2006年12月3日日曜日

ファイヤーフォックス

1982年と言えば、印象的で多種多様な映画の残る年です。

以前のコラムで紹介した「E.T.」「ランボー」や、アカデミー賞受賞の「炎のランナー」(製作国公開は1981年)など、偏らないジャンルでの傑作が多数輩出されました。

「E.T.」はSFでありながら感動ドラマ。「ランボー」はアクションの名を借りた社会派作品。「炎のランナー」は20世紀初頭に実在した人間ををもとに描いたドラマであるにも関わらず、それまでのオーケストラを多用した映画音楽とは違うシンセサイザーによる印象的なタイトル曲。

などなど、実験的ではないが新しい形に取り組んだ作品が数多く作られています。

この「ファイヤーフォックス」も、その中のひとつに数えても良い作品でしょう。

その理由は、物語の構成にあります。

前半は主人公がソビエトに潜入して、最新鋭機を奪取するまでを描いたスパイ映画的展開。

後半はその最新鋭機で敵地をかいくぐりながら、アメリカへ帰還させるアクション的な展開。

一見、相性の悪そうな組み合わせを描き切っているのです。

映画のタイトルにもなった通称「ファイヤーフォックス」ミグ31は実在しない機体なので、当然実機など存在しません。実物大はハリボテで空を飛ぶ事は出来ませんし、空中戦などのシーンではミニチュアが使われているのは、画像を見るからにも明らかです。

当時のVFX技術は「スターウォーズ」などが生み出した進化によって以前とは比べ物にならない程見応えのあるものでしたが、それは実在しないものを作るからリアルに見えるのであって、地球上の風景等とミニチュアの合成は、まだまだ技術的に難しい状況でした。

この映画で特殊効果を担当したのは「スターウォーズ」と同じ人であるにも関わらず、今その映像を見ると様々な違和感があるのは致し方ない事でしょう。

例えば、空中戦の最中に両機が見せる横方向の不自然な動き。

例えば、氷原の上を飛ぶ機体の色合いが違っている。

など、映画を見慣れていない人が見ても不自然と感じるレベルであります。

しかしそこに敢えて取り組み、緊張感のある空中戦を作り出した行動は賞賛に値します。

そしてこの時のVFXの苦労が、後のイーストウッド監督作品「スペースカウボーイ」にも反映されているのでしょう。

個人的に好きな作品なので、いつかこちらのコラムも書きたいとは思っています。

さて脱線してしまったので、元に戻します。

これから書く内容は、私が今回見直して初めて感じた事なので正しいと言えるかどうかは分かりませんが、

私なりに考えた事なので、どうか書く事をお許しください。

前もってお断りしますが、決して批判ではありません。

この映画が製作されて24年が経ちますが、その間に進化していった映画から感じ学んだ事なので、今リメイクが作られるとしたら、こうすると面白いのではと解釈して下さい。

私が特に気になったのは、前半と後半での見せ方の違いです。

前半はスパイ&サスペンス色が強いせいなのでしょうか、事象の説明に言葉を多用しています。

限りのある時間で説明するには致し方ないのでしょうが、これは工夫次第で見せる説明に代えられるはずです。

後半の空中戦とのバランスを考えると、「語る」のではなく「見せる」べきなのです。

空中戦を「語る」事では表現出来ませんよね?もし出来たとしても、その迫力は無いに等しくなってしまうでしょう。

私が感じたのはこの1点だけでしたが、あなたは他に何か感じた事はありましたか?

ここをこうしたら、この映画はもっと良くなるなんて考えると、また違った楽しみに出会えるかもしれませんよ。


同じ年に公開された「ブルーサンダー」と言う映画をご存知でしょうか?

簡単に紹介すると・・・

1984年のロサンゼルスオリンピックの為に開発された新型ヘリコプターと、その陰に潜む陰謀を描いた物語です。もちろん戦争映画ではないのですが、こちらも変わった組み合わせの映画と言えるのです。

新型ヘリコプター「ブルーサンダー」は、今で言うところのテロ等の暴動を鎮圧させる為の装備が満載された「兵器」なのです。現在を見越したような、市街地と兵器と言う組み合わせもさることながら、ヘリコプターでの空中戦も登場するなど、観る者を飽きさせない工夫がされています。

そしてこの映画で最も私が素晴らしいと感じたのは、実在しない機体ながら実在するヘリコプターを改造し、さも新型兵器のように造り上げた事です。

実際に飛ばす事が出来る為リアリティーは抜群ですし、ラスト近くの空中戦も迫力満点です。

これが「ファイヤーフォックス」には足りなかった点と言えるのではないでしょうか?

しかしその為に見えなくなってしまった事もあります。

それについては、みなさんに映画を観ていただいて判断するとしましょう。

なにせ、私ももう10年くらい「ブルーサンダー」を観ていませんので。

ちなみにDVDはリリースされています。


さてこの映画でのサスペンス色は、イーストウッド監督によって見事に描かれています。

例えば、視覚的に過去の傷を描いたオープニング。

例えば、主人公の緊張を色で表現した、緊迫感溢れるシャワーシーン等々。

ここまでに10本近くの作品で監督を務められただけの事はあります。

そして監督は、現在もその製作意欲が衰える事はありません。

今現在公開されている「父親たちの星条旗」と「硫黄島の手紙」はその究極とも言えるかもしれません。

いままで一方的な視点で描かれる事が多かった戦争映画を、それぞれの視点で描く事によって大きな意味を生み出す実験的な作品と、私は捉えています。

果たして欧米の人は、日本の視点から戦争を見てどう感じるのでしょうか?

非常に気になる事ではありますが、それはいずれ聞こえてくるでしょう。

出来ればその前に、私もアメリカの視点での戦争を知りたいと思います。


さて、来週は我が親友STONEオススメのイーストウッド監督作品「恐怖のメロディ」をお贈りしたいと思います。

私のコラムの趣旨からはちょっと外れるのですが、未見の作品を初めて観て感じたことを素直に書き記したいと思います。


それでは、また!


1982年アメリカ映画 124分

製作総指揮 フリッツ・メインズ

監督・製作 クリント・イーストウッド

原作    クレイグ・トーマス

音楽    モーリス・ジャール

出演    クリント・イーストウッド フレディー・ジョーンズ デヴィッド・ハフマン ウォーレン・クラーク 他

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