2004年8月24日火曜日

スペーストラベラーズ

まず最初に、お断りしなければならないことがあります。

この「極私的感涙映画評」は基本的にネタバレです。

その趣旨は、離れた場所に住んでいる見知らぬ人とネットというパイプで、少しでも同じ感動を味わいたいというところから来ています。

なのでもし、作品をご覧になっていないのでしたら、楽しみは半減か、それ以下になってしまいますので、このコラムは読まないことをお薦めします。

勝手ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。


さて、本題に入りましょう。


徹底的に悲劇だったり、シリアスなドラマは別として、泣ける映画には必ず笑いの要素が入っています。

洋画は特にこの傾向が強いと思って良いでしょう。

そして日本にも、この手法を取り入れている監督がいます。

本広克行監督です。

日本で一番「ハリウッドスタイル」で「巨匠」であると、私は思っています。

もし本広監督作品をご覧になったことがある方は、思い出してみてください。

「踊る大捜査線」の一作目や、二作目、私の特に好きな「サトラレ」。どれもその要素が含まれています。

プロでもない私に詳しいことは分かりませんが、それは多分、ある程度は簡単に引き出せる「笑い」によって感情を呼び覚まし、悲劇を予想させるような前振りをしつつ、「泣き」を引き出しているのだと思います。

この作品は、日本の映画には珍しい、舞台が原作です。

その舞台は未見ですが、舞台としての魅力を上手く映画に引き込んだと私は思います。

本広監督は現在次回作を撮影中ですが、その作品も舞台が原作となっています。

今から完成が楽しみで、そしてまた、どんな形で笑いと泣きを引き出してくれるのか、期待は高まっています。


「スペーストラベラーズ」。その邦画らしからぬ名前には意味があります。

この映画の主人公は、一見すると3人の幼なじみに見えますが、タイトルが意味するところ、銀行のフロアに閉じこめられた6人の人質も主人公級であると言っても良いでしょう。

ひとりひとりの個性が、非現実的なドラマをリアルなものに魅せる魅力を引き出しています。


物語は、孤児院の幼なじみ3人が銀行強盗を始めるところから始まります。

午後3時になり、一般業務の終了した銀行に取り残されたのは、フロアの人質6人と、会議室に閉じこめられた多数の行員。

シャッターが降りたことにより、銀行強盗の人質という非現実的な空間へと変貌します。

そこは外の世界とは隔離された別世界。

フロアと、会議室と、大型金庫の3つでリアルタイムに進むドラマは、小出しに笑わせる要素ばかり。

張りつめた空気のはずが、いつの間にか笑いに引き込まれて行きます。

その笑いの波をゆっくりと引き出すのが、本広監督の素晴らしいところでしょう。もちろん役者の演技も光っています。

個性豊かな役者陣が、一人だけ目立つこともなく、絡み合いながら物語を薦めていきます。

ちょっと話が逸れますが、この映画の中には海外の大作に出演した役者が3人います。

一人は金城武、もう一人は渡辺謙。さて、もう一人は誰でしょう?

答は、コラムの最後にお教えしましょう。

やがて銀行強盗に気づく警察。どこか間抜けなのも、小出しに笑わせる要素のひとつ。

観ている人間の感情は、このあたりから監督に掌握されてしまいます。

あたかも自分が人質に一員のように。

しかし、笑いに侵されることなく緊張が完全に消える時が、突然訪れます。

それは深津絵里演じる、みどりがマシンガンをぶっ放すシーン。

ここから強盗と人質の関係は、現実では有り得ない形に進化していきます。

「友情」です。

やがてその友情は、シリアスに進んでいく銀行外の警察たちとは対照的に、団らんと、僅かの安らぎの時間を生み出します。

その後の悲劇を、更に悲しいものとさせるように・・・


ストーリーはここまでにしておきましょう。


この映画の言いたかったことは何でしょう?

ご覧になったあなたはどう思いますか?

私はその鍵が、物語の核にあるアニメ「スペーストラベラーズ」にあるような気がします。

初代の「ガンダム」を思わせるシチュエーション(この場合、再放送で灯がついて映画になると言う意味ですが)。それに熱中して、現実を見失いつつある人、そして現実逃避しても生きられる現代。ガンダムが流行始めて以降、増え続けているそんな人々と、世の中への一種の警鐘がある気がしてならないのです。

魅力ある「非現実の世界」は、どれだけ突き詰めても、決してリアルにはならないと。

だから、「今をしっかり生きて、悔いのない人生を送ろう」と。

たとえそこに「死」が待っていても・・・


あなたは今、悔いのない生き方をしていますか?


私は今、貧しくとも、充実した生き方をしています。

それはいとも簡単に壊れてしまうかもしれません。

でも恐れていては、何も始まりません。

もし、今の生き方に少しでも疑問を持ったら、立ち止まって考えてみてください。

これで良いのか?と

長い人生の中、考え立ち止まる時間なんてほんの一瞬ですから。


次回のコラムは、「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」です。

じつは私、前二作は観ているのですが、この作品は未見です。

しかし大きな興奮と感動を残してくれた前二作を、決して裏切らない内容であると信じています。

なので、どうかフライング気味な評価をお許しください。

全ては次のコラムまでに明らかになりますから・・・


そうそう、忘れるところでした。

最後の一人ですが・・・OK牧場こと、ガッツ石松さんです。

あの警備員、いい味出してましたよね。素なのか演技なのか分からないところが魅力だったりします。

ところで、何の映画かって?

驚かないでくださいね。スピルバーグ監督作品の「太陽の帝国」です。

それだけじゃないですよ。あの松田優作さんが死を前にしての迫真の演技を披露した「ブラックレイン」にも出演しています。

実は凄い人です。

少しは見直しましたか?


それでは、また。


2000年日本映画 125分

監督   本広克行

主演   金城武 深津絵里 安藤政信 池内博之

音楽   松本晃彦

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