2004年12月31日金曜日

ピッチブラック

最近の映画は、「このジャンル」と決めかねる作品が増えています。

多様化する観客の満足度を満たすために、幾つもの要素を取り込んでいるのです。

もちろん映画が進化している証拠でもあるのですが。

さて、この「ピッチブラック」はジャケットや解説から察するところ、SFものに分類されるように感じますが、実際に観てみると解説とは違う印象を受けるかと思います。

そうなんです。

サスペンスの要素が隠されているのです。

囚人と警官(観た方は気づかれるでしょうが・・・)のそれぞれが抱える過去と、現在で起こる駆け引き、そして短い台詞の節々に隠された本人たちの意志と意図。

観ているものに「何があるのだろう?」とか「真実はどちらなんだろう?」と考えさせることによって、緊張感をより高ぶらせているのです。

そして真っ暗になってしまった惑星に閉じこめられる、密室性。

少ない登場人物もそうです。

典型的な「密室サスペンス」と言えるでしょう。


登場人物たちが不時着したこの惑星では、地球では考えられない「異常」が支配しています。

最初の30分は、環境の異常。

その後の30分は、生態系の異常。

最初の1時間に、たっぷりと恐怖を煽り、残りの40分は生き残りを掛けた「異常な戦い」で観る者の心を釘付けにするのです。

その3つの「異常」に花を添えるのが、囚人の特異性。

暗視出来るように改造された目と、幾つもの修羅場を抜けてきた強靱な肉体。

忘れてはならないのが、演じているヴィン・ディーゼルの魅力ではないでしょうか?

最近は活躍が続き、すっかり超大物俳優の仲間入りをしましたが、私にとってはこの作品で演じる「リディック」が最高に素晴らしいと、今でも思います。



未知の生物との、絶望的な戦いに、果たして登場人物たちは勝つことが出来るのでしょうか?

結末は、観る人のみ知るところです。

シチュエーションがあの「エイリアン」に似ているのはご愛敬と言うところで・・・


この映画の監督は、脚本が素晴らしいようです。

ネットで名前を検索してみて下さい。

名前は知られていないのに、いくつかの超大作を手掛けていますよ。

次の監督作品が楽しみな一人です。


さて、引き続いて、あの感動作「E.T.」をお贈りします。


それではまた!


2000年アメリカ映画 108分

監督・脚本 デヴィット・トゥーヒー

出演 ヴィン・ディーゼル ラダ・ミッチェル コール・ハウザー

2004年12月26日日曜日

鉄と鉛

いきなりですが監督の名前、気づかれましたか?

そう、あの有名なマンガ「ビーバップハイスクール」の原作者きうちかずひろさんなんです。

漫画家ならではの「画」へのこだわりが随所に感じられ、全編殆どが暗い映像にもかかわらず見ているものを飽きさせない構図であるばかりか、カメラワークも無駄なく、でも基本に忠実にしっかりとしています。

この作品までに数本の映画を手掛けただけあって、見ているものに不安を感じさせないしっかりとした作り込みは、製作されてから7年も経つのにさすがだなと感心します。

さてこの映画、基本はバイオレンスです。

ですが、ここが邦画の魅力とも言うべきところでしょうか、しっかりとした人間ドラマが描かれて、物語に深みを与えています。

消息不明の兄を探して、母を安心させたい女子高生。

息子を殺されたばかりか、孫の命までも奪われてしまったやくざの親分。

きっかけを作ったばかりに処刑宣告され、もし自分が逃げれば娘が殺されてしまう探偵。

親分のために命まで捧げる、親子以上の絆で結ばれた舎弟。

己の悪事のために息子を奪われ、身代金を用意しなければならない父。

どの絆の設定や描写にも無駄が無く、映画を見る者に主人公と同じ感情を植え付ける役目を果たしているのです。

まさにマンガを書く上で身につけた、ストーリーテラーの成せる技です。

その幾つもの絆と同じく、台詞も脚力無駄を削ぎ落としています。

それはバイオレンス映画として判りやすくなるだけでなく、一種独特の「かっこよさ」を見事に作り出しているのです。

脚本が良ければ、良い役者も集まります。

まずは主役の渡瀬恒彦。言わずと知れた大物俳優です。脇を固めるのはやくざ映画やVシネマで個性的な役を演じ続けている成瀬正孝。その親分には、映画・TVと幅広く活躍されている個性派俳優、平泉成。

息子を人質に取られた父は、金八先生の「北先生」でおなじみの金田明夫。強盗であり、その息子の誘拐主犯格は「映画BE-BOP HIGH SCHOOL」で監督との競演済みの岸本祐二。そうそう、水戸黄門第29〜31部では助さんを演じていました。監督との競演という意味では同じである竹中直人は、きうち監督の初映画(Vシネマ)「カルロス」での配役と同じ殺し屋。

他にもバブルガムブラザースのKORN、寅さんシリーズの佐藤蛾次郎、そして当時まだ新人の酒井彩名、等々。

無名な映画であることが、勿体ない位に豪華で個性的なキャストです。


細かいディテールや物語など、他にも色々と書きたいことはあるのですが、この映画はネタバレにするよりも、ここまでにして、あとは見た方に直接感じて頂くことが大事かと思うので、これ以上は書かないことにしておきます。


ちなみにバイオレンス映画ですので、「血」と「裸」は付き物。

18歳以上、とは言わず、30才位より上の方に、是非見て頂きたいです。

なぜかって?

そうですねぇ・・・一昔前の刑事ドラマを見ているような映画なんです。

登場する場所や、小道具なんかも。

きっと刑事ドラマに憧れたりして育った人には、共感出来ると思いますよ。


いよいよ2004年もあと僅か。

次回の更新は31日を予定しています。しかも豪華2本立!

異色映画の最後を飾るのはSFアクション&スリラー映画「ピッチブラック」です。

この映画は今年公開された「リディック」の主人公が登場人物の一人として活躍します。

「リディック」はあまり芳しくない評判のようですが、「ピッチブラック」は決して損をしない映画に仕上がっています。それだけ良くできた作品だからこそ、派生映画である「リディック」が生まれたとも言えるでしょう。

もう一つの作品は、作者がもっとも愛する洋画「E.T.」です。

見たことのある方も、この機会にもう一度ご覧になって下さい。

それには理由があります。

「E.T.」には3種類のバージョンが存在するのです。

一つ目はオリジナル。もう一つは15周年を記念して造られたTHX版(映像と音響を最新技術で古いオリジナルよりもリアルに進化させたもの)。

そしてつい最近劇場公開された20周年記念の特別版です。

DVD化されたのは日本国内では特別版だけなので、今回はその特別版を鑑賞してからこのコラムに挑みたいと思います。せっかくなのでオリジナルとの違いなども語ることにしましょう。

どちらもレンタル店には必ず揃えてある作品ですので、年末年始の休みに是非ご覧になって下さい。


それでは、また。


1997年日本映画 97分

監督・脚本 きうちかずひろ

出演 渡瀬恒彦 成瀬正孝 岸本祐二 酒井伸康 宮崎光倫

2004年12月13日月曜日

どうです?インパクトあったでしょ?

久々に邦画らしい邦画を見たって気になりませんか?


この映画の最大の売りは、ズバリ主演藤山直美さんの表情の変化にあるのではないでしょうか。

いきなりネタバレになってしまいますが、引きこもり続けた結果恋の経験もなく独身のままの主人公吉村正子35歳。尼崎で家業のクリーニング店を手伝い、ミシンをかけながら空想の日々。嫌いな事からは目を伏せ、母と二人で気ままに暮らしていますが、離れて暮らす妹とは犬猿の仲。

この時の表情は、根暗でブスで、魅力の欠片もありません。

突然の母の死、妹の殺害、そして阪神大震災。

主人公の放浪の日々が始まります。

強姦にあって処女を失いますが、ここで女に目覚めます。(相手は何とあの人!)

この時の妖艶な表情。

それにしても舞台役者の声は通っています。劇中に何度か叫ぶシーンがあるのですが、ドスが聞いていて、良く響きますので、台詞が聞こえないからとボリュームを上げるのは気をつけた方が良いですよ(笑)

偶然拾われたラブホテルでの日々は、夢も希望もないと思っていた生活に一筋の光が見えてきます。

離婚して消えていった父が良かれと思って主人公に言った優しさの言葉が、実は望んでいないことで、その呪縛を解こうとするのです。

「自転車に乗れるようになる」そして「泳ぐ」こと。

些細な、本当に小さな小さな願いが、主人公の生きる力を与えてくれます。

ラブホテルの主人を心配して寿司屋に迎えに来た時のあの顔は、尼崎とはまるで別人。感情を押し殺している中にも、面倒を見てくれる人を本気で心配している表情です。

この辺り、さすが舞台で生きる人の演技ですね。

しかし無情にもラブホテルの主人は借金苦に首つり自殺。

またしても逃亡の日々が始まります。

あての無いはずの旅は、南へ向かう電車での偶然の再会が、主人公の行き先を決めさせたのです。

またしても偶然拾われた飲み屋での安息の日々。決して表には出さないけれどほのかな恋心も芽生え、生きる楽しみを実感し始めます。

さっそうと自転車を漕ぎ走るシーンの、あの開放的な表情は忘れられません・・・その後に突然訪れる不幸な出来事と相まって・・・

しかし一所に長居が出来ないのが、逃亡者というもの。

やがて最後の逃亡地へと辿り着くのですが・・・


さてこの映画は、阪神大震災という悲劇の中、日本が劇的に動いた1995年を描いています。

バブルが崩壊して、その不景気に嫌気が差し始めた時代です。

そんな世相を反映して、登場する人物たちもそれぞれに闇を抱えています。

借金を苦に自殺する人、リストラに腹を立てて会社を恐喝する人、せっかくやくざ稼業を抜け出したはずなのに抜け出しきれない人。

ハッキリ言ってそれぞれの背景は暗いのですが、その悲しみを和らげる程に女優「藤山直美」の演技が素晴らしいのです。

簡単明瞭だけど繰り返される台詞や、ジャイアンの母を思わせる野太い叫び声。そして、何処にでも居そうなごく普通の「おばさん」的しぐさ。全てが女優の魅力と相まって、最強のキャラクターを生み出しています。

殺人を犯して逃げる、暗くなって当然のストーリーを面白おかしく変えて、独特の映画を作り出しているのではないでしょうか?

細かなディテールから誘う小さな笑いも、さすが大阪出身の監督と主演女優(笑)

こんな日本映画、もっと造るべきなのになぁ、とこの作品を見るたびに思います。

寅さん亡きあとの喜劇映画界を背負えるのは、藤山直美さんだけ、と感じて止みません。

しかし残念ながら、この映画に主演したのは特別だそうで、その後は今まで通り舞台を中心に活動されています。

映画を愛する者として、非常に残念です。

でも舞台での藤山直美さんを見るとそれも納得出来ます。あの生き生きした演技や表情は、劇場で生で支えてくれる観客があってこそ、本当の魅力を発揮しているのだ、と。

個人的には「男はつらいよ」のようにシリーズ化を望んでいるのですが・・・


個性的な役者と、個性的な監督がタッグを組んだ異色作品、いかがでしたか?

この阪本順治監督は、庶民的な映画から大作まで幅広く手掛けています。2005年には「亡国のイージス」と言う超大作を手掛けるので、そちらも必見ですよ。


さて次回の異色作品は・・・

きうちかずひろ監督作品「鉄と鉛」

です。何が異色かって?

名前に覚えがありませんか?

そうそう、あの有名なマンガの原作者なんですよ。

お金はかかっていませんが、その独特な「玄人臭さ」を漂わせる作風をお楽しみ下さい。


それでは、また。


1999年日本映画 123分

監督 阪本順治

音楽 coba

出演 藤山直美 大楠道代 豊川悦司 中村勘九郎 岸辺一徳 佐藤浩市

E.T.

物語の説明なんて不要なほどに有名な作品ですから、今回はいきなり本題に入ろうかと思います。

「ちょっと待って!」と思った方。ここで読むのを止めて、今すぐビデオを借りにいって下さい。


さて私がはじめてこの作品を知ったのは、スターウォーズと同じジョン・ウィリアムスが音楽を担当していることからです。

サントラから入って小説を読んだという珍しいパターンで、しかも劇場公開当時には観ておらず、初めて本編を観たのは粗悪な海賊版という、異常な状況(当時は海賊版が平気で流通していたのです)。

しかし映画の本質は、画質ではなくその「心」にあると言うことを思い知らされた映画でもあるのです。怪しい字幕に邪魔されながら、時々乱れる画面でもラストは大泣きでした。今でもハッキリと覚えています。

それから数年で正規版がビデオ化され改めて鑑賞すると、更に大泣き。

もちろん購入しました。

1990年代後半にはTHX版という、コンピューターを使って映像・音声を綺麗に仕上げ直したビデオがリリースされ、もちろんこれも購入しました。

そして2002年、20周年を記念して製作されたのが、特別版なのです。

スターウォーズ特別版もそうですが、昔の技術では満足に仕上げられなかったシーン等に手を加え、オリジナルを損ねることなくより完成度を高めるのが「特別版」であります。

もちろん「E.T.」に関してもオリジナルを損ねることは一切ありません。もし過去に劇場やビデオでしかご覧になったことがないのでありましたら、この特別版は絶対に損をさせないので、レンタルでも構いませんからご覧になって下さい。

何が変わったか?と言われると数限りなく手を加えてあるのですが、基本的にはごく自然にしか変化していないので、気づかれない方もいるかも知れません。

具体的に幾つかあげると・・・

まず表情の変化。中に人が入っていたとは言え、オリジナルの表情はワイヤーなどで動かしていたもの。当時としては立派なほどに表情豊かですが、やはり作り物っぽかったのは否めません。そこで特別版ではCGを使用し、素早い動きや悲しみ喜びの表現など豊かな表情を生み出しています。しかし全てを変えるわけではなく、オリジナルのままのシーンも多々あります。その境目が不自然でないところは、さすがと感じさせます。

次に未公開シーンの追加。あえてここには書きませんが、E.T.と主人公の友情を育むシーンである、とだけ言っておきます。ちなみに小説にこのシーンはあったので私には待ち望んでいた場面でした。

他には細かな合成の差し替えなど。

鏡面仕上げになってよりリアルに見える宇宙船や、E.T.の走る姿、など注意して観るとかなりたくさん手を加えてあることが分かるかと思います。


以前、掲示板で書き込んだことと重複するのですが、私がこの映画で特に気に入っていることを改めてここに書き記したいと思います。

それはこの映画と出会って20年以上経った今でも色褪せることなく、当時と同じように涙を流せる映画だからこそ、熱く語れることなのです。どうかお許しを。


この映画の最も素晴らしいところは、音楽と映像のシンクロです。

そのシーンに隠された、登場人物の心情を台詞を使わず音楽で表しています。

時に悲しく、時に驚き、時に涙を誘う。

その最も際だっているのは、ラストの15分間です。

E.T.には3種類のサントラがあるのですが、発売当初から変わらないのがラストに使われる組曲です(正確に言うと若干変わってはいるのですが)。

この15分の組曲と場面の動きがシンクロして、観ている者へ「音楽に包み込まれた感情の起伏」を促すのです。音楽好きな人間なら、きっとその手法に「やられる」ことでしょう。

そしてラストシーンでの片言の会話が、その手法に花を添えて、多くの人の涙を誘うのです。


さて語ると尽きないほどに好きな映画であるのですが、ここから先はちょっとした余談になります。あまり書きすぎてネタバレにならないように、と言うこともあるのですが・・・


E.T.が人で溢れる町を初めて歩くシーンがあります。そこで出会ったのがヨーダの着ぐるみを着た少年。もちろんE.T.には本物にしか見えません。

そこで「home!home!」と叫ぶのですが、この台詞がスターウォーズファンの心に火をつけたのです。実はE.T.とヨーダは知り合いなのでは?と。

この話には後日談があって、1999年公開のスターウォーズ ファントム・メナスにそのお返しとも取れるシーンが造られたのです。

大きな画面でないと確認出来ないかも知れませんが、なんとE.T.が出演しているのです!しかも3人!!先々行オールナイトでいち早く観てしかも見つけてしまった私は、狂喜乱舞してしまいました(笑)

詳しくは書きませんが、探してみて下さい。

次はキャストについて。

主人公エリオットを演じた少年ヘンリー・トーマスと、その妹を演じたドリュー・バリモアはしばらくの間ショービズ界から離れてしまいます。

この映画のヒットが強烈だったために様々な苦労が2人を襲うのです。

特にドリュー・バリモアは、若くしてアルコールに溺れたりドラッグに走ったりと、どん底まで落ちてしまうほどに苦しみました。しかしその後、見事に立ち直り、女優として復活しただけでなく映画のプロデュースまでこなしています(あの「チャーリーズ・エンジェルズ」等)。ヘンリー・トーマスもブラット・ピットやレオナルド・ディカプリオと競演するなど、復帰して今現在も素晴らしい活躍をしています。

もう一つの余談は、販売用DVDのみのお楽しみなのですが・・・

この特別版が世界初のお披露目をした時に、ある画期的な試みがされたのです。

それは・・・「試写会での生演奏」

これを知った時「観たかった!聞きたかった!」と本気で悔しがったのですが、なんとDVDにはその生演奏が観客の歓声と共に収録されていて、もちろんその音声で本編を観ることが出来るのです。

この演奏は大変だったでしょうね。何せ2時間ある映画、音楽が途切れる事は殆どありませんし、一回キリの上映。失敗は許されません。

どうです?音楽好きなあなた!観たくなりませんか?


今回は洋画のベスト1である映画のために、あまりにも長く書きすぎてしまいました。

なのでしばらくお休み・・・というのは冗談で、来年も変わらないペースで更新していきたいと思います!


さて2005年最初の作品は・・・

さだまさし監督・主演「長江」をお贈りしたいと思います。

この作品、総監督が市川昆(正確にはこの漢字ではないのですが・・・)音楽に服部克久、しかも劇場公開作品であるにもかかわらず長らくビデオ化されず、2001年にDVDという形で日の目を見る事になった名作です。

さださんは、祖父の過ごした中国を舞台に映画を撮るのが夢であり、その大きな夢を叶えた作品でもあるのです。そして、この映画を撮った事によって30億円という莫大な借金を抱えましたが、20年以上を経て見事完済したのです。

凄いことだと思いませんか?

とてつもない借金があっても何とかなる!暗い日本にそんな見本を示してくれた様な気がして、公的資金を使う事でしか会社を建て直せない社長たちに「こんな人間も居るんだ!」と教えたくなるような話です。

脱線してしまいました。ここでこれ以上書くと、コラムが成立しなくなるのでこの辺で(笑)


それでは、また。


1982年アメリカ映画(オリジナル版) 118分

2002年アメリカ映画(特別版)    120分

監督 スティーブン・スピルバーグ

音楽 ジョン・ウィリアムス

出演 ヘンリー・トーマス ドリュー・バリモア ディー・ウォレス ピーター・コヨーテ

2004年12月12日日曜日

ニック・オブ・タイム

今回はちょっと趣向を変えて、差し障りのない紹介とネタバレと二通り書きたいと思います。

まずは見ていない方のために。


今話題の「24 〜TwenyFour〜」

あなたはご覧になったことはありますか?

残念ながら私は未見ですが、今回紹介する「ニック・オブ・タイム」は、その原点ではないか?と私は思っています。

その理由はズバリこうです。

89分の映画がリアルタイムで時間進行しているのです。

始まりはこうです。

午後12時にロサンゼルス駅に降り立った父と娘。

突然現れた2人の刑事に父は拘束される。それが悪夢の始まりだった。

娘を人質に、銃を使ってある人物の殺害を強要。

タイムリミットは午後1時半。殺らなければ娘の命はない!

どうです?興味は湧きましたか?

私はこの映画、既に何度も見ているのですが、今回改めてその良さを感じました。

お薦めですよ。見ないと損です。


さて、ここからはネタバレ。

娘を人質に取られた主人公は、何とか娘を助けることだけを考えます。

しかし綿密に練られた計画は、主人公の考える程甘くはありません。

ことごとく裏を掻かれ暴力に抑圧されながら、暗殺をしなければならない方向へと進んでいくのです。

この映画は90分弱という短い時間の中で緊張感を持続させつつ、ストーリーを複雑にさせない工夫があちこちに含まれています。

緊張感を演出している一番の功労者はカメラワークでしょう。

暗殺を強要しているシーンでは、会話が切り替わるたび刑事と主人公の顔を頻繁に写しています。この忙しい描写は、言葉と相まって、見ている人間を嫌が追うにも緊張させていきます。

若干斜めに斜に構える構図も、緊張を感じさせます。

主人公の高まる緊張を感じさせる手持ちのカメラ撮影。このブレ具合が焦っている主人公の気持ちを知らず知らずのうちに見ている人間に植え込んでいきます。

そして音と音楽。

あなたは何か大事なことを考えている時に上の空になることはありませんか?

この主人公も同じです。訳も分からないままに暗殺を強要され、でも娘を助けなければなりません。

タクシー運転手と会話していても上の空。会話と、バックに流れる町の喧噪にエコーをかけて、あたかも見ている人間が「上の空」を体験しているような気持ちになります。

そしてメリハリのきいた音楽。驚きや落胆を素直に表現しているこの音楽は、監督といくつかのヒット作品を生み出した音楽家ならでは。監督の意図している音を、完璧に作り出しているのでは?と感じる程です。

往年の名作サスペンス映画を思わせる無駄のなさは、さすがです。

見た目と音の緊張感で最初の30分は過ぎていきます。

その後の30分は同じ手法で緊張感を持続させながら、何とか監視役の目を盗んで暗殺を食い止めようとする主人公の葛藤をメインに。

しかし主人公の予想していない障害が次々に見えてきます。

周りは敵だらけなのです。

そんな絶望的な状況に一人の助っ人が現れます。

靴磨きの退役障害軍人。彼が素晴らしい演技をします。それは役者としてもですが、物語の人物としても、なのです。

耳が聞こえないふりをするシーンなどは最高です。

真剣な眼差しで「口を隠せ!」と言うシーンなどは、緊張感と共に希望を感じさせる程です。

ラストの30分は反撃。前半よりも更に忙しいカメラワークに、緊張感を増す展開と音楽。そして緊張感をさらに煽る小ネタ等々。

ここまで来ると、もう見ている人間は主人公も同然。

そして驚愕のラストを迎えるのです。

「パパはヒーローになるの?」と言う娘の言葉通りに。

観終えた後に改めてこの解説を読むと、サスペンスとはこういう演出をするのだと言うことが分かって頂けるかと思います。

そんな理論的なことを判っていながらも楽しめる本作は、基本に忠実で有りながら、無駄のない作品であるのです。

余談ですがこの作品のジョン・バダム監督は、有名な映画を何本も撮っています。

今となっては古くさい印象を受けるものもありますが、その功績が伊達ではないことが、この作品から判って頂ければ幸いです。


いかがでしたか?

今回の作品は満足して頂けましたか?


さて次回から3本はジャンルを問わずに、異色作品を紹介したいと思います。

まず最初の1本は、

阪本順治監督作品「顔」

あえて簡単な解説も書きません。

日本の喜劇界(と言うよりは舞台役者と言った方が適切かもしれませんが)では右に出るものはいない位に存在感のある藤山直美さん唯一の映画主演作品です。

これだけでも必見だと思いませんか?

もしレンタル店に置いていなかったらごめんなさい。

DVDもリリースされていませんし、販売用も値段が高いのです。

その時は、解説を読んで記憶の片隅に留めておいて下さい。

いつかTVやCSで放送されるでしょうから・・・


それでは、また。


1995年アメリカ映画 89分

監督 ジョン・バダム

音楽 アーサー・B・ルービンシュタイン

出演 ジョニー・デップ コートニー・チェイス クリストファー・ウォーケン

2004年12月6日月曜日

スイッチバック

基本に忠実なサスペンス映画は楽しめましたか?

音楽の使い方は地味で、しかも物語の舞台はアメリカの片田舎。

派手さは全くありませんが人間模様がしっかりと描かれているため、決してつまらないとは感じさせなかったはずです。

しかし私は、久しぶりに見たこの映画、何か物足りなくなった気がするのです。

そして皆さん、最近この手の映画が少なくなった気がしませんか?

私はその理由を、こう推理します。

「謎解きをメインに据えた映画は、一度見てしまうと面白さが半分以下になってしまう。」

同じ映画に2度3度と足を運び稼げるアクション大作や感動ものと違い、客足が伸びないひとつの理由になると思います。

その流れに一石を投じ、新しい映画の形を提示したのは「シックスセンス」ではないでしょうか?

いつか紹介したいとは思いますが、そこまでしなくても皆さんがご存じの映画でしょうから、いつかネタ切れの時にでも(笑)

脱線してしまいましたが、確かにその映画以降サスペンスは少しだけ変わったように思えます。


映画館で掛からなかった作品は、ビデオやDVDを売って稼ぐしか手がありません。

この映画の監督は「ダイハード」や「逃亡者」の脚本を手掛けた人であるにもかかわらず、作品としての知名度のなさに日本国内では劇場未公開でした。

そして残念なことにメーカーは、確実にユーザーの目にとまるよう一種の「詐欺的行為」を働いているのです。

ビデオでは良くあることなのですが、作品のジャケットは有名な俳優である2人がいかにも主役であるかのように扱っています。

しかしご覧になった方はお気づきかと思いますが、この映画の主役はあくまでも副保安官と、医者の道を捨てた青年にあります。

映画としては良くできているから結果オーライなのかもしれませんが、この「詐欺的行為」が、好調である映画業界とは裏腹に、ビデオ業界を衰退させたひとつの原因と、現場の第一線で長年働いてきた私は思います。


さてこの映画は、1つの殺人事件が切っ掛けに、2つの人間模様を交互に見せながら進んでいきます。

ひとつは保安官の選挙を控えた年寄りの副保安官と、事件を追う影のあるFBI捜査官。

機械的で影のあるFBI捜査官と対照的に副保安官の人間臭さを際だたせているのが選挙を争う署長。この存在も大切です。

もうひとつはヒッチハイクをしながらあてのない旅をする青年と、友人へ自動車を返しに行く途中の初老の黒人。独り身で旅をするという共通点が、一度は離れた2人を再び結びつけます。

副保安官の管轄である町で人質事件が発生したことにより、この2つの人間模様は少しずつ近づきはじめます。

副保安官とFBI捜査官は人間模様を中心に、そして青年と初老の黒人はどちらが犯人なのか?と言う謎解きを中心に。

やがて、まるで散りばめられた幾つもの点が線となって繋がっていくいように物語は進み、ラスト30分で一気に魅せるのです。


派手な演出なしに、そこここにヒントを配しながら進んでいく物語は、脚本の勝利と言っても過言ではないでしょう。そして映画としては佳作の部類に入るとは思うのですが、残念ながらこの映画には何かが足りません。

数千本のビデオを見た私にも今もって判りませんが、この作品をご覧になった皆様はどう思われますか?


そうそう、私にはこの映画でひとつだけ忘れられないシーンがあります。

この映画の人間臭さはそのシーンがあったからではないか、とまで考えています。

あえてどのシーンかは秘密にしておきますが・・・


さて今回のコラムが遅くなってしまったお詫びに、今週はもう1作紹介します。

予告通り、サスペンス3作品の締めくくりとして。


「ニック・オブ・タイム」


父と娘が降り立った新天地が、一瞬の偶然と陰謀により最悪の90分になってしまう、そんな作品です。

主演はジョニー・デップ。私はそれまでこの俳優を知りませんでしたが、この作品で大注目、その後の活躍は目覚ましいものです。

恐らく、ジョニー・デップのコーナーにあるはずですので、是非お近くのレンタル店をお探し下さい。


それでは、また!


1997年アメリカ映画 118分

監督 ジェブ・スチュアート

音楽 バジル・ポールドゥリス

出演 テッド・レビン ジャレッド・レト ダニー・グローバー デニス・クエイド