「サトラレ」の第3回です。
今回は、音楽、編集、ある特徴、監督について語ろうかと思います。
まずは音楽から。
この映画の音楽は渡辺俊幸さんが作曲されています。渡辺俊幸さんと言えば、最近は誰の目(耳?)にも止まるような活躍をされています。
一番近い所で言えば「愛・地球博」開会式での音楽監督、ちょっと前だとさだまさしさんの映画「解夏」の映画音楽を作曲、大河ドラマ「利家とまつ」やNHKドラマ「大地の子」等々、書き始めたらキリがない程です。
そうそう、このコラムで以前取り上げたさだまさしさんの「長江」も服部克久さんと共に担当されていました。
渡辺俊幸さんの音楽は、オーケストラで演奏されるスケールの大きなもの、と言う印象がありますが、「サトラレ」もその部類に入ります。
日本映画では、余程のベストセラーを原作に持ったりとか、海外でも名の知られた監督作品でもない限り、なかなかオーケストラを使った映画音楽にはお目にかかれません。私の印象から言えば、日本の映画音楽はまだまだ色づけ程度の地位しか与えられていない気がします。
この「サトラレ」では、スケールの大きな音楽が、まさにピッタリとはまっています。恐らく、打ち込んだだけの音楽や小編成の楽器だけでは、この包み込むような感動を造り上げる事は出来なかったでしょう。それくらいに渡辺俊幸さんの音楽は重要な位置を占めています。
しかしこの映画の凄い所は、音楽だけが前面に押し出されているようにも見える(聞こえる)のですが、決してそうではないのです。物語の展開にしっかりとシンクロしているだけではなく、前回のコラムで取り上げた役者の演技、そして切れの良い編集、その他全てが絶妙なバランスを保つように協調しているのです。この辺りのバランスは、現在公開中の「交渉人 真下正義」にも、しっかりと生かされています。(こちらはオーケストラ編成の曲は少ないですが・・・)
これは人を上手く使える監督だけが成せる技である、と言えるでしょう。
この映画を見ていて、あなたは音楽に何かを感じませんでしたか?
有名な映画音楽には良くある事なのですが、「サトラレ」のサントラは今でもTV番組などでひっそりと使われているのです。単体の音楽としても成り立つ、立派な音楽作品である証です。
映画音楽に凝っている人は少ないとは思いますが、凝っていると色々面白いですよ。
TVを見ていて「あっ、これ××だ!」なんて、私にはしょっちゅうです(笑)
ちょっと話が脱線してしまいましたね。
次は編集について語りたいと思います。
編集を担当されているのは、田口拓也さん。私は最近知ったのですが、本広監督とは古い仲だそうです。
再放送はないかも知れませんが、スカパー!!で放送されていた「真下正義チャンネル」のあるコーナーでその辺りの昔話を多々聞けます。「古い仲なのになぜ、監督デビュー作を担当していないのか?」等々。
ここで書けないのが残念です。
さて、音楽でさえあまり目立たない存在の日本映画界にとって、編集者の名前を気にして映画を見る人はごく僅かだと思います。なので私はあえて、田口拓也さんを取り上げたいと思うのです。
日本アカデミー賞で2度、優秀編集賞を受賞されています。最初は山崎貴監督「リターナー」、次は本広監督の「踊る〜2」。どちらも切れのある、無駄のない編集です。
今までの日本映画と言えば、「間」を大切に残した編集が主流を占めていました。アクション作品にもです。これが日本映画臭い理由のひとつだと私は思うのですが、田口拓也さんの編集は、日本映画にはなかったテンポの良さが生きています。無駄は一切無く、妥協のない編集。恐らく現在公開中の「交渉人 真下正義」では、日本アカデミー賞の最優秀編集賞を受賞するでしょう。それくらいに無駄なく、スピード感があり、なのに疲れない、立派な編集を見る事が出来ます。すでに「交渉人〜」をご覧になった方はどう感じましたか?作品が面白かったかどうかは人それぞれだと思いますが、恐らく殆どの人が、2時間強の映画を1時間ちょっとにしか感じなかったでしょう。
それが「編集の成せる技」なのです。いくら素晴らしい撮影や演技があっても、編集に無駄や隙があると、それだけで駄作になってしまいます。それ程に、編集とは大切なものなのです。
以下に田口拓也さんが編集を担当された映画を幾つか記しておきますので、思い出してみて下さい。もちろん内容、ではないですよ。時間がどのように感じられたか?ですよ。
「nin×nin 忍者ハットリくん THE MOVIE」
「恋人はスナイパー 劇場版」
「スペーストラベラーズ」
「サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS」
「メッセンジャー」
ちなみに私は、どの編集が好きかと聞かれたら、「メッセンジャー」と「サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS」です。「恋人はスナイパー 劇場版」は未見です。
次は本広監督の最近の作品に見られるひとつの特徴について。
それは「働く男の美しさ」です。
「(1)踊る大捜査線 THE MOVIE」「(2)サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS」「(3)同2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」「(4)交渉人 真下正義」で、憎らしい程に格好良く描かれています。
映画ではありませんが、2001年にフジテレビで放映されていた「アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜」のパティシエなどもそうですね。
(1)(3)では警察と呼ばれる組織内の様々な部署、(4)では線引き屋等の地下鉄職員やオーケストラの指揮者、そして(2)では警護局の局員達や、医者。
もちろん美しさを描くためには、より本物らしくなければなりません。こだわって造っているからこそ、リアルな情熱が伝わってくるのです。
「サトラレ」では病院内の殆どはセットだったのですが、実際の医療機器が使われたそうです。
まさに「こだわり」が生んだ「らしさ」ですね。
最後に本広監督について、ほんの少しだけ語りたいと思います。
(今までにだいぶ語ってしまったので・・・)
TVドラマ等で活躍後、「7月7日、晴れ」で映画監督デビュー。2005年5月現在7本の映画が劇場公開され、どれもがヒット。現在8本目の上映が8月に控えています。
監督の描く映画には共通している事があります。
「観ている者を楽しませる」工夫と苦労を惜しまない事です。もしかしたら全く苦しまずに楽しんで造っているのでは(そんな事は絶対に有り得ないと思うのですが・・・)と思える程に、エンターテイメントなのです。そしてその形は、どんどん素晴らしく研ぎ澄まされ、現在公開中の「交渉人 真下正義」ではひとつの完成系に達したとも言えるでしょう。
新しく本広映画に出会った人にとっては立派なパニック映画であるのに、古くからのファンにも決して飽きさせない細かなこだわりを随所に散りばめ、最後には満足させてしまう。
とにかく、素晴らしい映画を生み出す日本映画界の貴重な存在です。
次の作品が楽しみです。そしてそのさらに次は、一体何をしてくれるのでしょう?
期待が決して消える事はありません。
私はそれ程に、映画監督 本広克行 に魅せられてしまいました。
あなたには、そこまで好きになってしまった映画監督はいますか?
さて本広監督作品の中でも「踊る〜」の1・2はコラムでは取り上げません。
理由は幾つか有るのですが、この2作品に関しては私よりも遙かに愛している人が沢山いるからです。私が語らずとも、様々な評価を見る事が出来るでしょう。
ですから、取り上げない事をどうかご了承下さい。
その代わり「交渉人 真下正義」のDVDが発売された時には、熱く熱く語らせて頂きます。
もちろん「踊るシリーズ」としてではなく、パニック映画として、ですよ。
書くのが遅くなってしまいましたが、本広監督は四国、香川県の出身です。
最近、四国は映画の舞台として脚光を浴びています。
「世界の中心で愛をさけぶ」などもいずれコラムで取り上げたいのですが、これも四国です。
次回のコラムは、そんな四国でも愛媛県が舞台になった青春映画(古くさい表現ですが、これがピッタリとはまるのです!)、
磯村一路監督作品「がんばっていきまっしょい」を取り上げます。
作品自体、あまり有名ではありませんが根強いファンに愛され、監督としてのキャリアも長いだけあって、独特の空気を感じさせる立派な映画です。そうそう、さだまさしさんの「解夏」の監督もされています。
レンタルを探すのはかなり厳しいかも知れませんが、実はのこの映画7月よりTVの連続ドラマとしてスタートするのです。
おそらく近日中に劇場版もTV放映される事でしょう。
ちなみにDVDも発売されていますが、期間限定品だったようです。現在入手可能かどうかは分かりません。
でもTVの人気次第では、きっとまた発売されるはずですので、いつか観る機会もある事でしょう。
それでは、また!
2001年日本映画 130分
監督 本広克行
脚本 戸田山雅司
音楽 渡辺俊幸
主題歌 「LOST CHILD」 藤原ヒロシ+大沢伸一 feat.クリスタル・ケイ
出演 安藤政信 鈴木京香 寺尾あきら 八千草薫 松茂豊 内山理名