この映画に触れる前に、まず書かなければならない事があります。
それはこの映画でさだまさしさんが語る事と重なり、私にとっても重要な意味がある事なので、どうかお許し下さい。
亡くなった私の祖父は、戦中戦後と二度中国の地にいました。もちろん軍人としてです。
残念ながら判っているのはここまでで、そこでどのように暮らし、どこを歩き、何に苦悩し、何を得たのかを私に話すことなく祖父は亡くなってしまいました。
恐らくは・・・推測でしか言えないのが悲しいのですが、母でさえも中国での話は殆ど聞いた事がないという位なので、きっと辛く永い日々だった事でしょう。
さだまさしさんと言えば、誰もが思い浮かぶのはまず歌手としてでしょう。
そして最近では小説家としても有名です。その作品は映画化もされています。
しかし実は、役者として、そして監督として映画に携わった事が過去にあるのです。
この「長江」はその数少ない中のひとつです。
そして唯一のドキュメンタリー映画でもあります。
最近は劇場でドキュメンタリー映画など数年に一作あるかないかと言う位珍しくなってしまいました。
無料で観られるTV番組に押されているからでしょう。言い換えればわざわざ劇場で上映する必要が無くなった、そんな時代になったと言う事かと思います。
実際この映画も、悪い成績だったと聞きます。
しかし映像特典内で本人が語るようにこの作品の価値は、「時代が評価する」事だと私は思います。
日本のTV局や監督たちが手を出さなかった「中国」を膨大なフィルムに収めたその行動力は、もっと評価されるべきだと思います。
物語は、上海から始まります。
長江を上ってその源流を探す旅。
それだけの文章で表現出来るほどに単純な物語です。
しかしその中に秘められたメッセージは深いものがあります。
「さだまさし」という一個人のルーツや、日本とは比べものにならないほど長く深い歴史、それに忘れてはならない、日本が中国に対して侵した唯一の過ち「戦争」。
特に戦争に関しては、短いながらも重くのし掛かるシーンがあります。
戦争を知らない世代の私でさえ、深く傷つく「語り」。
それは私の祖父が中国に行っていたという事実を除いたとしても、きっと傷つく事でしょう。
さださんがポツリと漏らす、言葉にも深く大きな意味を感じます。
この文章を読んだあなたにも、ここは是非感じ、考えて頂きたいと思います。
なぜ、日本人はこんな過ちを犯したのか?と。
この作品のDVD映像特典の中で、本人がこう語っています。
監督として勉強する余裕はないので、次に映画に携わるとしたら「原作」「脚本」「音楽」を是非やってみたい、それが夢だと。
収録されてから僅か数年で、しかも原作・音楽として既に2本携わっています。
夢を追い続けるその姿勢に、私は励まされるばかりです。
そして次は、「脚本」で携わった映画が作られる事を信じて・・・
さて今回のコラムで是非言いたい事がひとつあります。
実はこの長江で撮影された膨大なフィルムは、後にNHKで数回にわたりドキュメンタリー番組として放送されたのです。
私がこの映画を知ったもの、その番組が切っ掛けです。
最近、NHKが政治家の圧力で番組を変更したと、問題になっています。
それが事実かどうかは、私が知る術はありませんし、知ったところで何も変わりません。
ただ、カットされた4分間がいったいどんな映像だったのか?それだけは知りたいところです。
噂で囁かれているような、戦争で被害を受けた人のインタビューだったのかどうか?
NHKが公表しない限り永遠に謎のままで終わってしまうかも知れません。
「嘘」と言い張るのなら、せめてそれを証明するために、カットされたとされる部分を公表して貰いたいものです。
国民からお金を徴収して運営しているのだから、それだけの責任はあるはずだ、と私は思います。
さだまさしさんが主演された映画に「翔べイカロスの翼」と言う名作があります。
残念ながら複雑な版権等の問題で、ビデオ化される事もなく、今は廃棄されるのを待つのみとなっています。
このコラムで触れる事はきっと無理かも知れないので、ここでほんの少し紹介したいと思います。
この映画は、実在したピエロの物語です。
写真を撮りながら日本をフラフラと歩いていた青年が出会ったサーカス。最初は写真の題材としてでした。
しかし団員たちとふれあい日々を過ごす内に、憧れていくのです。
そしてピエロになって、サーカスの一員として日本を旅するのですが・・・
ハナ肇さんや、奈良岡朋子さんなど、名優が脇を固めた名作なのですが、見る事が出来ないのが非常に残念な作品であります。小説本も現在は廃版で読む事すら出来ません。
いつか日の目を見て、復活する事を信じて。
さて、次回はジョディーフォスター主演「コンタクト」をお贈りしたいと思います。
SFでありながら、人間ドラマでもある、この作品、是非ご覧になってからコラムを読んで下さい。
それでは、また。
1981年日本映画 138分
監督・出演 さだまさし
総監修 市川崑
音楽 さだまさし 服部克久 渡辺俊幸
ナレーター 宮口精二