2007年8月12日日曜日

河童〜KAPPA〜(紹介編)

映画好きな人が、映画と違う道へと進み、やがて夢を叶える為に映画を撮った。

ちょっとドラマチックな展開は、映画の中の世界。なんて思っていませんか?


邦画がかつてない程に活況を得た今日では、映画に憧れていた芸能人が映画監督と言うもう一つの仕事を経験するには、またとない好環境にあると言えるでしょう。

それは北野武監督等、芸能人でありながら世界に通じる作品を撮る監督が積み上げて来た実績が大きく影響しているのですが、今回お贈りする映画「河童~KAPPA~」が造られた時代にはそのような実績等ほとんどなく、ひとつの賭けに近いものがありました。

この作品には、4年の製作準備と10億円の資金が投入されています。

大きな苦労を伴う石井竜也さんの夢が、音楽での大成功によって現実になったわけです。

そして、今回お贈りする「河童~KAPPA~」を語る上で避けては通れないのは、監督である石井竜也さんのそれまでの軌跡です。


1959年、茨城県北茨城市生まれ。その名前が示す通り茨城県の北端に位置し、隣り合わせているのは映画「フラガール」で有名ないわき市です。

今でこそ茨城県の北側は人口減少等で寂れていますが、監督が生まれた前後の時代は豊富な海と山の恵みに加えて、炭坑等の収入で潤っていました。

映画のパンフレットに記載されているのですが、幼き日の石井竜也さんは父親と共に良く映画を観に行っていたそうです。

映画から世界各国の様々な風景や人間を見、現実の世界では故郷の自然に育まれた少年時代を過ごしていたのではないでしょうか?

小さな頃から父親の影響で絵画を始めた少年はやがて、大学へと進みます。

この頃には日展に入選し、絵画の実力は既に証明済みでした。

時を同じくし、大学のサークルは映画研究会に所属します。このサークルが後の「米米クラブ」へと繋がるわけです。

米米クラブの成功は、皆さんご存知の通りなのでここでは省かせていただきますが、音楽だけでなく複合的なアーティストとしての活躍は、バブルの日本では象徴的な存在だったと言えます。

この華々しい成功が「河童~KAPPA~」の製作へと繋がって行く訳です。


石井竜也さんは以前とある番組で、面白いエピソードを語っていたことがあります。

それは所蔵している映画についてのことです。

あまりに沢山の数のビデオやレーザーディスクがある為に、メンバーに貸す時はノートにつけている、と笑いを交えて語っていたのです。

ノートにつけたかどうかは定かではありませんが、それだけ沢山の作品を所蔵していることは確かです。

実際に映画のパンフレットには5000近い作品を持っていることが書かれていますが、これは劇場公開前、つまり今から13年前の話です。

いったい、今はどれだけの作品を所蔵しているのでしょうね。

それだけ沢山の作品を、目に焼き付けて来た訳ですから、おのずと映画の手法等は習得しています。

実際に「河童~KAPPA~」の中では、映像の撮り方や音楽の合わせ方等で様々なテクニックを駆使しています。

私は現在、本広克行監督と山崎貴監督が好きで、これからも個人的に応援して行こうと思っているのですが、今思えば石井竜也監督の映画と出会っていたから、本広克行監督の作品へと流れて行くことが出来たのかもしれません。

どちらの監督も、映画へのこだわりと、過去の作品への愛情が感じられると言う共通点を持っています。


憧れた映画があれば、当然その作品に似た手法や物語になる場合もある訳で、この「河童~KAPPA~」もスピルバーグ監督の「E.T.」に物語が似ていると言われています。

(石井竜也監督が「E.T.」を好きなのかどうかは不明ですが・・・)

しかし、それはあくまで大まかに似ているだけで、映画の筋は大きく異なっています。

詳細な物語の紹介は次回へと譲りますが、親子3代に渡る親子愛を描いた作品である、と言うことだけは付け加えさせて下さい。


私がこの映画で特に気に入っているのは、音楽の使い方です。

音楽を手がけるのは金子隆博さん。個人的な活動や別ユニット等でも活躍されていますが、米米クラブのメンバーとしても有名です。

同じグループのメンバーであるからこそ、しっかりとした意思の疎通が出来、それが完成度に結びついているのはまぎれもない事実でしょう。

その音楽は、米米クラブのそれとは全く違い、オーケストラでの壮大なスケールで表現されています。

私が特に好きなのは、映画の後半で使用される組曲です。(この部分も「E.T.」に似ている所以です)

場面展開に会わせた様々な曲調が延々と続き、まさに映画のクライマックスと一体となり観る者の目と耳から、直接感情に訴えかけてきます。

この後半は、撮影や編集だけでなく、特に音とのシンクロにこだわって、綿密な打ち合わせが行われていたのでは?と思わせる程に素晴らしい仕上がりである、と私は思います。

既に廃盤となってしまいましたが、この映画のサントラは聴いているだけで、それぞれの場面が思い浮かびます。

それに一役買っているのは、「台詞」と言うおまけが曲の合間にあるからでしょう。

この台詞付きのサントラと言うのも、映画好きならではの発想と、過去の映画音楽へのオマージュが感じられます。


さて、かっぱと言えば日本では特に有名な妖怪です。東北地方等では今でもその伝説が残っています。

ただ残念なことに、実在の動物であると言う証拠はなく、あくまでも架空の存在。

でも、愛されるべくキャラクターであることは、何度も「かっぱ」を題材にした映画が造られていることから証明出来るでしょう。

この夏も、かっぱを主人公にアニメ映画が造られています。

話がそれてしまいましたが、映画に登場するかっぱにはとある秘密があります。

ここで明かすと未見の方の楽しみが半減してしまうので明かしませんが、様々な映画を観た監督ならではの設定であることは確かです。

そしてそのキャラクターは、それまでのかっぱ像とは違う風貌で、驚かされることでしょう。

子供のかっぱ「TEN」は愛くるしいキャラクターですが、その父母は妖怪と呼ぶにも違うし、当然愛らしいものでもありません。

この辺りに、デザイナーとしての石井竜也監督のこだわりが感じられます。


さて、これ以上語ると大切なネタをバラしてしまいそうなので、今回はここまでとします。

次回は、約1年ぶりに「河童~KAPPA~」を観て、ネタバレ編として大いに語りたいと思います。

以前にも書いたことですが、この作品は私の中では邦画BEST3に入ります。

それは今でも変わりありません。

それだけ丁寧に造られ、愛情のこもった作品であると、最後に言わせて下さい。

この映画は過去に2度程ビデオ化になり、レーザーディスクも発売されましたが、現在どれもが廃盤であり、新品を手に入れることは出来ません。

レンタルビデオも、古い作品なので在庫を持っていない店が多いかもしれません。

その代わりに、当時活況であったレンタルビデオの在庫落ちが、中古として出回っています。

しかしながら、こちらも「幻の作品」になりつつあると言う現状を知った方々によって買われていて、なかなかお目にかかることが出来ないかもしれません。

なので、もし手に入らなければ、ネタバレ編を読むのは控えた方がいいかもしれませんね。

いつか「河童~KAPPA~」を手にし観ることが出来た時に、読んでいただければ、私はそれで構いません。


次回は19日の更新を予定しています。


それでは、また!

2007年8月5日日曜日

UDON(ネタバレ編)

一週間のご無沙汰です。

今年、関東地方の梅雨は長く、やっとあけたかと思えば台風の影響で異常な程に蒸し暑い日々が続いています。みなさま、お元気でしょうか?


先日どうしても気になる事があり、ネットで調べものをしました。

それは私の生まれ故郷、千葉県銚子市で何が上映されているか、です。

1月29日のコラムでも述べた通り、銚子市では2006年に2館が閉館となり最後の1館のみの営業となっていたのです。

そう「なっていたのです」なのです。

残された最後の1館も、私の知らぬ間に閉館となってしまっていたのです。

歴史ある映画の火が、とうとう街から消えてしまいました。

最後に閉館となったのは銚子セントラルと言う映画館。

私が1月29日のコラムで触れた、生まれて初めて見た映画「ビューティフルピープル」と「シンドバット」を上映した映画館でもあります。

驚いた事に閉館したのはそのコラムを書いた日から数えてわずか4日目、2月2日。

ひょっとしたら虫の知らせだったのでしょうか。

さらに驚いたのは、2月4日に行われた最終無料上映。最後の作品は「男はつらいよ 寅次郎紅の花」、言わずと知れた渥美清さんの遺作です。

この作品は、私と寅さんの映画館での初めての出会いであっただけでなく、故郷銚子で最後に見た邦画でもあるのです。

これだけの偶然が重なると、映画と私の運命のようなものを感じます。

銚子市の映画館は無くなってしまいましたが、現在大きなショッピングセンターの建設が計画されており、もしかするとその中にシネコンのような形で復活するのでは?と淡い期待を抱いています。

もしそうなれば、これからは故郷の為に足を運ぼうかと思います。

間もなく着工との噂なので、どうなるかは近日中に分かるでしょう。


さて今回お贈りする映画は本広克行監督、映画10年目にして10作目の集大成、故郷の為の故郷による、故郷の映画です。

故郷への並々ならぬ愛情を感じると共に、映画への溢れんばかりの愛情を感じる作品となっています。

どこにそれが込められているかは後ほど述べるとして、まずはストーリーの大まかな紹介です。


ここからはネタバレになりますから、まだご覧になっていない方は是非、レンタルでも構いませんのでご覧になってからお越し下さいませ。


主人公、松井香助はアメリカで夢を追っていました。しかし鳴かず飛ばずの日々は心の空回りと共に僅かな稼ぎをも奪い、失意の中で帰国します。

彼の故郷は、日本一小さな県、四国の香川。

街を歩けば製麺所に当たると言われる程にうどん作りが盛んな街で、彼の実家もそんな製麺所の一つでした。

名前は松井製麺所。

彼は家業が嫌いでした。そして違う道を歩もうと飛び出したのですが、突然の帰国にも姉夫婦や仲間たちは暖かく迎えてくれました。ただ1人を除いて・・・

手先は器用だが、人生には不器用な父、拓富。

息子である香助が、家を飛び出す際に放った言葉を、香助へとつき返し、戒めるのです。

香助は、昔からの仲間の助けのもと一生懸命に動き始めますが、そんな息子は関係なしとばかりに拓富はほとんど会話もしません。

香助が就職したタウン情報誌は香助と仲間たちの思いつきから始まったうどん巡礼記がヒットし、売り上げはうなぎ上り。日本一小さな県は、日本で一番にぎやかなうどんブームの渦中へとはまって行きます。

そしてブームは、小さな影を落とし、その影は徐々に大きくなり・・・

香助はやっと拓富に向き合う決意をしますが、そんな息子の心からの言葉も聞けず拓富は人知れず作業場で他界してしまいます。

たった一人の職人を失った松井製麺所の運命は?そして香助の決意は?


途中に様々な遊びや新たな試みが含まれていますが、決して複雑な要素は含んでいないシンプルな物語です。

あなたはこの映画の後半を、どう感じましたか?

分かり合えない父と息子、と言うシチュエーションは私にはヒットしました。

小さな出来事が一つ描かれるたびに、涙が溢れました。その一つ一つが実話であると聞き、2回目の鑑賞では違った涙が溢れました。

姿を現さない主人への励ましの書き込み、幼き日の回想、香助の前に現れた父の幽霊とのやり取り、そして子供たちの笑顔に満足して去って行く拓富の笑顔と後ろ姿。そのどれもが、からだと心で人間の暖かさ感じ、涙を溢れさせました。

あなたは、涙のある映画についてどう思われますか?

以前「サトラレ」でも述べた事ですが、笑いがあって初めて成り立つものだと私は思います。

ユースケサンタマリアさん演じる香助と、トータス松本さん演じる庄介との絶妙な掛け合いが誘う笑い。その笑いには以前から共演経験がある2人だから成し得たもの。小西真奈美さん演じる恭子は、ちょっと強烈になりがちな2人のコンビに添えた華一輪。薬味のようなもの。

そして涙を流させる上で大切なもうひとつは、物語そのものがシンプルであること。

そう、この映画の大切な題材であるうどんと似ているのです。


造り上げるには長い時間の手間と苦労をともなう、がしかし、味付けは至ってシンプルな方がおいしい。


どうですか?

映画の製作過程では様々な手間と苦労を伴います。しかし、その映画を良いと感じる人の心が純粋な程、その感動は大きなものになります。

一見ベタな人情劇ですが、本広監督流の変化球でちょっとだけ味付けをし、感動的な音楽と言う器をまとった、分かりやすい物語に仕上がっているのです。

謎解きやミステリー等ではなく、常に人を心から楽しませる為の映画造りを心がけている監督ならではの一球勝負です。

そして、この分かりやすさを受け入れられるかどうかが、この映画を面白いと感じるかどうかの境目だと私は思うのです。


私はコラムを書く時はいつも、直前に作品を観ます。

そして感じた事を観ながら要点だけ書き記し、観終えた後にそこから文章を組み立てて行くのですが、今回はとても全てをここに記せそうもありません。かと言って、何回ものコラムに分けたのでは伝わりづらいとも思います。

なのでここから先は、ある一つの考察に絞って、長めに記して行こうかと思います。

どうかお許しください。

いずれまた、本広監督作品を取上げる際には、ちょっとづつ触れてゆきますので。


コラム冒頭でも述べた通り、この映画には本広監督の故郷への愛情と共に、邦画への愛情を感じるのです。

まずは、香助が家族に黙って帰宅する際のやり取り。

どこかで見覚えがありませんか?

そう、「男はつらいよ」でお約束の寅さん帰宅場面です。

香助のリアクションは、帰りづらくてすっとぼける寅さんそのもの。

お遍路さんの後ろから、ひょこっと出てくる姿も、寅さんを彷彿とさせます。

家族と仲間たちの見て見ぬ振り、と言う一見冷たさを感じる対応も、実は愛情の現れ。玄関を開けて入ってくる香助に対してするわざとらしいリアクションも、とらや(くるまや)御一行と全く同じ。

それだけではありません。

「男はつらいよ」では定番となった夢落ちまであります(オープニングではないですが・・・)。

食べ物を扱う店が主人公の実家と言う設定も、近所の人が集う店と言う設定。

そしてそのどれもが「男はつらいよ」へのオマージュである、と私は思うのです。

監督がどうしてこのような設定にしたのか私には分かりませんが、少なくとも自分に影響を与えた多くの映画への愛情が、そうさせた、と言えるのではないでしょうか。

監督の過去の作品にも、八千草薫さんや金田龍之介さんなど邦画に貢献した役者が出演している事からも、伺えるかと思います。

そしてもう一つ、決定的な証拠と私が位置づけている事があります。

それは本広監督おなじみの手法、作品をまたいで登場するお約束キャラクターの数々です。

この映画にも沢山出演しています。

「サマータイムマシンブルース」のズッコケ3人組ことZ3は印象的でしたが、実は目立たずに出演している数多くの中の1人に、その鍵があるのです。

役名は、坂下。

「踊る大捜査線 THE MOVIE」で、警視庁副総監を誘拐した主犯。

UDON」ではきちんとした設定があるようで、「踊る大捜査線 THE MOVIE」当時少年だった坂下は短い期間で少年院を退院。その償いのため四国八十八ヶ所巡礼の旅に出たが、いつしかうどんにはまってしまい、うどん巡礼の旅になってしまった。と言う事らしいです。

しかし私が注目したのはその設定ではなく、坂下を演じている役者の事です。役者に鍵があるのです。

どこかで見覚えがありませんか?

そう、くるまやの従業員三平ちゃんこと、北山雅康さん。

「男はつらいよ」シリーズ40作目以降出演されていた役者なのです。

どうです?本広監督作品にいくつか出演していた事は抜きにしても、単なる偶然とは違う気がしませんか?


「男はつらいよ」は日本の国民行事にも等しい存在でした。言い換えれば毎年必ずあるお祭りみたいなもの。

そのお祭りが失われて、はや10年以上。

ひょっとしたら、本広監督は故郷への恩返しとして、香川県のお祭りになる映画を作ろうとしたのではないでしょうか?

そして劇中の台詞「けど、終わらん祭りはないから」が最後でひっくり返されるのと同じように、この映画「UDON」が故郷香川にとって、時代を超えても愛される終わらない祭りになってくれる映画を目指したのではないでしょうか?


いつか本広監督に会えたなら、ぜひこの事を聞いてみたいと思います。


いかがでしたか?今回のコラムは。


さて次回紹介する作品と、その次の作品も、故郷への愛情が沢山詰まった映画です。

残念ながらどちらの作品も現在は入手が難しいので、「紹介編」と「ネタバレ編」に分けて紹介したいと思います。

そのどちらの作品も、私の愛する映画(「覚え書き」参照)です。

次週は石井竜也監督作品「河童」、その次はすずきじゅんいち監督作品「秋桜 ~コスモス~」をお贈り致します。


来週には間違いなく更新致しますので、お楽しみに!!


それでは、また!



映画データ


2006年日本映画 134分

監督            本広克行

製作            亀山千広

プロデューサー       織田正彦

              前田久閑

              安藤親広

              村上公一

脚本            戸田山雅司

音楽            渡辺俊幸

撮影            佐光朗

照明            加瀬弘行

録音            伊藤裕規

美術            相馬直樹

装飾            田中宏

編集            田口拓也

アソシエイトプロデューサー 小出真佐樹

VFXスーパーバイザー    石井教雄

VFXディレクター      山本雅之

監督補           波多野貴文

助監督           藤本周

製作担当          巣立恭平

キャスティング       明石直弓

出演            ユースケサンタマリア 小西真奈美 トータス松本 升毅 要潤 片桐仁 永野宗典 小日向文世 木場勝己 鈴木京香 他