2006年3月31日金曜日

サマータイムマシンブルース (ネタバレ編)

毎度毎度の事ながら、今回もあと5分で危うく4月に突入してしまうところでした(笑)

まさに「ギリギリセーフ」って感じでしょうか?

映画を観ていない方には、この台詞の意味は分からないかと思いますが、実はこの台詞のシーンにはある秘密が隠されています。

それに関しては、後程。


さて、今回のコラムは激しくネタバレしています。

笑いのポイントや、ディープに隠された秘密、撮影の事など。

ご覧になっていない方が読んでしまうと、楽しみが半減どころか、激減してしまいますので、どうか今回のコラムは、必ずご覧になってからお読み下さい。


最初の10分、まったりと時間が進んでいて、何が始まるのか全く読めずヤキモキされたのではないでしょうか?

実はここは、物語を何度も楽しむ上で絶対にはずせない大切な前置きなのです。

勘の良い方は、最後までご覧にならずとも途中で分かるかと思いますが、物語後半で繰り返されるタイムスリップの直接的な伏線だらけなのです。

そしてその伏線のシーンには、ある効果音が必ず付けられ、画面上の処理もブラックアウトという区切りがつけられているのです。

と言うわけで、初見ではつまらないシーンも、2回目3回目と観るにつれて、新たな発見や楽しみが増してくるのです。

これを私は勝手ながら、「本広マジック」と呼ばせて頂きます。

「踊る大捜査線」シリーズや、「サトラレ」でも同様のマジックが隠されていますので、今一度ご覧になってみて下さい。そこでもし、新たな発見が有れば、あなたも「本広マジック」の体験者です。


この作品の中には、小道具が大活躍しています。

それは「タイムマシーン」と言う主役と呼べるほど存在感のあるものから、事件をより大きくさせる「ヴィダルサスーン」、さらにはファミコンなのに投げつける道具としか使われない「ハリキリスタジアム」、SF研部室内の古びたポスター等々。

この4点に関して、ちょっとだけ触れたいと思います。

まずはタイムマシーン。

この映画の原作は舞台であり、その舞台ではドラえもんのタイムマシーンそのものが登場していました。

しかし映画では、全く違いレトロチックなデザインです。

実は、DVDのコメンタリー内で監督自身が語られているのですが、このデザインはHGウェルズ原作のタイムマシーンをイメージされているようです。それに加えて美術デザインの相馬さん(元アントラーズの選手と同姓同名、しかも同じ漢字!)という方のカメ好きが高じて、あのような甲羅がついたとか。

この甲羅も映画の大事な伏線ですね(笑)

次はヴィダルサスーン。

なぜ新美がヴィダルサスーンを愛用しているのかは不明ですが、そのギャップが笑いのひとつの要素であるには違いないでしょう。

しかも今回この映画では、初日に「ある」リンクネタを披露してくれたのです。

何と、とある劇場で先着順ですが、最新の「ヴィダルサスーン」シャンプーとコンディショナーをセットでプレゼント!

貰った私が、思わず苦笑したのは言うまでもありません。もちろん今でも大事に取って置いてありますよ。

ただ残念な事に、パッケージデザインが変わってしまったのです。メーカーが合わせたのかどうかは不明ですが、なんと劇場公開初日が、新パッケージの発売日(笑)

次はハリキリスタジアム。

これもコメンタリーの中で語られている事なのですが、なかなか美しい当たり方をしてくれなくて、役者さん達の頭に何十回となくぶつけられたとか。このゲームを使用するシーンがひとつもない代わりに、この様な使われ方も有るわけですね。

最後は部室内のポスター等。30〜40代の方々には、懐かしいものばかりです。「E.T.」や「ガンダム」の劇場公開当時のポスターは、特に興味をそそられたのではないでしょうか?ちなみに私が一番惹かれたのは「ハヤカワSFフェア」のポスター。中高生当時読んでいた小説を思い出しました。

そのポスター類は有る程度SFに関係しているから分かるのですが、部活動とは全く関係ない「オロナミンC」や由美かおるさんの「アース製薬」の鉄看板、「工事中」や「チカン注意」の看板などは、恐らく収拾癖のある石松の仕業でしょうね。

ちなみに「ガンダム」のポスターはこの映画の大切なリンクです。

劇中で、ズッコケ3人組(石松・新美・小泉)が過去へ初タイムスリップしたシーンを思い出して下さい。

どこかで聞いた事がある音楽が聞こえませんでしたか?

そうTV版ガンダム(ファースト)で、使用されていた音楽が当時のアレンジのまま(正確に言うと途中切れたりして笑いの要素の一つになってしまっていますが)2曲程使われているのです。元作品での躍動感そのままに、この映画を盛り上げてくれています。

これはかなり画期的な事なのだそうです。未だかつて、ガンダムのサントラは他の映画で使われた事がないのです。

それもこれも無類のガンダム好きである本広監督だからこそ実現した、夢のコラボレーションですね。


前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ本題のタイムスリップに触れる事としましょう。

既に気付かれた方も多いとは思いますが、過去へ行くのと、未来へ行くのでは、移動方法が違うんですね。

過去は下へ、未来は上へ、それぞれグニュッと(笑)

そして物語中盤から、過去のシーンと未来のシーンを忙しく交互に描いていますが、ここにも上記の法則が隠れています。

「スロットマシーン」の様な効果音と共に、画面が上下しているのです。シーンが未来から過去へ変わる時はワイプ(シーンの切り替え)が下がり、逆は上がる、と言うように。

この辺りは、同じ場所で過去と未来を描き、しかも殆ど時間差のない場所の混同を避ける為に施された、細かなこだわりと言えると思います。

余談になりますが、このタイムマシーンは、映画館で実機が展示されました。

残念ながら写真には収めなかったのですが、パタパタと動きながら愛嬌を振りまいて、映画を観終えたお客の心を和ませていました。


さて次は撮影に関する秘密を。

この映画は、本広監督が初めてプロデュースを努めた作品です。

映画館にタイムマシーンが展示されたり、ヴィダルサスーンが配られるなど、有る程度自由度が利くのも、そのおかげと言えるでしょう。

それまでの本広監督作品と言えば、国内最大級の配給会社やTV局がバックアップとして名を連ね、宣伝活動も大々的に行われていました。邦画界で大作と言える作品は、殆どがこのような形態で上映に向かって進んでいくのです。

しかしながら、入念なマーケティングと引き替えに、監督の要望とは違った意図を埋め込まれてしまう事も、当然ながら有ることでしょう。

細かなところまでこだわり、自分の造りたい映画を造る。そんな熱意の表れが、今回の作品にはひしひしと感じられます。その証拠に、この映画のエンドロールには次への伏線が隠されています。

この映画は、本広監督プロデュース作品の第1弾なのです。

エンドロール終了直前、画面の左上をよくご覧になって下さい。

#01と書いてあるでしょう。

実際に監督のインタビュー等では、定期的に面白い舞台などを原作に自由度の利く映画を10本程造ると答えています。

今後に期待したいところですね。

余談ですが、私は「スペーストラベラーズ」の続編を観てみたいと、かねてから思っています。きっと実現されると信じながら、今は待つ事としましょう。

この映画は香川県が舞台となっています。本広監督の故郷です。そこで長期間のロケが行われたのですが、実は編集者である田口さんは、同じ時間に東京で仕事をしていました。しかしなぜか、撮影の翌日には繋がった画が監督や出演者達の元で見られていたのです。

これが、以前「交渉人真下正義」のコラムで軽く触れた、もう一つの新しい試みです。

まず断っておかなければならないのは、この映画の撮影は全てデジタルです。

パソコンでネットを使用する方なら、その原理はある程度分かるかと思いますが、ここで簡単に説明しましょう。

アナログというのは、そのものをそのままに焼き付けたり記録したりするものですが、デジタルというのは数字に置き換えています。膨大な情報量を0と1の数字に置き換え記録するのです。

つまりこの映画の秘密は、こういう事です。

香川で撮影されたデーターが、デジタル回線を使って東京に転送。そのデーターを東京で編集し、翌日には香川に最転送。翌日には、不満のあるシーンを取り直す事も出来る画期的な流れが確立したのです。

今はまだ、フィルムによる撮影が多いと聞きますが、いずれ映画はこのシステムに置き換わるものと、私は確信しています。

取り直しが利くだけでなく、制作時間の短縮が、上映まで短時間にこぎ着けるという、観る者にとっても嬉しい流れを生み出してくれるからです。

と、最新の技術にこだわっている事ばかり全面に押し出した作品のようですが、実はアナログな手法を用いたシーンもあります。

これは有るトークショーで編集者である田口さんの口から語られた事なのですが、非常に興味深い事なので、ここで簡単に触れたいと思います。

銭湯のシーンを思い出して下さい。ここで過去と未来の同じ登場人物が、銭湯の浴槽と、脱衣所に二人登場します。最近の映画に見慣れた人は、これを別々に撮影し合成したと思う事でしょう。

ところが実は、合成をしていないのです。

もちろん双生児(劇中ではソーセージと引っかけって笑わせていましたね)でもないです。フランクフルトでもないですよ(笑)

別々に撮影したのは確かなのですが、実はただ編集しただけなのです。脱衣所から浴槽へカメラが動いた際、柱などが写るボケ具合を上手く利用し、編集で誤魔化しているのです。

この手法は過去には良く行われていたようで、それをあえてCG全盛期の時代に使い、古き良き時代の映画と最新の技術を試すというこのバランス感覚。

映画と最新技術を愛する人だからこそ出来る、愛情のひとつと言えるでしょう。

どうです?段々と本広監督作品が好きになってきませんか?


え?まだ?


そんなあなたの為に、ここから先は極上の秘密をお話ししましょう。

この映画では、無秩序にタイムスリップが行われていたように見えますが、実は違います。

時間監視人とも言える、神の存在が隠れているのです。

あまりのさりげなさに、思い出せないでしょう。

それではヒントを差し上げます。

石松がギンギンを盗んできましたね。そのギンギンが置いてあったのは、「くすりの松井」。

そのギンギンがアップで写ったシーンをよーく観て下さい。

店の入口に幾つかポスターが貼ってあります。その内のひとつ、真っ黒な防犯ポスターは見つかりましたか?

そこに写っているのは升穀さん。本広監督の映画では「7月7日、晴れ」での好演が光っていましたが、今回はかなり地味に、しかもしつこいぐらいに登場しています。

この防犯ポスターも、登場するシーンによってデザインが変わります(ここが時間を監視しているという重要な意味を示しているのです)。

それ以外にも、お寺を歩くお遍路さん、薬局前の通りを歩くサラリーマン、田村君がいつの時代かを聞いた軽トラの運転手等々、主要登場人物達の行動を見守っています。特に大事なのは、沼へ落ちた曽我が溺れそうになったシーン。なんと、河童伝説の当事者の内の一人だったのです(加わる事で時間をコントロールしているとも言えますが・・・)。

お寺の前で新美が甲本へ自慢げにヴィダルサスーンを見せたシーンを覚えていますか?

「これはセーフでいいのかな?」と弱気な台詞を口にしましたね。この後、再び新美が写るのですが、実はその後ろを歩くお遍路さんが升穀さんで、しかも見切れるくらいにさり気なく「セーフ」のポーズを取っているのです。

まだここには上げていないシーンにも登場されているので、是非是非探してみて下さい。

もし、発見したら、掲示板にでも書き込んで下さい。

その時は、映画のネタバレトークで暑く(笑)盛り上がりましょうか?


今回のコラムはここでおしまいです。

登場人物のそれぞれの味や台詞の面白さ、ボケの法則など、まだまだ語りたい事は山程有るのですが、それはまたいつかと言う事でお許し下さいませ。


次回のコラムは、同じ香川繋がりで「世界の中心で、愛を叫ぶ」を取り上げたいと思います。

この作品に関しては、紹介は必要ないですよね。

では、再来週にお会いしましょう。


それでは、また!

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