2005年4月2日土曜日

ロレンツォのオイル

今回のコラムは、ちょっと屁理屈のように感じられる箇所があるかも知れませんが、私なりに色々考えた結果なので、どうかご了承下さい。

何より、初めてこの映画を見た10年前よりも、遙かに感動の涙を流したのは事実ですから。

それには、ちょっとした特別な理由もあるのですが・・・


まず最初に説明しなければならないのは、この映画の核である難病、「ALD(副腎白質ジストロフィー)」の詳細ですが、あえてここでは語らずに進みたいと思います。より詳しく知る事で、映画に深みを与えてくれるはずですが、この作品の中ではある程度きちんと紹介されているので、もし映画を見て興味を覚えたなら、HPを探してみて下さい。「ALD」で日本語のHPを検索して頂ければ、すぐに辿り着けるはずです。


実話映画の多くは、独特な空気が感じられる傾向があります。

例えば、笑いの中にももの悲しさがあったり、感動の中にも深く考えさせられるものがあったり。

事実に基づく綿密な取材や検証を重ね、脚本を練り上げていく上で生まれた副産物のようなものとも言えますが、この副産物が、実話映画の良さを造り上げているひとつの要素でもある、と私は思います。

この映画では、「張り詰めた緊張感」と「愛の絆の強さ」がその副産物です。

そしてその副産物は、時折挟まれるショッキングな描写を、より心に訴えるものとして、観る者に感動を与えています。

観る者は、その副産物のおかげでロレンツォと家族の「悲惨なまで」の物語に引き込まれ、父と母と同じ気持ちで苦しみながら物語を追っていく事になります。

精神的に辛くなる映画のひとつではないでしょうか?

辛いという事は、観ている者が家族の苦しみにそれだけ共感して、引き込まれている証拠です。

しかしこの映画で描かれるのは、その一家族の苦しみだけではありません。

時折挟まれる、他のALD患者家族の描写。より強い悲しみと苦しみがここで生まれます。

家族会で親しくなり、後に長男を亡くした母もそうです。物語後半で次男も発症してしまうと言う事実は、観る者を更に辛くさせています。しかし、と同時に入り込み過ぎずある程度の客観的な視線へと引き戻してくれてもいるのです。

何事にも言える事だと思うのですが、「一度離れた立場で物事を見る」と新たな視線が開けてくるものではないでしょうか?

物語の3分の2は、寝る間も惜しんで息子のために尽くす両親の気持ちで、そして残りの3分の1は、その日々の苦労が他の家族への希望を与える事になると言う事実を。その希望と喜びを知る事によって、観る者がロレンツォの父母の偉大さに気づくのです。

話しが少し戻ってしまいますが、日に日に症状が悪化し衰弱していく息子を前に、父と母は、「自分たちの事は自分たちで」と独学で医学の勉強をします。この苦労は想像を遙かに超えるものでしょう。

映画の中でも充分すぎる位に描かれていますが、事実はこの程度のものではないはずです。

その苦労が「発病して3年以内に確実に死ぬ」という恐ろしい病気に、光を射したのです。

愛の強さは計り知れない、と思い知らされました。


さて、今回のコラム、言いたい事が伝わったかどうか、少し不安です。

時間が経って、もう一度見直した時に、もっと分かりやすく伝え得る事が出来るかも知れません。

が、今の私にはまだ、そこまでの人生経験がありませんし、何より子を持つ親の気持ちが理解出来ていません。

どうか、その点をご理解下さい。

そして、もしあなたがこの映画を見て、何かを感じたならば、是非MUSIC ROOMの掲示板に意見をお寄せ下さい。私には見えない事を、教えて頂ければ幸いです。


今回のコラムを書くに当たって、ネットで色々と調べて分かった事実がいくつか有ります。

ひとつは嬉しいニュース。

主人公であるロレンツォは、今現在も存命であり、今年27歳になります。アドレスは許可を得ていないので載せられませんが、あるHPに、黒人青年のオモウリに支えられながらプールに浮かぶ写真が掲載されています。

今はまだ、回復には至っていないようですが、いつの日かきっと、希望の光がさす事でしょう。そう信じたいと思います。

そしてもう一つは悲しいニュース。

ロレンツォの母であるミカエルさんが、2000年に癌で亡くなられた事。息子の回復した姿を信じて闘ってきたのに、その姿を見る事なく亡くなってしまった事を思うと、胸が痛みます。

ご冥福をお祈りしたいと思います。


いかがでしたか「ロレンツォのオイル」。

私には、無駄を全て省いて造られた、実話映画の最高傑作だと思えます。

ストーリー展開、クラシックのみの音楽、重要なシーンは長く、切りつめられるシーンは極力短くしよりインパクトを与える、実によく考え練り込まれて造られた作品であると言えるでしょう。

最後の最後に、禁じ手(何が禁じ手かは見た方にしか分からないでしょうが)を使っている事も、許されるほど、素晴らしい作品であります。

あなたにとって、どんな作品だったでしょうか?


さて、今月は実話映画を特集したいと思います。

次回は、ごく最近の作品「パーフェクトストーム」です。

この作品は今回の「ロレンツォのオイル」とは正反対の作品です。

何が正反対かは、次回述べたいと思いますが、実話映画の幅広さと奥深さを感じて頂けると信じております。


それでは、また!


1992年アメリカ映画 135分

製作・監督・脚本 ジョージ・ミラー

出演       ニック・ノルティ スーザン・サランドン ザック・オマーリー・グリーンバーグ

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