映画俳優というと、あなたは最初に何を連想しますか?
演技をする仕事ですよね。演技ををすることだけに生涯を捧げる俳優も数多くいます。職業軍人にひっかけて職業俳優とでも呼びましょうか。
でもいつからか、洋画邦画を問わず、俳優が新たな分野に進出する事も多くなっています。小説を書いたり、店を経営したり、政治に進出したり。
俳優を廃業し、意気揚々と始めてみたものの畑違いで苦労する事も多く、結局役者に後戻りというパターンも見受けられます。
しかし役者としてそこまでの地位に上り詰めた「実力」と「魅力」と「天性」があるのは事実で、新たな分野で成功する人も多いのです。これは役者に限った事ではないですが、ある程度の地位まで上り詰めた人は、やはり何か輝くものを持っているのでしょうね。
畑違いではなくとも、その職業から発展して、成功した人もいます。
最近では、トム・クルーズがそうでしょう。
映画を造る側に立ち、製作だけでなく自ら映画化の権利を買い付け、様々な作品を世に送り出しています。
「ミッション・インポッシブル」シリーズ、「マイノリティ・リポート」、「宇宙戦争」等々。
これだけ目立った活躍は彼が最初だと思われがちですが、実は違います。
この「ランボー」シリーズの主演、「シルベスター・スタローン」もその一人です。
彼の出世作は誰もが知っている「ロッキー」シリーズですね。この映画はスタローンが書き上げた脚本が認められ、当時殆ど無名だった彼を一気にスターダムへのし上げた作品でもあります。
この「ランボー」も脚本に携わっています。
それ以外にも、脚本を書いた作品や、製作した作品、仕舞いには歌まで歌ってしまった(笑)作品もありますので、気になる方は是非探してみて下さい。
「ランボー」の原作はデヴィッド・マレルの「一人だけの軍隊」と言う小説です。
現在発売されている「ランボー」のDVDには原作者のコメンタリーがあるので、是非ご覧下さい。
ランボーの名前の由来や、原作との違い、スターウォーズとの共通点(!)、ラストシーンの秘密等々。
1時間半が短く感じる程沢山の裏話が聞けますよ。
私が小説と出会ったのは、映画を観た直後。
20年以上読んでいないのですが、その小説の内容に映画以上に衝撃を受け、今でも一部を鮮明に覚えています。
映画劇中では、ランボーは人を殺していません。(正確に言うと間接的に一人死んでいますが)
血生臭い残忍なシーンの連続に麻痺して気付かない人も多いかも知れませんが、そうなのです。
原作者コメンタリーではあるシーンで4人死んでいる設定となっていますが、見る立場からすれば死んでいるかどうか判らないので、私はそう解釈します。
ところが小説はどうでしょう。タイトル通り、一人で戦争を仕掛け(性格には仕掛けられたのですが・・・)、多くの命が失われています。
そして、これから書く内容が決定的に映画と違うのですが、最後にティーズル保安官はランボーに殺され、そのランボーもトラウトマン大佐に殺されるのです。
小説は主人公の視点で描かれているのですが、その最後が実に衝撃的で、それまでの死闘を冷静沈着でしかも淡々とした視点で描いていた表現と相まって、主人公は死ぬのですが、胸を打つのです。
このコラムを書くと決めた当初、原作との違いを強調した内容にするつもりでいました。
しかしいざ映画を見始めた時、それは極力省こうとすぐさま決めました。
そう今回、DVDをコメンタリーから見たのです。
原作者コメンタリーを聞けば判る事が多いので、あえて省かせて頂きますが、これだけは言わなければなりません。
この映画の「成功」と「悲劇」は、全てラストに集約されています。
「成功」はランボーが大佐に全てをぶちまける時。それまでは寡黙で殆ど喋りさえもしなかったランボーの、重すぎる程の過去の悲しみが、全てここで伝わってきます。実際にこのシーンのおかげで、ベトナム帰りの兵隊を家族に持つ人々から、感謝されたそうです。(詳しくはコメンタリーをお聞き下さい)
それまでは、ランボーのように「余所者」や「厄介者」としてしか思われなかった人々に、救いの手を差し伸べたわけです。
最近は変わってきましたが、アメリカのアクション映画と言えば当時、一般には好戦的で裏の悲劇をあまり語ろうとしませんでした。でもこの映画「ランボー」は、アクション映画ながら、それを打ち破ったのです。
それもたった数分の台詞で。
初めてこの映画を観た私には衝撃的でした。何せ、当時中学生でしたから。
戦争を知らない世代である私が、戦争を知っている親や祖父祖母たちからでなく、映画から知らされ、しかもあまりにも残忍な内容。
この頃からでしょうか。それまではメカや兵器にこだわって、プラモデルを作ったりしていたのですが、この作品を観てから、徐々にその世界からは離れていったように思います。
実はこの作品を観たのは、この「極私的感涙映画評」の最初のコラム「アウトサイダー」とほぼ同時期。
「アウトサイダー」と共に、私の人生の方向を変えた大切な作品であるのです。
話が少し逸れてしまいましたね。
もう一方の「悲劇」を語らなければなりません。
それは、原作と違うラストシーンです。
ランボーが死んでこそ、この作品の真意が伝わったはずなのです。
実際に、この映画にはもう一つのエンディングがあったそうです。詳しくはコメンタリーで述べられていますが、観客と製作者達は、このラストシーンを選んだという事です。
そしてその余波は、続編という形になって表れます。
戦う事を避けたがっていたはずのランボーが、今もベトナムに残る同僚を助ける為とか、大佐を助ける為だとか、理由を付けてこれでもかという程、戦わされるのです。
多くの血が流れ、多くの死がそこにあります。
生き延びてしまったが為に、再び悲劇の戦場へ戻らなければならなかったのです。
原作を知るものとしては、やはり最後は死ぬべきだったのではないか?と今でも思います。
そしてこの過ちの縮図が、今もアメリカで繰り返されている事に、胸を痛めます。
まもなく9月11日が訪れます。
一般市民の多くはテロという惨劇の中に、真の悲劇の意味を知ったのですが、911テロ以降もアメリカ政府上層部は攻める事をやめません。
手を変え、形を変え、様々な戦いに携わっています。
戦争が景気を支え、人間を発展させているというのは事実かも知れません。
でもそろそろ、その破壊と消費だけの段階を、終わらせなければならないのではないでしょうか?
そして、先日映画館で観た映画のふたつの予告に、その兆しを感じる事が出来ました。
ひとつは「ユナイテッド93」。
911テロで唯一、目標に到達出来なかった機体の中で繰り広げられたであろう物語を描いた作品。
遺族全てに同意を得、台詞ひとつにも嘘がない、ほぼドキュメンタリーに近いフィクション。
そしてもうひとつは「ワールド・トレード・センター」。
テロの標的にされ突然命の危険にさらされた多くの人々を救う為、活躍した消防隊の話。
あの崩れ去った残骸の中から、奇跡の生還を果たした人の実話です。
どちらの予告も、観ていて涙が溢れました。おそらく多くの方が、予告を観て何かを感じ取ったはずです。
そう、実際に起きたその悲劇を、私たちは嫌という程知っているからです。
あなたは、911テロのドキュメンタリーを、観た事がありますか?
新米消防士の密着取材中、その悲劇に出会し、命の危険も顧みずにビルが崩れ去るまでの一部始終を事細かに収めたテープを元に、造られた作品です。
そのドキュメンタリーを観ていた為、緊張感漂う異様なまでの光景を知っていたからかもしれませんが、どちらの作品も、平和の真の意味を考えさせてくれる大変素晴らしい作品に思えます。
そして、悲劇を経験した国からこのような作品が生まれた事に、大きな意味があるのだ、と私は思います。
派手なアクションに目が眩んでいるかもしれませんが、「ランボー」は立派な反戦映画です。
そう思ってみると、より深みの増す、素晴らしい映画に見えるでしょう。
最後にひとつ、劇中の大事な台詞を思い出して下さい。
洞窟内のランボーと、大佐が無線交信しているシーン(チャプター19「無線の呼び掛け」)でのランボーの台詞です。
「they drew first blood.」
この台詞のラストにある、映画と原作のタイトルにもなった「First Blood」とは、
先に仕掛ける。
そんな意味があるのだそうです。
子供達の痴話喧嘩と同じで、まさに、どちらが先に仕掛けたか?と言う事でしょう。
でも悲劇が始まってからでは、そんな事はどうでも良くなってしまいます。
それだけは、忘れないで下さい。
さて、アクション映画のスッキリしたコラムを期待していた方には、ちょっとした裏切りに思える程、重いコラムになってしまいましたね。
その償いもかねて、次回はヒューマンコメディと例えられるような作品をお贈りしたいと思います。
「ダンボドロップ大作戦」
です。
ちなみにこの作品もベトナム戦争を描いていますが、実に心温まる物語です。
そしてさらに、実話(何処までが実話であるかという問題はありますが)である事に驚かされます。
レンタルで探すのは難しいかもしれませんが、この作品は現在税込み1500円という低価格で発売されていますので、興味のある方は是非是非購入してご覧下さいませ。
それでは、また!
1982年アメリカ映画 94分
監督 テッド・コチェフ
製作 バズ・フェイトシャンズ
脚本 マイケル・コゾル
ウィリアム・サックハイム
シルヴェスター・スタローン
製作総指揮 マリオ・カサール
アンドリュー・ヴァイナ
原作 デヴィッド・マレル
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
撮影監督 アンドリュー・ラズロ
出演 シルヴェスター・スタローン ブライアン・デネビー リチャード・クレンナ 他
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