今回は前回と違ってネタバレでなければ語れない部分が多々あるので、どうかお許し下さい。
約10年ぶりにこの映画を見ました。
そしてある事に気づきました。
私はこの10年、何一つ変わっていない、何一つ進化していない、そう思って生きてきました。
しかしそれは間違いだったのです。
はじめてこの映画を見た時に感じたのは、雄大な自然の美しさ、兄弟愛、そして主人公トリスタンの生き様に感動しました。
でも涙はなかったのです。一切無かったのです。
ところが今回はどうでしょう?
登場人物それぞれの悲しみが、自分の事のように胸を貫き、かき乱し、涙を溢れさせ、優しくさせるのです。
これほどまでに深い映画だったのかと。
私は、どうやらこの10年で色々な事を経験したようです。
祖父母の死、父と弟の病気、愛する人を引き留められなかった悲しみ、その全てが私の大きな糧になっていたのです。
それでは、ここからは物語のあらすじに、ちょっとした感想を交えながら進みたいと思います。
最初の涙はここでした。
物語が大きな変化を見せる序盤の終わり頃、弟サミュエルの死。
毒ガスで視力がなくなったサミュエルに聞こえた主人公トリスタンの声。途端に溢れる安堵の表情。直後に迎える悲しい死、そしてその表情全てを間近に見ながら、何も出来ずにサミュエルを殺されたトリスタンの深い悲しみ。
この全てが、一気に、津波のように私の心に押し寄せて、涙を搾り取っていきました。
正直な話をすると、前回この映画を見た時も、このシーンは辛かったのです。
でもここまでの悲しみはありませんでした。
しかし今回、これほどまでに深い悲しみがあったのかというくらいに、辛い涙でした。
次に涙が溢れたシーンは、サミュエルの墓参り。しばらく連絡を絶ち、行方の分からなかったトリスタンが突然帰郷し、河っぷちの草原に寂しくたたずむ墓の前で、涙を堪えているシーンです。
サミュエルの死の時に感じた悲しみが、そのまま甦ってきました。
そしてそれに続く、ほのかな愛を抱いていたサミュエルの婚約者スザンナの優しさを拒絶するシーン。
トリスタンの悲しみと罪の念が、私の心に深く深く心に刻まれました。
この物語の序盤で、3人の兄弟は誰もがうらやむ程の仲の良さを見せつけていましたが、サミュエルの死を切っ掛けに一気に崩れ、とうとう墓参りの直後に決定的な事態に発展してしまうのです。
家を出る兄、アルフレッド。その悲しみも深いものでした。
サミュエルの死のやり場は、愛が絡むトリスタンに向けられるのも当然です。
でもこの兄弟が、どれだけ深い絆で結ばれているのかが、ほんの些細なシーンで証明されます。
それは、劇中、要所要所に使われる、手紙の朗読です。
遠くに住む母へ宛てた手紙の一文に、兄の弟に対する気持ちが表れています。
この一文は、後に兄弟がやり直せると信じて疑わない程に説得がある文章なのですが、運命はそれを許しません。
牧場の鉄条網に絡まり泣き叫ぶ牛・・・サミュエルの死と同じ状態です。目の前で生きているのに、助けられず死を待つのみ。トリスタンの苦悩は、スザンナによって癒されていた傷を、さらに深くしてしまうのです。
このシーンのトリスタンの瞳が忘れられません。
結局去っていってしまうトリスタン。戻ってこないかも知れないのに、待ち続けるスザンナ。
どうして一所に安らげないのか、安らげさせてくれないのか、運命を恨むばかり。
全ては、サミュエルの死で神を呪った事から始まったのでしょうか?
その答は、物語の最後で描かれます。
そしてどのようにして、この父子と、兄弟と、一人の女性を巡る愛が決着していくのか?
淡々と進む物語ではありますが、劇中殆ど流れ続けているジェームズ・ホーナーの美しい旋律が、観ている者の心に、波乱や安らぎを与え、観終えた時に、優しい気持ちにさせてくれる事でしょう。
モンタナの美しい自然も特筆すべき事でしょう。この美しい風景があったからこそ、観る者は素直な心で感じられるのだと思います。
ここまでで触れる事が出来なかったのですが、3兄弟役のアイダン・クイン、ブラッド・ピット、トーマス・ハウエル、そして父のアンソニー・ホプキンスの演技は素晴らしいです。
それだけでも見る価値がある作品ではないでしょうか?
これは余談になってしまいますが、サミュエルを演じた役者の名前に見覚えはありませんか?
あの笑顔に見覚えはありませんか?
そうそう。「E.T.」のエリオット少年です。
すっかり大人になって、ビックリしませんでしたか?
しばらくショービズの世界から離れていたのですが、最近の活躍は目覚ましいものです。
どうかこのまま、素晴らしい役者の道を歩んで頂きたい、そう願います。
さて、次回は恐らく今年最後のコラムになるかと思います。
前回の予告通り、「交渉人 真下正義」をお贈り致します。
本広映画の最高傑作であり、あの「踊る大捜査線」から派生した新たな伝説の始まりです!
どうか今年最後の映画は、これをご覧になってハラハラドキドキしながら新年を迎えて下さいね!
それでは、また!
1994年アメリカ映画 132分
監督 エドワード・ズウィック
原作 ジム・ハリスン
音楽 ジェームズ・ホーナー
撮影 ジョン・トール
出演 ブラッド・ピット アンソニー・ホプキンス アイダン・クイン ジュリア・オーモンド ヘンリー・トーマス
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