今回はあえてネタバレにならないコラムで勝負しましょう。
この映画は、今までに沢山あったようで、あまり見かけないタイプの映画です。
映画とミュージックビジネスが密接に結びついた80年代だからこそ実現出来た珍しいタイプとでも言えるでしょうか。
まず、この映画に登場するエレン・エイムやその他のグループは実在しませんが、その歌は、実際のアーティスト名でサントラ化され、しかも幾つもの曲がシングルカットしチャートの上位に上り詰めました。さほど有名でもないアーティストを、映画と結びつけてヒット・成功させた良い例の始まりではないでしょうか?
有名なアーティストを多用した、同時期に公開の「フットルース」と対極をなしているとも言えます。
しかもこの映画では、映画の為の限定ユニット「Fire Inc.」が結成、映画のオープニングで観客をグッとつかみ、エンディングでは主人公トムとエレンの揺れ動く心情を見事に演出しています。
ちなみに前回のコラムで述べた「日本語の歌詞を付けてTVドラマの主題歌になった」のがこの曲であり、カバーされた日本でも大ヒットしたのです。
その曲名は「今夜はエンジェル」歌 椎名恵。きっと30代より上の方には記憶に残っているでしょう。
「ヤヌスの鏡」というドラマの主題歌です。
話が逸れてしまいますが、この頃のTVドラマはカバー曲が多かったですね。
例えば「スチュワーデス物語」の「ホワット・ア・フィーリング」は映画「フラッシュダンス」、「不良少女と呼ばれて」の「ネバー」・「スクールウォーズ」の「ヒーロー」は共に映画「フットルース」等々。知られていないところでは、あの渡辺美里のデビュー曲もフットルースのサントラからのカバーでした。
個人的に「今夜はエンジェル」と言う曲名に不満はありますが、国内で発売されたサントラでの本歌の曲名が「今夜は青春」だった事を考えると、仕方のない事かも知れません。
ちなみに本当の曲名は「Tonight is What it Means to be Young」です。「今夜は青春」と言う訳は、成る程ですね。
この映画が公開された1984年前後は、日本のカバー主題歌同様、音楽映画の当たり年でした。先程触れた「フラッシュダンス」「フットルース」、翌年には「セントエルモスファイヤー」(後にフジテレビでドラマ化された「愛という名のもとに」に多大な影響を与えたとされる)、そして「ストリートオブファイヤー」どれもがそれぞれの曲の個性を引き立て、似か寄らない作品に仕上がっていました。
その中でなぜこの作品を取り上げたのか?
一つ目は、歌ばかりが注目されている映画の中で、恐らく唯一、バックに流れるサントラを重要視しているからです。歌に負けない量のサントラが、観る者の心を血湧き肉躍らせるのです。
その音楽の作曲・演奏者は、ライ・クーダー。天才的ギタリスト。
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」と言えば、普段映画を見ない音楽好きの方にも有名な作品ではないでしょうか?
彼の音楽がなければ、この映画は成立しなかった、と言っても過言ではないでしょう。
残念ながら、サントラには収録されていませんが、その曲の一部が、彼のベスト盤に収録されているので、映画を気に入ったら、是非聞いてみて下さい。映像がなくとも、素晴らしい音楽です。
さて、もう一つの理由。それは、この映画の持つ普遍性です。時代が変わっても色褪せない魅力と題材、なのかも知れません。
ストーリーは至って単純。
例えれば、ヒロインを奪われそれを助ける西部劇。邦画にするならば、一匹狼の高倉健。
不器用だけれども、どこか憎めない、そんな男の憧れを描いています。そこに恋愛映画の要素をミックス、でも基本は壊さない程度の色づけに終わっているのは、さすがと感じさせます。
主人公を演じるマイケル・パレのどこか田舎臭さを感じさせるところも、ひとつの魅力と思えます。
監督のウォルター・ヒルも素晴らしい映像を演出しています。
タイトルにもなった、ネオン灯る闇の中で炎に包まれた大通りは、興奮の中に、美しささえも感じさせます。
分かりやすい物語と相まって、20年以上経った今見ても決して色褪せない魅力を作り出しているのです。
難しい事ばかり考えさせる最近の映画に疲れたあなた、是非、単純明快で後味の良いこの映画を、年が明ける前にご覧下さいませ。
LD時代にもDVD時代にも、いち早く発売されたタイトルですので、中古等も豊富に出回っているはずです。
さて、今月のコラムはあと2回更新致します。
12月中旬は、ブラット・ピット主演「レジェンド・オブ・フォール」、下旬には本広克行監督の大ヒット作「交渉人 真下正義」をお贈り致します。
どちらもオススメの映画ですので、是非是非ご覧になってから、このコラムに挑んで下さいませ。
ちなみに「交渉人 真下正義」は12月17日の発売です。
急激に寒くなりましたが、くれぐれも体調にはお気を付け下さいませ。
それでは、また!
1984年アメリカ映画 94分
製作 ローレンス・ゴードン
ジョエル・シルバー
監督 ウォルター・ヒル
脚本 ラリー・グロス
音楽 ライ・クーダー
出演 マイケル・パレ ダイアン・レイン リック・モラニス エイミー・マディガン
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