「サトラレ」の第2回です。
この映画は2001年3月、桜の季節に劇場公開となりました。
映画のエンドロールに名前の載っているスタッフの方から聞いた(正確に言うとメールで)話しなのですが、この季節に公開する事は当初から決まっていたそうで、そのスケジュールに合わせて様々な作業が進んでいったそうです。
はじめてこの映画をスクリーンで観たときに、その年の興行成績ベスト上位に食い込める作品と感じました。もっと宣伝して、口コミで素晴らしさを伝えれば、それも可能だったかもしれません。
例えば医療関係者、それも看護士や介護士だけを集めた試写会とか、身内の介護を経験、または現在進行中の方だけを集めた試写会とか。訴えたい人に絞った試写会などを経て劇場公開されれば、今とは違った評価が得られたかも知れません。
実際そのスタッフの方は、公開までもっと時間があったら・・・と言っておられました。
残念ながら映画はそこそこのヒット止まり。でも上映館を変えての約3ヶ月近くの興行は立派だと思います。
その後、ビデオレンタルを通じ面白さが口コミで拡がりロングランヒット、ついには別の役者と監督ではありますがTVドラマ化されるまでに至りました。
今になって考えると、桜の季節に公開できたことは、映画の中の時間を実際の時間と合わせて体感するためには、最適だったのかも知れません。
あのラストシーンは、忘れられない名シーンですから。
ここで知って頂きたいのは、劇場公開にも有る程度の運不運があるという事です。どれだけ素晴らしい作品でも、その次にかかる映画が超大作で有れば終わってしまうのです。慌ただしく劇場公開まで辿り着いてしまいましたが、その点ではこの「サトラレ」は運の良かった作品なのかも知れません。
ここからは、前回の予告に沿って話を進めたいと思います。
「サトラレ」の脚本は、戸田山雅司さんと言う方です。
劇場公開作品は、全部で5作品。その内の2作品は、本広監督と手を組んでいます。コラムを毎回読んでいる方は、もう気づかれましたよね。
本広監督デビュー作「7月7日、晴れ」に参加されているのです。
他にもTVドラマで多数の脚本を書かれています。
当初はフジテレビのドラマが多かったようですが、大河ドラマなど、今現在は他局でも面白い作品を書かれています。
観た中で言うと「ロッカーの花子さん」などは、突拍子もない設定を上手くまとめて、面白おかしく、時にシリアスに、きっちりと仕上げた作品です。
NHKで何度か再放送がされた事からも、面白かったと感じる視聴者が多かったと言えるでしょう。
映画の中では、いずれこのコラムで取り上げたいのですが「メッセンジャー」も非常に面白い作品です。
どうです?
たまには脚本家にこだわって映画を観てみるというのは?
私のコラムを読まれる方は、当然ネットで簡単に調べが付く環境ですので、探しやすいと言うわけです。
気に入った作品を見つけたら、是非一度スタッフを調べてみて下さい。
新たな出会いがあるかも知れませんよ。
次は役者です。
この映画には魅力的な役者が多数出演しています。出演シーンが少なくとも、存在感があることから「魅力的」そう言えるでしょう。
その中で、私は二人の役者に焦点を当てたいと思います。
まず一人目は、八千草薫さんです。
1931年1月生まれなので、現在74歳。とても淑やかで、歳を感じさせないしっかりとした姿勢。
おばあさん、と言うよりも、おばあさま、という言葉がピッタリと当てはまる、日本映画界の貴重な存在です。
1950年代はかなりの数の映画に出演されていました。しかし70〜90年代の出演作品は少なく、とくに90年代は引退されてしまったのでは?と勘違いしてしまうほどに少なかったのですが、2000年以降は、TV・映画共に積極的に出演されています。
余談ですが本広監督の最新作「交渉人 真下正義」にも、ほんの数シーンだけ出演されています。もちろん充分なくらいの存在感を魅せてくれます。
しかしそれだけ多数の作品に出演され、経験が豊富であるはずの役者にも、苦労はあるのです。
「サトラレ」のDVDに収録されているメイキングを観て頂くと、八千草さんがいかにこの映画で苦労をされたかが分かります。
そう、「突拍子もない設定」です。今まで経験をした事のない演技を要求されたのではないでしょうか?
監督のフォローと、自身の苦労の甲斐もあり、後半30分は特に素晴らしい演技をされています。
私のお気に入りのシーンをひとつだけ書かせて下さい。
それは・・・
術後の報告です。「大丈夫だよ」と孫に言われて納得する間もなく、聞こえてくる心の声に思わずしてしまう複雑な表情。その潤んだ瞳に、何十回と観た今でも涙が溢れます。
次は寺尾あきらさん。
年配の方には宇野重吉の息子として知られ、私たちの世代としては大ヒットを飛ばした歌手として有名です。
かつて石原軍団の一員でもありアクション色が強く感じられていましたが、今は宇野重吉さんを越えるほどの存在感を魅せつける、やはり日本映画界の貴重な存在です。
映画の主役である里見健一の上司役で、口数が少ない設定ですが、ひとつひとつの台詞に大きな意味が隠れていて、その意味を演技でさらに深いものとして表現している所などは、他の役者には決して真似出来ないでしょう。
先程書いた八千草さんの演技に似たものがあるのですが、やはり表情と瞳に涙が溢れます。
詳しいシーンはあえて書きませんが、推理してみて下さい。
ヒントは、スローモーションです。
この映画で、スローモーションになる場所は必ず主人公の心の声が強い時です。
それを頭の隅に置いて、是非探してみて下さい。
本広監督の映画には、幾つかの特徴があります。
全ての作品ではありませんが、例えば「舞台」が関わっている所などは、監督の映画を楽しむ上で重要なポイントかも知れません。
泣きと笑いの両立などは、舞台に似ているとも言えるでしょう。
「スペーストラベラーズ」や次回作「サマー・タイムマシン・ブルース」等は原作が舞台です。
「七月七日、晴れ」や「サトラレ」の脚本家戸田山雅司さんは、舞台出身です。
他にも幾つかの特徴があるのですが、私が一番気になっているのはカメラワークです。
非常に良く動き回るのです。
「サトラレ」の中でも、他の作品なら一カ所からじっと撮影して訴えるシーンでも、これでもかと言う程に動くのです。
忙しいシーンなら分かるのですが、感動を与えるシーンでも「ぐるぐる回る」のです。
しかし不思議な事に、違和感がない。むしろ、感動に輪を掛けるのです。
なぜでしょう?残念ながら私には分かりません。
偉そうに色々と書いている私ですが、もっともっと勉強しなければいけませんね。
次に・・・と続きを書きたいのですが、今回はちょっと書きすぎてしまいました。
続きはまた今度、と言う事で。
なるべく早く書きたいのですが、また1週間後ぐらいになってしまうかも知れませんね。
何せ、忙しいもので・・・
それでは、また!
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