2006年5月21日日曜日

ニューシネマパラダイス

前回のコラムの最後で、大切なことを伝え忘れていました。

この映画の本当の良さを知る為には、二つのオリジナルを観る必要があるのです。

ただ残念ながら、限定セットや中古でしかお目にかかれない初版をレンタル店で探すことはなかなか難しいでしょうから、どうか完全オリジナル版を探して、もう一度観てください。

ひょっとすると、あなたが以前観たのは初版で、完全オリジナル版は初見かも知れませんし。

どちらのパッケージは殆ど一緒ですが、簡単に見分ける方法のひとつとして、時間の長さの違いがあります。

初版は123分。完全オリジナル版は175分。

その違いを目安に探してみてください。


この映画「ニューシネマパラダイス」には現在、3種類の映像が存在しています。

ひとつ目は1989年公開の初版。ふたつ目は、初版で描ききれなかった部分を追加した、完全オリジナル版。3つ目は、完全オリジナル版のフィルムの汚れや色あせをデジタルで修復、音声を5.1チャンネルにしたものです。

現在、DVDとして流通しているのは3つ目ですが、今回私が観たのはふたつ目である完全オリジナル版。

なので皆さんが目にするであろう3つ目とは、受ける印象が多少ばかり違うかも知れませんが、どうかお許し下さい。


世に流通する映画には、監督の意図していない意味が含まれることになったり、当時の技術的な問題でやむなくカットされてしまう場合が多々あります。

この映画は恐らく後者の問題で初版が作成されたと推測します。両方をご覧になった方は、既にお気づきと思いますが、この二つのオリジナルは、観終えた後の印象が大きく異なっています。どちらも映画として満足のいくものであるにもかかわらずに、です。技術と興行的な問題で編集された結果、前者のような新たな問題を生み出してしまったと言えるでしょう。

この映画が作成された当時は、世界的にレンタルビデオの全盛期。

まさに映画の中で描かれた「現代」と同じ状況です。

まだDVDという言葉が聞かれない時代の話なのです。

この頃の作品に、限りなく2時間に近い物語が非常に多いことは、ご存じでしょうか?

理由は、ビデオの普及に一端があります。

2時間を超えるテープは存在しましたが、何十回と繰り返し観ることを前提としたレンタルにはまだまだ耐久性の問題等がありました。2本組にすれば当然コストは上がりますし、片方のテープが壊れてしまってもその片方だけを買うわけにはいきません。

つまり、なるべく2時間に近い作品にする必要があったのです。

映画館での興行的な問題もありました。

2時間映画なら日に4回上映出来るのに、3時間映画だと1時間も余計にかかるのに日に3回しか出来ません。売り上げも約7〜8割。

シネコンもまだ存在しなく、それ程映画業界が好調というわけでもなかった時代、2〜3割の減収は、映画会社にとっても、上映劇場にとってもかなり大きい差であったと言えるでしょう。

故に、監督の意図している作品を自由に造れていたわけではないのです。

この流れはある映画とDVDの普及により代わって行きますが、それはいずれこのコラムで述べるとしましょう。

さて、肝心の映画へと話を戻しましょう。


トト少年は、母と妹の3人暮らし。

教会の仕事を手伝い、貧しいながらも生き生きとして少年時代を過ごしています。

その糧は「映画」でした。

夜、こっそりと行われる神父の検閲を、物陰から覗きつつ、映画の楽しさを覚えていく日々。

映写技師アルフレードとの出会いと友情は、そんな生活の中、ごくごく自然に育まれていきます。

そしてアルフレードは、戦争に行ったままの父が帰ってこないトトにとっては、もう一人の父でもあったのです。

やがて、突然訪れる映画館閉館の危機。

火事がアルフレードの視力を奪い、映画館を全焼させます。

しかしこの映画の中では、神は存在するのでしょう。くじ長者が、新たな映画館を建設、運営を請け負ってくれたのです。

ここからトト少年の本当の映画人生が始まります。

見よう見まねで覚えた映写技術で給料を貰い、貧しい家計を助けることが出来、その上、大好きな映画と共に過ごせる毎日。あっという間に時は過ぎ、やがてトトは、青年へと成長します。

この間にも、時代の変化は確実に訪れています。

少年時代のトトは、戦争という大人の都合で友を無くします。死ではなく、思想の違いから来る差別と引越。

少年にその意味は分かりません。

映画自体も時代の波をうけて様変わりしていきます。

神父の検閲を受けキスシーンのない映画が、経営者が代わったことによりオリジナルそのままを観られるように。そして、トトが青年になったのを見ているかのように、過激になる性描写。

観客も時の流れを生きています。

貧しい人々の集まる1階と、金持ちの集まる2階。戦争直後に、その差は歴然としていました。しかし映画館で芽生えた恋が、貧しい青年と金持ちの娘を結婚させたり、子供が生まれたり、2階から一方的にツバを吐いていた意地悪な男は、戦争が終わって裕福になった庶民からゴミを投げつけられ反撃されたりと。

時折挟まれる、ほんの僅かな映画館内の描写は、それだけで沢山のドラマを感じさせてくれるのです。

この辺りは、昨年公開された「Always三丁目の夕日」も近いものがあります。

あれだけ大ヒットした理由も、名作と呼ばれる「ニューシネマパラダイス」を観ると分かるでしょう。

郷愁が、ただのノスタルジーだけでは終わっていないのです。

昔へ回帰しながら、未来への糧を生んでいくのです。

映画の力は素晴らしいと感じさせます。

その「Always三丁目の夕日」は6月9日に発売となるので、近々このコラムで取り上げたいと思います。

さて青年になったトトは、他の青年達と同様、性に目覚め恋をします。

そしてここからが初版と完全オリジナル版の違いとなるのです。

初版では、恋は青年時代で終わり、現在のトトへと代わります。

しかし完全オリジナル版では、SEXとの衝撃的な出会いや、トトとエレナの恋をよりきめ細やかに描き、突然の別れの後、アルフレードの死から運命の再会へと導きます。

初版はトトとアルフレードの友情物語に重きを置いた郷愁映画。完全オリジナル版は友情物語の上に人生を左右する恋愛を絡め、再会後に再び訪れる別れが、ラストシーンをさらに良いものへと仕上げているのです。人生を描いた映画と言えるでしょう。


私にとって忘れられないシーンが、ラスト近くにあります。

自宅で、トトと母が二人だけ。穏やかな昼下がりです。何気ない会話は、どの家庭にもあるはずの風景を醸し出します。

母は突然家の鍵の話をしますが、トトは今まで知らなかった事実を知り、愛情の深さを知ります。

そして、離れていたからこそ分かる、愛情があることも知るのです。

アルフレードはトトの人生の師でもありました。

別れを選ぶべきと解いたアルフレードは間違っていなかったのです。これも離れていたからこそ分かる事実のひとつだったと言えるでしょう。

もちろん、別の人生がどうだったかは誰にも分かりませんし、エレナと結ばれていても二人で夢を追いかけていたかも知れません。

でもこの映画で、「もしも」の話はやめておきましょう。


ラストシーンはあまりにも有名です。

ただつなぎ合わせただけのフィルムを観ているだけなのに、誰もが涙する素晴らしいエンディングです。

そのエンディングは、アルフレードが解いた人生の意味を大きく物語っているからこそ、涙を流すのだと思います。

初版でも、そのシーンで涙を流すでしょうが、涙の意味が大きく違っているのです。

この映画の本当の良さは、2つのオリジナルを観ないと分からないと行ったのは、そんな理由からです。

もちろん途中で述べた通り、どちらかだけしか観ていなくとも充分に立派な作品です。

でも私はあえて言います。

この作品は是非、2つのオリジナルをご覧下さい。

そして、あなたが味わった恋の重さを、もう一度思い出してください。

それから、これだけは伝えさせて下さい。

「過去の良い思い出だけを心につなぎ止めて、それを心の糧に前へ進め」と。

アルフレードの言いたかったことは、きっとそうだと思います。


さて、今回のコラムはいかがでしたか?

私がこのコラムコーナーを担当した直後は、面白いけれども隠れた作品を紹介するのがメインでした。

本当に好きな作品は、小出しに紹介しようと。

でも今月とある出来事が起こり、少しだけ考えが変わりました。


好き映画は永遠ではない。いのちと同じ。


その時の感情に左右され、変わるものである。

アルフレードの解く人生の意味にも似ています。

だからこそ、新たな作品に出会う前に、紹介するべきではないか、と。

これからも時々、心に残る映画の上位作品を紹介していきたいと思います。

ただ、残念なお知らせもあります。

マニアックな故、既に廃盤であったり、DVD化されていない作品があるのです。

次回のコラムは、その作品がDVD化されずに終わって世の中から消えない内に紹介する「覚え書き」としたいと思います。

ちょっと短めのコラムですが、このまま続けてどうぞ!


1989年イタリア映画 175分

監督・脚本  ジュゼッペ・トルナトーレ

製作     フランコ・クリスタルティ

撮影     ブラスコ・ジュラート

美術     アンドレア・クリザンティ

編集     マリオ・モッラ

音楽     エンニオ・モリコーネ

出演     フィリップ・ノワレ ジャック・ベラン サルバトーレ・カシオ マルコ・レオナルディ ブリジット・フォッセー レオポルド・トリエステ プペッラ・マッジョ

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