2009年6月30日火曜日

バウンス ko GALS

なんとかギリギリ6月中に更新です(笑)と言っても、これを読まれる方は7月だと思いますが・・・


まずは最初に訂正です。

以前予告で記したタイトルを「バウンス KO GALS」と表記していましたが、正確には「バウンス ko GALS」です。なぜ一部だけ小文字なのかは不明なのですが、そう表記するには理由があるはずなので、ここに訂正させていただきます。

それから前回「なるべくネタバレにならないように」と書いたのですが、この作品の魅力を語る上で物語の核心に触れないのは難しいので、今回のコラムは前半にあらすじ、後半はネタバレを含みつつこの作品の良さを語って行きたいと思います。


ではまず、あらすじを紹介しましょう。


あなたは、たった18時間で一生ものの友情って生まれると思いますか?


答えは"YES"です。

そしてこの一文が、作品の全てを表しています。


高校の体育館になぜかチャイナ服とミリタリージャケットを羽織った女子高生の姿。彼女の名前はRaku-chan(佐藤康恵)。彼女は友達に援助交際を紹介はするが、決して「売り」には手を出さない。そして友達への気前の良さが魅力。

新幹線の車内で地図とパスポートを眺める女子高生Lisa(岡元夕紀子)。留学先のニューヨークでの資金を少しでも増やそうと、駅で降り渋谷の街中を歩く。東京には不慣れな様子が、歩く姿や仕草に見て取れる。

Maru(矢沢心)は親友のRaku-chanとショッピング。そこで「売り」の待ち合わせの男と会う。堕胎したばかりだから手伝ってとRaku-chanを誘うが、上手くかわされてしまう。

しがないスカウトマンSap(村上淳)は109前で仲間と止め処ない話をしているが、ひときわ輝く女子高生を見つける。彼女はさっきのLisaだった。Sapはしつこくアタックをかけるも、ガードの固さに撃沈。

ホテルに入ったMaruは早速「売り」を始めようとするが相手が悪かった。彼はデートクラブも手掛けるやり手のやくざ(役所広司)だったのだ。儲けるつもりが逆に脅され、金ばかりか、身分証明書と携帯電話までも取り上げられてしまう。

Sapを振り切ったLisaは裏路地の一角にある店へと入って行く。そこはブルセラショップ。

留学の為にと、それまで縁のなかった世界に足を踏み入れるLisaだったが、店主(桃井かおり)とのやりとりからなんとかお金を手に入れることに成功。しかし欲が湧いてしまった。

Maruは親友のJonko(佐藤仁美)に泣きついていた。Jonkoは自分の経験から、不浄な大人を決して信用せず、一見小生意気だが芯の通った女子高生。

困った仲間は放っておけず、親友の窮地を救う為、単身そのやくざを探しあて身分証明書と携帯電話を取り返しに乗り込んで行く。

再びLisaを見つけたSap。さらに稼ごうとビデオ撮影現場へと向かうLisaを、こっそりと追いかける。

まったく繋がりのないLisa、Raku-chan、Jonkoだったが、運命に吸い寄せられるように惹かれ絡まり合うのだった・・・


序盤の紹介だけなのにどうしてこれだけ長いあらすじになってしまったのかと言うと、実はこの作品、何人もの物語が少しずつそれぞれに絡み合って、最後に「爽やかな感動」と言う化学反応を起こすのです。

一見するとドキュメンタリーのような女子高生の会話(演技に見えないくらいに自然な、集団の会話)や、まるでゲリラ撮影のような(人であふれかえる渋谷の街中で役者に演技をさせることによって、役者以外の人間にさも演技が事実のように見せてその反応を収録してしまう)街中でのシーン、チョットした裏路地に入ると人気のなくなる東京を途中途中に何度も登場させる(公園、ブルセラショップの裏路地、夜のガード下、神社の階段)等、ひとつの物語をじっくりと見せるのではなく、細切れにそれぞれを描き、直球ではなくまるで俯瞰で物事を見ているような感覚から感情移入をさせているのです。

ただ観ていると全くそれを感じさせない、不思議な映画です。これは原田眞人監督の力量なんでしょうね。

見せ方や物語の組み立てだけではありません。演技に関しても素晴らしいものがあります。

主人公3人以外のそれぞれの登場人物は、出演時間こそ短いのですが演技派の役者とその人物の背景をしっかりと見せる作り込みなんです。

いくつかあげると・・・

SapとLisaの会話(27分あたり)。

バブル以前とその後の厳しい世の中、両方を知るSapの台詞「ダテに俺、渋谷で生きてる訳じゃないもん」や「若い頃、勉強とオナニーしかしてないから、遊び方知らないんだよ。なんだよ、ブタブタの親父になってからよ!」「あいつら敵じゃん!!」は短いながらもSapの経験の深さと歪みをしっかりと表現しています。

他にも、やくざとJonkoの会話(38分あたり)。

商売の決着を付けようとしていたやくざに、日本が狂い始めた本質を女子高生の直感で語り、やくざに時代の流れを痛感させてしまうシーンは、この映画の中でも秀逸だと思います。

脚本を読んだ訳ではないのですが、おそらくしっかりとしたリサーチの上で組み上げられた設定なんでしょう。事実、脚本を手掛ける原田眞人監督は、実話や、実際に起こった出来事を元にした映画で、その手腕を発揮しています。

「金融腐食列島 呪縛」(バブル崩壊後の金融業界の内情を暴いた問題作)

「突入せよ!あさま山荘事件」(言わずと知れたTV生中継された篭城事件)

「クライマーズ・ハイ」(日航ジャンボ機墜落事件を取材する記者たちの葛藤を描いた異色作)

この3作品は原田眞人監督の代表作と言っても過言ではないと思います。

余談ですが他にもSF、アクション、ホラー、推理小説の映画化、果てはアイドル映画まで、幅広く手掛けられています。

ひょっとしたら原田眞人監督の作品とは知らずに、ご覧になっているかもしれませんよ。

それから、これを外すわけにはいきません。

Lisaと名誉教授の会話(65分あたり)。

従軍慰安婦の問題を女子高生との会話の中で描くなんて、なかなか考えつかないことだと思います。

戦犯になってしまった為にアメリカへ戻れない名誉教授は罪であるはずの過去を簡単に喋り、その罪の意識のなさに憤慨するLisaの構図。

狂ってしまった日本の常識と言うか、崩れてしまった日本の節操を、上手く表現していると思います。

この名誉教授を演じるのは「河童」で心優しいおじいさんを演じた今福将雄。演技の幅の広さが光っています。

他にも2つほど、「う~ん」と唸ってしまった台詞があるのですが、それは書かないでおきましょう。

実際にこの作品を目にした時に、あなた自身で感じて下さい。


さてこの作品を見ていると、あることを感じさせてくれます。

それは懐かしさのようで、遠い昔を観ているような錯覚です。

たった12年前なのに、なくしてしまったもの(人情味のあるやくざや、人々の純朴さ)。

消えてしまったもの(ポケベル、街中にあふれる公衆電話、ブルセラショップ)。

そして変わらないはずなのに、懐かしさを感じてしまうもの(友情)。

なぜなのでしょうね?

それはきっと、この時代にしか描けなかったものをこの時代に描き、その時代を知る私たちだからこそ知り得る「リアル」なんだと思うのです。

そして大して変化していないはずの日常が、人間の価値観を含め劇的に変化している現れだと思うのです。

物語は架空だから私たち観客が直接経験した訳ではないのですが、不思議と虚構ではなくなるのです。

本当に、うまく時代を描いた作品なんだな、と改めて感じました。

事実、今でこそこの作品を知っている人は少ないのですが、当時は高評価の作品でした。

「第71回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画第6位」と言う実績が、物語っています。

そして、この作品を知る人にとっては、いつまでも心に残る作品なんです。

ネット上で評価を観ていただければ、ご覧になっていない方でも分かると思います。


そうそう、最後に忘れてはいけない大事な感想を。

Lisa、Raku-chan、Jonko。この3人を演じた女優たちの瑞々しい演技がなければ、これほどまでに後味の良い映画にはならなかったでしょうね。

私には、何度観ても泣ける、貴重な貴重な作品です。


短い紹介でしたが、この作品の魅力、上手く伝わったでしょうか?

もし中古ビデオ店等で作品を見つけることが出来、あなたと同じ感動を分かち合えたら幸いです。


さて次回はちょっと変わった企画でお贈りしたいと思います。

今年はあの大スター、石原裕次郎さんの二十三回忌です。

そしてその一環として、幻の作品がTVで放映されます。

ネットで調べたところ過去に一度だけBSで放送された記述を見かけましたが、ビデオもDVDも発売されていないので、幻の作品に偽りはないでしょう。


その作品の名は「富士山頂」


ことし2夜に分けて放送されたTVドラマの元である映画「黒部の太陽」や、以前お贈りした映画「甦える大地」と同じく、戦後の日本を支えた人間の熱意を描いた貴重な作品です。


放送は7月4日夜9時。

これを逃すと次の放送はいつになるか分かりませんから、是非ご覧になって下さい。

私は今回初めて観るのですが、リアルタイムでの石原裕次郎さんを知らない世代の視点で、あれこれ感想を書き記していと思います。

その次にお贈りする作品は・・・以前書かなかった「甦える大地」のあらすじ完全版を、いつか放送されることを願って書こうかと思います。


それでは、また!



1997年日本映画 109分


プロデューサー 鈴木正勝

監督・脚本   原田眞人

撮影監督    阪本善尚

照明      高野和男

録音      中村淳

美術      丸山裕司

音響効果    柴崎憲治

記録      坂本希代子

助監督     竹下昌男

音楽      川崎真弘

編集      阿部浩英

出演      佐藤仁美 佐藤康恵 岡元夕紀子 村上淳 矢沢心 万央里

        海藤れん 遊人 池田裕成 清川均 小堺一機 塩屋俊

        今福将雄 ミッキー・カーチス 桃井かおり 役所広司 他

2009年6月23日火曜日

ブラッド・イン ブラッド・アウト

6月も3分の2を過ぎたと言うのに、ここ鹿嶋はまだ涼しく、曇天を除けばまるで5月初旬のような陽気です。今年もそれほど暑くない夏になるのかなと思ったりしているのですが、全国的に見るとそうでもないんですね。


さて今回お贈りするのは、心奮わされる映画「ブラッド・イン ブラッド・アウト」です。

監督は「愛と青春の旅立ち」「カリブの熱い夜」「ディアボロス」「レイ」等、ジャンルにとらわれない傑作を世に送り出したテイラー・ハックフォード。

公開されたのは1993年。縄張り争いや、刑務所での乱闘・殺人、麻薬がらみのシーンがあるにも関わらず、意外にもディズニー系列配給作品です。

兄弟同然に育った3人の男の、12年に渡り絡み合う絆を描いた物語は、観る者の心を掴んで放しません。

前回簡単に触れたのですが、この作品は日本国内では一度だけDVD化されましたが、現在は廃盤となり新品の入手はほぼ不可能となっています。しかしビデオやDVDでのレンタルは在庫を有する店舗があるので、そちらを利用して、是非ともご覧いただきたい作品です。

ネットでの評価を見ていただければ分かりますが、かなりの高評価で隠れた名作とも言える作品でもあります。


まずはご覧になっていない方の為に、簡単なあらすじを・・・


保護観察処分中、喧嘩をして逃げ出してきた青年ミクロ。

彼は、生まれ故郷のロサンゼルス東部へと戻ってきた。多くのメキシコ系アメリカ人と色とりどりのアートに囲まれたその街に住む母親を頼って来たのだ。だが母は親戚の家にミクロを預けるのだった。

その親戚の家には、兄弟同然に育ったパコがいた。

クルスはパコと共に、父に請求書を届ける為、勤務先の自動車修理工場へ行く。

そこには、やはり兄弟同然に育ったクルスが働いていた。彼は絵の才能に長けていて、その上手さはロサンゼルス一と言っても良い程。

パコは、客から預かっている自動車にミクロ、クルスと共に乗り込み、ドライブに出かけた。

町並みが見える小高い岡の上で語り合う3人。いつも変わらず、街を見つめる松の大木が風に揺れる。

そこへ突然やって来たのは2人の警官。治安の悪いこの地区へ見回りに来たのだった。

パコは焦っていた。彼は保護観察中の身。バレてしまえば、刑務所に収監されてしまう。

ここの警官たちは、肌の色で人間を見る。それを知っているパコはひたすら大人しく振る舞おうと勤めるが、警官は疑いのまなざし。

しかし機転を利かせたクルスのおかげで、なんとかその場から解放されたのだ。


この街には2つの対立するグループが存在した。ひとつはパコとクルスの属するヴァトス。

もう一方は、協定を破り縄張りを荒らすプントス。小競り合いは絶えなかった。

2人と本当の兄弟に成りたがるミクロは、縄張りを荒らすプントスを一人で襲撃し、認められる。彼には、そこまでして認められたい理由があった。

それは、ミクロとクルスと親戚であるにも関わらず、彼の肌は白く、瞳が青かったからだ。

肌の色は、知らないうちに彼のコンプレックスでもあったのだ。


芸術の成績優秀なクルスは終業式に大学への奨学金を得て、家族は鼻高々だった。それはミクロもパコも同じで、その日のパーティーは彼を慕う人々で賑わっていた。

そんな中、クルスは目当ての女性を連れ、夜の街へ繰り出す。

しかしそこで不幸な出来事が・・・そしてその出来事が3人の人生を、修復出来ない程に大きく狂わせるのだった・・・


この作品は12年の出来事を描く為、3時間もあります。紹介したあらすじはだいたい30分程でしょうか。

しかしその長さを微塵も感じさせず、引き込んで行く力があります。回りくどい説明はせずに、常に人間関係をストレートに、そしてその心情を端的に描き切っています。そこがこの作品の最大の魅力でもあるのです。

特筆すべきは3人の生き様。ミクロは肌の違いを克服すべく血を流すことに手を染め、パコは自信のなかった自分を見つめ直す為に海兵隊へ、そしてクルスはその才能を持ち成功への道を突き進んで行くにもかかわらず、身体と心に負った傷を紛らすため麻薬にのめり込んで行きます。

3人それぞれが抱えるプレッシャーに抗う為に選んだ道がやがて互いに深い溝を造って行くと言うその様が、繊細に、かつ大胆に描かれているのです。

ラスト1時間は、観る者に涙さえ流させる程に熱い展開が待ち構えています。


私がこの作品を初めて観たのは、ビデオ発売数ヶ月前。その内容に心動かされ、当時勤めていたレンタル店では仕入れを決めました。そして音楽も気に入り、サウンドトラック盤も購入したのです。

この音楽を書いたのは、ビル・コンティ。映画好きの人にはあまりにも有名な作曲家です。

代表作は「ロッキー」シリーズや「ライトスタッフ」等。監督同様、ジャンルに捕われず様々なジャンルの音楽を紡ぎだしていますが、今回の音楽はまさにラテン系。

しかし音楽の使われ方はしつこくなく、感情の起伏の激しいシーンだけを彩るように緩急をつけていて、決して物語を支配してしまわないのです。ともすれば作品のイメージを変えてしまう程の情熱的なメロディーを、上手く操っているのです。

そのメロディーは、抗えない運命に翻弄される3人の人生のように、時に華やかに、時に悲しく、そして情熱的です。残念ながらサウンドトラック盤に収録されているのはそのスコアの一部ですが、それだけでも聞く価値のある作品だと、私は思います(もちろん映画を気に入っているのが前提ですが・・・)。輸入盤は今でも手に入るので、映画が気に入ったら是非聴いてみて下さい。


さて、ここから先は内容に深く関わるので、まだご覧に成っていない方は、是非ご覧になってからお読みください。


この映画には沢山の人物が登場します。特に刑務所内では覚えきれない程の役者が出演していますが、それだけではありません。実際の服役囚たちが多数出演し、その殺伐とした空気をよりリアルに感じさせることに成功しています。

役者と言えば、刑事になったパコの同僚は、ある有名な映画で印象的な脇役を演じた俳優が演じています。

ちょっと痩せているので分かりづらいかもしれませんが、声を覚えていればきっと分かると思いますよ。

ヒントは「糞まみれ」です(笑)是非是非探してみて下さい。

この映画は内容も素晴らしいのですが、そう言った脇役の役者陣にも恵まれた作品と言えるでしょう。

最近のハリウッド映画で個性的な脇役を演じる役者が、多数出演しているので、探すのも面白いかもしれませんね。


痛みを逃れる為に麻薬に手を染めたクルスは、坂を転げ落ちるように破滅へと向かっていきます。

それを決定づけたのは、幼い弟の死でした。クルスの過ちが、本人ではなく弟を殺してしまうのです。

もう元には戻れない、決定的な事件でした。

親子の縁は切れ、兄弟の絆は壊れ、クルスは身を隠すように消え、益々麻薬に溺れてしまうのでした。

その心の傷がどれだけ深かったのか、それを思うと胸が痛くなります。

しかし、それ以上に苦しんだのはクルスの兄、パコです。

麻薬で身内を失う悲しみを決して誰にも体験させまいと刑事の道を選びますが、本人の苦しみは決して癒えることがありません。そればかりか麻薬に携わった為、人生を狂わせてしまう人々を観るたびに、心の傷は深くえぐられて行きます。おそらくそれは、クルスの痛みを手に取るように感じていたからなのでしょう。


作品の半分近くを占める刑務所内の出来事は、人種差別を感じさせない日本で育った私たち「日本人」には衝撃的と言える内容です。

ミクロが故郷で感じていた人種差別は、結局刑務所内も同じ。塀に囲まれているにも関わらず、その内部はまるで地球の縮図です。

白人たちの組織、黒人たちの組織、ミクロの属する中南米系の組織オンダ、そして女の代わりに求められるがまま己を売る男たち。そしてそれを支配する特権階級とも言える刑務官。それぞれは、対立しつつも共存共栄の道を歩んでいました。

その中でミクロは人生の厳しさと生きる術を学び、認められる為、塀の外と同じように手を血で染めてしまうのです。

その名は「血の証明(ブラッド・イン ブラッド・アウト 血のつながりを得る為に、血を流す)」

しかしオンダの長は、麻薬に手を出さないミクロの心の清らかさを信じ「仮釈放をだまし取るんだ」と諭します。己を認めてくれたオンダの長を信頼するミクロは、その言葉を信じ学校の卒業資格を取り、長い苦労の末、やがて仮釈放が認められます。

人種の違いを克服したかに見えたミクロですが、世の中は「前科」と言う言葉に激しい差別で当たってきます。真っ当に生きようとするのに、それをいとも簡単に阻んでしまうのです。

結局ミクロはその差別と、組織のつながりの為に、また刑務所へと逆戻りしてしまいます。

私が忘れられないのは、パコとミクロの悲しい再会シーン。兄弟のように育ったのに、刑事と強盗と言う相容れない立場に立ってしまい、しかもミクロの片足を奪ってしまいます。

兄のように親しんだパコに裏切られたと感じたミクロは、心が激しく深い溝の中へと落ちて行きます。

血の証明はエスカレートし、血で血を洗い、他の刑務所までも巻き込む事件へと発展してしまうのです。それだけではありません。争いを治める為に戦うことしかないと信じて疑わないミクロは、パコの言葉に従うように見せかけ、その裏ではオンダだけを信じ他の組織を次々とだまし討ちにしていくのです。

それはミクロの限りなく澄んだ青い目が、完全な悪に染まった瞬間でした。

その後に迎えるこの映画で一番のバイオレンスな部分であるはずの暴動シーンは、痛みに麻痺してしまったミクロの心を思うとやりきれない程悲しくてたまりません。

和平の道を選んでくれたと信じていたパコは、ミクロの裏切りに怒りをあらわにします。しかしミクロは、そんなパコの心の痛みさえ、見えなくなってしまったのです。それどころか刑事であるパコを組織に迎え入れようと提案をするのです。正義を信じるパコは、痛感しました。もう昔には戻れない、と。

ラスト5分、麻薬から抜け出すことの出来たクルスは、ミクロの裏切りに傷ついたパコをある場所へと連れて行きます。

そこにあったのは、あの日のままの3人が今も生きる壁画。

2人はその絵の前で涙ながらに、心に残る罪の意識と傷を吐き出し合い、やっと昔のような絆を取り戻すのです。もう後戻りの出来ないミクロを残して・・・


今回、約10年ぶりに「ブラッド・イン ブラッド・アウト」を観たのですが、ある奇跡に恵まれました。

実は私の手元には、当時メーカーから戴いた沢山のサンプルビデオが残っています。しかし長い年月の間に、ほとんどのテープはカビが生え、すでに観ることが出来なくなっています。

「ブラッド・イン ブラッド・アウト」を観る為にどこかのレンタル会員になるしかないのかなぁ・・・と覚悟していたのですが、探してみるとなんと奇跡的にカビずに残っていたではないですか!まるで私が探すのを待っていたかのように・・・他のテープはほとんどダメになっていたので、これはまさに奇跡としか言いようがありません。ひょっとすると、もう一度この作品を観る運命だったのかも知れません。

そして改めて、この作品の良さを痛感したのでした。

でも出来ることならTVサイズのビデオではなく、ワイドスクリーンサイズのDVDを皆様には観ていただきたいと思います。私自身も、そのサイズでもう一度観て、さらに良さを発見したいと思っているのですが・・・こればかりはメーカーの決断を期待するしかないですね。


さて次回も予告通りに「バウンス KO GALS」をお贈りしたいと思います。

こちらの作品は、レンタルの入手も難しいので、なるべくネタバレにならないよう、紹介したいと思います。


それでは、また!



1993年アメリカ作品  180分


製作総指揮     ジミー・サンティアゴ・パカ ストラットン・レオポルド

製作        テイラー・ハックフォード ジュリー・ガーシュイン

監督        テイラー・ハックフォード

ストーリー     ロス・トーマス

脚本        ジミー・サンティアゴ・パカ ジェレミー・アイアコーン フロイド・マトラックス

オリジナル・スコア ビル・コンティ

出演        ダミアン・チャパ ベンジャミン・ブラッド ジェシー・ボレゴ ビクター・リバース デルロイ・リンド トム・トーレス カルロス・カラスコ テディ・ウィルソン レイモンド・クルウズ ヴァレンテ・ロドリゲス ラニー・フラハティ ビリー・ボブ・ソーントン ジェフリー・リヴァス 他

2009年6月2日火曜日

スター・トレック(2009)

久しぶりに、興奮するSF映画に出会った。


これが「スター・トレック」を観終えた後の感想です。

本当に凄い映画でした。

どうやら新作が撮られているらしい、と言う噂を聞いた時からずっと楽しみに待ち続けていて、その期待はかなり大きくなっていたのですが、それをいとも簡単に凌駕する程の面白さでした。

そう言う意味でも、久しぶりに凄い映画に出たったな、と思わずにはいられませんでした。


今回はネタバレしないように「紹介編」としてお贈りしようかと思ったのですが、どうやら内容に触れずにはいられないようなので、前半は紹介、後半はネタバレとして書き進めたいと思います。


まずは簡単なあらすじです。


時は西暦2233年。連邦の宇宙船「USSケルビン」は未知の巨大宇宙船の攻撃を受ける。

艦長はその相手との交渉の為敵船へと乗り込むが、交渉するまでもなく抹殺。

艦長亡き後、引き継いだのはジョージ・カーク。

一方的に不利な状況から、彼は撤退を判断。乗組員は小型シャトルに次々と乗り込むが、カークは自動航行装置が故障したUSSケルビンに一人残り、敵への体当たりを敢行した。僅か13分だけの艦長であった・・・

そして、その最中にシャトル内で生まれたのがジョージの息子、ジェームズ・タイベリアス・カーク。後に数々の伝説を作った男だ。


時は経ち、カークは少年になっていた。

知り合いのビンテージカーを勝手に乗り回す等、自暴自棄な生活は父親のぬくもりを知らなかった為だろうか。


一方、地球と同盟関係であるバルカン星では、その血に悩む少年がいた。

彼の名はスポック。後にカークと共に数々の困難を乗り越えた、もうひとりの伝説。

彼は純粋なバルカン人ではなかった。母が地球人だったからだ。

その血の為に同級生たちからはからかわれ、怒りを露にしないバルカン人とは違い、感情に任せて殴り掛かるのであった。

しかし彼はバルカン人として生きることを選ぶ・・・


やがて二人は運命に導かれるように出会うこととなる。

惑星連邦宇宙艦隊の士官スポックと、士官候補生のカーク。論理的行動を重んずるスポックにとって、感情を露にし、掟破りの行動をするカークは厄介な存在だった。

テストで不正を行ったカークと、そのテストを造ったスポックの議論がアカデミー内で白熱する中、バルカン星からの救難信号を受け、候補生たちは士官たちと共にバルカン星へ向こうこととなった。

その中の一隻、新造艦「USSエンタープライズ」。謹慎の為、参加することが出来ないカークを救ったのは友人のマッコイ。彼の機転で、カークも乗り込むことが出来たのだ。

その救難信号を不審に思ったカークは、司令室へと一目散に走って行く。

「これは、罠だ!」


果たしてカークたちの運命は?そして父の命を奪った巨大宇宙船の正体とは?


実は私、オープニングの約15分でうかつにも涙がこぼれてしまいました。

「これから起こる数々の冒険は、こんな悲劇から始まったのか・・・」と思うと、ポロポロと涙がこぼれてきたんです。そしてふと感じました。

「スター・トレック」シリーズは、もうSFの枠を超えている、と。

私たちが目指すべき、夢のある未来の姿を描いた「希望のドラマ」なんだと。

それでいて、今回の「スター・トレック」は今までのシリーズにはなかった超弩級のアクションをふんだんに取り入れ、息をもつかせぬ展開を次々に用意しています。

126分の上映時間中、とにかく一切飽きさせないんです。体感は90分くらい、と言える程に濃縮されています。

オリジナルを知っていないと面白くないのでは?と言う疑問を持たれる方も多いと思いますが、その心配は全くないと言っても良いでしょう。何の知識がなくても、分かりやすく、しっかりと、丁寧に描かれているので、存分に楽しめるはずです。

それでいて、過去のシリーズを知っている人へのサービスも忘れず、そこここにオマージュや笑いが散りばめられているので、ファンにとっても何度観ても楽しい作品に仕上がっています。

ここで色々書くよりも、詳しくは観ていただくのが一番なのですが、とにかくこの迫力は映画館で味わうべきものだと、私は思います。


さて、ここから先はネタバレを含めた紹介編となりますので、まだご覧になっていない方は是非映画館でご覧になってからもう一度お越し下さいませ。


ご覧になったみなさま、この「スター・トレック」どこが気に入りました?

私にはいくつもあって簡単には言い表せないんです。友人には「とにかく観てくれ!」としか言えなかったりしています。

それほど魅力が詰まっていたと思いませんか?

オリジナルに似ている役者陣も文句なし。タイムトラベルを取り入れた物語の展開も文句なし。宇宙船から制服やフェイザーに至るまでアイテムのディテールも文句なし。上映時間も、過去作品への敬意も文句なし。

全く良いことばかりで、粗を探すのが難しいくらいでしたよね。

唯一気になっていたオリジナルとの接点も、未来から来たスポックを使うことによって見事に繋ぎ、ネロの攻撃による歴史の改変で生まれた「もうひとつの歴史の流れ」と言う概念をうまく活用し、今後の新しい展開も無理なく描けるようになっています。

どうやら続編の製作も決まったようですね。是非とも同じキャストとスタッフで造って欲しいと願います。

それに、出来ればTVシリーズも観てみたいですね。でもあれだけ沢山のVFXを観ると、TVの予算では納まらないのは間違いないようなので、ないのかな・・・


さてさて私が感じた魅力全てを書くのはあまりにも時間がかかるので、ここではいくつかを取り上げたいと思います。

今までのシリーズでは、派手なアクションはありませんでした。そこが魅力だった、と言う方もいらっしゃるようですが、今回の作品はそれを打ち破ることから始まったのでは?と思える程に、アクションへの気合いが感じられ、空回りすることなく緊張感の連続で観客を魅了してくれます。

それだけでなく、今までのシリーズにはなかった要素もいくつか描かれていたことに気づきました。

まずは宇宙のスケールの大きさを、ワンシーン観ただけで体感させること。

例えば、カークが初めて宇宙ステーション(艦隊基地)に乗り込むシーンでは、カークたちの視点でUSSエンタープライズが映し出されますが、良く見てみるとわざと見切れていることに気づきます。艦首と艦尾が映っていないんです。カメラが流れることで大きさを表現しがちな過去作品ではあまり観ない表現方法だけど、でも観客が何気なく大きさを理解してしまう自然な描き方です。

他にも、USSエンタープライズの艦内にもこだわりがありました。

この手のSF映画と言えば、何もかも近未来的に描こうとしてどこか違和感を感じさせることがあるのですが、それにも挑戦しています。

ブリッジや医務室などの居住空間と、エンジンルームやシャトルなどの格納庫のギャップがそうです。

ブリッジなどは近未来的な空間として描きつつ、エンジンルームや機関室(パンフレットによると一部はバドワイザーの工場で撮影されたそうです なるほど笑)は鉄骨やパイプラインが剥き出しで今現在私たちの身近にある工場や船などのそれに似ています。USSケルビンのシャトルでもコクピットとの境にビニールカーテンが使われているなど、私たちが生きる21世紀からの歴史の流れをそこに見いだすことが出来るので、違和感を取り払うことに成功しているように思えるのです。

他にも「上下のない宇宙」を、宇宙船や破壊された破片などの対象物を縦横無尽に見せることで体感させてくれています。

表現へのこだわりは、見せ方だけにとどまりません。

オープニングのでUSSケルビンの戦闘シーンにそれが見受けられます。

掘削船ナラーダからの攻撃で被弾し、USSケルビンの乗組員が宇宙空間へ放り出されるシーンを覚えていますか?

あのシーンは、船内での派手な爆音が波が引くように消え、無音になっていきます。

本来なら爆音もしないはずの宇宙空間を、観客の迫力や体感を考え音をつけてしまうそれまでのこれまでの描かれ方とは、ちょっと違っていますよね。

徐々に音が消えることによって、「あ、宇宙って死の空間なんだ。」と気づかせてくれます。


そうそう、これを忘れちゃいけないですよね。

笑いについてです。

これまでのシリーズにもスポックやデータなどを使った笑いの要素が含まれていたんですが、今回はさらにスケールアップしていました。

過去作品を知らない人がどこまで笑えるかは分からないのですが、エンタープライズのメインクルーそれぞれにちょっとずつ笑いを含ませてあり、アクションに次ぐアクションで息がつけない状況に「箸休め」を行っています。

私はその中でも、マッコイのシーンとチェコフのシーンがお気に入りです。

マッコイが宇宙へ行くのを嫌がるシーンを観て、真っ先に映画第1作で転送を嫌がっているシーンを思い出しました。「変わってないなぁ」と思うと自然と笑みがこぼれてしまいましたね。

チェコフについてはいくつかあるのですが、ロシアなまりがキツくて音声認識がされないところはツボでした。

多分、2度3度観てもこのシーンは笑ってしまいそうです。


さて他にも語りたいことが沢山あるのですが、それはDVD発売時に再度「ネタバレ編」としてお贈りしようかと思いますので、それまでの間しばしお待ちくださいませ。


次回は予告通り「ブラッド・イン ブラッド・アウト」をお贈りしたいと思います。

それでは、また!



映画データ


2009年アメリカ作品 126分


製作総指揮 ブライアン・パーク ジェフリー・チャーノフ ロベルト・オーチー アレックス・カーツマン

製作    J.J.エイブラムス デイモン・リンデロフ

監督    J.J.エイブラムス

脚本    ロベルト・オーチー アレックス・カーツマン

撮影    ダン・ミンデル

編集    マリアン・ブランドン メアリー・ジョー・マーキー

衣装    マイケル・カプラン

音楽    マイケル・ジアッキノ

出演    クリス・パイン ザッカリー・クイント レナード・ニモイ エリック・バナ ブルース・グリーンウッド カール・アーバン ゾーイ・サルダナ サイモン・ベック ジョン・チョウ アントン・イェルデン ベン・クロス ウィノナ・ライダー 他