増えるかも知れません。

上記以外の区切りがあった場合は、そう言う事とご了承下さいませ。


まず今回はこの映画の主軸である「突拍子もない設定」から始めます。


喋ってもいないのに、人の声が聞こえる。

空耳を疑いますよね?

で、次に思う事は自分は超能力者ではないか?と。

空耳は有り得る事かも知れませんが、超能力というのは、ごく一般的な生活をしている私たちにはあまり縁がないというか、非現実的です。

しかしこの映画は、その非現実的な事象を、ひとつの病気の様なものとして設定しています。

「乖離性意志伝搬過剰障害」

もっともらしい名前ですが、もちろんこんな病気は存在しません。正確に言うと思っている事が他人に筒抜けに伝わってしまう人間の総称という設定ですが、分かりやすく病気という呼び方をさせて頂く事をご了承下さい。

思っている事が筒抜けであると言う事は、裏を返せば、聞きたくない事が否が応でも聞こえてしまうという事です。

映画を観る前にこの話を聞いてしまうと、「ちょっと観たくないな」と尻込みをしてしまうでしょうが、実際にご覧になってからこのコラムを読まれた方は、どう感じられましたか?

おそらく、それ程不自然には思わなかったでしょう。

この映画は、「そんな有り得ない現実」を、観ている者に不自然と感じさせない説得力と様々なテクニックを兼ね備えているのです。

もちろんこれには、どれかひとつの才能が突出してしまうとバランスを崩してその才能のみに目が行ってしまうので、難しい作業と言えるでしょう。

この辺りは以前のコラムでお話しした通り、監督の力量である、と私は思っています。

小さな嘘をきちんと積み重ねて描かれた「有り得ない現実」に、説得力を帯びるのは、良く書けた脚本であり、素晴らしい演技であり、研ぎ澄まされたカメラワークであり、無駄のない編集の賜物であるのです。

それぞれがそれぞれに最大限のテクニックを駆使した結果を、監督が上手くまとめ上げ(正確に言うと監督がそうし向ける)生まれたのが、この「サトラレ」と言う作品であるのです。

恐らく、他の監督には同じ空気を持った作品を造る事は不可能かと思います。

私が、映画監督「本広克行」を好きな理由は、そんな所にもあるのです。


さて第一回目はここで終了となります。

映画を観たあとの余韻が消えない内に続きを書く予定ではありますが、今回はちょっと更新が遅れるかも知れません。


実は今日これから、本広克行監督最新作「交渉人 真下正義」を観に行くからです。

映画館での映画断ちをしている私にとって、実に2年5ヶ月ぶりのスクリーンです。

そして自信が撮影を間近に観ているため、期待は膨らむばかりです。

いずれこの「交渉人 真下正義」のコラムも書きたいと思いますが、それはDVDが発売されるまでお待ち下さい。


なるべくすぐに第二回目のコラムを書くよう頑張りますが、しばしお待ち下さいませ。


それでは、また。

2005年4月21日木曜日

7月7日、晴れ

本広監督を語る前に、まずこの映画のあらすじを紹介したいと思います。

そしてなるべくこだわってコラムを書きたいので、今回はかなりのネタバレになっています。

もしご覧になっていない方がいらっしゃいましたら、是非、本作品をご覧になった上、この先の文章をお読み下さい。

よろしくお願い致します。


この映画は、「日常と非日常」が出会った時、何が起こるか?を描いています。

「日常」は主人公である山部健太、「非日常」は世界的トップスターであるもうひとりの主人公望月ひなた。

物語は、そんな二人が本来なら人間には「日常」であるべき場所、忙しい現代では「非日常」である、自然の中で偶然出会う所から始まります。

「非日常」な世界で働き、「日常」を失いつつある望月ひなたにとって、自分を知らない男、山部健太との出会いは驚くほどに新鮮。名前も知らない間柄なのに、興味半分で、ひなたはデートの約束を取り付けます。

「電話して」と。

突然の告白に訳の分からない健太はキャンプ仲間に話しますが、取り合ってくれません。

しかし健太は気づくのです。

帰りの道路で偶然見つけた看板。そこに彼女がいたのです。

冷やかし半分の仲間たちに押されながらも電話する健太。当然、夢のような出来事が起こるはずもない、と誰もが思っていました。

でもひなたの返事は違いました。

こうして二人の初デートが始まります。

ひなたに取っては「日常」である、リムジンでの出迎えや、貸し切り映画館、貸し切りレストランは、健太にとっては「非日常」。全てが初体験で、緊張の連続。

些細な誤解もありましたが、二人はすっかり意気投合します。

「今度は俺の番」と健太の誘ったデートは、ちょっとしたトラブルが起こりますが、これがまたひなたにとっては新鮮。二人の距離は一気に近づきます。

別れ際健太は、七夕生まれなのに天の川を見た事のないひなたのために、キャンプに誘います。

キャンプ仲間たちの支えと最高の演出で、健太とひなたは、人口の灯りひとつ無い闇の中、無事に天の川を見る事が出来ました。そしてひなたは気づきます。当たり前にありふれている夜空、「日常」の素晴らしさを。

健太の「来年の七月七日、一緒に天の川を見よう」と言う約束を断る理由は、どこにもありませんでした。

キスもない二人ですが、すっかり心はひかれ逢うようになっていたのです。

しかしその二人に芽生えた小さな恋心と、以前の「ちょっとしたトラブル」が二人の運命を狂わせていきます。

果たして健太とひなたは、同じ空の下、天の川を見る事が出来るのでしょうか?


「七月七日、晴れ」は本広克行監督にとって初監督作品でありますが、以前からテレビの演出等で活躍され、その仕上がりには定評がありました。

私が思う監督の一番素晴らしいところは、「泣きと笑いの両立」です。

残念ながら、この映画の中ではまだその手法は確立されてはいません。しかし「泣き」へのこだわりがひしひしと感じられるラストには、涙が止まりません。

もちろんその涙は、素晴らしい脚本であったり、映像にマッチした音楽であったり、その他の様々な要素が絡み合って生まれたものでもあります。しかし絡み合うためには、総合主任である監督の力が一番重要と、私は思うのです。

この映画のラストは、まさに「非日常」であるラジオの中のひなたが、「日常」であるリスナーの心を動かし、「非日常」の奇跡を起こします。

この辺りの対比が、最初からしっかりと描かれているからこそ、涙を誘うのではないでしょうか?

あなたはこのラストをどう感じましたか?

そんな事有り得ない!と感じるようでしたら、それはきっと映画にのめり込めていないという証拠だと思います。

健太とひなたの一見ぎこちなくさえ感じる会話の場面などが気になるのかも知れませんが、その場面は作品の感動を盛り上げるための大事な伏線であったりしますので、それはもう仕方のない事です。

それに映画の感想は、「百人百様」なのですから。だから前回のコラムの最後に書いた私の問いかけ、同じ感動を分かち合うというのは無理かも知れません。

でもこの作品に関しては、様々な人からある一定の評価があります。

もちろん感動して泣いた、と言うのが最上級の評価ですが、こんな恋に憧れていた、とか、昔聞いたラジオ番組の想い出がよみがえって懐かしかった、とか。人それぞれの心に訴えているのは確かなのです。

それだけに、ある意味での名作と言えるのではないでしょうか?


1980年代後半から1990年代後半に掛けて、フジテレビは沢山のヒット映画を生み出してきました。

テレビというメディアでの大々的な紹介とCMを駆使し、邦画を引っ張ってきました、今もその流れは続いています。

「踊る大捜査線」だったり、「ローレライ」だったり、と。

この「七月七日、晴れ」もその流れのひとつです。

しかし他のどの作品とも違うのは、当時この言葉は使いませんでしたが、映像と音楽の見事な「コラボレーション」です。

素晴らしい演技をした二人の主人公の表情を、音楽で更に光りあるものとするその仕事は、未だに上をいく作品がないほどと言っても過言ではないでしょう。

私は、そろそろその上をいく作品が登場してもおかしくないと思っています。

頭打ちの音楽業界と、沢山の邦画の中で違いを打ち出していかなければならない映画業界が、そろそろ「コラボレーション」を起こす時ではないでしょうか?

そう、ふたつが出会った時、新たな感動が生まれるのです。

健太とひなたの「奇跡」のように・・・


さて今回はあまり本広監督の素晴らしさを書けませんでした。しかしそれには意味があります。

次回お贈りする「サトラレ」で、今回中途半端だった説明や、書ききれなかった素晴らしさを語るからです。

その監督それぞれの「色」を感じて頂くには、やはりひとつの作品を見ただけでは無理がありますし。

どうかご了承下さい。


それでは、また!


1996年日本映画 109分

監督   本広克行

脚本   戸田山雅司

音楽監督 中村正人

音楽   DreamsComeTrue

出演   観月ありさ 萩原聖人 田中律子 榊原利彦 うじきつよし taeco きたろう 山本太郎

西村雅彦 大高洋夫 高杉亘 升穀 西岡徳馬(友情出演) 仲谷昇 伊武雅刀

2005年4月13日水曜日

サウンド・オブ・ミュージック

今から40年前の作品、いかがでしたか?

私は、それこそ20年振りくらいにこの作品を見たわけですが、これほどまでに感動出来る映画だったとは思ってもいませんでした。20年前の私と言えばまだ高校生。子供の立場で物事を見ていたわけで、今の私には想像も付かなかったほどに子供だったということです。

私は未婚で、もちろん子供もいませんが、少しは親の立場が分かってきたようです。

とあるシーンで涙していまいました。

そのシーンとは・・・

規律正しく、厳しいトラップ大佐が、部屋の奥から流れるように聞こえてきた子供たちの歌声に、誘われるように家の中に入っていき、そして心のままに歌うシーン。

歌の後の、家族の抱擁。

泣けました。まさか久しぶりに見た映画で、ここまで泣かされるとは思ってもいなかったわけで・・・

そして名作というのは、時が経っても名作である、と思い知らされました。

今回コラムを書く準備にこの作品を改めて見たのですが、当初、古い作品だから間延びして飽きるのでは?などと、勧めている立場としては考えては行けない事を心配していました。これは懺悔しなければなりません。

その心配は皆無。飽きるどころか、映像と、歌と、音楽に惹かれっぱなしで、あっという間の3時間でした。

DVDという存在も忘れてはなりません。DVD化するために様々な修復が施されているようですが、時を感じさせない理由はそこにもあるのかも知れません。


さて前回のコラムで、この作品を実話と紹介しました。実際にあった出来事のミュージカル化を経て、映画になったのですが、前回の定義からすると、これは実話と呼んではいけないのかもしれません。

実際の話からかなり脚色もされているでしょうし、何より、ミュージカル映画として造られたわけですから。

私は未読なのですが、原作本も出版されていて、もちろん日本語訳もされています。

もし読書がお好きなようでしたら、是非読んでみて下さい。

映画の中に多々、実際にあった出来事を折り込んであるようです。


ネタ切れ気味のハリウッドでは、リメイク花盛りです。

アメリカものではもの足りずに、最近では日本映画にも手を出しています。

それはそれで嬉しい事ですが、元の映画を知っている立場としては複雑なものもある、と言う事を映画製作者にも知って欲しいと思います。もちろん、それが前提で造られているとは思いますが、あくまでもオリジナルを大切にして欲しい、と、一映画ファンとしては願うばかりです。

その点この「サウンド・オブ・ミュージック」は心配の必要はないかも知れませんね。

この作品を越えるリメイクは、絶対に不可能でしょうし、第一、存在の大きさに誰も手をつけられないようですから。


実話の映画化が3作品続きましたが、いかがでしたでしょうか?

まだまだ他にも実話映画の素晴らしい作品があるのですが、それはその内紹介する事とします。


さて次回ですが、映画監督にこだわったコラムを書こうかと思います。

今回こだわる監督は、私のお気に入りの監督BEST3の内のひとり、本広克行監督です。

ご存じでしょうが、あの「踊る大捜査線」シリーズで有名です。

しかし私にはそれを上回る作品があるのです。

ひとつは以前コラムで紹介した「スペーストラベラーズ」。

もう一つは映画監督デビュー作品である「七月七日、晴れ。」。

そして私のお気に入り邦画Best3に入る傑作「サトラレ」です。

次回のコラムは「七月七日、晴れ。」を、そしてその次は「サトラレ」を書く予定です。

どちらも素晴らしい作品ですので、是非ご覧になってからこのコラムをお読み下さい。

前作品は版権の関係でビデオのみの発売、後作品はレンタル用としてはビデオ、販売用としてはDVDがリリースされています。近所のビデオ店を探してみて下さい。レンタルとしては基本在庫ですので、必ず見つかるでしょう。

見たあなたが感動して、同じ気持ちを共有できることを願って・・・


それでは、また。


1964年アメリカ映画 175分

製作・監督 ロバート・ワイズ

作曲    リチャード・ロジャース

作詞    オスカー・ハマースタイン

出演    ジュリー・アンドリュース クリストファー・ブラマー

2005年4月3日日曜日

パーフェクトストーム

「あの時こうしていたら」「あの時やめていたら」

人生にはそんな分岐点が幾つもあります。

この映画は、その分岐点を「後悔」ではなく、「やれるだけやっただろ」「だからこれでいいのさ」と思わせてくれる強さを持っています。

あなたは時々、過去を悔やんでいませんか?

「あの時こうしていれば、こんなに悔やむ事はなかったのに」と、今の苦悩を全て過去のせいにした事はありませんか?

そんな思いを持ってしまいがちな人には、是非この映画を見て頂きたいと思います。

そしてもし勇気づけられたら、この映画の製作に携わった全ての人々、そして「アンドレアゲイル号」の乗組員も救われるでしょう。


この映画は実話映画ではありますが、私にとっては一種の体感映画です。

最新の音響設備の整った映画館で初めて見た時に船酔いを覚えたほどと言えば、分かって頂けるでしょう。

そして今回改めてDVDで見直したのも、画面こそ普通サイズのTVですが、音響はドルビーデジタル。映画館での音響にかなり近い環境で見る事が出来ました。

やはり後半は、すざましさを体感出来ました。

このすざましさを演出しているのが、最新の音響と最新のCGです。

その両方なしには、この映画の完成は有り得なかったと言えるでしょう。

言い換えれば、この事件が起きた1991年直後に映画にしていたら、この迫力は作り出せなかったと言う事です。

まさに、「時代が生んだ体感映画」と呼べます。

さてここで監督にも触れなければなりません。

ウォルフガング・ペーターゼンと言えば、作る映画の殆どが代表作と言えるほどの監督です。

古くは「Uボート」「ネバーエンディング・ストーリー」。ハリウッド進出後には「アウトブレイク」「エアフォースワン」、最近では「トロイ」等、皆さんがご存じの作品ばかりです。

そして殆どの作品に言える事は、特殊効果を上手く見方に取り込んで、通常は体験し得ない現実を見せ、体感させてくれるという事です。

この「パーフェクトストーム」は、その代表とも言える仕上がりであると思います。

ただ不満も残ります。あまりにもリアルに嵐を体感させてしまったが為に、乗組員たちの友情やそれを支えた家族たちのドラマが霞んでしまった事。観る人によって評価が両極端に分かれるのは、そんなところに原因があるのでは、と私は思います。

でも、ここでもう一度思い出して欲しいのです。

最後までご覧頂ければ分かるのですが、「アンドレアゲイル号」の乗組員は、全て行方不明のまま。もちろん生きているはずはないでしょうから全員が死んでしまったと言えます。

だからこそ、この映画の大半は、「実話」であれ「事実」ではないのです。

原作者は、この物語を書くに当たってグロースターと言う街に長く滞在し、生前親好のあった人や、元乗組員等、綿密な商材をした上で書き上げています。だから推測ではありますが、殆どが「実際にこうしていたであろう」行動なのです。

映画ならではの特殊な演出などで実話を汚していない、言い換えれば「嵐のリアルさ」に全力を注ぎ、体感以外はあくまでも観る者の心に任せている、と言えるのです。


どうでしょうか?実話映画の奥深さを、前回今回のコラムで少し分かって頂けたでしょうか?

そして、もしこの映画で感動して頂ければ幸いです。

何よりこの映画は、「男のロマンと美学」を描いているのですから。


2作品実話映画が続きましたが、もう一本だけお付き合い下さい。

次回のコラムは、実話映画の代表作であり、ミュージカル映画の最高峰、そして映画史に残る名作、

「サウンド・オブ・ミュージック」です。

現在この作品はBEST HIT50と言うシリーズで発売され、¥999と言う低価格で買う事が出来ます。

ご覧になった事がない、と言う方はほとんど無いとは思いますが、購入して損のない名作ですので、是非3時間ほど時間を空けてご覧になって下さい。もし昔TVやビデオでご覧になった方も、DVDの画質の良さを改めて感じて、新たな感動を味わっていただけることでしょう。


それでは、また。


2000年アメリカ映画 130分

監督 ウォルフガング・ペーターゼン

原作 セバスチャン・ユンガー

音楽 ジェームズ・ホーナー

出演 ジョージ・クルーニー マーク・ウォールバーグ ダイアン・レイン