2004年12月26日日曜日

鉄と鉛

いきなりですが監督の名前、気づかれましたか?

そう、あの有名なマンガ「ビーバップハイスクール」の原作者きうちかずひろさんなんです。

漫画家ならではの「画」へのこだわりが随所に感じられ、全編殆どが暗い映像にもかかわらず見ているものを飽きさせない構図であるばかりか、カメラワークも無駄なく、でも基本に忠実にしっかりとしています。

この作品までに数本の映画を手掛けただけあって、見ているものに不安を感じさせないしっかりとした作り込みは、製作されてから7年も経つのにさすがだなと感心します。

さてこの映画、基本はバイオレンスです。

ですが、ここが邦画の魅力とも言うべきところでしょうか、しっかりとした人間ドラマが描かれて、物語に深みを与えています。

消息不明の兄を探して、母を安心させたい女子高生。

息子を殺されたばかりか、孫の命までも奪われてしまったやくざの親分。

きっかけを作ったばかりに処刑宣告され、もし自分が逃げれば娘が殺されてしまう探偵。

親分のために命まで捧げる、親子以上の絆で結ばれた舎弟。

己の悪事のために息子を奪われ、身代金を用意しなければならない父。

どの絆の設定や描写にも無駄が無く、映画を見る者に主人公と同じ感情を植え付ける役目を果たしているのです。

まさにマンガを書く上で身につけた、ストーリーテラーの成せる技です。

その幾つもの絆と同じく、台詞も脚力無駄を削ぎ落としています。

それはバイオレンス映画として判りやすくなるだけでなく、一種独特の「かっこよさ」を見事に作り出しているのです。

脚本が良ければ、良い役者も集まります。

まずは主役の渡瀬恒彦。言わずと知れた大物俳優です。脇を固めるのはやくざ映画やVシネマで個性的な役を演じ続けている成瀬正孝。その親分には、映画・TVと幅広く活躍されている個性派俳優、平泉成。

息子を人質に取られた父は、金八先生の「北先生」でおなじみの金田明夫。強盗であり、その息子の誘拐主犯格は「映画BE-BOP HIGH SCHOOL」で監督との競演済みの岸本祐二。そうそう、水戸黄門第29〜31部では助さんを演じていました。監督との競演という意味では同じである竹中直人は、きうち監督の初映画(Vシネマ)「カルロス」での配役と同じ殺し屋。

他にもバブルガムブラザースのKORN、寅さんシリーズの佐藤蛾次郎、そして当時まだ新人の酒井彩名、等々。

無名な映画であることが、勿体ない位に豪華で個性的なキャストです。


細かいディテールや物語など、他にも色々と書きたいことはあるのですが、この映画はネタバレにするよりも、ここまでにして、あとは見た方に直接感じて頂くことが大事かと思うので、これ以上は書かないことにしておきます。


ちなみにバイオレンス映画ですので、「血」と「裸」は付き物。

18歳以上、とは言わず、30才位より上の方に、是非見て頂きたいです。

なぜかって?

そうですねぇ・・・一昔前の刑事ドラマを見ているような映画なんです。

登場する場所や、小道具なんかも。

きっと刑事ドラマに憧れたりして育った人には、共感出来ると思いますよ。


いよいよ2004年もあと僅か。

次回の更新は31日を予定しています。しかも豪華2本立!

異色映画の最後を飾るのはSFアクション&スリラー映画「ピッチブラック」です。

この映画は今年公開された「リディック」の主人公が登場人物の一人として活躍します。

「リディック」はあまり芳しくない評判のようですが、「ピッチブラック」は決して損をしない映画に仕上がっています。それだけ良くできた作品だからこそ、派生映画である「リディック」が生まれたとも言えるでしょう。

もう一つの作品は、作者がもっとも愛する洋画「E.T.」です。

見たことのある方も、この機会にもう一度ご覧になって下さい。

それには理由があります。

「E.T.」には3種類のバージョンが存在するのです。

一つ目はオリジナル。もう一つは15周年を記念して造られたTHX版(映像と音響を最新技術で古いオリジナルよりもリアルに進化させたもの)。

そしてつい最近劇場公開された20周年記念の特別版です。

DVD化されたのは日本国内では特別版だけなので、今回はその特別版を鑑賞してからこのコラムに挑みたいと思います。せっかくなのでオリジナルとの違いなども語ることにしましょう。

どちらもレンタル店には必ず揃えてある作品ですので、年末年始の休みに是非ご覧になって下さい。


それでは、また。


1997年日本映画 97分

監督・脚本 きうちかずひろ

出演 渡瀬恒彦 成瀬正孝 岸本祐二 酒井伸康 宮崎光倫

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