2007年3月4日日曜日

日本沈没(2006年版)

約3週間ぶりのご無沙汰です。毎度のことながら、不定期な更新にお付合いいただきまして、大変ありがとうございます。

これから3~4月にかけては、毎週更新をお約束致します。

例年なら3月~4月はバイクによる「桜の旅」に休日を捧げる為無理なのですが、今年はそのバイクも手元に無く、12年目の愛車カプチーノも長距離走行には不安がある為、桜の旅はごく近所だけになりそうな予定です。

その余った力を全てこちらのサイトに注ぎたいと思います。


前置きはここまでにして、そろそろ前回お約束の日本沈没(2006年版)の内容紹介にうつりたい思います。

前回のコラムで軽く触れましたが、今回の日本沈没はいきなり災害シーンから始まります。

大陸が動いていることを無音で表現した前作とは大いに違うところです。

最初の大地震が起こった場所は、静岡。

そこに偶然居合わせた主人公小野寺俊夫は、横倒しになった自動車の中で気を失っていた。目覚め、傷ついた体を引きずりながら車外に出た小野寺は、瓦礫の中一人彷徨う少女を見つける。そのすぐ近くには今にも激しく溢れ出しそうに漏れ出したガソリン。危機を察知した小野寺は、渾身の力を込め少女を助けようとするがそのとき再び余震が!

倒れた電柱から発せられた火花はガソリンに飛び火し、大きな爆発と共に壊れた沢山の自動車に残されたガソリンに引火、連鎖の大爆発が二人を包む。

その時、空気を切り裂く爆音と共に現れた一機のヘリコプター。そこから吊るされたロープの先にはレスキュー隊員阿部玲子の姿。あっという間に二人に近づき、迫りくる爆炎から、二人を救い出したのだった。


1973年版は見たけれど、2006年版はまだと言う方は、すでにここで驚かれたことでしょう。

資産家の令嬢であり、情熱は持ち合わせていながらもしとやかな前作とは全く違う阿部玲子の設定。そして前作では途中からの登場が、今回はいきなりの登場です。しかもショッキングな出会い。

二人の恋愛が軸になる上で、必要な設定と出会いであることは言うまでもありません。

リメイク版はそれ以外にも、細かな点で沢山の違いがあります。

前回のコラムでいくつか述べたので、ここではあまり触れませんが、あえて取り上げるとしたら・・・・

前作での主要登場人物は私たちの実生活ではあまりお目にかかれない官僚と科学者であり、加えて人間味もどこか嘘くさく見える面もあったのですが、今回は官僚も科学者も私生活と感情をのぞかせる人間味のある設定なのです。

さらにそこへ、阿部玲子の身近で精一杯生きる一般市民の姿と、あらゆる面へ進出した女性たちの力強い姿が前作とは全く異なるところだと言えるでしょう。

特に、女性の社会進出は現在の日本を反映させる為だけでなく、この映画の主題である男女の恋愛にも大きく作用しているのです。映画の終盤で小野寺のするある決断も、阿部玲子の必死に戦う姿に影響を受けたと言っても過言ではありません。

さて、これ以上はネタバレになってしまうので、2006年版をまだご覧になっていない方は、ここで一度読むのをやめることをお勧めします。そして、しっかりとご覧になった上で、また読みにいらして下さい。


この映画の監督は樋口真嗣さん。

邦画界では非常に巧みな特撮を撮られることで有名な監督です。

様々な媒体で語られていますが、樋口監督が映画を志した切っ掛けが1973年版の日本沈没なのです。

その愛情は並々ならぬものがあり、映画の要所要所で前作へのオマージュが見られます。

あまりネタバレすると楽しみが半減してしまうので、ここではちょっとだけ触れることとしましょう。

簡単に見つけられるもののひとつに、字幕があります。

映画館の設備や最近の家庭AV事情では小さな文字でもくっきり描いてくれるので必要はないはずなのですが、明朝体の極太字幕は前作に敬意を表して使ったものと言えるでしょう。なぜそう言えるかと言うと、解説に使われる字幕は、今回の映画ではもう一種類あるのです。その字幕は、今回の映画で必要になった科学的注釈等であり、画面中央に小さな文字で表示されています。

字幕と言えばもうひとつ。地域は違うのですが、今回の映画では小野寺の実家である福島を写す際に「この地方に まだ被害はない」と言う字幕が出ますが、前作にも全く同じ字幕が登場しています。

それから字幕ではありませんが、日本を発つ寸前に首相が話す「何もしない方が良い」と言う考え方。これは、前作では非常に心に残るシーンで使われたものです。前作でのそのシーンに首相として登場していた丹波哲郎さんの演技には涙を流す方も多かったはずです。

余談ですが、丹波哲郎さんは今回の映画にも登場されています。これも前作に対する監督の愛情の現れでしょうね。


さてこの映画では非常に良く出来たCG等の特撮に目を奪われます。

前作ではミニチュアであることが分かってしまう出来であった特撮も、30年の進化がほぼ本物として見せてくれます。

その特撮が大活躍する災害シーンは前作と比べると時間的にはさほど多くはないのですが、短い時間ながらインパクトの強い映像がそこここに散りばめられ、パニック映画の本領を発揮しています。

ハリウッド映画にも負けないレベルに達しているのは確かです。

しかし残念なことに、特撮シーンに目を奪われ肝心な内容が霞んで見えてしまう方が多かったのも事実です。

ネット上の映画評を読むと、それがはっきりすると思います。

今作の評価は両極端なのです。「素晴らしい」と「駄目」の境界線がはっきりしています。

おおむね良い評価の前作とは、はっきり違っているのです。

より沢山の映画を見られる環境にある現代で、映画を造る課題がここにあると私は思います。

特撮はあくまで脇役でなければならないのです。もちろん現実で描けない場面を描く為には必要不可欠なので、今回の特撮の使い方はこれで正解なのですが、その加減が非常に難しいと言うことなのです。

ドラマの描き方が弱ければ、当然特撮に映画の印象を奪われ、それだけの映画になってしまいます。

見せる技術が発達した今、より主題が大事ななっていると言えます。

しっかりとしたドラマを描いてこそ、映画の真価を発揮し、映画の発展を促すのです。

今、邦画は空前の大ヒットを連続しています。

シネコンやDVDの普及が理由にあるでしょう。しかしそれだけではありません。映画を観たいと言う人の欲望を満たす完成度の高い作品が求められているのです。


これから邦画がどうなるか、それがまさにこの映画で表されていると、私は思います。


他にも触れたい内容が多々あるのですがリメイクと言う特性上、皆さんに見比べて探していただくこととします。

そうして、映画の新たな楽しさを見つけて欲しいと思います。


最後に今回のリメイクで私の印象に残るシーンを2つ。

ひとつ目は、病院や避難先でそこここに貼られている沢山の小さな張り紙。

拡大して見ることは出来ないのですが、それが行方知れずの「大切な人」へ向けたメッセージであることは容易に想像出来ます。

様々な色や大きさ、文字の大小がありますが、そこに人々の思いが綴られていると思うと、胸が痛くなります。

そしてもうひとつは、「日本が沈む」ことがTVで発表され、それに見入る人々のシーン。

居酒屋「ひょっとこ」で、いつもは陽気な大人たちが静まり返っている場面があります。その中で唯一、一生懸命に包丁を握り料理をしている美咲ちゃんの姿。ここに、しがらみに縛られている大人と、今を精一杯生きようとしている子供たちとの違いが見られます。そしてその子供たちが、「その後の日本」を支えていくのは言うまでもありません。

日本の大部分は沈んでしまうエンディングですが、その未来はきっと明るいものと感じさせてくれます。


さて次回は「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本 2005年本屋大賞」に輝いた書籍が原作である、「夜のピクニック」をお贈りしたいと思います。


それでは、また!



映画データ


2006年日本映画 134分


製作   「日本沈没」製作委員会   

監督   樋口真嗣

原作   小松左京

脚本   成島出 加藤正人

特撮監督 神谷誠

編集   奥田浩史

音楽   岩代太郎

出演   草なぎ剛 柴咲コウ 豊川悦司 大地真央 福田麻由子 及川光博 他

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