2009年5月1日金曜日

レ・ミゼラブル 輝く光の中で

今回のコラムはなかなか手に入りにくい作品と言う特性上、2部構成で挑みたいと思います。

まずはこの作品をご覧になったことが無い方の為、作品の紹介と簡単なあらすじを。

次に、ご覧になった方の為にネタバレをしつつ、この映画の良さを引き出しと行こうかと思います。


ではまずは、未見の方の為の第1部を・・・


映画には多くの場合原作が存在します。そして多かれ少なかれ、原作とは違う登場人物や展開がなされ、オリジナルの要素を含んできます。

しかし今回お贈りする「レ・ミゼラブル 輝く光の中で」(以下、オリジナルと区別する為「輝く光の中で」と記載)は、それとは違うアプローチで造られた作品です。

物語の元となるのは有名な文学作品「レ・ミゼラブル」

何度も映画化や舞台化がなされ、日本ではアニメ化もされ多くの人々に感動を与え続けた作品です。

最近ではリーアム・ニーソン主演で1998年に映画化されています。

「レ・ミゼラブル」では激動の19世紀フランスが舞台でしたが、「輝く光の中で」は、そのほぼ100年後の20世紀初頭から世界大戦後までの約50年を描いています。

しかしながら、物語の進行はオリジナルを踏襲し、歴史の違いをうまく取り込みつつ見せているので、「レ・ミゼラブル」を知らない人だけでなく、知っている人にも受け入れられるよう造られています。

実は私は、映画で「レ・ミゼラブル」を観たことはあるのですが、原作は読んだことはありません。

なのでここから先は、前者の立場でコラムを書いて行くことをお許しくださいませ。


物語は「レ・ミゼラブル」の主人公であるジャン・バル・ジャンの悲しげな表情から始まります。

何かを後悔し、叫びながら懺悔を乞うような表情がしばらく続きます。

場面は代わり、19世紀の終焉と20世紀の幕開けを祝う舞踏会。貴族たちが華やかな衣装に身を包み、集っています。

その会場へ、慌てた様子の男が入り込んできます。彼の名はアンリ・フォルタン。ある貴族の運転手を務めていました。

貴族は、アンリの言葉で舞踏会を去ることを決めます。なぜなら彼は偽物の貴族だからなのです。

帰路の途中、山間の道路でアンリの運転する自動車はパンクし、そこでこともあろうに突然主は拳銃自殺を図り、運悪くアンリに殺害の容疑がかけられてしまいます。

しかしながら文盲のアンリは裁判で一方的に負け、投獄されます。

それでも愛する妻と子供に会うことを信じ頑張るアンリなのですが・・・


物語の紹介は、ここまでにしておきましょう。

ずいぶん語ったんじゃないか?とご心配のみなさま、どうかご安心ください。

175分ある作品の、冒頭15分だけのあらすじです。


この作品は日本ではあまり知名度がないようで、発売当時置いているレンタル店もそれほど多くなかったと記憶しています。

当時レンタル店で店長をしていた私は、発売前にサンプルを手に入れその内容に心揺さぶられ、すぐに入荷を決めましたが、残念ながら商業的には厳しい結果でした。

今現在、流通しているのはほとんどがレンタル上がりの商品で、長いテープを使用している都合上、程度もあまり良くないのが現状です。現に私が入手した中古も、途中に数カ所傷がありました。

海外ではどうかと言うと、本国フランスではDVDが4年前にリリースされ今現在も入手可能のようです。

アメリカでも入手出来るようですが、リージョンコードが日本とは違うので観られません。いずれにしても日本国内のDVDプレーヤーでは再生出来ないので(パソコンやリージョンフリーのプレーヤー等を使用すれば観る方法もありますがこちらは自己責任で)、どうしても観たい場合は、やはり中古ビデオしか手がないようです。

海外での発売時期を考えると、この先日本国内でDVDが発売される可能性は低いと思われますので、もし興味を持った方がいらっしゃいましたら、アマゾンのマーケットプレイスなどを利用して手に入れることをお勧めします。おそらく金額的には安いと思われますので。

しかし今回、この調べものをしていて驚きました。

アメリカのアマゾンで、かなり高い評価を得ているんですね。なぜ、これほどの名作を日本が放っておくのか不思議でなりません。

ちなみに発売当初のビデオと廉価版は、フランス作品であるにも関わらずワーナーからでした。発売されない理由は、そこにもあるのかもしれません。


さて、作品紹介はここまでにして、これから先はご覧になった方と共に感動を分かち合うネタバレ編にしましょう。

まだご覧になっていない方は、ここからは読まないことをお勧めします。

感動が半減してしまいます。

是非、入手してご覧になってください。決して損の無い作品ですから。


では、ネタバレ編です。


あなたはこの作品のどこが気に入りましたか?


私は、親子二代に渡る長い年月を描き、なおかつ歴史上の事件を織り交ぜているにもかかわらず、決して本質であるドラマがかすんでいないこと。むしろ、歴史上の事件と相まって、大きな感動を生み出していることです。

それはビデオのパッケージからも読み取れます。

裏面に記載されているあらすじには、息子であるアンリの物語しか書かれていません。

なぜでしょう?

メーカー側としては、ビデオを手に取った人に対してその物語を売り込みたかったからではないでしょうか?

それだけ感動的な部分であると言えると思うのです。

特に第2次世界大戦に入ってからの展開は、凄まじいものがあります。

ユダヤ人である為に、国を追われるように逃げ出す家族と、それに巻き込まれてしまったアンリ。

この4人の物語が交互に展開され、長編映画ではありがちなダレてしまう後半部分を、前半よりも短い時間の感覚で観させてくれています。

 生き延びる為、親元から離れ寄宿学校へ入った娘。

 ナチスの娼婦として囚われの身になったジマン婦人。

 瀕死の重傷を負いながらも、親切な農夫に助けられ、でも金と一方通行の愛に阻まれ世界から隔離されてしまったジマン。

 そんな3人を守ろうと、どんな責め苦にも負けずに耐え、生き抜く為に盗みまで働くアンリ。

戦争と言う残虐行為を生き抜こうとする人間の勇気が、言葉にするとたった4行の展開の中に、全て託されています。

それ故に、ノルマンディー上陸作戦と絡むことによって大きな感動を生むのです。

ただ残念なことに、日本で発売されたビデオはトリミングされ、TVサイズに変更されています。

もしオリジナルのシネマスコープサイズだったら、更なる感動を生んでくれたと思うのですが・・・こればかりはDVDかブルーレイで発売されるのを願うばかりです。


私がもうひとつ気に入ったのは、どんな逆境にもくじけず自分を信じるアンリの生き様です。

義理を忘れず、たとえ自分が不利になろうとも信じる正義を貫くその姿勢は、簡単に真似の出来るものではありません。

そして、文盲であってもそれを不幸と思わず、常に前向きに生きる姿には、この作品と出会って12年経った今でも勇気をもらいます。

今回のコラムを書く為約10年ぶりに見たのですが、改めて作品の奥深さを感じラスト15分は涙しました。当時、泣いた記憶が無かったので、私もそれだけ歳を重ねたと言うことでしょうか・・・

そして、以前観た時には気づかなかった発見が、いくつかありました。

その中でも特に大切だと思ったことがあります。

それは、この作品がビクトル・ユーゴーへのオマージュであるとともに、映画と言う発明へのオマージュでもあると言うこと。

それに気づいたのは、物語序盤での貴族とアンリの会話からです。

「子供はいくつになるんだ?」との貴族の問いに、

「5歳です、映画と同じ」と言う答えを返します。

このシーンは世紀越えの舞踏会後なので、数えるとアンリの子供(後のアンリ)は1894~5年生まれと言うことになります。

そのアンリが生まれた年には、エジソンの発明に大いなる影響を受けたリュミエール兄弟が商業映画を完成させ上映を始めています。

母とともにノルマンディーの酒場で働いていたアンリの息子が目にし、衝撃を受けるのは映画でした。

物語の終盤が近づき、仲間と一緒に入ったのも映画館でした。

そして共に上映作品は、「レ・ミゼラブル」を題材にした作品であったのです。

一見すると、作者に対しての敬意を払っているだけに思えますが、実はそうでもないようです。

物語がたどる約50年の月日の中で、「レ・ミゼラブル」と言う本だけを絡めて行けば済むはずの内容に、なぜ映画を絡めたのでしょう?そしてなぜ、アンリはその年に生まれた設定なのでしょう?

その秘密は、この作品が造られた年にあります。


1995年。


つまり、リミュエール兄弟が映画を発明した年から数えてちょうど100年目だったのです。

これを単なる偶然ととらえてしまってはいけないと思います。

初めて映画を観たアンリ少年のあのまなざしは、文字を読めるようになって本を読んでいる50年後のアンリと、何ら変わらないのです。

つまり、本を読み想像力を膨らませるのと同じ感動を、映画は与えてくれると言うことを表現したかったんだと思います。


この「レ・ミゼラブル 輝く光の中で」では、他にももっと語りたい要素があるのですが、今回はここまでとしましょう。

全て話してしまっては、改めて観直そうとされている方々の感動を半減させかねませんから・・・


この続きは、ひょっとしたら発売されるかもしれないDVDに運命を託しましょうか。


さて次回は、予告通り「太陽を盗んだ男」をお贈りいたします。

こちらの作品はDVDが発売されていますので、みなさまもご覧になる機会があるかもしれませんね。

なるべく早いうちに更新したいと思いますので、それまで作品をご覧になるなどしてお待ちくださいませ。


それでは、また!



映画データ


1995年フランス映画 175分


製作・監督・脚本 クロード・ルルーシュ

美術       ジャック・ブノワール

音楽       フランシス・レイ ミシェル・ルグラン

出演       ジャン=ポール・ベルモント ミシェル・ブシュナー アレサンドラ・マルティンス 他

0 件のコメント:

コメントを投稿