2007年4月8日日曜日

フラガール(ネタバレ編)

・・・今回はネタバレ注意・・・映画本編をご覧になってからお読みください。


今回のコラムは、前々回での予告通り「ネタバレ編」としてお贈りしたいと思います。

なのでまだご覧になっていない方は、まず映画本編をご覧になってから、再びこちらへお越し下さい。

映画を観ていないのに内容を知ってしまうと言うのは、製作者側にとっても、視聴者本人にとっても、悲しい事ですから。


皆さんはこの映画「フラガール」を見て、いかがでしたか?

私は性懲りもなく、また泣いてしまいました。

しかもDVD購入後初めて見たのは「コメンタリー」で、映画の音響よりもキャストとスタッフの声が中心なのに、気づいてみたら途中から全く会話等耳に入らず、やはりあのシーンでは泣いてしまいました。

きちんと本編を見たら「ヤバいだろうなぁ~」と思っていたのですが、予感的中(笑)

先ほど観終えた2回目のDVDは、後半から泣きっぱなしでした。

皆さんはいかがでしたか?この映画から、何を感じましたか?


さて、映画がヒットする理由は多くの場合「年齢層に関係なく好評化」でなければなりません。「日本沈没」2006年版と言う例外もたまにありますが、「フラガール」はまさに上記の理由が当てはまります。

今から40年以上も前の出来事を描いているのに、下は20代から受け入れられる映画。

以前紹介した「ALWAYS三丁目の夕日」にも通じるものがあります。共に変わりゆく時代を描いていると言う部分は、大いに共通しています。

笑いと涙の配分も、似ている部分があります。

しかしこの両作品には決定的な違いがあるのです。

それは「実際にあった出来事が脇役に進む物語」と「実際に起こった出来事を中心に進む物語」です。

ALWAYS三丁目の夕日」は東京の開発が加速する中、そこに生きる人々の生き様を描いています。そして物語の象徴として印象的だったのが、建設中の東京タワーでした。

一方の「フラガール」は日本中の炭坑が徐々に閉鎖されて行く中、そこに生きる人々が、新たな目標に向かって突き進んで行く様を描いています。そして物語の象徴は人間である「フラガール」たちなのです。

劇中の時代は、すでに過去の話であり、映画の舞台となった双方の場所にその面影はほとんど残っていません。

ALWAYS三丁目の夕日」は、今無くなりつつある近所付き合いや人情が描かれ、「昔は良かった」と感じさせる話である一方、「フラガール」は女性が強くなった現代の切っ掛けとも言える「始まりの時代」を描いています。もちろん男性にも共感出来る部分は多々あるので一概にそうとは言い切れませんが、多くの女性の共感を得、支持が大きかったからこそヒットしたと言えるのではないでしょうか?

この映画のヒットの要因には、まだ他の要素もあります。

中でも特に大きかったのは、「小百合」役の山崎静代さんの存在です。

お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のメンバーとしては大いに有名です。しかし彼女は、当時役者としては全く活動しておらず、製作者側も起用には勇気が必要だったかと思います。

結果、その決断は正解で、彼女はこの映画に大きな風穴をあけているのです。

映画をご覧になった方は既にご存知だと思いますが、演技は決して巧いとは言えません。

しかしその存在感は、他の有名な役者を圧倒する程強烈で、映画前半では深刻な話の中に笑いのスパイスを降り蒔いています。不思議な事に、その笑いは決して目立つ訳ではなく、でも観る者の心に残るのです。

コメンタリーを聞くと彼女の演技の背景が垣間見えるのですが、監督の演技指導が功を奏しています。

笑わせる事が仕事の「お笑い」をいかにさりげなくさせるか、監督が威力を発揮し、あの演技を勝ち取った訳です。

TVでは監督ではなく「演出」と言われる理由のひとつかもしれませんね。

そして彼女の起用は、20代にも受け入れられる映画の要素となった訳です。


この映画には、現在の邦画界を背負う俳優が数多く出演しています。

まずは主演の松雪泰子さん。劇中では都会から来た「歯に衣着せぬ、ズバズバ言う女」として描かれています。とにかく田舎では浮きまくる存在を、見事に演じ切っています。

「強い女性」を演じる一方で、中盤では少しずつ明らかになる私生活を垣間みられ弱い一面を覗かせるのですが、この演技がまた素晴らしい。決して人には頼ろうとせず、曝け出す訳でもない。なのにポツリと過去を語るその仕草が、現代の私たちに通じるものがあり、私はこのシーンに大いに共感しました。

次に豊川悦司さん。毎年何本もの映画に関わる、まさに「映画俳優」の代表格と言える方です。

劇中では頑固な山の男である一方、母の手で育てられたせいかどこか優しく、ちょっと甘い性格です。

食事中は母に反論出来ないし、妹には弱音も吐ける。どこか頼りないその雰囲気はまさにハマリ役です。

その反面、劇中後半では妹たちの成功の為に体を張ってヤクザを追い払ったり、母の心に打たれて「裏切り」とも言えるストーブ集めにすすんで参加する等、芯の強い部分もしっかりと演じています。

「甘さ」と「強さ」。この使い分けが、日本で一番似合う俳優と言えるのはないでしょうか?

使い分けと言えば、岸部一徳さん。私の中では「さびしんぼう」の理科の先生役が印象的なのですが、皆さんがご存知なのはTVでの活躍でしょう。特に有名なのは「相棒」での警視庁の小野田官房室長役。

淡々とした演技は観る者にしっかりと冷酷さを植え付け、「相棒」の中では嫌な存在を演じ切っています。一方この「フラガール」では、炭坑からハワイアンセンターの責任者になった吉本を笑い7割で演じています。

この笑いのバランスはまさに絶妙で、劇中で場面の切り替え時に、観る者の心までも切り替えてくれる演技を見せてくれます。やはり岸部一徳さんは「笑い」は魅力だなぁ、としみじみ感じました。そしてその笑いのおかげで、シリアスな演技がより光るのだ、と言う事も教わった気がします。

先生との別れの際、「いい女になったな」と言うシーンはまさに笑いのおかげで引き立った演技ではないでしょうか?

富司純子さんも忘れてはならない存在です。

物語後半では、出番こそ少なくなるものの、その存在感は圧倒的。であるにも関わらず母の優しさを滲みだす演技は、さすがに役者歴の長さを感じさせます。

私にはその後半の演技に、役者として、人間として、得て来たもの全てを演じにぶつけているように見えます。

そしてストーブを集めるシーンでは、母の優しさを心で感じ、涙が止まらなかった事を付け加えておきます。

出演シーンはほんの僅かですが、志賀勝さんも良い味を出しています。

過去に悪役で一躍有名になり、そのキャラクターを生かした役柄が多かったのですが、最近はコミカルな部分の魅力を存分に発揮し、この映画の中でも小百合の優しい父を見事に演じ切っています。

そして不思議な事に、この映画では昭和邦画の最盛期に任侠映画で活躍した人と、平成の邦画界でやはり任侠映画で主演を果たした役者の競演が叶っているのです。

富司純子さんの「緋牡丹博徒」、志賀勝さんの「仁義なき戦い」、そして豊川悦司さんの「新・仁義なき戦い」です。

邦画の栄華と衰退を知る役者が、これからの邦画を背負う俳優と共に演技する、そしてその映画は大ヒット。ここに、何かの運命を感じたのは、私だけではないはずです。


さて他にも書きたい事が山ほどあるのですが、今回は長くなってしまったのでここまでにしたいと思います。

あまりに長く書くと、言いたいとこがきちんと伝わらない場合って私生活にも良くありますからね(笑)


と言う訳で次週は「フラガール」のコラムの続きです。

フラガールたちについてや、リアルと嘘の境、ロケ地情報等等、触れようかと思います。


それでは、また!

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