2009年7月5日日曜日

富士山頂

日本で一番愛され、日本で一番有名な俳優は?と聴かれたら、あなたは誰の名前を挙げますか?

おそらく一番多い答えが「石原裕次郎」でしょう。
リアルタイムで彼の映画を観ていない私でさえそう答えるほどに偉大で、日本の映画史と日本人の生き様に多大な影響を与えた存在と言っても過言ではないはずです。
昨日7月4日と、今日7月5日、テレビ朝日系列では石原裕次郎さんの23回忌法要と言うことで、大々的に特集が組まれました。
そしてその一環として、これまでビデオ化もDVD化もされていない幻の作品が放映されました。
(地上波初放送と銘打っていましたが、後に初ではないことが判明したようでテレビ朝日の特集ページには訂正が載っていました)

その作品の名は「富士山頂」

それまでの映画界の常識を打ち破り、撮りたい映画を撮るため造られたと言える「黒部の太陽」。
大ヒットしたその作品に次いで造られた作品です。
私はこの作品が公開された当時、まだ幼かったので作品のことは全く知りませんでした。
正直に言うと、この作品の存在を知ったのもつい最近のことです。
夕べの特集で触れられていましたが「黒部の太陽」に次いで、この作品も日本国内で年間の1位をとった作品なのだとか。
ではなぜ、それほどまでに有名な作品を、私は知らなかったのでしょう?
それは、おそらく私だけではないと思います。
なぜなら、私たち以降の世代は「石原裕次郎」と言えばTVでしか見ていないからなのです。
「太陽にほえろ」や「大都会」「西武警察」などのイメージしかないのです。
以前「甦える大地」をお贈りした際に触れませんでしたが、地元で撮影された作品にも関わらず、その存在は私が20歳を超えるまで知りませんでした。
なぜなら、その作品を観る機会が全く無かったからなのです。私よりも若干年上の住民は公開当時とそれ以降、観る機会があったようなのですが、残念ながらビデオ化されていない為、私たち以降の世代にとっては地元であるにも関わらず幻の作品だったのです。
幸いなことに、私が「甦える大地」を取り上げた後、かしま青年会議所の有志により一昨年の10月14日に上映会が実施されました。
残念ながら私は行けませんでしたが、撮影を担当された金宇満司さんや主人公のモデルとなった国会議員の野呂田芳成先生の貴重な講演も交え、遠方から石原裕次郎ファンが駆けつけるほど盛況だったと聞きました。
こうして観る機会が与えられるだけでも、私たち地元は、実は恵まれた環境なのかも知れません。
それほどまでに、映画俳優「石原裕次郎」の後期作品は幻なのです。

さてご覧になっていない方の為に、簡単にあらすじを紹介したいと思います。

三菱電機社員の梅原(石原裕次郎)は上司の命令で、あるプロジェクトに携わろうとしていた。
それは日本一過酷な環境の富士山頂に、日本全土をカバーする気象レーダーを設置すること。
その計画を推し進めていたのは気象庁で働く葛木(芦田伸介)。主計局の役人を何とか説得し、予算を取付けるがそこには大きな問題が経ちはだかっていた。
まず莫大な量の資材をいかにして運ぶかと言うこと。馬と人手での運搬には限界がある。登山道の問題で自動車での運搬は不可能。
次に問題なのは、建設に適した気象条件が年に2ヶ月も無いこと。冬場はもちろん無理だが、雪が無くならなければ建設は出来ない。しかも山に慣れない人間が登ればたちまち高山病に襲われ、その苦しみは計り知れない。人間の忍耐も試される場所なのだ。
そして一番の問題は期限が区切られていると言うことだった。
その期限は2年。不可能に近いと言っても過言ではない、悪条件の数々。
それでも梅原は諦めなかった。
まずは建設に適した場所であるかどうかを調べる為の、地質調査の為の登山。
大成建設社員伊石(山崎努)や、それまで馬での荷物運搬を生業としていた朝吉(勝新太郎)を巻き込み、日本史に残る大仕事が、今まさに始まろうとしていた・・・

さてご覧になった皆様、いかがでしたか?
そのスケールの大きさは、例えようが無いほど素晴らしかったですよね。
豪華な顔ぶれもさることながら、石原裕次郎さんを始め、既に亡くなられた俳優の多さに時の流れを感じずにはいられませんでした。
まだ公害の影響が少ない青く透き通る美しい空や、まだ開発がされていない富士山麓の映像も素晴らしいですが、音楽も忘れてはなりません。
オーケストラで演奏された壮大な音楽と、冬の富士山の映像が相まって、自然の雄大さを見事に表現しているオープニングのスタッフロールは、現在の映画では決して真似の出来ない素晴らしさです。
「甦える大地」にも共通して言えることですが、忘れられないほどに美しい景色と、その当時の映画音楽が、ある種の何とも言えない感動を味合わせてくれています。
この作品で印象的だったのはドーム運搬決行日、朝の風景。富士山頂で、雲の隙間から漏れる朝日を複雑な表情で見つめる勝新太郎さんの心情と相まって、言い知れぬ達成感を私たち観客に味合わせてくれます。
「甦える大地」でもある役者が出演するシーンが印象的なのですが、それに関しては今は触れないでおきましょう。未見の方には秘密にしておいた方が良いかもしれませんからね。
さて初見の私の感想ですが、映画作りに命を懸ける石原裕次郎さんの生き様を感じずにはいられない素晴らしい内容でした。
「黒部の太陽」以降の作品に共通している「戦後の日本を支え復興した男たちの生き様と熱意」が、男、石原裕次郎の生き様にだぶって見えたのは、決して私だけではないでしょう。
この作品の素晴らしさは、それだけではありません。環境問題が取りざたされている昨今、あれだけの規模の撮影を実際に富士山することは、現在では不可能でしょう。
そう言う意味でも、歴史的に価値のある作品です。それだけに、簡単に観られない現状は残念と言えます。
では、なぜDVD化しないのでしょうか?
確かに「映画は映画館で」と言う裕次郎さんの意思は尊重するべきだと思います。
しかしもし裕次郎さんが今も生きていて、DVDやブルーレイの画質の良さや、液晶テレビの美しさ、そして映画館を凌駕するほどのホームシアターの音響、その全てを裕次郎さんが体感していたら、どう思うでしょうか?
もしもの話は適切ではないかもしれませんが、きっと多くのファンに作品を観てもらおうと思ったに違いありません。
何より忘れてはならないのは、裕次郎さんが亡くなって23年。その間に沢山のファンが寿命を迎え、いつか・・・と夢見ながら観ることが叶わず旅立っているのです。
個人の意志が尊重される為に、ファンの心が犠牲になっても良いのでしょうか?
私は、違うと思います。
ファンを第一に思う人なら、己のこだわりでなく、まずはファンのことを考えるはずです。
・・・いや、ここまでにしておきましょう。私が何を言おうと、決定するのは石原プロモーションなのですから。
ただ、これだけは言えます。今回放送された「富士山頂」は大切に保管されていたフィルムとは言え、細かいノイズが目立っていました。特に後半は明らかに分かるほどに。
アナログは、そのままでは劣化していくだけなのです。いくら大切にしていても、です。
ならばどうすれば良いのでしょう?
海外では一般的な、デジタル化による修復が最有力です。その為には莫大な資金が必要です。
こう考えたらどうでしょう?
後世にこの素晴らしい作品群を残す為、デジタルで修復をし、その資金の為にDVDやブルーレイを販売するのです。
それをする為に残された時間は、決して短くないはずです。
観たいと欲するファンの命には、限りがあるのですから。
するべき次期は今、そう言っても過言ではないと思います。
一般人である私が、だいぶ生意気なことを言っているように思われるでしょうが、私も作品の舞台となった地元に暮らす一住人、その声であることを忘れないで下さい。

さて、通常、映画をTV放映する際はCM前とあけに、放映している番組名や作品名が画面端に表示されます。
ご覧になった方は気づかれたかと思いますが、今回の「富士山頂」ではそれがありませんでした。
なぜでしょう?
おそらく、それは「映画は映画館で」と言う石原裕次郎さんの意思に、少しでも近づける為だったのだと思います。
CMはスポンサーの都合上入れない訳にはいきませんから、せめて本編放送中は映画館に近い環境にしたかったのでしょう。
「映画は映画館で」と言う故人の意思と、多くのファンの為に行ったTV放映。
一見、矛盾するこのふたつを、上手く取持って叶ったのが、今回のこのイベントです。
そう言う意味では、裕次郎さんの意思と、ファンの熱意が歩み寄った貴重な瞬間だったと言えます。
そんな素晴らしい時間を共有出来たことを、一映画ファンとして光栄に思わずにはいられない、そんな2日間でした。

さて次回は、もうひとつの幻の作品「甦える大地」のあらすじを書き記したいと思います。
そのあらすじを記したホームページはほぼ皆無に等しいので、もしDVD化されなかった場合の語り部は誰かがするべきです。
余計なお世話と思いつつ、私がその一翼を担えれば幸いです。

それでは、また!!



1970年日本映画 107分(テレビ朝日放映時)


製作  石原裕次郎 二橋進悟 久保圭之介
協力  三菱電機株式会社 三菱重工業株式会社 大成建設株式会社
    朝日ヘリコプター株式会社 気象庁
監督  村野鐵太郎
原作  新田次郎
脚本  国弘威雄
撮影  金宇満司
照明  椎葉昇
録音  紅谷愃一
美術  横尾嘉良
編集  渡辺士郎
助監督 近藤治夫
音楽  黛敏郎 肥後一郎
出演  石原裕次郎 芦田伸介 山崎努 勝新太郎 渡哲也
    宇野重吉 東野英二郎 星由里子 市原悦子 中谷一郎 田中邦衛 他

0 件のコメント:

コメントを投稿