2007年4月25日水曜日

フラガール(ネタバレ後編)

・・・今回はネタバレ注意・・・映画本編をご覧になってからお読みください。


三週間のご無沙汰です。

毎度の事ながら、楽しみになさっている方にご迷惑をおかけしている事、どうぞお許しくださいませ。

さて、関東地方では桜もあっという間に終わり、今は東北地方の中央が満開の状況ですね。

先週の「おわびとお知らせ」で、フラガールのロケ地を旅したと書きましたが、実は別の目的の旅だったのです。

本当は福島に咲いている桜を見る為で、ロケ地の手がかりだけ探れれば良いかと思っていたのです。

しかし前日の夜、親友と酒を飲みながら、また「フラガール」を見てしまった事が私の心に火をつけて(笑)、さらに大きな偶然が重なり、結局「桜」と「フラガール」が半々の旅となってしまったのです。


今回は、いつもとちょっと違った「極私的感涙映画評」をお楽しみください。


まずは「偶然」からお話ししましょう。

私が福島の桜を観に行く時は、たいてい2つの国道のどちらかを利用します。それ以外の国道の場合、桜の開花状況の為に効率よく回れないからです。

そして今回はその国道を使った事が、まず第一の偶然の始まりでした。

それは茨城県内での話です。

ついでとは言え前もってロケ地の情報をパソコンの地図に入れておいて、だいたいの住所は掴んでいたのです。もちろん当日はパソコンを抱えての旅です。

茨城県東部は、鹿嶋から北上すると水戸を越えてしばらくするまで山がありません。

山の間を走るのは結構気を使うので、それまではゆったり構えて運転しているのですが、ある畑の間を走っているとき偶然目にした、住所を記した信号にある標識が無性に気になったのです。

もちろんすぐに愛車を止め、地図を開きました。そしてその場所が、調べておいた住所と一致した事が分かったのです。となれば、もう行くしかありません。

国道を逸れると、ほどなく散歩している地元の人を見つけました。

「この近くに木の橋はありませんか?」

との問いかけに、

「このまままっすぐだよ。」と言われたら、もう心臓の高鳴りはやみません。しかもこの場所は、5年前から何度も走っている国道のすぐ近く。

こんな近くにロケ地があったのかと思うと、悔しいやら嬉しいやら複雑な気持ち。

などと考えていたら、あっという間に土手を越え、木の橋が見えてきました。

菜の花が土手一面に咲き誇る、美しい景色です。

しかし「やった!」と思う間もなく、ここは違うと悟りました。橋を取り囲む風景が明らかに違うのです。

ならばと、その橋を越え先へと進みます。しばらく民家の間を走ったでしょうか、右手に土手が見えるのでそちらへ向かう事としました。土手を越えると自動車1台がやっと通れる狭い道。対向車が来たらどうしようと思っていると、そういう時に限って来るんですね(笑)しかし地元の人なのか、隙間を見つけ避けてくれたので、私は先へと進みます。

そしてその対向車への気遣いが、感動をくれたのです。

橋は見えていたのにすれ違いに気を取られていて、手前に来るまでロケに使われた橋だと気づかなかったのです。私の走って来た方向が劇中に登場する場面の反対側と言うのも、気づかなかった要因だったのですが・・・

枕のように敷き詰められた木の上を「ガタガタ」と音を立てながら走り、橋を越えます。そしてすぐに左折して愛車を止めました。視線を上げるともうひとつの土手。その先に見えるヒントが、この場所がロケ地と確信させてくれました。

もし行かれる方がいたらなるべく探す楽しみを体験して欲しいので、具体的な場所と「ヒント」はこちらには書きませんので、どうかご了承くださいませ。

ただ・・・とあるシーンで写る「もの」がヒントとなりますので、しっかりと目を凝らしながら「フラガール」をご覧になって下さい。

写真を見たいですか?こちらのページに載せることも可能なのですが、デザイン的に見栄えが悪くなるので、是非私のもうひとつのサイト「きまぐれ写真館」の「フラガールの旅」と言うコーナーをご覧下さい。

私は今までいくつかのロケ地を探し歩いたのですが、ここまで簡単に見つけられたのは初めてかも知れません。しかも、何度も走った道のすぐ近く。これを運命と言わずして、なんと言うでしょう。

しばしそこに留まり、対岸の桜を撮ったり、土手の上に行ってもう一度ヒントを確かめたりして過ごしました。

そこで気づいたのですが、木の橋はまだ他にもあったのです(笑)

これじゃ、地元の人に聞いてもどの橋を教えられるか分かりませんよね。

「仕方ないか」そう思ったのは言うまでもありません。

さて先を急ぐ旅、あまりゆっくりはしていられません。何よりも、夕べ映画を見てそのまま眠らずに出発したので、なるべく早く帰宅しなければ体力的にもきついのです。私は感動を引きずるようにその場を後にしました。

そこからはいつもの桜の旅。去年夕暮れ間近でギリギリに観られた桜を、晴天の下でじっくりと観ることが出来ました。その次の桜は、あるお寺にある桜。こちらも相変わらず美しい姿で咲き誇っていました。

その町にある他の名所を回ると、すでに午後2時を回っていました。本当ならもう家に戻っている予定の時間です。しかしここで終わる訳には行きません。

当初探すつもりでいた場所は、この町に近いのです。あの橋を見つけたのに、ここで帰る訳には行きません。眠気もない事だし、探す事に決めました。

走る事1時間。途中のコンビニで遅い昼食をとり、この町にあるはずの場所を探し始めました。目指すはその公民館。しかし愛車はすぐに町外れへ。一気に風景が寂しくなります。

まさかと思い引き返すと、さっきのコンビニより少し手前に役場があるのを発見。そこで情報を収集しようとしたのですが、あいにくの土曜日で静まり返った役場を後に、もう少し引き返す事としました。

役場から1キロ程戻ったでしょうか、左手には小学校と中学校、右手に町の施設らしきものを発見。曲がって入ってみると、そこが公民館でした。

あとは足で探すのみ。閑散とした駐車場に愛車を止め、施設の奥へと入って行きます。

そして、たった十数歩歩いただけで、いとも簡単に目的の場所が見つかったのです。

なんと言う偶然でしょう!その場所は、桜の旅でいつも走っている国道からチラッと見える場所に立っていた事を知り、2度ビックリです。橋と言い、この場所といい、ロケされる以前から知っていた場所にあったのです。

さらに、建物をグルッと回ると、映画そのままに「常磐音楽舞踏学院」の看板が残されているではありませんか!!

さらにさらに、入り口には、「見学の方はこちらへご連絡ください」と書いているのです。そう、鍵はかかっていますが中に入ることが出来るのです。事前の調べでは見学不可になっていたので、これはもう驚きでした。

早速電話をかけるのですが、誰も出る気配がありません。一度切って、施設のまわりを写真に収めながら歩きます。感慨ひとしおです。劇中では、ここでいくつものドラマが生まれています。

私は、その場所に立っているのですから。この興奮は、ロケ地を訪れた事のある人にしか分からないでしょうね。

しばしその場で感慨に浸って、再度電話をかけてみます。

残念ながら、誰も出ませんでした。土曜の午後と言うのがいけなかったのでしょうね。

しかしもう場所は分かりましたし、見学出来る事も分かりました。

次はきっと中に入ると心に近い、その場を後にしたのです。

こうなればもう、残りのロケ地も探すしかありません。眠気なんて、もう何処へやら。

私は最後の目的地、茨城県の北部へと愛車を走らせました。

北茨城に入ったのは、夕闇が迫りつつある午後5時近く。

あらかじめ調べておいた場所へ向かって走るのですが、地区名がなかなか把握出来ず何度も行ったり来たり。ここは行き過ぎだ、ここはまだだと繰り返す事数回。やっとその町へと入る事が出来ました。

少しずつ暗くなって行く空に焦りを感じながら、止まっては進みをさらに繰り返します。少しずつ近づいている実感が湧いてきます。しかし興奮はなく、むしろ落ち着いていたのです。

この地名はロケ地の隣だ、と分かった時、突然興奮が心の底から吹き出してきました。

そしてすぐに、地名がそのまま名前になった商店を見つけたのです。

「ここだ!」そう悟った私は、すぐに横道に逸れました。とりあえずどこかに止めて歩いて探そう、そう判断したのです。そして緩やかな坂の途中にある空き地に愛車を止め、そのまま坂をあがろうとしたのですが・・・

そこから火の見やぐらが見えたのは気になっていたのですが、なんと、空き地のすぐ上がロケ地だったのです!

しかも小さなプレートがたてられ、そこがロケ地である事がすぐに分かるようになっているのです。

「七坑区世話所」そう書いてありました。

どうやらここは、普段は使われていない施設らしく、映画ファンの為に残してあるセットのようです。なので当然、勝手に入れないように小さなコーンを立ててありました。もちろん私は中へは入らず、そのまわりを写真に収めながら歩きます。

その場所は、映画そのままのセットと、今も人が生活する住宅が違和感無く溶け込んだ、不思議なロケ地です。

「七坑区世話所」のもうひとつ上には、劇中何度も登場するY字路の間にある古い建物。劇中では何をする場所なのか分かりませんでしたが、現場に来てもやはり分かりませんでした。中が見えないよう目張りがしてある事から想像すると、休業中の何かの店なのでしょう。

その時私は舞い上がっていて混同していたので、まどかの住宅と紀美子の住宅両方を探してしまったのですが、結局このロケ地にはその片方しか無く、しかもDVDを持ってこなかった為に全く分からず仕舞だったのです。

それはもう後悔をしました。ストーブのシーンも、きっとここでとられたはずなのに、確かめる術がありません。

家へ帰ってから、さらにもっと悔しい思いをしてしまったのです。

みなさんは小百合の父の葬列が歩いた道を覚えているでしょうか?後ろの小さな丘の上には住宅が並び、葬列の向こうには、ちょっと倉庫の出っ張った住宅が移っているあの場所です。

私は、気づかずにそこを歩いていたのです!

撮影の視線とは違い、歩行者の視線だったので、全く気づかなかったのです!

本当に、悔しい思いでした。写真に収められなかっただけでも悔しいのに、同じ場所を歩いていたのですよ!

次は絶対に、写真に収めよう。そう心に念じて、諦める事にしましたが、やはり悔しい(笑)

話は変わって、あちこち歩きながらある事を感じました。この住宅には猫が多いのです。

と同時に、おばあさんが1人で家へ入って行く姿を見て、高齢化の進んでいる地域なんだなと実感しました。きっと猫たちは、寂しい老人たちの同居人なんだな、と。

そう思うと、夕闇に包まれた静かすぎる住宅で、ひとり悲しくなってしまったのです。

でも、悲しんで入られない。

まだ望みがあるかもしれない、そう思い再び愛車に乗り込み、もうひとつの住宅を探そうと動き出したのです。

そして気づいたのですが、この場所に隣接する県道も、実は過去に訪れた事があったのです。

そう、このコラムを読まれている方にはご存知の「河童」のロケ地は北茨城。

劇中登場の天神沼(この名前は実在しません)から直線で5キロも無い場所だったのです。

当然、何度も探した場所で、その住宅の前の道路も走っていたのです。

ここまで偶然が重なると怖いものですね。

しかし残念な事に、次の偶然はありませんでした。もうひとつの住宅は見つからなかったのです。

いや、見つからなかったのではなく、時間がなかったと言った方が正解かもしれません。

そして私は、北茨城を後にし、帰路につきました。

水戸を過ぎてから、家までの記憶が全くなかったのは言うまでもありません。

いくつもの興奮の後、眠気が波のように襲い、かなり危ない帰路になってしまったのでした。


以上が今回のロケ地の旅の全貌です。探す興奮を、少しでも味わっていただければ幸いです。

そして、まだ訪れていない場所を探す為に、近いうちにもう一度ロケとの旅を実施する事をお約束して、今回の報告を終わりとします。


さて、以前紹介した「甦える大地」の際に、「フラガール」と絡めて地域再生の鍵を書こうかと思っていたのですが、延び延びになっていました。

日本の何処にも言えるのですが、地域には何かしらの特色があります。

それが自然であったり、歴史であったり、あるいは産業だったりします。

長い間、それに頼り切った生活をしていると、抜きん出てくる他の地域に強い印象を奪われ、その地域は衰退して行く事があります。

「フラガール」の舞台であるいわき市は、炭鉱の町から見事に脱却し、一大リゾート地となりました。

新しいものを受け入れる土壌が、そこに出来上がっていると言えると思います。

だからこそ、このような映画が撮られたのであって、それに伴いどんどん変化して行っているのだと思います。

以前何度か触れた事があるのですが、このいわき市にもフィルムコミッションが存在します。

活動を始めたのは映画のロケが開始される3年半前の事です。全国フィルムコミッション連絡協議会が設立されて間もなく、いわきにも誕生したのです。まだ日本では馴染みの無い時期に、思い切った決断だったと思います。

しかしその決断が実を結んだ訳です。

もちろん映画のヒットと言う大きな成功があってこそ、初めて注目される「日陰の活動」ではあるのですが・・・

さて、フィルムコミッションが設立出来る場所には、ある一定の法則らしいものがあると言う事です。

いばらきフィルムコミッションのような県での活動は別として、市等による小さなフィルムコミッションがある地域は、必ずと言っていい程優れた特色があるのです。

それは観光だったり、文化だったりと様々ですが、かならず土壌となっています。

言い換えると、その特色を生かす為のひとつの手段がフィルムコミッションなのです。

地域再生の鍵は、実は身近に転がっているのに、気づかないものなのかもしれません。

そして、その地域の特色をいかにして引き出すのか、それは住民たちの知恵ひとつなのです。

もしあなたの住む地域が、以前より寂れているなと思ったら、もう一度その地域をじっくりと見て下さい。

地域再生の鍵は、あなたの足下に転がっているかもしれませんよ。


ネタバレ前編で、フラガールたちの事を書こうと思っていたのですが、これについては触れるのをやめる事とします。なぜなら、メモリアルボックスの特典ディスクがその全てを語っているからです。

本編を見てから、そのDVDを観るときっと涙が止まらないでしょう。それほどまでに、熱く演じる女優たちの活躍が、手に取るように分かります。

それから、現実と嘘の境界線ですが、これについては年末公開予定の「Always続三丁目の夕日」をコラムにする際、絡めて紹介したいと思いますので、どうかそれまでお待ちくださいませ。


さて、次回のコラムですが、久しぶりに洋画を紹介しようかと考えています。

以前、2作品を紹介したミミ・レダー監督の初監督作品「ピースメーカー」をお送り致します。

この作品はレンタルでも容易く探せますし、今までに何度もTV放映されているので、ひょっとしたら既にご覧になっているかもしれませんね。

なるべく来週の更新を目指しますが、遅れるかもしれない事を、あらかじめお断りしておきます。

それでは、また!



映画データー


2006年日本映画120分


製作        李鳳宇 河合洋 細野義朗

企画・プロデュース 石原仁美

監督        李相日

脚本        李相日 羽原大介

音楽        ジェイク・シマブクロ

舞踏振り付け・指導 カレイナニ早川

出演        松雪泰子 蒼井優 豊川悦司 山崎静代 池津祥子 徳永えり 三宅弘城 寺島進 志賀勝 高橋克実 岸部一徳 富司純子 他

2007年4月8日日曜日

フラガール(ネタバレ編)

・・・今回はネタバレ注意・・・映画本編をご覧になってからお読みください。


今回のコラムは、前々回での予告通り「ネタバレ編」としてお贈りしたいと思います。

なのでまだご覧になっていない方は、まず映画本編をご覧になってから、再びこちらへお越し下さい。

映画を観ていないのに内容を知ってしまうと言うのは、製作者側にとっても、視聴者本人にとっても、悲しい事ですから。


皆さんはこの映画「フラガール」を見て、いかがでしたか?

私は性懲りもなく、また泣いてしまいました。

しかもDVD購入後初めて見たのは「コメンタリー」で、映画の音響よりもキャストとスタッフの声が中心なのに、気づいてみたら途中から全く会話等耳に入らず、やはりあのシーンでは泣いてしまいました。

きちんと本編を見たら「ヤバいだろうなぁ~」と思っていたのですが、予感的中(笑)

先ほど観終えた2回目のDVDは、後半から泣きっぱなしでした。

皆さんはいかがでしたか?この映画から、何を感じましたか?


さて、映画がヒットする理由は多くの場合「年齢層に関係なく好評化」でなければなりません。「日本沈没」2006年版と言う例外もたまにありますが、「フラガール」はまさに上記の理由が当てはまります。

今から40年以上も前の出来事を描いているのに、下は20代から受け入れられる映画。

以前紹介した「ALWAYS三丁目の夕日」にも通じるものがあります。共に変わりゆく時代を描いていると言う部分は、大いに共通しています。

笑いと涙の配分も、似ている部分があります。

しかしこの両作品には決定的な違いがあるのです。

それは「実際にあった出来事が脇役に進む物語」と「実際に起こった出来事を中心に進む物語」です。

ALWAYS三丁目の夕日」は東京の開発が加速する中、そこに生きる人々の生き様を描いています。そして物語の象徴として印象的だったのが、建設中の東京タワーでした。

一方の「フラガール」は日本中の炭坑が徐々に閉鎖されて行く中、そこに生きる人々が、新たな目標に向かって突き進んで行く様を描いています。そして物語の象徴は人間である「フラガール」たちなのです。

劇中の時代は、すでに過去の話であり、映画の舞台となった双方の場所にその面影はほとんど残っていません。

ALWAYS三丁目の夕日」は、今無くなりつつある近所付き合いや人情が描かれ、「昔は良かった」と感じさせる話である一方、「フラガール」は女性が強くなった現代の切っ掛けとも言える「始まりの時代」を描いています。もちろん男性にも共感出来る部分は多々あるので一概にそうとは言い切れませんが、多くの女性の共感を得、支持が大きかったからこそヒットしたと言えるのではないでしょうか?

この映画のヒットの要因には、まだ他の要素もあります。

中でも特に大きかったのは、「小百合」役の山崎静代さんの存在です。

お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のメンバーとしては大いに有名です。しかし彼女は、当時役者としては全く活動しておらず、製作者側も起用には勇気が必要だったかと思います。

結果、その決断は正解で、彼女はこの映画に大きな風穴をあけているのです。

映画をご覧になった方は既にご存知だと思いますが、演技は決して巧いとは言えません。

しかしその存在感は、他の有名な役者を圧倒する程強烈で、映画前半では深刻な話の中に笑いのスパイスを降り蒔いています。不思議な事に、その笑いは決して目立つ訳ではなく、でも観る者の心に残るのです。

コメンタリーを聞くと彼女の演技の背景が垣間見えるのですが、監督の演技指導が功を奏しています。

笑わせる事が仕事の「お笑い」をいかにさりげなくさせるか、監督が威力を発揮し、あの演技を勝ち取った訳です。

TVでは監督ではなく「演出」と言われる理由のひとつかもしれませんね。

そして彼女の起用は、20代にも受け入れられる映画の要素となった訳です。


この映画には、現在の邦画界を背負う俳優が数多く出演しています。

まずは主演の松雪泰子さん。劇中では都会から来た「歯に衣着せぬ、ズバズバ言う女」として描かれています。とにかく田舎では浮きまくる存在を、見事に演じ切っています。

「強い女性」を演じる一方で、中盤では少しずつ明らかになる私生活を垣間みられ弱い一面を覗かせるのですが、この演技がまた素晴らしい。決して人には頼ろうとせず、曝け出す訳でもない。なのにポツリと過去を語るその仕草が、現代の私たちに通じるものがあり、私はこのシーンに大いに共感しました。

次に豊川悦司さん。毎年何本もの映画に関わる、まさに「映画俳優」の代表格と言える方です。

劇中では頑固な山の男である一方、母の手で育てられたせいかどこか優しく、ちょっと甘い性格です。

食事中は母に反論出来ないし、妹には弱音も吐ける。どこか頼りないその雰囲気はまさにハマリ役です。

その反面、劇中後半では妹たちの成功の為に体を張ってヤクザを追い払ったり、母の心に打たれて「裏切り」とも言えるストーブ集めにすすんで参加する等、芯の強い部分もしっかりと演じています。

「甘さ」と「強さ」。この使い分けが、日本で一番似合う俳優と言えるのはないでしょうか?

使い分けと言えば、岸部一徳さん。私の中では「さびしんぼう」の理科の先生役が印象的なのですが、皆さんがご存知なのはTVでの活躍でしょう。特に有名なのは「相棒」での警視庁の小野田官房室長役。

淡々とした演技は観る者にしっかりと冷酷さを植え付け、「相棒」の中では嫌な存在を演じ切っています。一方この「フラガール」では、炭坑からハワイアンセンターの責任者になった吉本を笑い7割で演じています。

この笑いのバランスはまさに絶妙で、劇中で場面の切り替え時に、観る者の心までも切り替えてくれる演技を見せてくれます。やはり岸部一徳さんは「笑い」は魅力だなぁ、としみじみ感じました。そしてその笑いのおかげで、シリアスな演技がより光るのだ、と言う事も教わった気がします。

先生との別れの際、「いい女になったな」と言うシーンはまさに笑いのおかげで引き立った演技ではないでしょうか?

富司純子さんも忘れてはならない存在です。

物語後半では、出番こそ少なくなるものの、その存在感は圧倒的。であるにも関わらず母の優しさを滲みだす演技は、さすがに役者歴の長さを感じさせます。

私にはその後半の演技に、役者として、人間として、得て来たもの全てを演じにぶつけているように見えます。

そしてストーブを集めるシーンでは、母の優しさを心で感じ、涙が止まらなかった事を付け加えておきます。

出演シーンはほんの僅かですが、志賀勝さんも良い味を出しています。

過去に悪役で一躍有名になり、そのキャラクターを生かした役柄が多かったのですが、最近はコミカルな部分の魅力を存分に発揮し、この映画の中でも小百合の優しい父を見事に演じ切っています。

そして不思議な事に、この映画では昭和邦画の最盛期に任侠映画で活躍した人と、平成の邦画界でやはり任侠映画で主演を果たした役者の競演が叶っているのです。

富司純子さんの「緋牡丹博徒」、志賀勝さんの「仁義なき戦い」、そして豊川悦司さんの「新・仁義なき戦い」です。

邦画の栄華と衰退を知る役者が、これからの邦画を背負う俳優と共に演技する、そしてその映画は大ヒット。ここに、何かの運命を感じたのは、私だけではないはずです。


さて他にも書きたい事が山ほどあるのですが、今回は長くなってしまったのでここまでにしたいと思います。

あまりに長く書くと、言いたいとこがきちんと伝わらない場合って私生活にも良くありますからね(笑)


と言う訳で次週は「フラガール」のコラムの続きです。

フラガールたちについてや、リアルと嘘の境、ロケ地情報等等、触れようかと思います。


それでは、また!