2004年12月12日日曜日

ニック・オブ・タイム

今回はちょっと趣向を変えて、差し障りのない紹介とネタバレと二通り書きたいと思います。

まずは見ていない方のために。


今話題の「24 〜TwenyFour〜」

あなたはご覧になったことはありますか?

残念ながら私は未見ですが、今回紹介する「ニック・オブ・タイム」は、その原点ではないか?と私は思っています。

その理由はズバリこうです。

89分の映画がリアルタイムで時間進行しているのです。

始まりはこうです。

午後12時にロサンゼルス駅に降り立った父と娘。

突然現れた2人の刑事に父は拘束される。それが悪夢の始まりだった。

娘を人質に、銃を使ってある人物の殺害を強要。

タイムリミットは午後1時半。殺らなければ娘の命はない!

どうです?興味は湧きましたか?

私はこの映画、既に何度も見ているのですが、今回改めてその良さを感じました。

お薦めですよ。見ないと損です。


さて、ここからはネタバレ。

娘を人質に取られた主人公は、何とか娘を助けることだけを考えます。

しかし綿密に練られた計画は、主人公の考える程甘くはありません。

ことごとく裏を掻かれ暴力に抑圧されながら、暗殺をしなければならない方向へと進んでいくのです。

この映画は90分弱という短い時間の中で緊張感を持続させつつ、ストーリーを複雑にさせない工夫があちこちに含まれています。

緊張感を演出している一番の功労者はカメラワークでしょう。

暗殺を強要しているシーンでは、会話が切り替わるたび刑事と主人公の顔を頻繁に写しています。この忙しい描写は、言葉と相まって、見ている人間を嫌が追うにも緊張させていきます。

若干斜めに斜に構える構図も、緊張を感じさせます。

主人公の高まる緊張を感じさせる手持ちのカメラ撮影。このブレ具合が焦っている主人公の気持ちを知らず知らずのうちに見ている人間に植え込んでいきます。

そして音と音楽。

あなたは何か大事なことを考えている時に上の空になることはありませんか?

この主人公も同じです。訳も分からないままに暗殺を強要され、でも娘を助けなければなりません。

タクシー運転手と会話していても上の空。会話と、バックに流れる町の喧噪にエコーをかけて、あたかも見ている人間が「上の空」を体験しているような気持ちになります。

そしてメリハリのきいた音楽。驚きや落胆を素直に表現しているこの音楽は、監督といくつかのヒット作品を生み出した音楽家ならでは。監督の意図している音を、完璧に作り出しているのでは?と感じる程です。

往年の名作サスペンス映画を思わせる無駄のなさは、さすがです。

見た目と音の緊張感で最初の30分は過ぎていきます。

その後の30分は同じ手法で緊張感を持続させながら、何とか監視役の目を盗んで暗殺を食い止めようとする主人公の葛藤をメインに。

しかし主人公の予想していない障害が次々に見えてきます。

周りは敵だらけなのです。

そんな絶望的な状況に一人の助っ人が現れます。

靴磨きの退役障害軍人。彼が素晴らしい演技をします。それは役者としてもですが、物語の人物としても、なのです。

耳が聞こえないふりをするシーンなどは最高です。

真剣な眼差しで「口を隠せ!」と言うシーンなどは、緊張感と共に希望を感じさせる程です。

ラストの30分は反撃。前半よりも更に忙しいカメラワークに、緊張感を増す展開と音楽。そして緊張感をさらに煽る小ネタ等々。

ここまで来ると、もう見ている人間は主人公も同然。

そして驚愕のラストを迎えるのです。

「パパはヒーローになるの?」と言う娘の言葉通りに。

観終えた後に改めてこの解説を読むと、サスペンスとはこういう演出をするのだと言うことが分かって頂けるかと思います。

そんな理論的なことを判っていながらも楽しめる本作は、基本に忠実で有りながら、無駄のない作品であるのです。

余談ですがこの作品のジョン・バダム監督は、有名な映画を何本も撮っています。

今となっては古くさい印象を受けるものもありますが、その功績が伊達ではないことが、この作品から判って頂ければ幸いです。


いかがでしたか?

今回の作品は満足して頂けましたか?


さて次回から3本はジャンルを問わずに、異色作品を紹介したいと思います。

まず最初の1本は、

阪本順治監督作品「顔」

あえて簡単な解説も書きません。

日本の喜劇界(と言うよりは舞台役者と言った方が適切かもしれませんが)では右に出るものはいない位に存在感のある藤山直美さん唯一の映画主演作品です。

これだけでも必見だと思いませんか?

もしレンタル店に置いていなかったらごめんなさい。

DVDもリリースされていませんし、販売用も値段が高いのです。

その時は、解説を読んで記憶の片隅に留めておいて下さい。

いつかTVやCSで放送されるでしょうから・・・


それでは、また。


1995年アメリカ映画 89分

監督 ジョン・バダム

音楽 アーサー・B・ルービンシュタイン

出演 ジョニー・デップ コートニー・チェイス クリストファー・ウォーケン

0 件のコメント:

コメントを投稿