様々な人々の苦労のもと、せっかく世に生まれながら、消えて行くのみのものが沢山あります。
それは過疎の村の家であったり、乗客が少なくなって廃線になった鉄道。
人間がもの作りを始めてから、作られたものの大多数は圧倒的に消えて行き、そして豊かになった今現在でも、何処の国にも必ず存在しています。
それは大きな物体のみならず、映画等の文化的なものにも言えることです。
以前のコラムで何度かお話しした、映画からビデオと言う媒体に変化しながらも様々な制約に縛られ、DVDにはなれない作品が多々あります。
この作品は、その中でも特殊な存在。
アメリカでは既にDVD化されているにもかかわらず、日本では発売当時のビデオが中古で出回る程度。それもかなり古いの商品の為、ほとんど市場には残っていないのが現状です。
メジャー系の映画でないことと、国内での配給会社との絡みがそうさせているのかもしれませんが、DVDと言う形で再び世間に出回って欲しい名作だけに、残念でなりません。
さて、ネタバレしない為にも、短く物語をご紹介致しましょう。
アメリカが戦争に参戦した1940年代のヒューストン。
都会の狭い部屋に暮らすのは、後何年人生が残っているか分からない老女のワッツ。そしてその息子夫婦の3人。
しかしここでの生活は、狭い部屋だけでなく、常に息苦しかった。息子の嫁ジェシーとの諍いが耐えないのだ。今で言う、嫁姑問題に悩まされる毎日。
いつか、もう一度生まれ育った故郷へ戻る。耐えながらもそう誓い続けていたワッツは、ついに息子夫婦の目をかいくぐり、故郷へ向かうのであった。
鉄道からバスへと変わる時代、過疎化に悩む村、戦争での辛い別れ、その全てが、旅するワッツに現実として降り掛かり、彼女を一喜一憂させるのだった。
果たして彼女は、無事に故郷にたどり着けるのだろうか?
異色のロードムービーと言える内容です。
舞台が60年以上前のアメリカであるにも関わらず、そこに潜む問題は現在の日本にそのまま置き換えられます。
過疎化し消えて行く村、浪費社会に生きる若い世代と質素に生きる年寄りとの溝、世代によって違う故郷に対する思い等々。映画としての完成度の高さのみならず、現代に於いても学ぶことの多い作品です。
私がこの作品を好きな理由は、主役ワッツを演じるジェラルディン・ペイジの素晴らしい演技。実際にその演技は世に認められこの作品でアカデミー主演女優賞を受賞されています。
そしてその芝居は「演技」と呼ぶよりは、主役になり切って、感情のままに表現していると言える程自然なのです。
要所要所で彼女を支える役者の演技もまた素晴らしい。
嫁ジェシーの嫌味な行動、旅を共にしバスで語り合う女性との情景を想像出来る程の熱い会話、役目を果たしつつも情に訴えかけられワッツに手を添える保安官。
決して多くはない登場人物全て(たった1行程の台詞しかない役柄まで!)にきちんとした役割があり、その言葉と行動が観る者に意味を与え、しかしその誰もが目立つこと無く、しっかりと彼女の「心の表現」を支えているのです。
私がこの映画に出会って以降はほとんど見ることもなく、でも心に残るものがあって、いつか再会したいと願っていたのですが、先日ついに再会を果たしました。
このコラムを書くにあたって再び映画を観ることとなったのですが、淡々と進んでいく一見退屈に思える物語はより深いものに変わっていました。いや変わったのは私の方ですね。
20年の間に死別した人、生きてはいるけど逢えない人、心にだけとどめておきたい人、そんな全ての人々との出会いと別れが、私に「涙」と言う感動をプレゼントしてくれました。
この映画の主人公ワッツと同じように、遥か昔の記憶を胸に秘めつつ、現代に生きる。そして私を支えてくれる一部は、過去にある、と言うことに気づかせてくれました。
そして偶然にも、ワッツと同じ20年ぶりの再会だったのです。
数回見ただけの映画なのに、記憶のままのワッツの泣き顔、困惑顔、そして笑顔。
今も生きていると信じて疑いたくない、自然体。
しかし残念なことに、そのワッツを演じたジェラルディン・ペイジの演技は、もう見ることが出来ません。
この映画が公開された2年後、帰らぬ人となったのです。
しかし彼女は生きています。
ワッツの記憶に残る「バウンティフル」の想い出のように、彼女の笑顔は今でも私の心に生きているのです。20年経っても記憶に残っていたその笑顔は、きっとこの後、作品が媒体から消えてしまってもきっと残り続けることでしょう。
そんな素晴らしい作品に出会い、再会出来る幸せに、再び巡り会えることを信じて・・・
さて次回は今年最後の更新となります。
何か締めくくりの作品を・・・と思ったのですが、ちょっと趣向を変えてみましょう。
「今年映画館で観た映画の紹介と採点」です。
ここで良かったと評価した作品は、いずれコラムで紹介することとなりますが、その前にあなたに時間があれば是非ご覧になって下さい。そして何度か観た後に私のコラムを読むと、また違った感動を味わえるかもしれませんよ。
それでは、また!
1985年アメリカ映画 108分
監督 ピーター・マスターソン
脚本 ホートン・フート
撮影 フレッド・マーティー
美術 ニール・スパイサック
音楽 J.A.Cレッドフォード
出演 ジェラルディン・ペイジ ジョン・ハード カーリン・グリン レベッカ・デ・モネイ ケヴィン・クーニー リチャード・ブラッドフォード
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