2006年9月23日土曜日

クリムゾン・タイド

いかがでしたか?2時間近い作品内で、銃撃戦や敵兵との直接対決もないのに、これだけの緊張感。

戦闘シーンと言えば、敵潜水艦との魚雷戦と、指揮権の奪い合いから起こった謀反での殴り合いくらい。

なのにこの迫力です。

私は断言します。1990年代の密室映画ナンバーワンです。

10年経った今でもその地位は揺るぎなく、何度も観て結末が分かっているにも関わらず、常に新鮮な緊張感を味あわせてくれる、極上級のアクションです。

なぜにこの映画は、そこまでの魅力を発するのでしょうか?

もちろん、主役2人の演技が最高なのは言うまでもありません。

副長を演じるデンゼルワシントンは、今でこそ映画好きの誰もが認める演技派ですが、この映画が公開された当時、映画俳優歴はまだ10年ちょっと。

一方、艦長を演じるデンゼルワシントンは、この当時既に映画俳優として30年以上も活躍し誰もが認めるベテランした。

俳優としての経歴と、役柄の経歴がだぶる設定からして、この2人の為に造られた作品と言ってもおかしくはないと思います。

その2人の演技と共に、この映画を盛り上げている重要な要素は、物語の5分の4を締める潜水艦内。

実物と見まごうほどの緊張感を生み出すセットの素晴らしさ(実際に前後左右と激しく揺れる!)もさることながら、潜水艦でなければ出来ない斬新なカメラワークも、緊張感を高める為に一役買っています。

潜水艦と言う兵器は、元々外界と隔離された密室であるにもかかわらず、この作品内では通信トラブルにより完全に遮断された状態になってしまいます。

この非常時に優先されるのは、「直近の命令」なのか、それとも「不明瞭である現時点での命令を再確認する事」、どちらなのか?


「世界が破滅するかもしれない」


法規上でも倫理上でも決着のつかない「攻撃か否か?」と言う究極の選択を迫られ、己の信念に従い行動する乗組員たちには、やがて大きな軋轢が生まれます。

この乗組員たちは、二転三転する展開をさらに重くする必要不可欠な要素です。

艦長、副長以外の乗組員は、常に命令を重視します。一度潜ると何ヶ月も海中生活を送る潜水艦内では、乗組員同士は家族以上のつながりを持っていると言えます。だから命令が軍規上誤っていても従うかもしれないと言う危険をはらんでいるのです。

この映画は、その危機を見事にえぐり出した問題作とも言えます。

劇中、艦長のこんな言葉があります。

「部下の前では、命令には従え。異を唱えれば、上官の意見が一致していない事で、乗組員たちに不安を与える」

この言葉だけで片付けられるものではないはずですが、実際の潜水艦内では、それが当たり前なのかもしれません。

長い潜水期間、一つでも大きな不安があれば、乗組員たちに与える精神的な影響は相当大きいはずですから。

しかし、それで本当に良いのでしょうか?

この映画で潜水艦アラバマの目的は、敵の先制攻撃を防ぐこと。しかし地上の様子が見えず、なおかつ、通信さえも出来ない状況になった時、艦長たった一人の人間の判断が間違っていないと、誰が言えるのでしょう?

映画のラストは、軍上層部による玉虫色の決着でした。

実際にこのようなトラブルが起きた時も、やはりこのような決着を見るでしょう。

でも私は、声を大にして言いたいのです。

この映画の中では、副長は間違っていない、と。

もちろん、ロシア軍の反乱が成功しアメリカに先制攻撃を仕掛けていたら話は別ですが、副長が起こした行動は、間違いなく国と世界を救っています。

「先制攻撃を抑える攻撃」は「先制攻撃」にもなりうる訳です。

その間違いは、正さなければなりません。

故に、攻撃されてしまうかもしれないという危険ははらんでいても、先に仕掛ける事はさけられるはずです。・・・実際に攻撃が始まってしまえば、どちらが先か?なんて意味はないかもしれませんが。

この映画の最後にある報告が載せられています。

「核攻撃の権限を潜水艦の艦長から大統領へと移行する」

映画が造られるよりも先に決まっていた事かもしれませんが、少なくともアメリカは戦争を回避する為の小さいながらも大事な選択に成功した、と言えるのではないでしょうか?

そして、私はふと思います。

先日、国連本部の会議でイラン大統領が言った言葉が、非常に気にかかっています。

「もう核兵器の時代ではない」

まさにその通りかもしれません。存在しなければ、破棄されてしまえば、「攻撃されるかもしれない」と言う危機感も生まれないし、その自衛策の為の核兵器も必要なくなるのですから。

そして、こうも思います。

核兵器を作った国は、発射されずとも重くのしかかる脅威を自ら生み出し、その恐怖におびえている、と。

私の言っている事は、ただの奇麗ごとかもしれません。

でも、少なくとも、攻撃された国だからこそ言える、大切な意見である事も確かなのではないでしょうか?


今回のコラムは短く終わります。

音楽を担当するハンス・ジマーの素晴らしい楽曲がもたらす効果等も書きたかったのですが、今回はそれ以上に大切なメッセージを伝えなければならないと思った為、短く終わる事をお許しください。

それに、作品の素晴らしさをいくら説いても、観る人の心がそれに同調していなければ駄作にもなりうる訳です。

この事実は、実生活での友との交流だけでなく、異文化や異民族が理解し合う為にも常に考えておかなければならない必要事項だと、私は思います。

時にその事実は、国益や己の命よりも大きな意味を持つ、と言う事も・・・


余談ですが、艦長の飼う犬は、別の映画でも活躍しています。その作品は何でしょう?

答えは次回お教え致しましょう。


次回は予告通り、アクションスターの代名詞であるシルベスター・スタローンが主演する、人間ドラマとアクションを織り交ぜた密室もの「デイライト」をお送りします。

既に何度もTV放映されている作品でありますし、現在1000円以下と言う低価格で発売されています。

ぜひぜひ、もう一度ご覧になってからコラムに挑んでください。

よろしくお願い致します。


それでは、また!


1995年アメリカ映画 116分

製作 ドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマー

監督 トニー・スコット

脚本 マイケル・シファー

撮影 ダリウス・ウォルスキー

編集 クリス・レベンゾン

音楽 ハンス・ジマー

出演 デンゼル・ワシントン ジーン・ハックマン ジョージ・ダンザ ヴィゴ・モーテンセン 他

0 件のコメント:

コメントを投稿