その時代をリアルに映す映画は、観ている者に共感を与えます。
原作や役者、音楽、舞台になる町など、大事な要素は沢山ありますが、その幾つかが揃っていれば、ヒットするのは当然と言えるでしょう。
この「アイコ十六歳」は、そのどれにも恵まれています。
原作は、1981年に当時史上最年少の17歳で受賞した堀田あけみさんの「1980アイコ十六歳」。女子高校生の視点で描かれた内容は、気持ちのありのままを隠すことなく見事に表現し、多くの共感を誘いました。
長らく手に入らなかったのですが、今年の1月に新装されて入所可能となりましたので、気になる方は読まれる事をお薦めします。映画を観る前に読むのはネタバレで嫌だ、と言う方は、まず映画を観る事をお薦めします。
なぜなら、原作に忠実だからなのです。
一言一句とまでは行きませんが要所要所の台詞や、物語の展開、主人公の性格、そして登場人物達の雰囲気まで、映画ではしっかりと描かれていると私は思います。
演じる役者は、主人公達高校生をオーディションで選び、富田靖子さんを始め、同級生には「ココリコミラクルタイプ」や「大奥」で有名な松下由紀さん(本名の松下幸枝で出演)、映画ビーバップ・ハイスクールの三原山順子を演じた宮崎ますみさん(本名の宮崎眞純で出演)などがこの映画からデビューしています。
オーディションに応募した人の総数は12万7千人。いかに多くの少年少女達が、原作に憧れていたかが良く分かるかと思います。余談ですが、九州地区のオーデイションで富田靖子さんと争った人に花村博美さんと言う方がいます。誰?と思いますよね。その名前は本名で、今は芸名で活躍されています。あえて誰かは書きませんが、この人がアイコ役だったら、もっと原作のイメージに近づいていたんじゃないかな?と私は思います。(もちろん富田靖子さんも充分に魅力を発揮していますよ)
脇を固める役者陣は、母親役に藤田弓子さん、父親役に犬塚弘さん、学校の先生には岸部シローさんや紺野美沙子さんなど、個性派や実力派が揃い、まだ初々しさの残る高校生達をしっかりと支えています。
ちなみにちょい役で有名な方が二人出演されているのですが、甘味屋のおばさんを演じた正司花江さんはいい味を出していますよ。この時代には何処にでも居た、ちょっと世話焼きなおばさん。現代にもいて欲しいと思える大切な役柄です。
もう一人は観てのお楽しみにしておきましょう。今も変わらぬその姿と醸し出す雰囲気、笑いを誘うかも知れません。
音楽監督を務めるのは斎藤誠さん。
名前を知る人は少ないと思いますが、音楽好きな人ならきっとTVやライブでその姿を見ているはずです。
ここ数年、サザン・オールスターズのサポートとしてギターを弾き、桑田佳祐さんの横で見事なテクニックを披露しています。目印は、スキンヘッドに、見るたび違うおしゃれな帽子を被る細身な人です。
この方は他にも、あの福山雅治さんが有名になった頃サポートとして活躍されていました。やはり同じようにTVに映っていた事があります。
他にもサザンや原由子さんの曲が物語の重要な位置でかかり、音楽映画としての一面も垣間見えています。
特にサザンの「Never Fall in Love Again」のかかるシーンは、映像と一体となり当時の空気をしっかりと伝えてくれています。
物語の舞台となるのは愛知県の名古屋。原作そのままの世界です。
主人公達の所属する弓道部という設定も、名古屋だからこそ生きていると私は思います。
さて、時代背景はどうでしょう?
日本がバブルへと足を踏み入れる直前です。変化の激しい1980年代ですが、古いものと新しいものが共存している時代であるとも言えるでしょう。
アイコの住む町は、ちょっと田舎で昔ながらの格子戸を構えた商店などが建ち並び、網と虫かごを持った子供達が走り回り、近所には今では珍しくなったトタン屋根の家など、風景を見ているだけでも懐かしく思えます。
私は違いましたが、この当時の男子高校生はバイクに憧れていた人も多かったと記憶しています。
アイコの(元?)彼氏(劇中では声のみ登場)もバイクを乗り回しているし、物語終盤の暴走族なども嘘でなく、そのものをしっかりと描いています。
肝心の映画としての出来は、今初めて観る方には満足がいかないかも知れません。
それは演じている高校生達の演技や、今の映画とは違う「間」が原因かも知れませんが、その年代の映画はどれも、今初めて観る方には殆どがそう写るものだと思います。
あなたがもし今、30代から40代を生きているなら、一度は観て欲しい作品です。
そして、不況が終わり(本当かどうかはこれからの時代が決める事ですが・・・)好況へと向かうかも知れない現代だからこそ、今を今として描いたこの作品を、過去を今として描く作品として、リメイクして欲しいと願います。
どれだけ多くの人々に、当時の気持ちを甦らせてくれるでしょうか?
それは未知数ですが、この10年で荒んだ心に、きっと「光」を見出してくれると、私は信じて疑いません。
さてこの映画に関係して、一点だけ残念なことがあります。
それは監督の起こした事件です。
映画とは直接関係がないので本来は載せるべきではないのでしょうが、この映画でデビューして以降、描くそのスタイルに共通していると思える事なので、あえて触れる事をお許し下さい。
罪状は「強姦」と「児童買春」。
おそらく今は刑務所も出て、普通の生活に戻っているはずです。
持田真紀さんと加藤晴彦さん主演で、当時まだ無名に近い浜崎あゆみさんの出演されていた映画や、モーニング娘。の映画やTVなど、数多くを手掛け立派に活躍されていただけに残念でなりません。
今後また、映画界で活躍されるかどうかは判りませんし、芸能界が犯罪に対してどれだけ敏感かにもよりますが、少女から大人へと変わる「ういういしさ」を描ける数少ない監督の一人だと私は思っているので、もう二度と同じ犯罪に手を染めない事を誓って復活される事を望んでいます。
前回のコラムの最後で述べた「繋がり」ですが、次回で詳しくお話しする事とします。
勘の良い方は、既に気付かれたかも知れませんが・・・
今回はネタバレを避ける為に、短いコラムである事をお許し下さい。
さて次回はシルベスター・スタローン主演の大ヒット作であり、アクション映画突出のヒーローものの第1作「ランボー」をお贈りします。
ネタバレ必須ですよ!
是非是非ご覧になってから、お読み下さいませ。
それでは、また!
1983年日本映画 99分
製作総指揮 大林宣彦
製作 大里洋吉
原作 「1980アイコ十六歳」堀田あけみ
音楽監督 斎藤誠
音楽 原由子 サザン・オールスターズ ウェストウッド 斎藤誠
出演 富田靖子 河合美佐 伊神さかえ 松下由樹 三次令子 浅野由美 岡達也 波方清 森勇治 他
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