どうです?インパクトあったでしょ?
久々に邦画らしい邦画を見たって気になりませんか?
この映画の最大の売りは、ズバリ主演藤山直美さんの表情の変化にあるのではないでしょうか。
いきなりネタバレになってしまいますが、引きこもり続けた結果恋の経験もなく独身のままの主人公吉村正子35歳。尼崎で家業のクリーニング店を手伝い、ミシンをかけながら空想の日々。嫌いな事からは目を伏せ、母と二人で気ままに暮らしていますが、離れて暮らす妹とは犬猿の仲。
この時の表情は、根暗でブスで、魅力の欠片もありません。
突然の母の死、妹の殺害、そして阪神大震災。
主人公の放浪の日々が始まります。
強姦にあって処女を失いますが、ここで女に目覚めます。(相手は何とあの人!)
この時の妖艶な表情。
それにしても舞台役者の声は通っています。劇中に何度か叫ぶシーンがあるのですが、ドスが聞いていて、良く響きますので、台詞が聞こえないからとボリュームを上げるのは気をつけた方が良いですよ(笑)
偶然拾われたラブホテルでの日々は、夢も希望もないと思っていた生活に一筋の光が見えてきます。
離婚して消えていった父が良かれと思って主人公に言った優しさの言葉が、実は望んでいないことで、その呪縛を解こうとするのです。
「自転車に乗れるようになる」そして「泳ぐ」こと。
些細な、本当に小さな小さな願いが、主人公の生きる力を与えてくれます。
ラブホテルの主人を心配して寿司屋に迎えに来た時のあの顔は、尼崎とはまるで別人。感情を押し殺している中にも、面倒を見てくれる人を本気で心配している表情です。
この辺り、さすが舞台で生きる人の演技ですね。
しかし無情にもラブホテルの主人は借金苦に首つり自殺。
またしても逃亡の日々が始まります。
あての無いはずの旅は、南へ向かう電車での偶然の再会が、主人公の行き先を決めさせたのです。
またしても偶然拾われた飲み屋での安息の日々。決して表には出さないけれどほのかな恋心も芽生え、生きる楽しみを実感し始めます。
さっそうと自転車を漕ぎ走るシーンの、あの開放的な表情は忘れられません・・・その後に突然訪れる不幸な出来事と相まって・・・
しかし一所に長居が出来ないのが、逃亡者というもの。
やがて最後の逃亡地へと辿り着くのですが・・・
さてこの映画は、阪神大震災という悲劇の中、日本が劇的に動いた1995年を描いています。
バブルが崩壊して、その不景気に嫌気が差し始めた時代です。
そんな世相を反映して、登場する人物たちもそれぞれに闇を抱えています。
借金を苦に自殺する人、リストラに腹を立てて会社を恐喝する人、せっかくやくざ稼業を抜け出したはずなのに抜け出しきれない人。
ハッキリ言ってそれぞれの背景は暗いのですが、その悲しみを和らげる程に女優「藤山直美」の演技が素晴らしいのです。
簡単明瞭だけど繰り返される台詞や、ジャイアンの母を思わせる野太い叫び声。そして、何処にでも居そうなごく普通の「おばさん」的しぐさ。全てが女優の魅力と相まって、最強のキャラクターを生み出しています。
殺人を犯して逃げる、暗くなって当然のストーリーを面白おかしく変えて、独特の映画を作り出しているのではないでしょうか?
細かなディテールから誘う小さな笑いも、さすが大阪出身の監督と主演女優(笑)
こんな日本映画、もっと造るべきなのになぁ、とこの作品を見るたびに思います。
寅さん亡きあとの喜劇映画界を背負えるのは、藤山直美さんだけ、と感じて止みません。
しかし残念ながら、この映画に主演したのは特別だそうで、その後は今まで通り舞台を中心に活動されています。
映画を愛する者として、非常に残念です。
でも舞台での藤山直美さんを見るとそれも納得出来ます。あの生き生きした演技や表情は、劇場で生で支えてくれる観客があってこそ、本当の魅力を発揮しているのだ、と。
個人的には「男はつらいよ」のようにシリーズ化を望んでいるのですが・・・
個性的な役者と、個性的な監督がタッグを組んだ異色作品、いかがでしたか?
この阪本順治監督は、庶民的な映画から大作まで幅広く手掛けています。2005年には「亡国のイージス」と言う超大作を手掛けるので、そちらも必見ですよ。
さて次回の異色作品は・・・
きうちかずひろ監督作品「鉄と鉛」
です。何が異色かって?
名前に覚えがありませんか?
そうそう、あの有名なマンガの原作者なんですよ。
お金はかかっていませんが、その独特な「玄人臭さ」を漂わせる作風をお楽しみ下さい。
それでは、また。
1999年日本映画 123分
監督 阪本順治
音楽 coba
出演 藤山直美 大楠道代 豊川悦司 中村勘九郎 岸辺一徳 佐藤浩市
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