2006年9月16日土曜日

エグゼクティブ・デシジョン

皆さん、おはようございます、そしてこんにちは、そしてこんばんは。kiyohikoです。

最近はMUSIC ROOM以外の方にも多数ご覧いただいているようで、徐々にではありますがアクセス数ものびています。

皆様に、感謝感激です。

読んで感想を言ってくれる人がたくさん居るからこそ、このコラムを続けられると言うものです。

本当にありがとうございます。


いきなりですが、まずは訂正です。

前回のコラムで予告した際「エグゼクティブ・ディシジョン」と表記しましたが、正確には「エグゼクティブ・デシジョン」です。こちらで検索していただければ、ネット上でより多くの情報を得られると思います。

この映画は飛行中のジャンボジェットと言う密室で起こるサスペンス系アクションですが、密室ものには、限られた空間と言う制約の中で練りに練られたストーリー展開がものをいい、そのおかげで面白い作品が多いのです。特にこの作品が公開された時期には密室ものが多かったのです。

なので、次回とその次は、この時期の密室もので好きな作品を取り上げようと思っています。

次回は潜水艦の中で起こる反乱を描いた「クリムゾンタイド」、その次は事故により塞がれたトンネルと言う密室を舞台に巻き起こる数々のドラマを描いた「デイライト」をお贈り致します。

「クリムゾンタイド」は「エグゼクティブ・デシジョン」と共に、私の選ぶ1990年代の2大傑作密室パニックアクション映画です。

その後も数作品を取り上げたい予定なのですが、今はまだ吟味の途中なのでしばらくお待ちくださいませ。


さて、皆さんはこの作品をご覧になって何を感じられましたか?

冒頭の襲撃シーン以降に手に汗を握る展開を期待していた方には、前半は肩すかしにも思える部分があったと思います。

主人公がセスナ機の操縦訓練をしているシーンとか、活躍すると思っていた人物があっけなく死んだりと、意表をついていると言うよりも「ちゃんと考えて造っているの?」と疑問にも思えたかもしれませんね。

でもそれぞれにはきちんと意味があり、途中から生きてくる訳です。

セスナ機に関しては後々その意味を誰もが気づくはずですが、ラストの着陸シーンへの伏線ですよね。映画を見慣れた人に取ってこの伏線は最後の展開をバラしている感もありますが、それはそれで映画を見るよりたくさんの人への説明でもある訳で、必要なものだったと言えるでしょう。

次ですが、スチーブン・セガール演じるトラヴィス中佐の死には、誰もが驚いたでしょう。

何せ、これまで不死身で無敵を通してきたキャラクターばかり演じてきたのですから。

私の記憶する限り(2001年の作品以降は観ていないので正確ではありません)、唯一の殉職作品だったと思います。

では、その意味は何でしょう?なぜに無敵のイメージしかない役者をこの役につけたのでしょう?

これはあくまで私の推理ですが、それだけ最強のキャラクターが死んでしまうことで、観ているものにより絶望感を感じさせるのに一躍買っているのではないでしょうか?あっけなさは残るものの、進行上必要な死なのです。

ただでさえ成功の確率が低いドッキングを失敗し中佐とステルスを失ったことにより、「これは駄目かもしれない」から「もう駄目だ!」へと観客の気持ちを切り替えさせているのです。

物語の展開上でも、同様のことが言えます。

ステルス墜落で隊員全員が死んだかもしれないと、司令部は考えるようになります。

機内に残された隊員たちにも、絶望が漂っています。

そして絶望感だけではなく、それぞれのキャラクターが生きてくるきっかけにもなっているのです。

前半にはあまり力を感じなかった登場人物が、見る見るうちに頼りがいのある存在に思えてきませんでしたか?

これこそが殉職の意味であるのです。恐らくスティーブン・セガールはその意味をきちんと汲み取ったからこそ出演を決めたとも言えるのではないでしょうか?実際のところ、本人の口から語られない限り真意は分かりませんが、映画デビュー作から製作や脚本に関わり続けてきたキャリアが「そうである」と物語っていると、私は思います。

登場人物は決して多くありませんが、この映画では、あえて3人に焦点を当てたいと思います。

主人公グラントを演じているカート・ラッセルと、キャビンアテンダントを演じるハル・ベリー、そして中佐亡き後に隊員をまとめ活躍するラットを演じるジョン・レグイザモの3人です。

カート・ラッセルは皆さんご存知ですよね?

1980年代からいくつもの作品で活躍されています。代表的な作品と言えば、スタローンと共演した「デッドフォール」、消防士の話を描いた「バックドラフト」、衝撃的な近未来のニューヨークを描いた「ニューヨーク1997」などなど。知的な役から、完全なワルまで演じきる実力派です。圧倒的な存在感を出すことも、存在感を消すことも、長いキャリアで容易いことだったでしょう。この作品の前半では、たより無さげな面をうまく表現し、映画の盛り上げに貢献しています。

ハル・ベリーも、今でこそ皆さんご存知ですよね。今はちょうど、新作が公開されています。「X-MEN」の3作目で、過去2作と同じキャラクター、ストームを演じています。

黒人として初めてアカデミー主演女優賞を取られたことで一躍有名となりましたが、それ以前にもこのようなアクション映画にも出演していたのです。

大物の片鱗が、この作品で見られたでしょうか?判断は皆さんにお任せします。

さて最後ですが、ジョン・レグイザモはかなりの方がご存じないかもしれません。

なぜなら、気づかない出演方法を取っている場合が多いのです。本人はそんなことを意識しているとは思えませんが、私は敢えて彼のことを「コスプレ俳優」と呼んでいます(笑)

この「エグゼクティブ・デシジョン」では黒尽くめの特殊部隊隊員。これはまだ序の口です。

「ロミオ+ジュリエット」では、ジュリエットのいとこで派手派手な格好の敵役ティボルト。

そして、日本が誇るゲームの映画化「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」では、なんとマリオと並ぶ主人公ルイージ役!

でも目立たないんです。いや、正確に言うと、役に染まりきっているのかもしれません。

しかし、それが当てはまらない作品もあります。

ドラッグクィーンを目指す3人の珍道中「3人のエンジェル」はご存知でしょうか?オススメの作品なのですが、主人公である3人のうちの1人を演じているのに、ここでは化粧しまくりの上に女装までしているので、役者が誰か見事に分からなくなっています。

それだけではありません。

アメコミ原作の「スポーン」に至っては、完全にかぶり物をしていて、声以外のヒントは全くなしです。

敢えて何役かは記さないので、探してみてください。あまりの変わりように笑ってしまいますよ!

存在感を抑えることの出来るベテラン俳優と、まだまだ無名に近い女優、そしてコスプレ俳優。

この3人の変わりようと活躍ぶりが、「エグゼクティブ・デシジョン」の面白さの一つの要因であることは、間違いありません。


さて、この映画の面白さを際立たせているもう一つの要因は何でしょう?

私は、ジャンボジェットと言う密室の中で、さらにいくつもの密室を効果的に使っていることにあると思います。

分かりやすく説明すると・・・

極秘潜入した隊員たちは、決行の瞬間まで決して存在を知られてはいけません。なので、まるで忍者のような行動をとる訳です。

負傷を追った隊員とエンジニアは機械室に。機内の様子を探る隊員は、屋根裏と軒下に。爆弾やツールを探す隊員は、貨物室に。行き来する為にはエレベータと言う、極端に狭い密室。

どうです?

それぞれがそれぞれに「これでもか!」と言うくらい緊張感を発揮していることに気づくでしょう。

おまけに無線でつながってるとはいえ、ハイジャックされた機内はほとんど無音。いやでも小声でしゃべらなければなりません。この上ない緊張感漂うそれぞれの密室だけでなく、さらに言葉と言う「音」でも演出しているのです。

そして観客は、それに気づくことなく、どんどん引き込まれていきます。

いつしか、手に汗を握って、隊員たちの成功を祈っている訳です。

後半に起こる小さなトラブルや、緊張感を持続させる為の引っ張り方などがテンポよく続くと、観客はさらにハラハラし始めます。

そして、起爆装置の罠や、人違い、テロ首謀者まさかの逆転劇。

ラストへ向かう、たたみかけのうまさも際立っています。

グラントが操縦席に着いた頃には、あなたも完全に観客の1人、もしくは周りが見えない傍観者になりきっていたのではないでしょうか?


見事です。


その一言で締めくくれます。

私は約9年ぶりにこの作品を観たのですが、結末は分かっているのにやはり引き込まれてしまいました。

着陸のシーンでは、(当時もですが・・・)明らかにミニチュアと見えてしまいましたが、それさえ可愛く思えるほどに、引き込まれたのでした。

余談ですが、この作品が初監督作品であるスチュアート・ベアード監督は、映画編集出身だそうです。

2時間を超える作品、しかも物語の3分の2を締める密室での時間を短く感じさせるマジックは、そのキャリアが生んだのかもしれませんね。


もう一つ余談ですが、私が挙げた以外にも緊張感を感じさせる為の工夫が随所にちりばめられています。面白いと思った方は、ぜひもう一度ご覧になって探してみてください。

発見と共に、今後映画を見る上での「面白さを際立たせ感じさせるヒント」があるかもしれませんよ。

もし気づいたら、ぜひここへコメントを入れてください。

その時は熱く語りましょう!


それでは、また!


1996年アメリカ映画 133分

製作 ジョエル・シルバー

監督 スチュアート・ベアード

音楽 ジェリー・ゴールドスミス

出演 カートラッセル ハル・ベリー ジョン・レグイザモ スティーブン・セガール 他

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