2006年9月9日土曜日

UDON(紹介編)

あなたは故郷に思い入れがありますか?その思い入れは大きいですか?


映画界では、監督の故郷を舞台に映画を製作するのはよくあること。

監督として映画を撮り始めてからすぐに、という場合もあります。

むしろその方が多いかもしれません。

有名なのは、尾道を舞台に描く作品を多数輩出している大林宣彦監督。

今や日本を代表する監督です。

今回ご紹介する「UDON」は本広克行監督作品。

1997年の映画監督デビューからちょうど10年目で10本目の作品となります。

それまで作ってきた映画は、サトラレ等、地方が舞台になっている作品もあったのですが、どちらかというと東京近辺がほとんどであり、故郷の名前を前面に押し出して作られた映画は今回が初めてです。(サマータイムマシンブルースは撮影こそ全編香川で行われていますが、映画進行上、都市の名前は出てきません。)

そして、物語が進行する上で大切な柱となるのが、タイトルにも記されている「うどん」です。

物語の展開する場所も香川、柱も香川の主食ですし、そして脇にちょい役出ててくる人も香川出身の人を多数使うなど、まさに故郷への思い入れがいっぱい詰まった作品なのです。

主人公香介の香川へ帰ってくるまでの道のりは、故郷を出た人にありがちな設定。

このあたりも、故郷から離れて活躍する監督自身の姿を重ね合わせたのかもしれません。

他にも、父と息子の確執や、同級生たちとの友情、陰ながら支える姉弟の関係、などなど、ベタとも言える設定が多いのは、おそらく「故郷」というキーワードを念頭に置いての監督の狙いなのでは?と私は思います。

DVDが発売されるまで、ネタバレは控えることとしますが、この映画は新しいことへの挑戦をしつつも、古き時代の日本映画界への愛情と尊敬の念がひしひしと感じられます。ベタな設定もおそらく、その辺りが関係しているのではないでしょうか?


過去のコラムにも書いていますが、本広克行監督と言えば私の大好きな監督です。

その監督の新作が公開されるとなれば、当然期待も高まります。

皆さんは期待が高まると、もしギャップがあった場合にがっかりさせられることが多いのではないでしょうか?

しかし本広克行監督に関しては、今までそれがありません。

常に「観るもの」を楽しませる「遊び」をふんだんに取り入れ、常に新しい挑戦をしています。

今回の作品「UDON」には、特に「遊び」の要素が多く取り入れられています。

過去の作品とのリンクや、過去作品の出演俳優、劇中登場の小物など、実に細かなところまで手が行き届いていて、何度観ても楽しめる仕掛けになっているのです。

今回は「泣き」の要素が強いとの噂が、公開前から伝わってきていたので、私の期待は最高潮でした。

そしてもちろん、私の愛する作品「サトラレ」を超えられるかどうか?が一番の期待です。

なぜなら、音楽も「サトラレ」と同じ、渡辺俊幸さんが書かれているからです。

これはもう、期待を通り越して、「泣けないはずがない」状態です。

結果はどうだったのかは、DVD発売時にコラムに書くこととしましょう。

ちょっとだけお教えすると・・・


ラスト30分は、かなり泣かされましたよ。号泣するシーンもありました。


さて、今回のコラムのメインは「初日舞台挨拶」です。

初日舞台挨拶には大きく分けると2つのパターンがあります。

それは上映終了後のネタバレを含む形と、上映前の期待を高まらせる形、です。

そしてたいがいは時間の都合上、1回目の上映終了後と2回目の上映前に行われ、出演者への時間的負担も少なくなっています。

今回私が観たのは、有楽町の日劇2。

スクリーンの大きさと座席の多さもさることながら、邦画の初日舞台挨拶が頻繁に行われることで有名です。

TV番組内で生中継されることもあるので、皆さんも一度はご覧になったことがあるかもしれませんね。

さて、初日舞台挨拶に絶対に必要な存在として、司会者がいます。

この「UDON」はフジテレビが関わっています。よって司会者もフジテレビのアナウンサーです。

今回はなんと、映画好きで知られテンポの良いトークで有名な、笠井アナウンサーでした。

これがまた絶妙です。

観客の心を掴んでしまった、といっても過言ではありません。

まず最初は、この舞台挨拶がCSで生放送されているというお知らせ。

普通なら生放送されている旨を伝えるだけなのですが、そこは笠井アナウンサー。

後ろにカメラがあることを説明して、

「都合の悪い方は振り向かないでくださいっ」

これには観客から笑いが漏れます。

しかしそれだけでは終わりません。

「写真撮影・録音等はマスコミの方に限らせていただきます。携帯電話等での撮影はお断りさせていただきます。」

ここまでは誰でも出来る当たり前の説明ですが、そこにユーモアを交えてこう続きます。

「勢い余って私を写してしまった方、それはおまけ致します。しかし、消去しないでください。」

これには観客も大爆笑。笑顔で言われた日には、もう撮影なんてできませんよね。見事です。

ジョークまじりの挨拶もそこそこに、いよいよ監督と出演者の入場です。

以前は、観客の目に触れることなく舞台袖から登場するのが定番でしたが、最近は観客とのふれあいを重要視して、観客席の間を通っての入場ということも増えてきました。

そしてもちろん、ファンを大切にする本広監督だからこそとも言えますが、スポットライトは、観客席後方のドアを照らします。

観客は一斉に振り返り、ライトの行方を注視。

なんと、今回の私の席は通路のすぐ横!

これは間近にキャストが観られるかもしれない!!と期待したのですが、残念ながらスポットライトは、席の間を貫く2本の通路のうちのもう片方を照らしています・・・

しかしはじっこではない為に、結構近くに感じられたのは嬉しかったですね。

何よりもおかしかったのは、その出演者の中に、あの劇中に登場するヒーローが居たこと。

その名も「キャプテンUDON」。歩く姿も格好良く、舞台にあがって立つ姿勢も決め、それが逆に笑いを誘っていたのは、あまりにもアンバランスな存在だったからかも知れません。

舞台上に並んだのは、鈴木京香さんをのぞくメインキャストすべて。素晴らしい演技で知られる実力派の木場勝己さんを始め、若手の要潤さんまで、そうそうたるメンバーです。

まず最初の挨拶は本広監督から。

笠井アナウンサーに「香川の星」と紹介されて、ちょっと照れ気味のスタートです。

「ありがとうございます。」と何度も繰り返すその姿に腰の低さが伺えます。

「皆さん、楽しんでいただけましたでしょうか?」との問いかけには、観客から満場の拍手。

ちょっと表情を緩めながら、舞台に立つ本音を語ってくれました。

「この拍手を聞きたくてドキドキしながらここに立つんですが・・・」

全身全霊を傾けて撮った作品です。そのドキドキは計り知れないんでしょうね。

「これだけ拍手があると、安心です。」

観客と監督の思いが通じた瞬間です。

舞台の上に立つ身ではない私には、監督がどのような顔を見たのかわかりませんが、きっとそこはたくさんの笑顔であふれていたのでしょうね。

再び「ありがとうございます。」を繰り返す監督。そして次へのバトンタッチです。

笠井アナウンサーの「いつもはちゃらんぽらんに見えますが、今回は・・・」と言っている裏で、何やら舞台上では変な動きが。

そう、ユースケさんと小日向さんが、笑顔でお互いを手で指し譲り合っているのです。

その仕草に、観客は拍手をしながら爆笑モード。

さらに、名前を呼ばれて驚くわざとらしさに、観客の笑いは高まります。

ユースケさんと言えば、自己紹介が嘘ばかりで支離滅裂。でも許せてしまうのが特徴。

もちろん今回もやってくれました。

「呑んでもないのにベロンベロン。ミスターボディートーク、元ピチカート5のユースケサンタマリアです。」

言葉の区切り区切りに、みな爆笑。続いて拍手の嵐が巻き起こります。

映画を観ていない人にはわかりませんが、ユースケさんの演技で泣いていた人も結構居た証拠ですね。

私もその演技には納得です。惜しみない拍手を送りました。

でも、その感動を続けさせないのが、ユースケさんの素晴らしいところ(笑)

「本日は、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨の中・・・」

またしても爆笑です。雨は全く降っていませんからね。しかもこの挨拶は過去にも使用済み。それでも笑いを誘うところはさすがです。

「マリオンまできていただき、本当に・・・ありとぅっす!」

この言葉には、観客は退いてしまいました。

でもフォローがしっかりしています。

「だんだん拍手が中途半端になってしまいましたが・・・」などと言って、またしても笑いを取ります。しかも横では監督が体を揺らして大笑い。身内までも笑わせてしまうほどの魅力があるのですね。

その後はまじめに心境を語りつつも笑いも忘れず言葉が続き、「本日は、ありがとうございましたっ!」と威勢の良いお礼で終わりました。

場内は満場の拍手。もちろん私も手を上に上げて拍手しました。

続いてはヒロインの登場。小西真奈美さんです。

ひょこっとする挨拶も可愛かったのですが、笑顔が素敵ですね。こちらまで幸せになれそうな気のする笑顔です。

「楽しい時間を過ごしていただけたでしょうか?」の言葉に観客はすぐに反応、拍手の嵐です。それには小西さんも相当嬉しかったようで、「ありがとうございます」の言葉とともに会釈しながら、笑顔がまたしてもこぼれます。

ちょっと上擦った声で、「初日を迎えるのを本当に楽しみにしていまして・・・」と言ったその言葉に、喜びがいかに大きかったかが感じられました。

小西さんの挨拶終了後に笠井アナウンサーの振りで、ユースケさんと小西さんの掛け合いがあったのですが、そこは時間を仕切るアナウンサーの役目を忘れてはいません。「小西さんに聞いているんです。」との言葉に場内は爆笑でした。ちょっと分の悪そうなユースケさんのはにかんだ笑顔がまた印象的でもありました。もちろん笠井アナウンサーは、フォローも忘れません。ユースケさんの滑ったギャグ「ありとぅっす!」を最後にきちんと付け加えて、笑いを取ったまま次へとつなぎます。

次は主人公の義理の兄を演じた、小日向文世さん。

柔らかい笑顔とおっとりした雰囲気が印象的な役者さんですが、トークはいきなり突っ走ります。

映画のスタッフとは、初日舞台挨拶で会うのがほとんど最後になると言う前置きを付け加えて「今日は、鈴木京香さんにサインを貰おうと思ってきたんですけど・・・」と言った後には笑いが起こります。

あまり冗談を言わない印象が強かったせいかもしれませんが、私にはこの言葉がつぼでした。

鈴木京香さんからメールで頼まれた挨拶を代弁し、隣のユースケさんが驚いて小日向さんを見つめると、互いに見つめ合い「ははっ!」と大きな声で笑う様子など、優しくて面白い人柄の感じられる挨拶でした。

次は編集長役の升毅(ます たけし)さん。

名前を聞いてもご存じない方が多いかもしれませんが、升さんは演劇出身。自身の劇団を持っていたこともある実力派であり、本広監督の映画にはこれで3本目の出演となります。

舞台で鍛えた腕なのでしょうか、絶妙なトークに観客全員が魅了され、笑いもあり、特に「(U)売り方が、(D)ダイナミックで、(O)おいしさ、(N)何じゃこりゃ?」と熱弁した瞬間には、この舞台挨拶一番の爆笑と拍手が巻き起こりました。

締めも静かに笑いを誘い、次は副編集長役の片桐仁さん。

この片桐さんも舞台を中心に活躍し(ラーメンズと言うユニット)、しかも笑いを大切にしているようで、一見滑っている様に聞こえる挨拶も実は、きちんと笑いで締めているのです。

のっけからユースケさんの滑った挨拶「ありとぅっす!」でシーンとさせ、埼玉出身なのに「香川の星です。」と嘘を言ってみたり、その嘘の言い訳で「初日で盛り上がっているから何を言ってもウケると聞いたのに・・・」としょげてみせたり、仕舞には「僕、出てましたよぉ」と戯けてみたり。ボディーブローのようにジワジワと効いてくる笑いで観客を魅了していました。

もちろん締めは「ありとぅっす!」

最後は笑いの嵐です。

続いては要潤さん。

笠井アナウンサーの「もうひとりの香川の星」と言う紹介を切り返すかのように、「香川県の昇り龍」と自ら紹介し、とても笑いとは縁がないように思える風貌なのに、立派に笑いを誘っていました。

その後はまじめに挨拶をしたかと思ったら急に「別に言うこともないんですが・・・」と言ってまた笑いを誘い、そこから話は脱線。「映画を見て気に入ったら、香川へ旅行してお金を落としていってください」とか、「近所にコンビニが一件でも増えるように」等、結局他の方と同じように笑いを誘う挨拶に終始してしまいました。

ここでユースケさんがコンビニ話で脱線したのですが、それには敢えて触れないでおきましょう(笑)

そして要さんの締めも「ありとぅっす!」

だんだん、笑いが大きくなっていきます。

役者陣最後の挨拶は、この映画で最も重要な主人公の父役を演じた、木場勝己さんです。

木場さんと言えば、金八先生の第5・6シリーズでの校長先生役が有名です。

怖い印象が強いのですが、実は大変に優しい方のようで、その人柄の感じられる素晴らしい挨拶に、私も含め観客はすべて聞き入っている様子でした。

「仕事の関係で試写に行けず、今日初めて見たのですが、落涙でした。」

その言葉に、こちらも感動してしまうほどでした。

その後も、子供の頃父親と見に行った映画での父の涙の話など、挨拶を締めるにふさわしい素晴らしい話が続きました。

しかしやはり、本広監督とスタッフの笑いの絶えない現場が影響したのでしょうか、最後はまじめに語っているのに笑いを誘う結果となってしまいました。

でも木場さんは柔らかな笑顔で「よろしくお願い致します」と頭を下げるのを観ていると、やはり笑いを意識していたのかな?と言う気にもなりました。

さて、楽しい時間もこれで終わり・・・と思いきや、ここで笠井アナウンサーから衝撃(笑劇?)の発言が!

しゃべるはずのないキャプテンUDONを紹介したではないですか!

どうする気なのでしょう?

でもそこはやはり考えているのですね。キャプテンUDONはポーズを格好良く決めていました。

しかし笠井アナウンサーの思っていたほどの笑いが起きなかったのか、最後はユースケさんの言葉で締めることとなりました。

さぁ、どうする?ミスターボディートーク!!

突然マイクをヒップホップ持ちに変え、

「締めるったらあれしかないっ!」

私は、まさか?と思いました。何度かテレビで紹介されているあれです。

以前は滑ったと本人も口にしましたが、今回も勇気を持ってやるようです。

継続は笑いにつながりますし、長い時間をかけた2段ボケ、3段ボケと思えば許せるでしょう。

「三本締めでっ!」

やっちゃいました(笑)

予感的中です。

でもそこはさすがにそれぞれのファンが集まる場所、見事に3本締めが決まり、フラッシュの嵐で挨拶は終了となりました。

もちろん、最後は「ありとぅっす!」の連呼。

もう、誰も退いていませんでした。さすがです。


ここで終わる舞台挨拶もあるのですが、そこはフジテレビ製作の映画。

このあと、入場時に配られたドンブリとお箸を小道具に、出演者とのフォトセッション。

ユースケさんはここでも観客を笑わせていました。

この写真と映像が、翌日の新聞やテレビを飾ることとなったのです。

そしてこの映像は・・・

秘密にしておきましょう。いずれ分かるかも・・・しれません。

そうそう、すべての終了後に笠井アナウンサーの撮影秘話(実は出演しています)もあり、最後の最後まで笑いの絶えない挨拶でした。

そんな笠井アナウンサーの最後の言葉は、

「うどんでドンドン元気になぁれ!」

ユースケさんの得意な挨拶の代弁でした。


いかがでしたか?

一度も初日舞台挨拶に行ったことのない方も、ちょっとは行きたい気持ちになりましたか?

そうなっていただければ幸いです。


さて、来週のコラムはガラッと変わってアクション映画をお贈りします。


カートラッセル主演「エグゼクティブ・ディシジョン」


神経ガスを持ったテロリストに乗っ取られたジャンボと、それを救出するべく決死の潜入をはかる特殊部隊隊員の緊張感高まるアクション映画です。

既に何度かテレビでも放映されていますし、当時ビデオは大ヒットしていますので、ご覧になった方も多いかと思います。

久しぶりにネタバレ全開で行きますので、ぜひぜひご覧になってからコラムに挑んでくださいませ。


それでは、また!


2006年日本映画 134分

監督   本広克行

製作   亀山千広

脚本   戸田山雅司

美術   相馬直樹

装飾   田中宏

照明   加瀬弘行

録音   伊藤裕規

編集   田口拓也

撮影   佐光朗

音楽   渡辺俊幸

参考文献 「恐るべきさぬきうどん」麺通団

出演   ユースケ・サンタマリア 小西真奈美 トータス松本 鈴木京香 升毅 片岡仁 要潤 小日向文世 木場勝己 他

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