実話映画には様々な種類があります。
忠実に造られたものや、多少の脚色が入ったもの、大まかなストーリー以外はほとんど造り込んでいるもの等々。この「ダンボドロップ大作戦」はおそらく後者ではないかと思われます。
それは原案や原作を読むまでもなく、映画をご覧になった方にはわかるかと思います。
難関が待ち受けていても都合良く進む物語や、笑いの要素がたくさん詰まった展開など、これが本当に戦争映画?と疑わせるものが多いでしょう。
しかし忘れてはならないのは、この映画を作ったのが「ディズニー」であるということ。
子供に夢を与え、優しさや勇気を教えてくれるようにせざるを得ないわけです。
実際にこの映画の中では、銃撃こそあるものの、流血しながら死んでいく人は登場しませんし、のどかな風景が続きます。戦争で荒れ果てた土地にはいっさい触れられていません。
真実の姿がそこにないことは問題かもしれません。
でも考えてみてください。
この映画で重要なことは何でしょう?
事実を忠実に描くよりも、子供たちに「戦争は愚か」で「人や動物を殺すのは行けないこと」を教えることではないでしょうか?
昔の人々は、子供たちが立ち入ってはならない問題に嘘をついていたのではないですか?
どうしたら子供が生まれるのか?そんな当たり前のことにさえ、嘘をついていたのです。
だから、戦争という残虐な事実があったことを隠していないだけでも、この作品は立派だと、私には思えるのです。
さて、映画をご覧になっていない方に多少なりともこの作品を知っていただきたいので、ここで簡単にストーリー紹介をしたいと思います。
本国へもうすぐ帰る予定のグリーンベレー隊員、ケイヒル大尉は、ベトナムの山奥にあるとある村で潜伏しながら敵の動きを察知する任務に就いていました。
そこへ新たな大尉が赴任します。彼の名はドイル大尉。1週間の引き継ぎの後、ケイヒル大尉が帰国するからです。
最前線という血なまぐさい空間を想像していたドイル大尉には、拍子抜けするほどに穏やかな村。
もちろん敵の監視という任務しか頭にないドイル大尉は、村人の歓迎もそこそこに山へ入ろうとする始末。
それでもケイヒル大尉はなんとか村人になじませようと、村人とともにからかいじみた歓迎をします。
任務というのは目的を達することだけを考えていては勤まらない、そんな教訓を身を以て教えようとしているようにも見えます。
歓迎をそこそこに切り上げたドイル大尉は、村の子供たちにお菓子をせがまれ四苦八苦。
なだめようと差し出したチョコレートを、あっけなく持っていかれてしまいます。
子供たちはもちろん大喜び。
しかしその一件が原因で、二人の大尉が偵察に行っている隙に村を悲劇が襲います。
村人が神と崇め大切に、しかも一緒に生活しているたった1匹の象が、ベトナム兵の見せしめによって殺されてしまったのです。
悲しむ村人たち。長老たちは、ドイル大尉が災難を持ち込んだと激怒する始末。
出て行ってしまえば怒りは収まる。でもそれでは任務が勤まらなくなってしまう。
ケイヒル大尉は、なんとかことを収めようと、とんでもない作戦を思いつき提案するのです。
「金曜に行われる祭りまでに、代わりのゾウをなんとかする!」
そう、トラックの通れる道さえもないこの山奥に、ゾウを運ぶのです!!
前線基地からは数百キロ。いったいどうすれば約束は守れるのでしょうか?
戦争という殺戮ばかりの空間にも、心温まる話は必ず隠れています。
その心温まる理由は、そこに生きる人間たちが血なまぐさい戦いによって優しさを失っているからこそ、何気ない優しさに魅かれるのかもしれません。
この映画の題材も、作戦成功のために村人の信頼を得るという裏がありますが、困っている村人のために必死になるその姿は、あまりにも滑稽で、笑いを誘います。
もちろん、その笑いは、私を含め映画を観ている人間が戦争を体験したことがないという事実の裏に成り立っているのですが、この映画が製作された1995年といえば、ベトナム戦争集結から20年。
この映画のターゲットでもある若年層にはあまり縁のない世界です。
とはいえ、実際に戦地に行った人々が観ているのも事実。
忌まわしい記憶を忘れようと努力する人々にとって、そこに血なまぐさは必要ない、とも言えるのではないでしょうか?
その両者にとって最も近い戦争。それがベトナムです。
だからこそ、この題材が選ばれたのかもしれません。
残念ながら私は未婚であり、もちろん子供もいません。
でももし子供がいたなら、きっとこの映画を子供に観せると思います。もちろん一緒に観るでしょう。
なぜなら、親子の対話に必要な映画だと思うからです。
戦争を知らない私たちの世代にとって戦争の愚かさを教えるのは難しいことであり、どうしてよいかさえも浮かばないのが事実でしょう。
でもこの映画には、流血がなくても、その愚かさを感じさせる魅力が潜んでいる。
私にはそう思えるのです。
今回は短いコラムになってしまいましたが、これ以上の長文は必要ないでしょう。
観た方の判断はそれぞれに任せるとして、観たことのない方には、今一度この作品を観るよう考え直してもらえないでしょうか?
実売価格では1200円前後です。全国平均レンタル価格の約3回分。
安いとは思いませんか?
テレビではなかなか放送されません。しかしディズニーという大手の映画会社が予算をしっかりとつぎ込んで造られた大作です。
だまされたと思って、観てください。
よろしくお願いいたします。
さて次回のコラムは、初の試みを行いたいと思います。
現在上映中の作品についてのコラムです。
しかし映画館に行く暇がない!という方のためにも極力ネタバレを押さえ、紹介編という形で書きたいと思っています。
その作品は・・・
本広克行監督、10年目にして10作品目の集大成。
「UDON」です。
実は私、昨日8月26日は、有楽町でこの作品の初日舞台挨拶を観てきました。
非常に楽しい作品であり、とても面白い舞台挨拶でした。
映画内容のネタバレができない代わりに、その舞台挨拶の模様のリポートも絡めてお送りいたします。
お楽しみに!
それでは、また!!
1995年アメリカ映画 108分
監督 サイモン・ウインサー
脚本 ジーン・クインター ジム・コウフ
撮影 ラッセル・ボイド
編集 O・ニコラス・ブラウン
音楽 デヴィッド・ニューマン
出演 ダニー・グローバー レイ・リオッタ デニス・レアリー ダグ・E・ダグ コリン・ネメック