2009年6月30日火曜日

バウンス ko GALS

なんとかギリギリ6月中に更新です(笑)と言っても、これを読まれる方は7月だと思いますが・・・


まずは最初に訂正です。

以前予告で記したタイトルを「バウンス KO GALS」と表記していましたが、正確には「バウンス ko GALS」です。なぜ一部だけ小文字なのかは不明なのですが、そう表記するには理由があるはずなので、ここに訂正させていただきます。

それから前回「なるべくネタバレにならないように」と書いたのですが、この作品の魅力を語る上で物語の核心に触れないのは難しいので、今回のコラムは前半にあらすじ、後半はネタバレを含みつつこの作品の良さを語って行きたいと思います。


ではまず、あらすじを紹介しましょう。


あなたは、たった18時間で一生ものの友情って生まれると思いますか?


答えは"YES"です。

そしてこの一文が、作品の全てを表しています。


高校の体育館になぜかチャイナ服とミリタリージャケットを羽織った女子高生の姿。彼女の名前はRaku-chan(佐藤康恵)。彼女は友達に援助交際を紹介はするが、決して「売り」には手を出さない。そして友達への気前の良さが魅力。

新幹線の車内で地図とパスポートを眺める女子高生Lisa(岡元夕紀子)。留学先のニューヨークでの資金を少しでも増やそうと、駅で降り渋谷の街中を歩く。東京には不慣れな様子が、歩く姿や仕草に見て取れる。

Maru(矢沢心)は親友のRaku-chanとショッピング。そこで「売り」の待ち合わせの男と会う。堕胎したばかりだから手伝ってとRaku-chanを誘うが、上手くかわされてしまう。

しがないスカウトマンSap(村上淳)は109前で仲間と止め処ない話をしているが、ひときわ輝く女子高生を見つける。彼女はさっきのLisaだった。Sapはしつこくアタックをかけるも、ガードの固さに撃沈。

ホテルに入ったMaruは早速「売り」を始めようとするが相手が悪かった。彼はデートクラブも手掛けるやり手のやくざ(役所広司)だったのだ。儲けるつもりが逆に脅され、金ばかりか、身分証明書と携帯電話までも取り上げられてしまう。

Sapを振り切ったLisaは裏路地の一角にある店へと入って行く。そこはブルセラショップ。

留学の為にと、それまで縁のなかった世界に足を踏み入れるLisaだったが、店主(桃井かおり)とのやりとりからなんとかお金を手に入れることに成功。しかし欲が湧いてしまった。

Maruは親友のJonko(佐藤仁美)に泣きついていた。Jonkoは自分の経験から、不浄な大人を決して信用せず、一見小生意気だが芯の通った女子高生。

困った仲間は放っておけず、親友の窮地を救う為、単身そのやくざを探しあて身分証明書と携帯電話を取り返しに乗り込んで行く。

再びLisaを見つけたSap。さらに稼ごうとビデオ撮影現場へと向かうLisaを、こっそりと追いかける。

まったく繋がりのないLisa、Raku-chan、Jonkoだったが、運命に吸い寄せられるように惹かれ絡まり合うのだった・・・


序盤の紹介だけなのにどうしてこれだけ長いあらすじになってしまったのかと言うと、実はこの作品、何人もの物語が少しずつそれぞれに絡み合って、最後に「爽やかな感動」と言う化学反応を起こすのです。

一見するとドキュメンタリーのような女子高生の会話(演技に見えないくらいに自然な、集団の会話)や、まるでゲリラ撮影のような(人であふれかえる渋谷の街中で役者に演技をさせることによって、役者以外の人間にさも演技が事実のように見せてその反応を収録してしまう)街中でのシーン、チョットした裏路地に入ると人気のなくなる東京を途中途中に何度も登場させる(公園、ブルセラショップの裏路地、夜のガード下、神社の階段)等、ひとつの物語をじっくりと見せるのではなく、細切れにそれぞれを描き、直球ではなくまるで俯瞰で物事を見ているような感覚から感情移入をさせているのです。

ただ観ていると全くそれを感じさせない、不思議な映画です。これは原田眞人監督の力量なんでしょうね。

見せ方や物語の組み立てだけではありません。演技に関しても素晴らしいものがあります。

主人公3人以外のそれぞれの登場人物は、出演時間こそ短いのですが演技派の役者とその人物の背景をしっかりと見せる作り込みなんです。

いくつかあげると・・・

SapとLisaの会話(27分あたり)。

バブル以前とその後の厳しい世の中、両方を知るSapの台詞「ダテに俺、渋谷で生きてる訳じゃないもん」や「若い頃、勉強とオナニーしかしてないから、遊び方知らないんだよ。なんだよ、ブタブタの親父になってからよ!」「あいつら敵じゃん!!」は短いながらもSapの経験の深さと歪みをしっかりと表現しています。

他にも、やくざとJonkoの会話(38分あたり)。

商売の決着を付けようとしていたやくざに、日本が狂い始めた本質を女子高生の直感で語り、やくざに時代の流れを痛感させてしまうシーンは、この映画の中でも秀逸だと思います。

脚本を読んだ訳ではないのですが、おそらくしっかりとしたリサーチの上で組み上げられた設定なんでしょう。事実、脚本を手掛ける原田眞人監督は、実話や、実際に起こった出来事を元にした映画で、その手腕を発揮しています。

「金融腐食列島 呪縛」(バブル崩壊後の金融業界の内情を暴いた問題作)

「突入せよ!あさま山荘事件」(言わずと知れたTV生中継された篭城事件)

「クライマーズ・ハイ」(日航ジャンボ機墜落事件を取材する記者たちの葛藤を描いた異色作)

この3作品は原田眞人監督の代表作と言っても過言ではないと思います。

余談ですが他にもSF、アクション、ホラー、推理小説の映画化、果てはアイドル映画まで、幅広く手掛けられています。

ひょっとしたら原田眞人監督の作品とは知らずに、ご覧になっているかもしれませんよ。

それから、これを外すわけにはいきません。

Lisaと名誉教授の会話(65分あたり)。

従軍慰安婦の問題を女子高生との会話の中で描くなんて、なかなか考えつかないことだと思います。

戦犯になってしまった為にアメリカへ戻れない名誉教授は罪であるはずの過去を簡単に喋り、その罪の意識のなさに憤慨するLisaの構図。

狂ってしまった日本の常識と言うか、崩れてしまった日本の節操を、上手く表現していると思います。

この名誉教授を演じるのは「河童」で心優しいおじいさんを演じた今福将雄。演技の幅の広さが光っています。

他にも2つほど、「う~ん」と唸ってしまった台詞があるのですが、それは書かないでおきましょう。

実際にこの作品を目にした時に、あなた自身で感じて下さい。


さてこの作品を見ていると、あることを感じさせてくれます。

それは懐かしさのようで、遠い昔を観ているような錯覚です。

たった12年前なのに、なくしてしまったもの(人情味のあるやくざや、人々の純朴さ)。

消えてしまったもの(ポケベル、街中にあふれる公衆電話、ブルセラショップ)。

そして変わらないはずなのに、懐かしさを感じてしまうもの(友情)。

なぜなのでしょうね?

それはきっと、この時代にしか描けなかったものをこの時代に描き、その時代を知る私たちだからこそ知り得る「リアル」なんだと思うのです。

そして大して変化していないはずの日常が、人間の価値観を含め劇的に変化している現れだと思うのです。

物語は架空だから私たち観客が直接経験した訳ではないのですが、不思議と虚構ではなくなるのです。

本当に、うまく時代を描いた作品なんだな、と改めて感じました。

事実、今でこそこの作品を知っている人は少ないのですが、当時は高評価の作品でした。

「第71回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画第6位」と言う実績が、物語っています。

そして、この作品を知る人にとっては、いつまでも心に残る作品なんです。

ネット上で評価を観ていただければ、ご覧になっていない方でも分かると思います。


そうそう、最後に忘れてはいけない大事な感想を。

Lisa、Raku-chan、Jonko。この3人を演じた女優たちの瑞々しい演技がなければ、これほどまでに後味の良い映画にはならなかったでしょうね。

私には、何度観ても泣ける、貴重な貴重な作品です。


短い紹介でしたが、この作品の魅力、上手く伝わったでしょうか?

もし中古ビデオ店等で作品を見つけることが出来、あなたと同じ感動を分かち合えたら幸いです。


さて次回はちょっと変わった企画でお贈りしたいと思います。

今年はあの大スター、石原裕次郎さんの二十三回忌です。

そしてその一環として、幻の作品がTVで放映されます。

ネットで調べたところ過去に一度だけBSで放送された記述を見かけましたが、ビデオもDVDも発売されていないので、幻の作品に偽りはないでしょう。


その作品の名は「富士山頂」


ことし2夜に分けて放送されたTVドラマの元である映画「黒部の太陽」や、以前お贈りした映画「甦える大地」と同じく、戦後の日本を支えた人間の熱意を描いた貴重な作品です。


放送は7月4日夜9時。

これを逃すと次の放送はいつになるか分かりませんから、是非ご覧になって下さい。

私は今回初めて観るのですが、リアルタイムでの石原裕次郎さんを知らない世代の視点で、あれこれ感想を書き記していと思います。

その次にお贈りする作品は・・・以前書かなかった「甦える大地」のあらすじ完全版を、いつか放送されることを願って書こうかと思います。


それでは、また!



1997年日本映画 109分


プロデューサー 鈴木正勝

監督・脚本   原田眞人

撮影監督    阪本善尚

照明      高野和男

録音      中村淳

美術      丸山裕司

音響効果    柴崎憲治

記録      坂本希代子

助監督     竹下昌男

音楽      川崎真弘

編集      阿部浩英

出演      佐藤仁美 佐藤康恵 岡元夕紀子 村上淳 矢沢心 万央里

        海藤れん 遊人 池田裕成 清川均 小堺一機 塩屋俊

        今福将雄 ミッキー・カーチス 桃井かおり 役所広司 他

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