2005年4月21日木曜日

7月7日、晴れ

本広監督を語る前に、まずこの映画のあらすじを紹介したいと思います。

そしてなるべくこだわってコラムを書きたいので、今回はかなりのネタバレになっています。

もしご覧になっていない方がいらっしゃいましたら、是非、本作品をご覧になった上、この先の文章をお読み下さい。

よろしくお願い致します。


この映画は、「日常と非日常」が出会った時、何が起こるか?を描いています。

「日常」は主人公である山部健太、「非日常」は世界的トップスターであるもうひとりの主人公望月ひなた。

物語は、そんな二人が本来なら人間には「日常」であるべき場所、忙しい現代では「非日常」である、自然の中で偶然出会う所から始まります。

「非日常」な世界で働き、「日常」を失いつつある望月ひなたにとって、自分を知らない男、山部健太との出会いは驚くほどに新鮮。名前も知らない間柄なのに、興味半分で、ひなたはデートの約束を取り付けます。

「電話して」と。

突然の告白に訳の分からない健太はキャンプ仲間に話しますが、取り合ってくれません。

しかし健太は気づくのです。

帰りの道路で偶然見つけた看板。そこに彼女がいたのです。

冷やかし半分の仲間たちに押されながらも電話する健太。当然、夢のような出来事が起こるはずもない、と誰もが思っていました。

でもひなたの返事は違いました。

こうして二人の初デートが始まります。

ひなたに取っては「日常」である、リムジンでの出迎えや、貸し切り映画館、貸し切りレストランは、健太にとっては「非日常」。全てが初体験で、緊張の連続。

些細な誤解もありましたが、二人はすっかり意気投合します。

「今度は俺の番」と健太の誘ったデートは、ちょっとしたトラブルが起こりますが、これがまたひなたにとっては新鮮。二人の距離は一気に近づきます。

別れ際健太は、七夕生まれなのに天の川を見た事のないひなたのために、キャンプに誘います。

キャンプ仲間たちの支えと最高の演出で、健太とひなたは、人口の灯りひとつ無い闇の中、無事に天の川を見る事が出来ました。そしてひなたは気づきます。当たり前にありふれている夜空、「日常」の素晴らしさを。

健太の「来年の七月七日、一緒に天の川を見よう」と言う約束を断る理由は、どこにもありませんでした。

キスもない二人ですが、すっかり心はひかれ逢うようになっていたのです。

しかしその二人に芽生えた小さな恋心と、以前の「ちょっとしたトラブル」が二人の運命を狂わせていきます。

果たして健太とひなたは、同じ空の下、天の川を見る事が出来るのでしょうか?


「七月七日、晴れ」は本広克行監督にとって初監督作品でありますが、以前からテレビの演出等で活躍され、その仕上がりには定評がありました。

私が思う監督の一番素晴らしいところは、「泣きと笑いの両立」です。

残念ながら、この映画の中ではまだその手法は確立されてはいません。しかし「泣き」へのこだわりがひしひしと感じられるラストには、涙が止まりません。

もちろんその涙は、素晴らしい脚本であったり、映像にマッチした音楽であったり、その他の様々な要素が絡み合って生まれたものでもあります。しかし絡み合うためには、総合主任である監督の力が一番重要と、私は思うのです。

この映画のラストは、まさに「非日常」であるラジオの中のひなたが、「日常」であるリスナーの心を動かし、「非日常」の奇跡を起こします。

この辺りの対比が、最初からしっかりと描かれているからこそ、涙を誘うのではないでしょうか?

あなたはこのラストをどう感じましたか?

そんな事有り得ない!と感じるようでしたら、それはきっと映画にのめり込めていないという証拠だと思います。

健太とひなたの一見ぎこちなくさえ感じる会話の場面などが気になるのかも知れませんが、その場面は作品の感動を盛り上げるための大事な伏線であったりしますので、それはもう仕方のない事です。

それに映画の感想は、「百人百様」なのですから。だから前回のコラムの最後に書いた私の問いかけ、同じ感動を分かち合うというのは無理かも知れません。

でもこの作品に関しては、様々な人からある一定の評価があります。

もちろん感動して泣いた、と言うのが最上級の評価ですが、こんな恋に憧れていた、とか、昔聞いたラジオ番組の想い出がよみがえって懐かしかった、とか。人それぞれの心に訴えているのは確かなのです。

それだけに、ある意味での名作と言えるのではないでしょうか?


1980年代後半から1990年代後半に掛けて、フジテレビは沢山のヒット映画を生み出してきました。

テレビというメディアでの大々的な紹介とCMを駆使し、邦画を引っ張ってきました、今もその流れは続いています。

「踊る大捜査線」だったり、「ローレライ」だったり、と。

この「七月七日、晴れ」もその流れのひとつです。

しかし他のどの作品とも違うのは、当時この言葉は使いませんでしたが、映像と音楽の見事な「コラボレーション」です。

素晴らしい演技をした二人の主人公の表情を、音楽で更に光りあるものとするその仕事は、未だに上をいく作品がないほどと言っても過言ではないでしょう。

私は、そろそろその上をいく作品が登場してもおかしくないと思っています。

頭打ちの音楽業界と、沢山の邦画の中で違いを打ち出していかなければならない映画業界が、そろそろ「コラボレーション」を起こす時ではないでしょうか?

そう、ふたつが出会った時、新たな感動が生まれるのです。

健太とひなたの「奇跡」のように・・・


さて今回はあまり本広監督の素晴らしさを書けませんでした。しかしそれには意味があります。

次回お贈りする「サトラレ」で、今回中途半端だった説明や、書ききれなかった素晴らしさを語るからです。

その監督それぞれの「色」を感じて頂くには、やはりひとつの作品を見ただけでは無理がありますし。

どうかご了承下さい。


それでは、また!


1996年日本映画 109分

監督   本広克行

脚本   戸田山雅司

音楽監督 中村正人

音楽   DreamsComeTrue

出演   観月ありさ 萩原聖人 田中律子 榊原利彦 うじきつよし taeco きたろう 山本太郎

西村雅彦 大高洋夫 高杉亘 升穀 西岡徳馬(友情出演) 仲谷昇 伊武雅刀

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