いよいよ2005年も今日で終わりですね?
でも年明け1時間前にアップしたこのコラムを皆さんが読むのはきっとお正月でしょうから、取りあえず、
「明けましておめでとうございます!」そして順序が逆になってしまいますが、「2005年はお世話になりました!」
本当は、今回のコラムは12月24日に更新したかったのです。
映画またはDVDでご覧の方は既にご存じだとは思いますが、この「交渉人 真下正義」の物語は冒頭の1分を覗き、2004年の12月24日午後4時から午後10時頃までの6時間を描いています。
リアルタイム、とまではいきませんが、その感覚を少しでも味わって頂きたかったのです。しかし出来なかったから意味がないですね。
さて、本題に戻りましょう。
最近、「邦画がハリウッドに近づいた」とか「ハリウッド的な」と言う表現が多々聞かれます。
私もその内の一人でした。しかしこの作品を見てから考え方が少し変わりました。
映画だけに限らず、音楽・芸術その他、人間が作り出す全てのものは、影響されあいその出来が高まっていくものです。
そう考えると、予算と人員を沢山使い造り上げるアメリカの作品を言うのは、面白く出来て当然なのです。出来ない方がおかしいのです。
しかし最近の邦画はどうでしょう?予算が少なく製作期間が短いものでも、面白いものが沢山造られています。新しい才能がどんどんと排出されています。その証拠に日本の映画がハリウッド映画に使われる程です。ただしこれには「ハリウッド映画の新鮮な題材がネタ切れ」と言う事にも起因しているのですが、このことは後のコラムでいつか語る事としましょう。
この映画「交渉人 真下正義」は製作費こそ公表されていませんが、撮影と製作期間は2004年の11月から公開前月の2005年4月までの、たった半年なのです。
どうです?凄いと思いませんか?あれだけ沢山のキャスト、エキストラ、フリーゲージトレインである「クモE4-600」の迫力ある疾走シーンや、パニックシーン、ラストに登場する緊迫のクラシックコンサート会場、全てがその半年の間に撮影・編集されているのです。
この短期間にはある秘密が隠されていて、これが先程の「高めあっている」にも通じるのです。
今回のコラムでは一部だけ取り上げますが、この作品で画期的だったのは、撮影システムにあります。
実は言われなければ誰も気づかない些細な事なのですが、この作品の登場する地下鉄シーンは全て東京ではないのです。
時間や撮影に関する制約、その他様々な要因があって、都内での撮影は許可されなかったのです。
となると、わざわざトンネルを掘ったりセットを組んだりというのは無理な事ですから、当然日本国内の他の場所での撮影が行われる事となるのです。
実際にエンドロールを観て頂ければ分かりますが、神戸・横浜・札幌・大阪と4箇所の地下鉄を使用しています。
しかし問題はそれだけではありません。撮影の為に看板等は全て東京の設定に変更してありますから、当然の事ながら、実際の営業運転中には撮影が出来ないのです。
これはどういう事を意味するのでしょう?
映画公開前にスカパー!で放映されていた「真下正義チャンネル」の中で明かされていますが、実は出来ても一日に数時間の撮影のみと言う、危機的状況。
ここでハリウッドで使われるシステムが生きてくるのです。
幾つかの班に分かれ、撮影の同時進行が行われたのです。それぞれの班にはそれぞれ責任者がいて監督の役割を果たし、その全てを統括するのが監督の役目、とでも言いましょうか。総監督と呼んでも良いのではないでしょうか?
この撮影システムもそうなのですが、本広克行監督は常に新しいものを取り入れ、挑戦しています。過去にも幾つか面白いものがあるので、ここでちょっとだけ触れておきます。
それはフィルム撮影の弱点を克服するものとでも言いましょうか。
最近あるトークイベントで明かされた事ですが、「踊る大捜査線2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」では、編集を現場で秘密裏に行っていました。それは、殆どの役者とスタッフに知られていない存在でした。見た目はごく普通ですが、編集機材を搭載した改造車をスタジオ脇に停車させ、その中で撮影直後の映像に編集をかけるというものです。
これが何を意味する事か、一般の方には分かりづらいと思います。
簡単に例えると、フィルムカメラとデジタルカメラの違いです。
このコラムをご覧の方々は、当然パソコンをお持ちですよね?となると、デジカメもお持ちのはず。
良く考えてみて下さい。
デジカメの利点は何でしょう?
そう、その場で確認できることです!つまり納得のいく内容でなければ、すぐに確認して取り直しが出来るのです。それを映画に取り入れたわけです。
映画というのは、特にスタジオの場合、多額の費用と手間をかけてセットを造っています。
なのに、撮影が終われば無用の長物。しかもその後の撮影の為に取り壊すのが常です。
フィルム撮影では、現像が上がる頃にはセットがない!と言うのが当たり前だったのです。
昔の巨匠と呼ばれる監督なら、劇場公開日を延ばしてでも、多額の費用をかけてセットを組み直していたかも知れません。
しかし殆どの場合、アラやミスが発見出来てもそのまま編集せざるを得ないのが現状だったのです。
本広監督は、その弱点を、デジタル撮影と同時編集で克服したわけです。
だからあれほどまでにこだわった画が観られるわけです。
ところがこれだけでは終わりません。
監督の最新作、「サマータイムマシンブルース」ではさらに上を行く試みがなされています。
実はこの「サマータイムマシンブルース」は劇場公開こそ「交渉人 真下正義」の4ヶ月後でしたが、撮影自体は先に行われていました。
そこで何が画期的だったのかと言いますと・・・
これは「サマータイムマシンブルース」のコラムまでのお楽しみとしましょう。
2006年2月24日に発売されるので、その時までお待ち下さい。必ずコラムに書きますので。
今回はもっともっと書きたい事があったのですが、泣く泣く削った挙げ句、どうしてもこれだけは書かなければいけないと思い、最後にひとつだけ触れます。お許し下さい。
それは「リンクネタ」です。
「交渉人 真下正義」はTVシリーズ「踊る大捜査線」から派生した物語です。当然の事ながら、その世界観を知っていればもっと楽しめます。
しかしこの作品は、それを知らずとも充分に楽しめる内容に仕上がっている事は言うまでもありません。
でもやはり、知っていると面白いはずです。
そんな人の為に、あるひとつの新しい試みがなされています。
それは、もう一つの物語、です。
ひょっとすると既にご覧になった方がいらっしゃるかと思いますが、この映画のさらに番外編である作品が2005年の12月7日にテレビ放映されているのです。
その作品の名は「逃亡者 木島丈一郎」
監督こそ違いますが、踊るシリーズのテイストを引き継いで、なおかつ「交渉人 真下正義」の世界感も引き継いでいる作品です。
既に「交渉人 真下正義」プレミアムエディションDVDのスペシャル特典として発売済みですが、作品の出来もかなり良い為、恐らく単体での発売と、レンタルもされる事と思います。
是非ご覧になって下さい。踊るの世界を知らなくとも、「交渉人 真下正義」を観ていれば、「あっ!」と言うリンクネタの発見が幾つもありますから。
そこでもしハマったなら、そこから「踊る大捜査線」のふか〜い世界にハマってみるのも面白いかも知れませんよ?
余談ですが、この「逃亡者 木島丈一郎」、TVシリーズ化なんて有り得るかも知れません。
もしそうなれば、冠に付いている「逃亡者」は取れてしまうかも知れませんが、かなり面白い作品になる気がするのです。もちろん、古くからの「踊る大捜査線」ファンにも満足のいくような・・・
さてさて、2005年最後のコラムいかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けましたか?
内容には殆ど触れていないので、もし未見でここまでお読みになった方は、安心して「交渉人 真下正義」をご覧いただけるでしょう。
何度観ても楽しめる作品ですから、是非是非ご覧下さいね!
2006年の第一弾は、今までとちょっと趣向を変えてみようかと考えています。
それは、以前から頭の隅にはあったのですが、なかなか行動に移せなかった事です。
次回は、「極私的感涙”映画音楽”評」と題して、私が今までに出会った映画音楽・・・通称サントラの良さをお話ししようかと思います。
これを読んだら、映画音楽に対する考え方が少し変わるかも知れませんよ?
ちょっと書くのに時間がかかるかも知れませんが、しばしお待ち下さいませ。
遅くとも1月末までにはアップしたいと思います。
それでは、良いお年を&素晴らしい新年をお迎え下さいませ!!
それでは、また!!
2005年日本映画 127分
監督 本広克行
脚本 十川誠志
音楽 松本晃彦
撮影 佐光朗
編集 田口拓也
VFX&SUD 山本雅之
録音 芦原邦雄
照明 加瀬弘行
出演 ユースケ・サンタマリア 國村隼 石井正則 水野美紀 寺島進 他