2006年12月17日日曜日

ウィズダム 夢のかけら

あなたは、エミリオ・エステベスを知っていますか?

と、問いかけると、前回のコラムを読まれた方には怒られそうですね。

そう、マーチン・シーンの息子であり、チャーリー・シーンの兄でもあります。まさに役者一家です。

そのような環境で育ったのだから、役者の道へ進んだのは当然と言えるでしょう。

デビューは1982年、マッド・ディロン主演の「テックス」。それからたった4年で、初めて監督を手がけるまでに至ります。

今回の「ウィズダム 夢のかけら」はその初監督作品です。

あらためて観ると荒削りな箇所は沢山ありますが、当時の映画と比べても遜色は無く、むしろ映画に対する熱意が伝わってくる秀作と言える作品です。

幼い頃から、父親の現場で観て学んで来ただけの事はあるのでしょう。

映画の内容は至って簡単。高校卒業後、たった1度の犯罪を犯した主人公が、一生懸命に働こうとしているのに、社会は過ちを見逃さない。学も知識も、資格もあるのに。

そして、一生懸命に働いているのにある日突然職や家を奪われてしまう人々が溢れかえるアメリカ。そんな不公平な世の中に、「金を奪わない強盗」として反旗を翻す。

何処かで聞いたような、何処にでもあるような、当たり前の物語です。映画の題材としては、今は使われないであろうほど、使い古された題材です。

しかし、この映画の真の魅力は、主役の2人にあるのです。

初めて監督を手がける事になったエミリオ・エステベス。そしてその恋人役であり、当時私生活でも恋仲であったデミ・ムーア。

2人の熱演が、初監督と言う技術的な未熟さの残るこの映画を、1本の作品として存在させていると言っても良いでしょう。

特に2人の掛け合いが多いこの映画では、私生活の恋と映画の恋がオーバーラップしているのか、演技を越える魅力を感じます。デミ・ムーアの涙は、「ゴースト ニューヨークの幻」に勝るとも劣りません。

そしてエミリオ・エステベスの冷めた目。この映画のテーマを、人間として示しているほどの存在感が、そこにあります。

さて、エミリオ・エステベスは現在に至るまでに30近い映画に出演しています。主演をつとめる事もしばしばありました。

その中には、脚本や監督を手がけたものもあります。

そして自らの映画資金を稼ぐ為に、予定に無い続編に出演した事もあります。

少ない監督作品ではありますが、着実に描きたいものへと向かっているのです。

そんな彼の最新作は「ボビー」

アメリカではまだ公開後間もなく、映画の評判はあまり聞こえてきませんが、「アカデミー賞」ノミネートも夢ではないと言われる程の映画と言われています。

出演者も豪華で、ジム・カヴィーゼル、アンソニー・ホプキンス、シャロン・ストーン、ヘレン・ハント、イライジャ・ウッド、ローレンス・フィッシュバーン、クリスチャン・スレーター、リンジー・ローハン、アシュトン・カッチャー等々。かつての恋人、デミ・ムーアの姿もそこにあります。

その名だたる出演陣に、映画俳優としての人望だけでなく監督として優れていると言う事も分かるでしょう。

日本ではあまり日の目を見ない役者ではありますが、これでやっと、日本人も認める監督&役者になれるかと思うと嬉しくてたまりません。

「アウトサイダー」で初めて出会い、「BAD」で惚れて、「ウィズダム」でぞっこんに。

その後「張り込み」ではコミカルな演技をこなし、「ヤングガン」ではビリーザ・キッドをシャープに演じ、「飛べないアヒル」シリーズでは演技の幅も広がり、短いながらも「ミッション・インポッシブル」に出演した時は、「やっと時代がついて来たか!」と喜んだものです。

残念ながらその後日本では活躍する姿はほとんど見られず、やきもきしていたのです。そんな私に、今回の大作映画は、心底嬉しい知らせです。

そして胸を張って、みなさんに紹介出来る事に、喜びも増しています。

だた残念な事に、役者としての日本での知名度が低い為、DVD化されている作品はそれほど多くはありません。

今回の「ウィズダム 夢のかけら」もそうです。ただ、この作品に関しては、アメリカでもDVD化されていない為、仕方の無い事かもしれませんが・・・


さて今回のコラムで、なぜこの作品を書く事になったのか?好きな俳優であると言う他に、もうひとつ理由があります。

それは今私が、ちょっとばかりハマっている出来事と関係しているのです。

それは・・・

中古ビデオを探す事、なのです。

映画市場は今、ビデオからDVDへと完全に入れ替わっています。それは販売作品だけでなく、レンタル作品にも言える事です。そして役目を終えたレンタル作品は、捨て値同然で売られているのが実情です。

しかしながら、以前何度かコラム内で紹介した通り、DVD化されていない作品が多々あるのです。

このコラムで紹介したものだけでも、「7月7日、晴れ」「河童」「ラストソング」「秋桜 コスモス」など、邦画だけでもかなりあります。

もちろん、これは洋画に関しても言える事で、紹介したくとも出来ない作品がかなりあるのです。

そんな「もう一度観たい」作品を、ついこの間偶然にも3つも見つけてしまったのです。

コラムを読んだみなさんが、その作品を必ず見られるかどうかは保証出来ませんが、少なくとも「探す事」が切っ掛けで「懐かしい作品に不意に出会うかもしれない」と言う私が感じた偶然をプレゼントする事が出来るかもしれません。

それが今回のコラムの切っ掛けなのです。

次回は、その時に見つけたもうひとつの作品「バウンティフルへの旅」をお贈りします。

こちらの作品はアメリカではDVD化されているのですが、日本では未だにされていません。それだけでなく、ビデオ自体も最初のリリース以降、発売もされていないようです。

素晴らしい演技に出会える秀作だと言うのに、残念な限りです。

今回と同じように、極力ネタバレを抑えて紹介して行きたいと思います。


それでは、また!


1986年アメリカ映画 110分

製作総指揮 ロバート・E・ワイズ

製作    バーナード・ウィリアムス

監督・脚本 エミリオ・エステベス

撮影    アダム・グリーンバーグ

編集    マイケル・カーン

音楽    ダニー・エルフマン

出演    エミリオ・エステベス デミ・ムーア トム・スケリット ベロニカ・カートライト ウィリアム・アレン・ヤング 他

3 件のコメント:

  1. 明日 ハンガリー映画の「人生に乾杯」を見に行こうとしてて、予告編なんかをみてたら
    wisdom を思い出し、探したらここに行き着きました
    これすごく良かった思いがあります。
    ビデオは持ってたけど、今はもうあるか分かりません
    DVDが出ていないというのはショックですね
    最初の音楽がまたよかったですよね

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  2. 省吾さま、初めまして!
    そしてコメントいただきまして、ありがとうございます。
    この作品、知名度があまりないのでまさかコメントを頂けるとは・・・好きな作品を地道に書き綴っていて良かったなぁ、と思う次第です。
    この映画って、時代を映す鏡のような作品だと思うのです。
    映画の内容や設定から、漂う雰囲気、そしてカメラワークや音楽の使い方に至るまで、その当時を色濃く反映しているように感じるんです。
    オープニングでかかる音楽も、ウィズダムの生い立ちを紹介するシンプルな映像と相まって、その場面だけで世界感に引き込まれた記憶があります。確かに良い音楽でしたよね。
    気になって先ほどアメリカのアマゾンで調べてみたのですが、やはりDVDはリリースされていないようです。
    その代わりと言っては何ですが、サウンドトラック盤が今でも手に入るようですよ。
    日本からでも購入出来るはずですので、是非お手元に置いてみてはいかがでしょうか?

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  3. ウイズダム大好きです。
    レンタルビデオ屋へ行って探しても見つからない意味がようやく分かりました。
    もう、エミリオの名前もデミの名前も映画の名前はDOMしか思い出さないのに、懐かしさはよみがえってくる。
    いい映画です。

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